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athrill(アスリル)を使用してC言語ポインタ変数を理解する

Last updated at Posted at 2018-03-24

#概要
C 言語のポインタ変数はよく難しいと言われています.ポインタ変数を理解するには,RAM 上のメモリ配置と CPU レジスタの動きをイメージできるかどうかが大切だと思います.

そこで,今回は仮想マシン(athrill )を使用して,ポインタ変数の理解を深めてみたいと思います※.
※もうすぐ新入社員が入社する時期なので,新人さん向けの内容です.
※athrillは,教育目的にも使うことができます.

#ポインタ変数とは

ポインタ変数は,通常の変数と同じように値を格納する変数です.
ポインタ変数が通常の変数と異なるのは,「メモリのアドレス」を専門的に扱う点です.

#ポインタ変数の定義方法
たとえば,通常の int 型変数を定義する場合は,以下のようになります.

int global_value;

これに対して,int 型のポインタ変数を定義する場合は,以下のようになります.

int *global_value_pointer;

型のあとに 「*(アスタリスク)」をつけます.

#ポインタ変数のアドレス配置
athrill で上記変数のアドレス配置を調べてみます.

まずは,「p コマンド」を使用して,通常変数(global_value)を調べてみましょう.

[DBG> p global_value
global_value = 0 (int:4) @ 0x5ff7408(0x0)

上記結果はこう読みます.

表記 意味
0 本変数に入っている値は0(10進表記)
(int:4) データ型はintでサイズは4バイト
@ 0x5ff7408 本変数のメモリ配置場所は0x5ff7408
※最後の(0x0)は,構造体の場合しか意味のない値ですので,無視してください.

次に,ポインタ変数(global_value_pointer)を調べてみましょう.

[DBG>p global_value_pointer
global_value_pointer = (int *: 4 ) 0x0  @ 0x5ff7000(0x0)
表記 意味
0x0 本変数に入っている値は0(16進表記)
(int *: 4 ) データ型はintのポインタ型でサイズは4バイト
@ 0x5ff7000 本変数のメモリ配置場所は0x5ff7000

上記結果を,メモリイメージ化するとこうなります.

アドレス アドレス割り当て変数
0x5ff7000 global_value_pointer 0x0
0x5ff7408 global_value 0

メモリイメージの視点で見ると,global_value と global_value_pointer には,
それぞれ同じようにアドレスが割り当てられており,値が格納されています.

#ポインタ変数にアドレスを代入する

ここで,ポインタ変数にアドレスを代入してみましょう.

global_value_pointer = &global_value;

上記例は,global_value のアドレス(※)を global_value_pointerに代入しています.
(※) &を変数の前に付すと変数アドレスがとれます.

athrill で代入後の global_value_pointer の値を見てみましょう.

[DBG>p global_value_pointer
global_value_pointer = (int *: 4 ) 0x5ff7008  @ 0x5ff7000(0x0)

上記結果を,メモリイメージ化するとこうなります.

アドレス アドレス割り当て変数
0x5ff7000 global_value_pointer 0x5ff7008
0x5ff7008 global_value 0

global_value_pointerの領域に,global_value のアドレスの値が設定されていることがわかりますね.

ちなみに,新人さんがよくやるミスとして,こんなのがあります.

global_value_pointer = global_value;

この場合は,global_value のアドレスではなくて,値そのものを代入していますので,結果は以下のようになってしまいますのでご注意を.

p global_value_pointer
global_value_pointer = (int *: 4 ) 0x0  @ 0x5ff7000(0x0)

#ポインタ変数で値代入する
それでは,ポインタ変数を使用して,値を代入してみましょう.

*global_value_pointer = 999;

ポインタ変数の前に「*(アスタリスク)」を付けると,ポインタ変数が格納しているアドレスの領域に値を設定します.
結果は,こうなります.

[DBG>p global_value
global_value = 999 (int:4) @ 0x5ff7408(0x0)
[DBG>p global_value_pointer
global_value_pointer = (int *: 4 ) 0x5ff7408  @ 0x5ff7000(0x0)

メモリイメージ化するとこうなります.

アドレス アドレス割り当て変数
0x5ff7000 global_value_pointer 0x5ff7408
0x5ff7008 global_value 999

global_value_pointer に格納されているアドレスが global_value ですので,
global_value のアドレス位置が結果として書き換わるわけです.

#一連の流れをアセンブラ命令で読む
さて,ここまでくれば,ポインタ変数のメモリイメージがついてきたと思います.
次は,C言語レベルのポインタ変数操作が,CPU命令としてどのように扱われるのか理解を深めていきましょう.

以下の2行は,

	global_value_pointer = &global_value;
	*global_value_pointer = 999;

CPU命令(V850)になると,以下のようになります(最適化していません).

1行目:global_value_pointer = &global_value;

 87a:	2a 06 00 70 	mov	0x5ff7000, r10 /* global_value_pointerのアドレスを r10 に代入(mov) */
 87e:	ff 05 
 880:	2b 06 08 74 	mov	0x5ff7408, r11 /* global_valueのアドレスを r11 に代入(mov) */
 884:	ff 05 
 886:	6a 5f 01 00 	st.w	r11, 0[r10] /* global_valueのアドレス(r11)を 
                                             * global_value_pointer が指すアドレス位置(r10)に格納(st.w)
                                             */

CPU の演算処理は,CPU レジスタを通して行われますので,メモリ上に格納されている値は一旦,CPU レジスタに格納する必要があるため,上記のような命令になります.

今回の場合は,CPUの汎用レジスタに変数のアドレスを設定しています.

汎用レジスタ 割り当て
r10 global_value_pointerのアドレス
r11 global_valueのアドレス

2行目:*global_value_pointer = 999;

 88a:	2a 06 00 70 	mov	0x5ff7000, r10 /* global_value_pointerのアドレスを r10 に代入(mov) */
 88e:	ff 05 
 890:	2a 57 01 00 	ld.w	0[r10], r10 /* global_value_pointer のアドレス(r10) が指すアドレス位置の値(0[r10])を
                                             * r10 にロード(ld.w)
                                             */
 894:	20 5e e7 03 	movea	999, r0, r11 /* 即値(999) を r11 に代入(movea) */
 898:	6a 5f 01 00 	st.w	r11, 0[r10] /* 999(r11) を 
                                             * global_value_pointer が指すアドレス位置(r10)に格納(st.w)
                                             */

以上のように,C 言語レベルのプログラムも,CPUが扱える命令に落とし込みすると,1行のプログラムも複数の命令に展開されることがわかります.

#一連の流れを athrill でデバッグする

最初に,以下のプログラム実行直前で,ブレークを張り,CPUレジスタ状態を確認しましょう.

	global_value_pointer = &global_value;

上記プログラムのアドレス位置は 0x87a ですので,ここでブレークポイントを設定し,「cpu コマンド」でレジスタ状態を参照します(関係する箇所のみ抜粋).r10 と r11 はいずれも 0 が入っていることがわかります.

[DBG>b 0x87a
break 0x87a
[DBG>c
[CPU>
HIT break:0x87a main(+0x8)
[NEXT> pc=0x87a main.c 22
l
[DBG>cpu
PC              0x87a main(+0x8)
R0              0x0
R1              0x0
R2              0x0
R3              0x5ff7400 stack_data(+0x3fc) Stack Pointer
R4              0x0
R5              0x0
R6              0x0 Arg1
R7              0x0 Arg2
R8              0x0 Arg3
R9              0x0 Arg4
R10             0x0 Return Value
R11             0x0
R12             0x0
 :

次に,次の行の手前まで CPU のプログラムカウンタを進めます.

	*global_value_pointer = 999;

次の行のプログラムのアドレス位置は 0x88a ですので,ここでブレークポイントを設定し,「cpu コマンド」でレジスタ状態を参照します(関係する箇所のみ抜粋).r10 と r11 値が書き換わっていることがわかります.

[DBG>b 0x88a
break 0x88a
[DBG>c
[CPU>
HIT break:0x88a main(+0x18)
[NEXT> pc=0x88a main.c 24
cpu
PC              0x88a main(+0x18)
R0              0x0
R1              0x0
R2              0x0
R3              0x5ff7400 stack_data(+0x3fc) Stack Pointer
R4              0x0
R5              0x0
R6              0x0 Arg1
R7              0x0 Arg2
R8              0x0 Arg3
R9              0x0 Arg4
R10             0x5ff7000 global_value_pointer(+0x0) Return Value ★
R11             0x5ff7408 global_value(+0x0) ★
R12             0x0
 :

ここまでくると,global_value_pointerのアドレス領域(0x5ff7000)にglobal_valueのアドレスが格納されているはずですので,「print コマンド」で確かめてみましょう.

[DBG>p 0x5ff7000 4
size=4 byte
0x5ff7000 0x5ff7408

確かに入ってますね.

最後に,「 *global_value_pointer = 999;」の結果を確認しましょう.

[DBG>b 0x89c
break 0x89c
[DBG>c
[CPU>
HIT break:0x89c main(+0x2a)
[NEXT> pc=0x89c main.c 28
cpu
PC              0x89c main(+0x2a)
R0              0x0
R1              0x0
R2              0x0
R3              0x5ff7400 stack_data(+0x3fc) Stack Pointer
R4              0x0
R5              0x0
R6              0x0 Arg1
R7              0x0 Arg2
R8              0x0 Arg3
R9              0x0 Arg4
R10             0x5ff7408 global_value(+0x0) Return Value
R11             0x3e7 ★999
R12             0x0
 :

global_value_pointerが指すアドレス位置は 「0x5ff7408」であり,その領域に格納する値(999)は,
r11 に一時的に格納されています.

そして,global_value_pointerが指すアドレス領域にも 999(0x3e7)が入っていますね!

[DBG>p 0x5ff7408 4
size=4 byte
0x5ff7408 0x3e7 ★999

#ポインタ演習用ソースコードの配置場所

ここでご説明したプログラム一式は athrill プロジェクトで公開しています.

場所は,以下になります.

https://github.com/tmori/athrill/tree/master/sample/barmetal/step1

main.c が,ポインタ演習用のプログラムです.
ビルドおよび athrill によるデバッグは,以下のコマンドを叩くことで簡易化しています.

tmori@tmori-vaio:~/project/athrill/sample/barmetal/step1$ ../build/run.sh
Elf loading was succeeded:0x0 - 0x980 : 2.384 KB
Elf loading was succeeded:0x980 - 0x980 : 0.0 KB
ELF SYMBOL SECTION LOADED:index=15
ELF SYMBOL SECTION LOADED:sym_num=41
ELF STRING TABLE SECTION LOADED:index=16
[DBG>
HIT break:0x0
[NEXT> pc=0x0 vector.S 6

上記メッセージ出力後,main 関数でブレークポイントを設定すれば,ポインタ変数のデバッグができます.

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