業界の構造的に不足するエンジニア
『2030年にIT人材が最大79万人不足する』とのレポートが出ています。
これを回避するためには『未経験エンジニア』を積極的に採用して『一人前エンジニア』に育てていかないといけません。
ところが、SESで人月商売では『パイセン1人月』、『未経験エンジニア1人月』といった 人単位の契約 となっており、パイセン側も自分の仕事をするので精一杯で未経験エンジニアを育成する余裕がないということが発生します。
昔から銀の弾丸の様に語られがちな OJT(On the Job Training) という案件をやりながら訓練するという方法は、そういった問題について考慮がなされておらず、以下の式で表される変数の多いガチャとなっていると言えるでしょう。
- OJTでの成長 = 本人の素養 x メンター x 案件
パイセンのパイセンに色々教えてもらって育ったメンターパイセンは、下の人に色々教えるかもしれませんし、その逆もあるかもしれません。また、そもそも手順書通りやるだけの案件に配属された場合は、教育や育成といった概念が存在しないかもしれません。
当然本人の素養がない場合は、メンターや案件がいくらよくても成長しないという結果にもなりえます。
そんな中で、忙しそうにしているパイセンの顔色とタイミングを伺い、なんとか質問をして案件の課題を解決しつつ自分も成長していくというのには限界があるように感じていました。
…そんな最中、ChatGPTが登場しました。
最強のメンター ChatGPT?
『いつでも聞けて、何でも怒らずに答えてくれる』
人類が、ない時間を削って『アンガーマネジメント』の本など読んで、なんとかして怒らない方法を身につけている間に、全く怒らない何でも答えてくれる最強の先生が登場しました。
たまに(頻繁に?)嘘をつきますが、人間のパイセンも何でも答えられるかというとそうでもないということを考えると、充分よい先生であると言えるでしょう。
知識をひけらかしたり変なマウントを取ったりせずに、質問のレベルに合わせて回答のレベルを調整して簡潔に答えてくれるのもポイントが高いと言えるでしょう。心理的安全性マックスです。
若手を観測していたところ、パイセンに質問することなく知識を効率的に身につけているようにも見えたので、これは現場の教育などの考え方を大きく変える可能性があるなと感じました。
コミュニケーションスキルが低下する?
深刻なメンター不足問題が解決するかに思えたのですが、不意に次の問題が頭をよぎりました。
コミュニケーションスキルの低下問題です。
人間には「使わないスキルは衰える」という恐ろしい性質があります。
開発工程の作業など、自分がスキルを身につけられれば後は時間をかければ一人で解決できる課題については、ChatGPT先生は最高に優秀なメンターとなってくれるでしょう。
ところが、パイセンに些末な質問はしなくてよくなるかもしれませんが、要件や仕様 などは確認する必要がでてきますし、経験年数が上がって立場も上がればお客様に直接質問する機会もでてくることでしょう。
この時に、人間は全く汲み取ってくれず、コミュニケーションが成立しない という絶望を経験するかもしれません。
ChatGPT先生としか会話をしないことにより無自覚のうちに「相手のことを慮る能力」や「整理して説明する能力」などを使う機会がなくなり、それらの能力が衰えていく可能性があるように思えました。
上流工程人材不足に拍車をかけるのでは?
要件定義や外部設計の難しさは、多くの利害が異なる関係者の意見を集めて、できるだけ多くの人が納得するように調整することにあると思います。
ChatGPT先生の登場によって、短期的には、目先の開発力を維持することはできるかもしれないけれども、長期的に見た場合に、要件定義や外部設計を行う人材の確保が一層難しくなっていくようにも思えました。
その場合、要件が定義できず外部設計もできなくなり、開発案件が減り、「IT人材」は不足しているけれども、開発者が余っているという不思議な状況になることも考えられました。
おわりに
ChatGPT先生の登場により、深刻なメンター不足問題が解決する可能性が垣間見えました。
ただ、その背後にはより難しい問題が見え隠れしている様にも思えました。
とは言え、ChatGPT先生をあえて使わない意味はないと思います。
われわれが作るソフトウェアは、AIではなく人間を幸せにするためのモノであるはずなので、目の前のパイセンや同僚やお客様とコミュニケーションを取って、自分の作るソフトウェアの素晴らしさをきちんと伝えたり、お客様の想いをきちんと受け止めたりすることを忘れずに、用法・用量を守って利用していくのが良いのかなと感じました。
おまけ1(新卒エンジニア向け手紙)
おまけ2(新卒エンジニア向け記事)
おまけ3(...は難しいシリーズ)
おまけ4(営業A短編シリーズ)
おまけ5(エンジニアのためのお仕事問題集)
2030年にIT人材が最大79万人不足するとのことで、学習用の資料をgitで無料公開してます(不定期更新)。
よろしければどうぞ。