プロローグ
営業A「いい感じのIT人材いないっすね。」
営業B「30代ぐらいの現場経験が豊富でリーダできるやつほしいよね。」
営業A「そんなやつは、みんな条件がいいところに引っ張られてるだろ?」
営業A
(…まてよ?…こんな話、10年以上していないか…?)
…IT業界の登場人物がサザエさんやポケモンのサトシの様に年を取らないなら、この仮説は合っている可能性もあるだろう。だが、IT業界に従事している人々は年を取を取っている。DXやらなにやらで必要な人材の数が増えているにしても、何かがおかしい。
「これは調査する必要がありそうだな。」
そうつぶやくと営業Aはパソコンに向かってググりはじめた。
IT人材年齢分布の推移
営業A「クソ…悪い予感が的中したか」
営業Aは経産省のレポートを眺めながらそうつぶやいた。
出典: 経済産業省 - IT 人材需給に関する調査 -
グラフの見方はおそらくこうだろう。
順当に推移しているならば、2010年や2015年の25歳の割合が、2015年や2020年の30歳の割合におよそ移動するはず。
ところがグラフを見ると、2010年から2020年で、25 - 29歳と、30 - 34歳の推移の仕方に大きな違いがあり、25- 29歳が微減に対して、30 -34 歳は2010年から2020年にかけて半減しているじゃあないか。
これは条件がいいところに引っ張られていると考えるより、どこへともなく消えていると考える方が自然なんじゃないのか…?
プログラマー35歳定年説(再)
営業A「こんな未来予想図になるのか…?」
グラフの2025年と2030年の推計は予測値とある。ITスクールや商材ビジネスの広告が世に溢れ、未経験エンジニアも大歓迎だ。それなら確かにIT人材は増えるかもしれない。
それにしても、20代は横ばいに対して、30代が増加傾向になるだろうか。何らかの理由で半減する程離脱しているのに、誰かに数ヶ月教えてもらった技術を片手に参入するのだろうか。
30歳を超えた時点で仕事の質が変わる、それまでの仕事の仕方が通用しなくなる、新規技術が習得できなくなるなど理由で離脱する、というグラフじゃないのかこれは?
『プログラマー35歳定年説』は都市伝説じゃなかったのか…?
プレイヤーからプレイングマネージャへ
営業A「そんな冗談は思考を鈍らせるな…」
『プログラマー35歳定年説』の邪念を払うかのように大きく首を振ったところ、新たな仮説が頭をよぎった。
「そうか…プレマネか」
SESの人月労働者は時給労働者だ。単位時間内でどんなに素晴らしいコードを書いても顧客からもらえるお金は変わらない。顧客からもらえるお金を増やそうと思ったら、雇ってもらう人を増やすしかない。
1人月分のアウトプットを出せるか分からない新人をつけられて、自分と合わせて2人月分のアウトプットを出さなければいけなくなる。会社からリーダーとかいうキラキラした言葉で圧をかけられはじめる年齢が30歳ぐらいからと考えると辻褄が合う。
PGとしての仕事も覚えて、だいたい作業見積もりもできるようになり定時退社余裕となった矢先に、未知との遭遇だ。
プレマネの業務は、PG能力はベースとしてもちろん必要な上に、それ以外の能力も多く要求される。プレイヤーではなくプレイングマネージャにある日突然させられる。その準備がまったくできていないならば、昨日までは自分の仕事が完璧にできていたのに、今日からは全くできない。何のサポートもなく責任だけは増えるリーダー。離脱してしまうのは自然だろう。
火消し屋
グラフから読み取れることがもう一つある。
少し前であれば、40代、50代のエンジニアは書類の時点で敬遠されがちだった。
ところが、30代は離脱してしまい炎上案件を鎮火できるのが40代以上だけとなると、40代からでもしばらくは仕事はあることになる。その人々が一斉に定年を迎えると火消しができなくなるかもしれないが、それまでに炎上プロジェクトはなくなっているのだろうか。
エピローグ
IT人材不足なのは間違いない。
未経験30代だろうと、40代だろうとIT業界を目指す人はウエルカムだ。
以下のような業務ができるのであれば営業Aに声をかけるといいだろう。
- 顧客から要望ヒアリング
- 要件・仕様整理・調整
- 仕様書作成
- タスク分割・スケジュール作成・人員割当
- 指示出し・進捗確認
- 開発・試験
- 保守
求人でよく見かける「コミュニケーション能力」をより明確に書くと「顧客の要望を理解・整理して現場の開発者が作業できるように落とし込んで口頭および文書でやりとり」できる能力ということになるだろう。
「リモワで楽しくキーボードだけを叩いて高収入ゲットの案件ばかりならIT人材が不足などしないはずだが・・・難しいものだな。」
そうつぶやいて営業Aはパソコンを閉じた。
おまけ1
営業A短編シリーズ
おまけ2
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