はじめに
以前、CloudNative Days Summer 2025で、「エッジ活用の最適解とは? 新しいエッジ処理アーキテクチャ『Edge-as-a-Service』構想について」 という内容で発表しました。
CloudNative Days Summer 2025 は 2025年5月23日開催の Hybrid イベント で、Cloud Native の広がりや実践知が共有される場でした。最近は Kubernetes だけでなく、生成AI・GPU・エッジ・ローカル5G といったテーマとの接続もかなり強くなってきたと感じます。
この記事では、その発展版として次を整理します。
- Edge-as-a-Service とは何か
- AWS で実装するならどうなるか
- 既存の類似サービスと何が違うか
- これからどこに向かうのか
なお、Edge-as-a-Service は AWS の公式製品名ではなく、筆者のアーキテクチャ構想です。
記事はこちら
エッジ活用の最適解とは? 新しいエッジ処理アーキテクチャ「Edge-as-a-Service」構想について
https://speakerdeck.com/kakerucom/etuzihuo-yong-nozui-shi-jie-toha-xin-siietuzichu-li-akitekutiya-edge-as-a-service-gou-xiang-nituite
まずは公式データで見る「なぜ今か」
CNCF 公式サイトでは、現在のエコシステム規模として以下が示されています。
| 指標 | 値 |
|---|---|
| Projects | 224 |
| Contributors | 310K |
| Contributions | 21M |
| Countries | 193 |
加えて、CNCF Annual Report 2025 では、CNCF は 230超のプロジェクトと 30万人超のコントリビューターを抱えるとされています。
さらに、CNCF Annual Cloud Native Survey では、コンテナ利用者の 82% が Kubernetes を本番利用しているとされています。
つまり今は、
- Kubernetes が「試すもの」から「本番の共通基盤」になった
- AI ワークロードもクラウドネイティブ基盤に寄ってきた
- 次はクラウドだけでなく、エッジも同じ作法で扱いたい
というフェーズだと思っています。
Edge-as-a-Service とは
ひとことで言うと、エッジ拠点の計算資源・GPU・アプリ・接続性を、クラウドのように必要なときだけ使えるようにする考え方です。
従来のエッジでは、現場にサーバを置いて終わりになりがちでした。しかし実運用では次の課題があります。
- 拠点ごとに管理が必要
- GPU を常時起動すると高コスト
- アプリ更新が面倒
- 拠点間通信が複雑
- 使っていないリソースが無駄になる
- クラウドとの役割分担が曖昧
そこで、エッジを「現場サーバ」ではなく、クラウドの延長として扱うのが Edge-as-a-Service の狙いです。
全体像
ポイントはシンプルです。
- 軽い処理はエッジ
- 重い処理はクラウド
- 必要時だけ起動
- 運用は一元化
1リクエストの流れ
実際の処理フローは、次のような「まずエッジ、足りなければクラウド」という流れになります。
この構成にすると、レイテンシ・コスト・データ保護のバランスを取りやすくなります。
技術スタック
| レイヤ | 主な技術 | 役割 |
|---|---|---|
| 実行基盤 | Kubernetes / K3s | エッジ・クラウドの共通基盤 |
| サーバレス実行 | Knative | 必要時のみアプリ起動 |
| 拠点間接続 | Skupper | サービス単位で接続 |
| GPU管理 | NVIDIA GPU Operator | GPU 利用の共通化 |
| 配信・管理 | GitOps / Fleet / Argo CD | 多拠点への継続配信 |
特に重要なのは Knative 的な「使うときだけ動く」設計です。
エッジはリソースが限られるため、常時起動よりもリクエスト駆動が効きます。
AWSで実装するなら
AWS の公式サービスをこの構想に当てはめると、主に次の対応になります。
| AWSサービス | 役割 | この構想での位置づけ |
|---|---|---|
| Amazon EKS | クラウド側 Kubernetes | GPU 推論や集約処理の実行基盤 |
| Amazon EKS Anywhere | オンプレ / エッジ K8s | 拠点内 K8s 基盤 |
| AWS Wavelength | 通信事業者設備上の AWS | 超低遅延が必要な処理 |
| AWS Local Zones | ユーザ近接の AWS | 低遅延なクラウド実行 |
| AWS Outposts | オンプレに AWS を延伸 | データを外に出しにくい現場 |
| AWS IoT Greengrass | 小型エッジ実行 | センサーや軽量推論向け |
AWS 公式の見え方をざっくり整理すると
- Wavelength: 通信事業者パートナーのデータセンター上で AWS を使い、低レイテンシ・データレジデンシー・耐障害性の要求に対応
- Local Zones: ユーザやワークロードに近い場所で実行し、1桁ミリ秒レベルの低レイテンシを狙える
- EKS Anywhere: 独自インフラ上に Kubernetes クラスタを作成して運用できる
- Greengrass: クラウド処理やロジックをエッジデバイスにローカル導入できる
AWS構成案
パターン1: エッジにK3s、クラウドにEKS
一番わかりやすい構成です。
向いている用途:
- 生成AI推論
- RAG
- 映像解析
- 一時的にGPUを使いたいAPI
パターン2: 超低遅延なら Wavelength / Local Zones
向いている用途:
- XR / VR
- リアルタイム映像解析
- ローカル5G
- インタラクティブな低遅延処理
パターン3: データ主権が強いなら Outposts / EKS Anywhere
向いている用途:
- 社内データを外に出せない
- 工場 / 現場系システム
- 閉域で動かしたいAI処理
類似サービスとの違い
すでに似た方向のサービスは存在します。
| サービス | 提供元 | 特徴 |
|---|---|---|
| AWS Wavelength | AWS | 通信事業者網に近い超低遅延基盤 |
| AWS Local Zones | AWS | 都市圏近接の低遅延基盤 |
| AWS Outposts | AWS | オンプレに AWS を延伸 |
| EKS Anywhere | AWS | 自前環境で EKS 流儀の K8s |
| IoT Greengrass | AWS | デバイス寄りの軽量エッジ |
| KubeEdge | CNCF | Kubernetes Native な Edge 基盤 |
| Akri | CNCF | Edge デバイスを K8s リソース化 |
ただし、Edge-as-a-Service が違うのは、**単体製品ではなく「組み合わせ前提の設計思想」**という点です。
| 観点 | 既存サービス単体 | Edge-as-a-Service |
|---|---|---|
| 実行場所 | 特定基盤に依存 | クラウド / オンプレ / MEC を横断 |
| 起動方式 | 常時起動が中心 | 必要時のみ起動 |
| GPU利用 | 個別最適 | 共通化・オフロード |
| 通信 | ネットワーク中心 | サービス中心 |
| 運用 | サービスごとに分断 | GitOpsで統合 |
どんなユースケースに合うか
1. 生成AI / RAG
社内文書は拠点に置きつつ、必要なら AWS 側 GPU に逃がす構成。
2. 映像解析
一次判定はエッジ、異常時だけクラウド。通信量とコストを抑えやすいです。
3. XR / ローカル5G
低遅延が重要なので Wavelength / Local Zones と相性が良いです。
4. 工場 / 現場システム
データ保護、断線耐性、継続稼働が重要な領域に向いています。
今後の未来
今後の論点は、単に「どこでアプリを動かすか」ではなく、次のようなテーマになっていくと思います。
- AI 推論をどこで動かすか
- GPU をどう共有するか
- データをどこに置くか
- 回線断でもどう継続するか
- クラウド / エッジ / オンプレをどう一貫運用するか
CNCF の公式調査でも、Kubernetes はすでに本番の共通基盤になっています。
次は、その共通基盤をクラウドの外側まで伸ばすフェーズです。
つまり、
Cloud Native + Edge Native = 次の分散アプリケーション基盤
だと思っています。
まとめ
Edge-as-a-Service の本質は、エッジにサーバを置くことではありません。
本質は、
- データの近くで処理し
- 必要なときだけリソースを使い
- 足りなければ AWS や別拠点へ逃がし
- それをアプリやユーザに意識させない
ことです。
CloudNative Days で話した内容は、単なるアイデアではなく、CNCF と AWS の公式動向を踏まえると、かなり現実味のある方向性になってきたと感じています。
参考リンク
-
CloudNative Days Summer 2025
https://cloudnativedays.jp/cnds2025 -
CNCF
https://www.cncf.io/ -
CNCF Annual Report 2025
https://www.cncf.io/reports/cncf-annual-report-2025/ -
The CNCF Annual Cloud Native Survey
https://www.cncf.io/reports/the-cncf-annual-cloud-native-survey/ -
AWS Wavelength
https://aws.amazon.com/jp/wavelength/ -
AWS Local Zones
https://aws.amazon.com/jp/about-aws/global-infrastructure/localzones/ -
AWS Outposts
https://aws.amazon.com/jp/outposts/ -
Amazon EKS Anywhere
https://aws.amazon.com/jp/eks/eks-anywhere/ -
AWS IoT Greengrass
https://aws.amazon.com/jp/greengrass/