「Qiitaにこういう記事書いていいんだっけ?」と思いましたが、他にも物理の記事を見かけたのでたぶん大丈夫…なんですかね?
線形応答
線形応答は、入力$X$と出力$Y$の間の関係が線形になっている応答のことです。
ここでは入力$X$も出力$Y$もアナログな物理量とします。
例えばオームの法則$j=\sigma E$は電場$E$を入力、電流密度$j$を出力とする線形応答を表しています。
ここで、線形応答について考察する際に多くの場合仮定される「時不変性」という性質に注目してみます。
時不変性とは、入力$X$を時間的にシフトすると出力$Y$もまた同じ時間だけシフトしたものになるという性質のことです。
これは時間に陽に依存しない系を意味します。
線形かつ時不変な系では、$\exp(-i\omega t)$が固有関数となります(「線形時不変システム 固有関数」で検索)。
すなわち、入力として$X(t)=X(\omega) \exp(-i\omega t)$を与えると出力の$t$依存性は$Y(t)=H(\omega)X(\omega) \exp(-i\omega t)$という形になります($X(\omega),H(\omega)$は時間に依存しない定数)。
つまり、周波数$\omega$の入力を与えると出力の周波数もまた$\omega$となります。
時間に陽に依存する系における線形応答
それでは、時不変性が満たされない場合、すなわち時間に陽に依存する系における線形応答はどうなるでしょうか?
このような応答の例としては、ポンプ・プローブ分光が考えられます。
この実験では、物質にポンプ光を照射して物性を変化させ、その物性変化をプローブ光の透過率や反射率の変化から調べます。
プローブ光の吸収や反射は、プローブ光電場$E_{\mathrm{pr}}$を入力、誘起される分極$P_{\mathrm{pr}}$を出力とする線形応答が分かれば求めることができます。
時間に陽に依存する場合、$\exp(-i\omega t)$は固有関数となりません。
すなわち、周波数$\omega$の入力を与えても、出力は$\omega$以外の周波数成分も持つようになり、一気に問題が難しくなります。
ポンプ・プローブ分光における例
このような時間に陽に依存する場合の一般論について考えるのはおそらくとても難しいと思いますので、ここではポンプ・プローブ分光に限って論じたいと思います。
ポンプ・プローブ分光では、プローブ光のみを入力としたからこそ時間に陽に依存する系という問題設定になっていたわけですが、ポンプ光+プローブ光を入力とすれば時不変性が成り立つようになります。
ただし、ポンプ光照射による変化を考えたいわけなので、この場合は必然的に非線形応答を取り扱うことになります。
非線形応答の中でも最も簡単に考察できるのは、摂動的な非線形応答の場合です1。
摂動的な非線形応答というのは、入力と出力の関係がべき関数の形で書かれるような非線形応答のことです。
一般的に書くと次のようになります。
$$
P(\omega)=P^{(1)}(\omega)+P^{(2)}(\omega)+P^{(3)}(\omega)+\cdots
$$
$$
P^{(1)}(\omega)=\varepsilon_0 \chi^{(1)}(\omega)E(\omega)
$$
$$
P^{(2)}(\omega)=\varepsilon_0 \int^\infty_{-\infty}d\omega_1 \int^\infty_{-\infty}d\omega_2 , , , \delta(\omega_1+\omega_2-\omega)\chi^{(2)}(-\omega;\omega_1,\omega_2)E(\omega_1)E(\omega_2)
$$
$$
P^{(3)}(\omega) = \varepsilon_0\int^\infty_{-\infty}d\omega_1\int^\infty_{-\infty}d\omega_2\int^\infty_{-\infty}d\omega_3 , , , \delta(\omega_1+\omega_2+\omega_3-\omega)\chi^{(3)}(-\omega;\omega_1,\omega_2,\omega_3)E(\omega_1)E(\omega_2)E(\omega_3)
$$
$\chi^{(1)}$は線形感受率、$\chi^{(n)}$($n\geq 2$)は$n$次の非線形感受率です。
$\chi^{(n)}$に物性の情報が秘められています。
線形分極$P^{(1)}(\omega)$は光電場の$\omega$成分$E(\omega)$から生じます。
二次の非線形分極$P^{(2)}(\omega)$は、$\omega=\omega_1+\omega_2$を満たすような光電場の$\omega_1,\omega_2$の成分の積$E(\omega_1)E(\omega_2)$から生じます。
三次の場合も二次の場合と同様に$\omega=\omega_1+\omega_2+\omega_3$を満たすような電場の$\omega_1,\omega_2,\omega_3$の成分の積$E(\omega_1)E(\omega_2)E(\omega_3)$から生じます。
ポンプ・プローブ分光について考えたい場合には、$E=E_{\mathrm{pu}}+E_{\mathrm{pr}}$とします($E_{\mathrm{pu}}$:ポンプ光電場)。
分極$P$のうち$E_{\mathrm{pr}}$に対する線形項のみ取り出すと、次のようになります。
$$
P_{\mathrm{pr}}(\omega)=P_{\mathrm{pr}}^{(1)}(\omega)+P_{\mathrm{pr}}^{(2)}(\omega)+P_{\mathrm{pr}}^{(3)}(\omega)+\cdots
$$
$$
P_{\mathrm{pr}}^{(1)}(\omega)=\varepsilon_0 \chi^{(1)}(\omega)E_{\mathrm{pr}}(\omega)
$$
$$
P_{\mathrm{pr}}^{(2)}(\omega)=2\varepsilon_0 \int^\infty_{-\infty}d\omega_1 \int^\infty_{-\infty}d\omega_2 , , , \delta(\omega_1+\omega_2-\omega)\chi^{(2)}(-\omega;\omega_1,\omega_2)E_{\mathrm{pu}}(\omega_1)E_{\mathrm{pr}}(\omega_2)
$$
$$
P_{\mathrm{pr}}^{(3)}(\omega) = 3\varepsilon_0\int^\infty_{-\infty}d\omega_1\int^\infty_{-\infty}d\omega_2\int^\infty_{-\infty}d\omega_3 , , , \delta(\omega_1+\omega_2+\omega_3-\omega)\chi^{(3)}(-\omega;\omega_1,\omega_2,\omega_3)E_{\mathrm{pu}}(\omega_1)E_{\mathrm{pu}}(\omega_2)E_{\mathrm{pr}}(\omega_3)
$$
$P_{\mathrm{pr}}^{(1)}$はポンプ光に依存しない分極であり、$P_{\mathrm{pr}}^{(n)}$($n\geq 2$)はポンプ光に依存する分極です。
後者がポンプ光照射による物性変化を反映しています。
もう少し式を簡単にするために、ポンプ光が周波数$\Omega$の単色波$E_{\mathrm{pu}}(t)=A_{\mathrm{pu}}\cos(\Omega t + \theta)$の場合について考えてみましょう。
フーリエ変換すると$E_{\mathrm{pu}}(\omega)=A_{\mathrm{pu}}e^{-i\theta}\delta(\omega-\Omega)/2 + A_{\mathrm{pu}}e^{i\theta}\delta(\omega+\Omega)/2$となりますので、$P_{\mathrm{pr}}^{(2)}(\omega)$の式に代入してみます。
$$
P_{\mathrm{pr}}^{(2)}(\omega)=\varepsilon_0 \chi^{(2)}(-\omega;\Omega,\omega-\Omega)A_{\mathrm{pu}}e^{-i\theta}E_{\mathrm{pr}}(\omega-\Omega)
- \varepsilon_0 \chi^{(2)}(-\omega;-\Omega,\omega+\Omega)A_{\mathrm{pu}}e^{i\theta}E_{\mathrm{pr}}(\omega+\Omega)
$$
入力$E_{\mathrm{pu}}$と出力$P_{\mathrm{pu}}$とで周波数が$\pm \Omega$だけ異なることが分かりますね。
同様に$P^{(3)}(\omega)$について考えると、$E_{\mathrm{pu}}(\omega-2\Omega),E_{\mathrm{pu}}(\omega),E_{\mathrm{pu}}(\omega+2\Omega)$の項が生じます。
このように、ポンプ光の周波数が$\Omega$の場合には、周波数$\omega$のプローブ光を照射したときにそれによって誘起される分極$P_{\mathrm{pu}}$は周波数$\omega + m\Omega$ ($m$:整数)の成分を持ちます。
改めてポンプ・プローブ分光をプローブ光のみを入力とする線形応答と考え直すと、時不変性の破れによりこのような入力と出力の周波数のズレが生じるということになります。
上では暗にポンプ光による実励起が生じない場合を想定していたのですが、実励起が生じると光励起状態の有限の寿命に起因した時不変性の破れも生じます。
この場合にはポンプ光の周波数の整数倍とはまた違った周波数のズレ(虚軸方向のシフトとか)が生じえます。
終わりに
時不変性が成り立たない場合の線形応答についてポンプ・プローブ分光を例にして書いてみましたが、いかがだったでしょうか?
なにか考えるきっかけにでもなれば幸いです。
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ここで取り扱った定式化はポンプ光による実励起が生じないことを想定しています。 ↩