私はスライドモードで書かれた記事が嫌いだ。
スライドモードはQiitaの機能の内もっとも無価値なものとさえ思える。
ちょっと改善すれば断然いいものになるのに、もったいない。
と思っていたところに、Qiita改善案 Advent Calendarを見つけ、
さらにあと一枠だけ空いていたので、運命的なものを感じ、この記事を書くことにした。
Qiitaのミッション
まず、Qiitaというサービス、Qiita:Teamというプロダクトのミッションとは何か。
これらのサービス・プロダクトについては、開発元であるIncrementsから、
「Qiitaは、プログラミングに関する知識を記録・共有するためのサービス」、また、「Qiita:Teamはかんたんに書けて、かんたんに共有できる場所」、と紹介されている。
つまりどちらも、情報の共有をサポートし促進するのがミッションであり、ユーザに提供しようとしている価値である。
(以下書くのが面倒なので、QiitaとQiita:TeamまとめてQiitaというプロダクトと呼ぶ。)
このミッションを達成すべくQiitaには、WebエディタやKobitoからMarkdown形式で手軽に記事を書いて投稿できる機能が実装されている。
また、記事をストックして後で読み返せる機能や、コメント欄という議論の場を設けて記事を洗練させるようにしたところなどは、(より有用な)技術情報の共有を促し、ミッションのより高いレベルでの達成に貢献している。
結果として、このミッションはユーザの共感を得て、Qiitaの提供する価値は大いに認められ、(少なくとも一ユーザからみると)Qiitaは多くのユーザを獲得して成功を収めた。
スライドモード
そして2016/6/20、問題のスライドモードがリリースされた。
これは、記事をスライド形式で表示することができる機能だ。
これを使うと、記事の内容全てがスライドの各ページとして表示される。
Incrementsによればこのスライドモードは、「主に技術系イベントでの発表資料や社内ミーティングの資料作成などに使ってもらうことを想定」しているらしい。
一見して上記ミッションからずれている。
まあ、作成した発表資料はそのまま公開されるわけなので、発表した技術情報が共有されるという、ミッションに沿った価値を加えているとみることができると言う人もいるかもしれないが、ちょっとこじつけ感がある。
はたして、情報共有を促進する、というミッションを頭のてっぺんに置いてプロダクトの拡張を考えた時に、今の形のスライドモードを開発するだろうか?
スライドモードで書かれた記事は、情報を共有するのに適した形になっているだろうか?
いや、なっていない。
なにがダメなのか
最近投稿されて人気を集めた、「そろそろプログラマーもFPGAを触ってみよう!」という記事がある。
これはスライドモードを使って書かれている。
この記事の内容自体は本当にいいものだと思う。
私は学生時代に実験でFPGAをいじったりプロセッサアーキテクチャの研究をしたりしていたので、特に面白く読ませていただけた。
ただ、ちょっと分かり辛いところもあり、また情報が薄く物足りないところもあった。
それがなぜかは誰にだってすぐに分かることだ。
もちろん発表内容がしょぼかったからとか、スライドのつくりが悪いからでは決してない。
スライドは情報共有のための表現形式ではない
スライドはプレゼン(発表)のツールだ。
プレゼンでは話し手が主役で、話す内容が提供する情報のメインであり、スライドはそれを補助するものでしかない。
例えば、スティーブジョブズのプレゼン能力についての解説記事を見ると、プレゼンのコツは(スライドではなく)話し手に注目を集めるようにすることだとある。
また同様の別の記事では、シンプルなビジュアルスライドを作れとある。
ジョブズのとあるプレゼンでは、3分の間に表示された12のスライドに書かれていた単語はたった19個だったそうだ。
ここまで極められたプレゼンでなくても、話す内容の全てをスライドに文字として書き込む人はこの世に一人としていないであろう。
つまり、スライドはプレゼンの内容の内ごく一部しか表現しない。
普通、スライドを見ただけではプレゼンの内容はほとんどわからない。
スライドは後でプレゼン内容が分かるように作るものではなく、つまり情報を記録し共有するためのものではない。
ここまで考えれば、スライド形式で記事を書くというスライドモードは、Qiitaのミッションから大きくずれていることが明確に分かる。
そんな機能はほぼ無価値だと言わざるをえない。
一ユーザとしてみても、興味深いタイトルを見つけ、有用な技術情報が共有されていることを期待して開いたら、スライドモードで書かれた薄口の読みづらい記事だったときのがっかり感といったらない。
スライドモードは有名なエンジニアが2時間で作ったとのことだが、これではどうか。
優秀なエンジニアを抱えていることはいいことに違いないが、その能力をプロダクトの価値を上げる方向に活用できなければ宝の持ち腐れだ。
Incrementsにはちゃんとしたプロダクトマネージャやプロダクトオーナがいないか機能していないのではないかと疑ってしまう。
どう改善すべきか
まず、Qiitaを単純なスライド共有やプレゼンツールに使わせる今のスライドモードはいらない。
スライドを共有するならSlideShareがあるし、Markdownでスライドを作るなら国産のMarpやReveal.jsやremarkがあるし、Markdownでブラウザ上でスライドを作るならswipeやhttp://platon.ioがある。
まあ実際なくすと怒る人もいるだろうから残してもいいけど。
できれば無くなった方が、がっかり体験しなくなるのでうれしいんだけど。
で、どうあるべきか。
スライドは発表内容の一部しか表現しない。
のであれば、スライドの外に話す内容を書く場所があればよい。
スライドビューにスピーカーノート欄みたいなものを追加してもいいけど、それだと多分とても見づらいものになる。
スライドモードのオンオフを記事の途中で切り替えられるようにして、話す内容やスライドの解説を普通にレンダリングされる部分に表示できるようにしたらどうだろうか。
数スライドをスライドビューで表示して、解説表示して、また数スライド表示して…
つまりこんな感じ。
こうなると実際には、普通の記事を書いた中で図解などのためにちょろっとスライドモードをはさむ、という使い方がメインになるだろうが、そういう機能の方がミッションと合致しているし、便利だ。
本音
ちょっと本音が漏れたが、実のところ私は「普通の記事を書いた中で図解などのためにちょろっとスライドモードをはさむ」がやりたいだけなのだ。
Incrementsの開発チームには、ぜひともそのような機能を実装するようお願いしたい。