はじめに
2026年4月22日、Google Cloud Next '26 において Google は Workspace Intelligence を発表しました。これは Gemini が Gmail・Chat・Calendar・Drive のデータをリアルタイムで横断的に参照し、コンテキストを意識した生成 AI タスクを実行するための新しいセマンティック基盤です。
従来は Gemini に質問するたびに「このドキュメントを確認して」「先週のメールを参考に」と手動でコンテキストを提供する必要がありました。Workspace Intelligence によりこの手間がなくなり、Gemini がワークスペース全体の状況を把握した状態でタスクを実行します。
この記事で解説すること
- Workspace Intelligence の仕組みと Before/After
- Gmail・Chat・Drive・Docs・Sheets・Slides の各機能
- ADK + MCP を使った開発者向け統合の実装例
- 管理者コントロールと対応プラン
対象読者
- Google Workspace を業務で利用するエンジニア
- Gemini API でアプリケーション開発をしている方
- AI エージェントと社内データを統合したい方
TL;DR
- Workspace Intelligence は 2026 年 4 月 22 日に GA
- Gmail・Chat・Calendar・Drive が Gemini のリアルタイムコンテキストソースに
- ADK の
McpToolsetで Google Managed Agent Search MCP に接続するとエージェントが Workspace データを読める - 管理者はドメイン・OU・グループ単位でデータソースを個別に無効化可能
- Business / Enterprise / Education Plus プランが対象
Workspace Intelligence とは
Workspace Intelligence は、Gmail・Chat・Calendar・Drive にまたがるユーザーデータを Gemini のすべての生成 AI タスクの共有コンテキストとして提供する「セマンティック基盤」です。
公式発表ブログ によれば、Workspace Intelligence は以下の 3 つの柱で構成されています。
- 自動コンテキスト収集: ユーザーが都度コンテキストを提供しなくても、Gemini がワークスペース全体の状況(メール・ファイル・カレンダー・チャット)を把握した状態でタスクを実行
- 情報優先度付け: 関連する資料の取得・ステークホルダーの特定・優先事項の整理を自動実行
- パーソナライズされた出力: ユーザーの文体・フォーマット設定・コミュニケーションパターンに合わせた生成
接続可能なサードパーティサービスには Asana・Jira・Salesforce も含まれています。
各アプリの主要機能
Gmail
| 機能 | 内容 |
|---|---|
| AI Inbox | 重要なメールや添付ファイルを優先表示。見逃しにくいように整理 |
| AI Overviews(検索時) | 複数のメールスレッドにまたがる情報を 1 件のサマリーとして合成 |
AI Overviews はこれまでの Gmail 検索と異なり、複数スレッドの内容を横断して要約します。たとえば「先月の A プロジェクトの意思決定経緯」を検索すると、複数の関係者とのやり取りを統合した回答が返ってきます。
Google Chat
Ask Gemini in Chat は Workspace のコマンドラインと位置づけられています。
- デイリーブリーフィング: 未読スレッド・アクションアイテム・優先タスクの自動サマリー
- ファイル検索: 内容の説明(「先月送った Q1 レポート」など)でファイルを特定
- ドキュメント・スライド生成: Chat を離れることなく、コンテキストに基づいたドキュメントを生成
- 会議スケジューリング: 参加者全員の空き時間を考慮した会議を自動設定
Google Drive
Drive が単なるストレージから「アクティブなナレッジベース」へと進化します。
- Drive Projects: チームごとにファイルとメールを一元管理。Gemini が全コンテキストを把握した状態でタスクを実行可能
- AI Overviews(Drive 内): ファイルの内容に基づく要約・質問回答が GA に
- Ask Gemini in Drive: Drive 上のドキュメントに対して直接質問
Google Docs
- インフォグラフィック生成: ビジネスデータから図表を自動生成
- バッチ画像編集: ドキュメント内の複数画像を一括編集
- コメントトリアージ: 未対応コメントを整理・返答の草稿を自動生成
- フィードバックベースの自動編集: 受け取ったフィードバックに基づいてドキュメントを更新
Google Sheets
自然言語でスプレッドシートの構築・編集が可能になります。たとえば「過去 3 ヶ月の売上データを集計して前月比を追加列にして」と入力するだけで複数ステップのデータ処理を実行します。
Google Slides
会社のテンプレートと視覚スタイルに準拠したスライドデッキを ワンショット で生成します。ブランドガイドラインを学習させることで、統一感のあるプレゼンを自動作成できます。
開発者向け統合: ADK + MCP で Workspace データを活用
Workspace Intelligence のデータは、Agent Development Kit (ADK) と Google Managed Agent Search MCP サーバー を通じてカスタムエージェントからも利用できます。
1. 前提条件
- Google Cloud プロジェクト(Vertex AI API 有効化済み)
- Gemini Enterprise データストア利用には Gemini Enterprise またはそれに準ずる Vertex AI 契約が必要
- ADK (
google-adk) のインストール
pip install google-adk google-auth-httplib2
2. Gemini Enterprise データストアの設定
Google Cloud Console で以下の Workspace データソースを Gemini Enterprise データストアに登録します。
| データソース | 必要な権限 |
|---|---|
| Gmail | gmail.readonly |
| Google Drive | drive.readonly |
| Google Calendar |
calendar.readonly, calendar.events
|
| NotebookLM | discoveryengine.viewer |
3. ADK エージェントの実装
公式コードラボ に基づく実装例です。
from google.adk.agents import LlmAgent
from google.adk.tools.mcp_tool import McpToolset
from google.adk.tools.mcp_tool.mcp_session_manager import StreamableHTTPConnectionParams
from google.adk.tools import FunctionTool
# Workspace Intelligence MCP サーバーへの接続
agentsearch_mcp = McpToolset(
connection_params=StreamableHTTPConnectionParams(
url="https://discoveryengine.googleapis.com/mcp"
),
tool_filter=['search'],
header_provider=auth_header_provider # OAuth ベアラトークンを注入
)
def send_direct_message(recipient: str, message: str) -> str:
"""Google Chat にメッセージを送信するカスタムツール"""
# Google Chat API の呼び出し実装
...
root_agent = LlmAgent(
name='workspace_assistant',
model='gemini-2.5-flash', # 最新モデルは Gemini API ドキュメントを参照
instruction="""
あなたは Workspace データを活用する社内アシスタントです。
MCP search ツールでデータを検索し、必要に応じて Chat にメッセージを送信してください。
""",
tools=[agentsearch_mcp, FunctionTool(send_direct_message)]
)
認証フローは Gemini Enterprise がベアラトークンを ReadonlyContext.state に自動挿入するため、エージェント側では auth_header_provider でこれを取得するだけで済みます。
from google.adk.agents.readonly_context import ReadonlyContext
def auth_header_provider(readonly_context: ReadonlyContext) -> dict:
"""Gemini Enterprise が注入したトークンを取得"""
token = readonly_context.state.get("gemini_enterprise_token", "")
return {"Authorization": f"Bearer {token}"}
4. ADK エージェントのデプロイ
# Vertex AI Agent Engine にデプロイ
adk deploy agent_engine \
--project=YOUR_PROJECT_ID \
--region=us-central1 \
path/to/agent/folder
デプロイ後、Gemini Enterprise の UI でエージェントを登録することで、Ask Gemini in Chat やその他の Workspace アプリからカスタムエージェントを呼び出せるようになります。
Apps Script からの統合
既存の Google Workspace アドオンに Workspace Intelligence を組み込む場合は StreamAssist API を使います。
function callWorkspaceIntelligence(userQuery) {
const sessionName = PropertiesService
.getScriptProperties()
.getProperty('GEMINI_SESSION_NAME');
const requestPayload = {
"session": sessionName,
"userMetadata": {
"timeZone": Session.getScriptTimeZone()
},
"toolsSpec": {
"vertexAiSearchSpec": {
"dataStoreSpecs": getAgentDataStores()
}
},
"agentsSpec": {
"agentSpecs": [{ "agentId": getAgentId() }]
},
"query": {
"text": userQuery
}
};
const response = callStreamAssistAPI(requestPayload);
return response.reply;
}
管理者コントロール
Workspace Intelligence はデフォルトで有効になっています。管理者は Google Admin コンソールから以下の 3 レベルで設定できます。
| レベル | 対象 |
|---|---|
| ドメイン | 組織全体で一括管理 |
| 組織部門 (OU) | 部門ごとに異なるポリシーを適用 |
| グループ | 特定のチームやロールへの細粒度制御 |
特定のデータソース(例: Gmail は無効、Drive は有効)を個別に制御できます。
データソースを無効にすると、Gemini はそのソースを能動的に検索しなくなります。ただしユーザーが個別のファイルをプロンプトに明示的に貼り付けた場合は参照されます。
プライバシーとセキュリティ
- ユーザーデータは広告や外部モデルの学習には使用されない
- クライアントサイド暗号化(CSE)に対応
- データ処理・保存のロケーションを米国・EU(ドイツ)に限定可能(インド: 近日対応予定)
- Zero Data Retention(ZDR)有効化組織: 一部の Gemini 機能(ultrareview 等)は制限される場合があります
対応プランと提供開始
| エディション | 対象 |
|---|---|
| Business Starter / Standard / Plus | ✅ |
| Enterprise Standard / Plus | ✅ |
| Enterprise Essentials / Essentials Plus | ✅ |
| Education Plus | ✅ |
| Frontline Plus | ✅ |
| AI Expanded Access アドオン / AI Ultra Access アドオン | ✅ |
ロールアウトは 2026 年 4 月 22 日に開始し、Rapid Release ドメインで 1〜3 日以内に有効化されました。Scheduled Release ドメインも同期間中に反映済みです。
まとめ
Google Workspace Intelligence により、Gemini は個々のアプリのサイロを超えてリアルタイムにコンテキストを収集・活用できるようになりました。
- 利用者: 毎回コンテキストを渡す手間がなくなり、Gemini が「状況を理解した」アシスタントとして機能
- 開発者: ADK + MCP の数十行のコードで、カスタムエージェントを Workspace データと統合可能
- 管理者: ドメイン・OU・グループ単位の細粒度コントロールでセキュリティポリシーを維持
Google I/O 2026(2026 年 5 月 19〜20 日)でさらなる機能拡張が発表される可能性が高く、注目が集まっています。
参考リンク
- Workspace Intelligence 公式発表ブログ — Workspace Intelligence の機能概要
- 管理者向けリリースノート(Workspace Updates Blog) — 管理者コントロールの詳細
- Gemini Enterprise エージェントと Google Workspace の統合(Codelabs) — ADK + MCP 実装の公式チュートリアル
- Google Workspace で Gemini API を活用する(Codelabs) — Apps Script と Gemini API 統合の基礎実装例
- Gemini API ドキュメント — 最新モデル名・API リファレンス


