はじめに
2026年4月22日、Google Cloud最大の年次カンファレンス「Google Cloud Next '26」がラスベガスで開催されました。260件の発表の中でも最大のニュースが、Gemini Enterprise Agent Platformの正式リリースです。
これはVertex AIを前身とする、AIエージェントの構築から本番運用まで一気通貫でカバーする新しい開発者プラットフォームです。
この記事では、Gemini Enterprise Agent Platformの全体像と、開発者が今日から活用できるAgent Development Kit(ADK)の実装方法を解説します。
この記事で学べること
- Gemini Enterprise Agent PlatformのBUILD/SCALE/GOVERN/OPTIMIZE 4フェーズアーキテクチャ
- Agent Studio(低コード)とADK(コードファースト)の使い分け
- PythonでADKエージェントを構築する基本パターン
- A2A Protocol v1.0によるクロスプラットフォームエージェント連携
対象読者
- AIエージェントをGoogle Cloudで構築・運用したいエンジニア
- Vertex AIを使用中でGemini Enterprise Agent Platformへの移行を検討している方
- LangChain、LangGraphなど既存フレームワークとの比較検討中の方
前提知識
- Python基礎知識
- Google Cloudの基本的な使い方
- AIエージェントの基本概念
TL;DR
- Vertex AIがGemini Enterprise Agent Platformにリブランド・大幅機能拡張(2026-04-22)
- 4フェーズ: BUILD(Agent Studio + ADK)→ SCALE(Agent Runtime + Memory Bank)→ GOVERN(Agent Identity + Gateway)→ OPTIMIZE(Observability + Simulation)
- 200以上のモデルをModel Gardenから利用可(Gemini 3.1 Pro、Gemma 4、Claude等)
- ADKはPython/TypeScript/Go/Javaに対応、月間6兆トークン処理実績
- TPU第8世代:推論コストパフォーマンス80%向上
- 今すぐ: Gemini Enterprise Agent Platform 製品ページ から試せる
Gemini Enterprise Agent Platformとは
Gemini Enterprise Agent Platformは、Vertex AIを前身とするGoogle Cloudのエージェント開発基盤です。公式ブログによれば、今後はVertex AIのすべてのサービスとロードマップが、スタンドアロンサービスではなくAgent Platformを通じて排他的に提供されます。
Gemini Enterprise Agent Platform is a comprehensive platform to build, scale, govern, and optimize agents, built on top of leading infrastructure.
— Google Cloud Blog(2026-04-22)
単なるリブランドではなく、以下の新機能が追加されています:
| 機能 | 説明 |
|---|---|
| Agent Studio | 低コードビジュアルエージェントビルダー |
| Agent Memory Bank | 長期記憶の動的生成・管理 |
| Agent Identity | エージェントごとの暗号化ID |
| Agent Gateway | AIトラフィックコントロール(Model Armor統合) |
| Agent Observability | 推論プロセスのビジュアルトレーシング |
| Agent Optimizer | 実世界の失敗から自動改善 |
4フェーズアーキテクチャの全貌
プラットフォームは4つのフェーズに分かれており、エージェントのライフサイクル全体をカバーしています。
Phase 1: BUILD — エージェントを構築する
Agent Studio(低コード)
Agent Studioは、コーディングなしでエージェントを構築できるビジュアルインターフェースです。
- シンプルなプロンプトから複雑なエージェントまで段階的に開発
- 構築したロジックをADKにエクスポートして深いカスタマイズが可能
- AI支援によるコード生成で本番デプロイを高速化
ADK(Agent Development Kit)— コードファースト
ADKはコードファーストでエージェントを構築するオープンソースフレームワークです。Python・TypeScript・Go・Javaに対応しており、月間6兆トークン以上をGeminiモデルで処理しています。
基本的なエージェント構築例(Python):
from google.adk.agents import Agent
def search_docs(query: str) -> dict:
"""指定クエリでドキュメントを検索する"""
# 実際の実装ではベクトルDBや検索APIを呼び出す
return {"status": "success", "query": query, "results": [...]}
def summarize_text(text: str) -> dict:
"""テキストを要約する"""
return {"status": "success", "summary": "..."}
root_agent = Agent(
model='gemini-flash-latest',
name='doc_search_agent',
description="社内ドキュメントを検索・要約するエージェント",
instruction=(
"あなたは社内ドキュメントの検索・要約を行うアシスタントです。"
"search_docsで検索し、summarize_textで要約してください。"
),
tools=[search_docs, summarize_text],
)
ADKの特徴的な機能としてWorkspacesがあります。これはbashコマンド実行とファイル管理をサンドボックス化された環境で安全に行える機能で、コンピュータ操作エージェントの構築に適しています。
サブエージェントを組み合わせるマルチエージェント構成例:
from google.adk.agents import Agent
# 専門エージェントを定義
research_agent = Agent(
model='gemini-flash-latest',
name='research_agent',
description="情報収集を担当するエージェント",
instruction="ウェブ検索と情報収集を行います。",
tools=[web_search_tool],
)
writer_agent = Agent(
model='gemini-flash-latest',
name='writer_agent',
description="文章作成を担当するエージェント",
instruction="収集した情報をもとにレポートを作成します。",
tools=[format_report_tool],
)
# オーケストレーターエージェント
orchestrator = Agent(
model='gemini-3-1-pro-latest',
name='orchestrator',
description="リサーチと文章作成を統括するエージェント",
instruction=(
"ユーザーのリクエストに基づき、research_agentとwriter_agentを"
"適切に呼び出してタスクを完了してください。"
),
sub_agents=[research_agent, writer_agent],
)
Agent Garden(テンプレート集)
素早くスタートしたい場合は、Agent Gardenの事前構築テンプレートが利用できます:
- コード近代化(レガシーコードのリファクタリング)
- 財務分析・経済調査
- 請求書処理
- カスタマーサポート
Phase 2: SCALE — エージェントを拡張する
Agent Runtime
本番環境でのエージェント実行基盤です:
- サブ秒のコールドスタート:リクエスト時の遅延を最小化
- 数秒でのプロビジョニング:急激なトラフィック増加に対応
- マルチデイワークフロー:数日単位で自律的に動作し続けるエージェントをサポート
Agent Memory Bank
エージェントに長期記憶を持たせる機能です。会話履歴から重要な情報を動的に学習・保存し、次回以降の会話に活用します。
実導入事例として、飲食店予約サービスGurunavi(ぐるなび)の「UMAME」アプリでは、Memory Bankを活用してユーザーの食事嗜好を記憶することで、ユーザー満足度が30%以上向上すると見込まれています。
Agent Sessions & Agent Sandbox
Agent Sessions ではカスタムセッションIDを使って会話履歴を外部DBやCRMと紐付けられます。WebSocketによる双方向ストリーミングでリアルタイム低遅延のインタラクションも実現できます。
Agent Sandbox はモデルが生成したコードをホストシステムのリスクなしに実行するための強化された実行環境です。ブラウザ自動化などのコンピュータ操作タスクにも対応しています。
Phase 3: GOVERN — エージェントを統治する
エンタープライズ環境でのエージェント管理に不可欠なセキュリティと統治機能を提供します。
Agent Identity
すべてのエージェントに暗号化された一意のIDを付与します:
- 全アクションの監査証跡
- 認可ポリシーの明確なマッピング
- エンタープライズ全体での検証可能なID
Agent Gateway
エージェントエコシステムの「エアトラフィックコントロール」として機能します:
- エージェントとツール間のセキュアな統一接続
- 環境を横断した一貫したセキュリティポリシーの適用
- Model Armor統合によるプロンプトインジェクション攻撃・データ漏洩・悪意あるインタラクションへの対策
Agent Registry
エンタープライズ全体のエージェント・ツール・スキルを中央管理するカタログです。承認済みアセットのみアクセス可能にすることで、コンプライアンスとガバナンスを確保します。
Phase 4: OPTIMIZE — エージェントを最適化する
Agent Observability
複雑なエージェントの推論プロセスをビジュアルトレーシングでデバッグします。どのツールがいつ呼ばれ、どのような判断が行われたかをリアルタイムで確認できます。
Agent Simulation & Evaluation
Agent Simulation は合成ユーザーインタラクションでエージェントをテストします。仮想化されたツール環境でタスク成功率と安全性を自動スコアリングします。
Agent Evaluation はライブトラフィックに対して継続的にスコアリングし、マルチターン会話全体を評価します。
Agent Optimizer
実世界の失敗ケースを自動クラスタリングして、システムプロンプトの改善案を提案します。手動のログ解析を排除し、精度を反復的に向上させます。
Model Garden — 200以上のモデルを選択
Gemini Enterprise Agent PlatformはModel Gardenを通じて200以上のモデルへのアクセスを提供します:
| カテゴリ | モデル例 |
|---|---|
| Google ファーストパーティ | Gemini 3.1 Pro、Gemini 3.1 Flash Image、Lyria 3 |
| オープンモデル | Gemma 4 |
| サードパーティ | Anthropic Claude(Opus、Sonnet、Haiku) |
各タスクに最適なモデルを柔軟に選択でき、ベンダーロックインを防ぎます。
A2A Protocol v1.0 — 異なるプラットフォームのエージェントを連携
Agent-to-Agent(A2A)Protocolはエージェント間通信のオープン標準です。Google Cloud Next '26の時点で、A2A v1.0が150以上の組織に採用され、複数の業界で本番稼働事例が報告されています。
A2Aを使うと、Gemini Enterprise Agent PlatformのエージェントとAnthropic、OpenAI、Microsoft等の異なるプラットフォームのエージェントが相互通信できます。
MCPとの棲み分けは以下のとおりです:
| プロトコル | 用途 |
|---|---|
| MCP (Model Context Protocol) | エージェント↔ツール(データソース・API)の通信 |
| A2A (Agent-to-Agent) | エージェント↔エージェントの通信 |
インフラ刷新:TPU第8世代
Google Cloud Next '26ではTPU第8世代も発表されました:
| チップ | 最適化対象 | パフォーマンス向上 |
|---|---|---|
| TPU 8t | モデルトレーニング | 高速トレーニング |
| TPU 8i | 推論(Inference) | コストパフォーマンス80%向上 |
TPU 8iは、大規模エージェントシステムの推論コストを大幅に削減することが期待されています。また、NVIDIA Vera Rubin NVL72やGoogle Cloud Axionプロセッサも提供予定です。
導入実績
Google Cloud Next '26で公開された主要な導入事例:
| 企業 | ユースケース | 成果 |
|---|---|---|
| Payhawk | 経費精算エージェント | 経費提出時間50%以上削減 |
| Gurunavi(UMAME) | レストラン発見アシスタント | ユーザー満足度30%以上向上 |
| Color Health | 仮想がんクリニックアシスタント | がん検診のリーチ拡大 |
| Comcast | Xfinity Assistant再構築 | 会話型AI、セルフサービス向上 |
| L'Oréal | Beauty Tech Agent Platform | ワークフロー自動化 |
クイックスタート
-
Google Cloud Consoleへアクセス:
https://cloud.google.com/products/gemini-enterprise-agent-platform -
ADKをインストール:
pip install google-adk -
Agent Studioで低コード開発を開始 するか、ADKでコードファーストの開発を選択
-
詳細なドキュメント:
まとめ
Google Cloud Next '26で発表されたGemini Enterprise Agent Platformは、Vertex AIを進化させたエージェント開発の統合基盤です。
重要なポイントをまとめます:
- Vertex AIからの移行: 今後のすべての機能はAgent Platform経由で提供される
- 4フェーズカバー: BUILD → SCALE → GOVERN → OPTIMIZE でエージェントのライフサイクル全体をサポート
- ADKの成熟: 月間6兆トークン処理の実績があり、本番レディな開発フレームワーク
- エンタープライズセキュリティ: Agent Identity + Agent Gateway + Model Armorでセキュリティを多層防御
- A2A v1.0 本番稼働事例あり: 150以上の組織が採用、マルチベンダーエージェント連携が可能
- TPU 8i: 推論コストパフォーマンス80%向上でランニングコスト削減
Vertex AIを利用中の方は移行パスを、新規にエージェント開発を始める方はAgent StudioまたはADKのクイックスタートを確認することを推奨します。
参考リンク
- Gemini Enterprise Agent Platform 公式ブログ(Google Cloud、2026-04-22)
- Google Cloud Next '26 全発表まとめ(Google Blog、2026-04-22)
- Gemini Enterprise Agent Platform ドキュメント
- ADK 公式ドキュメント
- ADK GitHub リポジトリ
- ADK クイックスタート(Google Cloud)
- Google Cloud Next '26 ニュースまとめ