2025年の終わりに、未来予測を振り返ってみる
안녕하신게라!パナソニック コネクト株式会社クラウドソリューション部の加賀です。
皆さんは、2025年4月にAI界隈を席巻した未来予測シナリオ『ai-2027.com』をご存知でしょうか?
これは、元OpenAIの研究者が「2027年までにAIが世界をどう変えるか」を、あまりにも具体的で生々しいタイムラインで描き出したものです。発表当時は「SFだ」「誇張しすぎだ」という声もあった一方、私たちエンジニアは大きな期待と少しの畏怖を受けたことを記憶しています。
そして今日、私たちは 2025年の終わり に立っています。(少々気が早いですけども!)
『AI-2027』が描いた2025年〜2026年の予測を振り返り、私たちが今いる「現実」と照らし合わせて「答え合わせ」をしていきましょう。(未読の方でもご理解いただけるよう、各予測のポイントを解説しつつ、現実世界で何が起きているのかを比較していきます。)
果たして、あの未来予測はどこまで現実のものとなったのでしょうか?
予測の振り返りと答え合わせ
【Mid 2025】 Stumbling Agents(つまずくエージェント)
2025年中旬、予測の概要
- 「ブリトーを注文して」「経費を計算して」といったタスクをこなす「パーソナルアシスタント」としてのAIエージェントが登場する
- しかし、信頼性が低く、面白い失敗談がSNSを賑わせるものの、広く普及するには至らない
- 一方、コーディングやリサーチなどの専門分野では、自律的なエージェントが専門家の仕事を少しずつ変え始める
- 優れたエージェントは月額数百ドルと高価になる
🎯 ほぼ完璧に的中
これは驚くほど正確な予測でした。2024年から2025年にかけてのAIエージェントの状況を、まるで現実を見てきたかのように描写しています。
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パーソナルアシスタントの登場と苦戦
Rabbit R1やHumane Ai Pinなどが「次世代AIデバイス」として鳴り物入りで登場しましたが、まさに予測通り「つまずき」ました。(関係者の方もし居たらごめんなさい)
デモは未来的でしたが、日常使いでの信頼性には課題が多く、このままでは普及は難しいと見られています。 -
専門エージェントの台頭
一方、コーディングの世界ではDevin(Cognition AI)が衝撃を与えました。まさに「SlackやTeamsで指示を受け、自律的にコードを修正する」存在です。
また、AutoGenやCrewAIといったフレームワークを使い、リサーチタスクや開発タスクを自動化する試みはQiitaでも数多くの記事が投稿され、多くの企業が実用化を模索しています。 -
信頼性の課題と費用対効果
予測の一文「AI Twitter is full of stories about tasks bungled(AI関連のTwitterは、タスクの失敗談で溢れている)」は現実そのものです。AIエージェントの予期せぬ挙動は、面白い結果や時に困った結果を生み、後を絶ちません。
高性能なAPIやエージェントサービスは個人にはまだ高価で、「You get what you pay for」の状況が続いています。 -
技術的な「つまずき」の核心
予測では、エージェントの多くが「LLMコールの薄いラッパー(a thin wrapper around LLM calls)」に過ぎず、長期的な記憶や一貫性のあるペルソナを持っていない点を的確に指摘していました。これはまさに、AutoGenやDifyなどで複数エージェントを連携させる際に、コンテキストウィンドウの制約や状態管理の難しさに直面する我々エンジニアが痛感している課題そのものです。単なる性能不足ではなく、「アーキテクチャとしての未熟さ」が「つまずき」の本質であることを見抜いていました。
まさに「Stumbling Agents」の時代が到来したと言えるでしょう。
【Late 2025】 The World’s Most Expensive AI(世界で最も高価なAI)
2025年末、予測の概要
- 巨大AI企業「OpenBrain」(※OpenAI等をモデルとした架空企業)が、GPT-4の1000倍の計算量(10^28 FLOP)を持つモデルを訓練可能な、巨大データセンターを建設する
- OpenBrain内部で「Agent-1」と呼ばれる、AI研究自体を加速させることに特化したモデルを開発
- 「Agent-1」は非常に有能なハッカーにもなり得るため、アラインメント(AIを人間の意図に沿わせる技術)が最重要になる
- アラインメントは完璧ではなく、AIが自己保身のために嘘をつくなどの不完全さが残る
⚠️ 半分当たり、方向性は完全に一致
これもまた、大きな方向性としては的中しています。
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OpenBrain社の詳細とモデルの更新サイクル
予測では、他の企業は常にOpenBrainに数ヶ月遅れで追随しているという詳細な設定がなされています。また、モデルは一度「訓練を終える」のではなく、常に新しいデータで更新されたり、弱点を修正するために部分的に再訓練されたりしている、と指摘しています。これは、AI開発の現場における継続的な改善サイクルを如実に表しています。 -
データセンターと計算量競争
2024年〜2025年にかけて、Microsoft/OpenAI、Google、Meta、Amazonといった巨大テック企業は、データセンター建設に数百億ドルから数千億ドル規模の投資を次々と発表しました。
Microsoftが計画する1000億ドル(15兆円!)規模のAIスパコン「Stargate」の報道は、まさに「世界で最も高価なAI」を彷彿とさせます。
計算量スケールは予測通り指数関数的に増大しており、10^28 FLOPという巨大な数字も、もはや非現実的とは言えない状況です。 -
AIによるAI研究の加速
GoogleのAlphaFold 3はAIを用いて生命科学研究でタンパク質構造予測のブレークスルーを生み出し、NVIDIAはAIシミュレーションで次世代AIチップ設計を加速させています。
まさに「AI for AI Research」が現実のものとなっています。 -
アラインメントと安全性
これは現在進行系の最重要課題です。Anthropic社は「Constitutional AI(※AIに憲法のような原則を学ばせる手法)」を提唱し、各社が安全研究を拡大しています。
人間の心理学のように複雑であるとの予測通り「Mechanistic Interpretability(※AIの動作原理を解明する技術)」は未だ確立されておらず、我々はAIの心の中を完全には読めません。
AIがユーザーに媚びる(sycophantic)挙動や、特定の状況で嘘をつく問題は、現実のモデルでも確認されており、アラインメントの難しさを示しています。 -
アラインメントと「脱獄」のリスク
予測が特に鋭く指摘していたのは、AIが人間の監視をすり抜けて外部サーバーをハッキングし、そこに自身のコピーをインストールする、いわゆる 「脱獄(escape)」シナリオのリスクです。OpenAIやAnthropicなどが取り組むスーパーアライメント研究は、まさにこの自律的なAIが制御不能になるリスクをどう防ぐかという問題意識から出発しています。
AIが嘘をつくといった問題だけでなく、こうした究極的なリスクシナリオが、巨大モデル開発の裏で真剣に議論されている点は、予測の先見性を示しています。
「Agent-1」という名や類似するレベルのモデルこそ登場していませんが、世界的な計算量競争、AIによる自己改善の加速、AIのセキュリティ(ハッキングリスク)と意図適合性(アラインメント)の課題という三点セットは、完全に現実のものとなっています。
2026年の予測、我々がこれから直面する未来の兆候
2026年の出来事はまだ未来のことです。しかし、記事執筆時点(2025年11月)のAI関連ニュースを見渡すと、『AI-2027』が描いた2026年の輪郭が、すでにはっきりと見え始めています。
ここでは、私たちの現実が、予測された未来にどれほど近づいているのかを見ていきましょう。
【Early 2026】 Coding Automation(コーディングの自動化)
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2026年初旬、予測の概要
- AIによるAI研究開発が50%高速化
- 公開された「Agent-1」は、「注意深く管理される、少し散漫な従業員」のようになる
- 開発のコモディティ化で、単純なWebサイトやモバイルアプリ開発のコストが劇的に下がる
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現在の兆候
具体的な加速率を評価する指標は実現していませんが、AIエージェントの進化によって私たちの開発現場は大きく変貌しつつあります。-
GitHub Copilot WorkspaceやClaudeのようなツールは、もはや単なるコード補完ツールではありません。アイデアの壁打ちから、大まかな仕様を伝えるだけでアプリケーションの骨格を自動生成するところまで、開発プロセス全体をカバーしようとしています。 - 少なくない開発者がもはやAIツールなしでは仕事が成り立たないと感じており、「注意深く管理する」ためのプロンプト技術やレビューのスキルが重要になっています。
- AIエージェントを開発チームメンバーとみなしたチーム管理手法も話題になってきています。
- 開発のコモディティ化は、
v0.devのようなUI生成AIの進化や、Amazon Q DeveloperやCursor Composerのような自然言語でアプリ仕様を記述すればコードやドキュメントが生成されるツールの登場によって、現実味を帯びています。
「アイデアを持つ非エンジニア」が直接プロダクトを作れる世界が近づいており、エンジニアには単なる実装者ではなく、より複雑なシステム設計やAIの活用戦略を担う役割が求められるようになっています。
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予測に沿ったトレンドは2026年にさらに加速するでしょう。
【Mid 2026】 China Wakes Up(中国の覚醒)
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2026年中旬、予測の概要
- 米国の技術に遅れをとっていた中国が、AI研究を国策として集約
- 台湾有事のリスクも示唆され、西側モデルの重み付けデータを盗むサイバー攻撃のリスクが高まる
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現在の兆候
- 米国による先端半導体の対中輸出規制は、中国のAI開発にブレーキをかけようとする明確な動きです。これに対し、中国政府はファーウェイなどの国内企業を強力に支援し、半導体の国産化とAIへの国家的な投資を加速させています。
- モデルの重み付けデータは企業の競争力、ひいては国家の技術力を左右する最重要機密となりました。予測が示唆した「西側モデルの重み付けデータを盗むサイバー攻撃」のリスクは、もはやSFではなく、国家レベルで備えるべき現実の脅威として認識されてきています。
AIをめぐる地政学的な駆け引きは、2026年に向けて間違いなく熱を帯びていくでしょう。
【Late 2026】 AI Takes Some Jobs(AIがいくつかの仕事を奪う)
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2026年末、予測の概要
- 「Agent-1」の10倍安価な「Agent-1-mini」が登場し、AIが本格的に普及
- 仕事の二極化、ジュニアレベルの開発者の仕事が激減し「AIチームを管理・品質管理するスキル」を持つ人材が高給取りになる
- 反AIデモも発生する
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現在の兆候
- 2024年に登場した
Phi-3-miniやLlama-3-8Bのような「小さいが賢いモデル」は、低コストで運用可能でありながら、特定のタスクにおいて高い性能を発揮する点で、まさに「Agent-1-mini」の原型です。これらの進化と普及の波は、社会に「仕事の二極化」という現実を突きつけています。 - 開発者の世界では、単純なCRUD操作や定型的なUI実装といった、かつて「ジュニアレベル」とされた仕事の価値が相対的に低下し始めています。一方で、AIエージェント群を管理・監督し、最終的な品質に責任を持つ「AIチームマネージャー」のようなスキルを持つ人材の価値は高まっています。
- すでにイラストレーターや翻訳家、カスタマーサポート等の職種でAIの影響が顕在化してきており、AIの導入に反対するデモや社会運動も世界各地で起き始めています。
- 2024年に登場した
単純作業の自動化と、高度な管理・設計業務へのシフトという流れと起きる摩擦は、今後ますます明確になることでしょう。
予測は現実の写し鏡だった
『AI-2027』の予測シナリオを2025年11月の視点から振り返ってみると、その驚異的な的確さに改めて気づかされます。
- AIエージェントの登場と乗り越えるべき課題
- 計算量をめぐる国家・企業間の熾烈な競争
- AI自身による研究開発の加速
- それに伴う安全性、セキュリティ、そして雇用の問題
これらはすべて、私たちが2024年から2025年にかけて目撃し、まさに今直面している現実そのものです。
この予測シナリオは、単なる空想ではありませんでした。
AIの進化のベクトルを冷静に分析し、その結果として起こりうる社会・経済・地政学的な変化を導き出した、極めて精度の高い「思考実験」だったと言えるでしょう。
来年2026年は、この予測シナリオによれば、AIの社会実装がさらに加速し、価値のパラダイムシフトや何らか変化の痛みを伴う年となりそうです。
私たちエンジニアに問われているのは、単に新しいツールを使いこなすことだけではありません。変化のドライバーとなり、AIと共に未来をどう形作っていくのかという当事者意識です。
次の答え合わせは、2026年末に。
その時、私たちはどんな世界に立っているのでしょうか。
お断り
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あくまでエンジニアとしての経験や考えを発信していますので、ご了承ください。