個人の課題は抽象化してみるとチームの課題になる
— システム開発の現場で “属人トラブル” を “組織レベル改善” に昇華する方法
はじめに
ビルドが通らない・レビューが詰まる・深夜対応が続く…
どれも “誰か一人の問題” に見えるが、視点を引いてみれば 開発プロセスやアーキテクチャの構造的課題 であることが多い。
この記事ではシステム開発の現場でありがちな個人課題を
抽象化 → チーム課題 → 改善サイクル へ変換するフレームワークと実例を解説します。
1.現場で抽象化が効く理由
観点 | 個人レベル | チームレベル(抽象化後) |
---|---|---|
例 | 「Xさんのプルリクが遅い」 | レビューキューが詰まるフロー |
解決策 | Xさんの教育・注意喚起 | レビュー SLA・CI 自動チェック・ペアプロ導入 |
効果 | 一時的・局所的 | 継続的・再現性のあるプロセス改善 |
ポイント
- 再発防止: “人” に依存しない CI/CD・自動テストで仕組み化
- 心理的安全性: 個人攻撃を避け “プロセス課題” に置き換えて議論
- 技術負債の顕在化: 抽象化により見えなかった負債が数値化される
2. 個人課題 → チーム課題 “SEあるある” 対応表
目に見える症状(個人) | 抽象化すると | 代表的なチーム課題 |
---|---|---|
ビルド失敗が多い (新人が環境構築で詰まる) |
再現性ゼロのローカル環境 | コンテナ化・IaC不足 |
コードレビューが滞る | レビュー負荷集中 & SLA不在 | RACI未定義・レビュー自動化不足 |
深夜障害対応が常態化 | オンコール属人化 | モニタリング不足・運用ルール未整備 |
テスト漏れバグ多発 | 手動テスト依存 | 自動テスト戦略欠如・テストデータ管理不備 |
3. 抽象化フレームワーク(4ステップ)
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Observe – 観察
- Git / CI/CD / チケットの ログを定量把握(例:失敗ビルド数, MTTR)
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Pattern – パターン化
- 発生日・担当・影響範囲で グルーピング(例:金曜夜に障害集中)
-
Structure – 構造特定
- 視点:プロセス / 技術基盤 / 役割
- 例: “デプロイ=手動” が障害のボトルネック
- 視点:プロセス / 技術基盤 / 役割
-
Hypothesis & Action – 仮説と対策
- 改善 Backlog に落とし込み、Definition of Done と KPI を設定
4. ケーススタディ:新人エンジニアのビルド失敗
ステップ | 内容 |
---|---|
Observation | 新人 Y さん、開発初日から ビルド失敗 7 回 |
Pattern | 同期 3 名も初週で平均 失敗 5 回 |
Structure | - ローカル環境は手順 Wiki/スクショのみ - Node.js / Java / Python 各自手インストール - Docker 導入は検討止まり |
Hypothesis & Action |
① Docker Compose でローカル環境統一 ② devcontainer.json をリポジトリ直下に配置 ③ Onboarding ドキュメントを README に一本化 KPI: 新人の初回ビルド成功率 90% 以上 |
結果
- 次バッチの新人は ビルド成功率 92%
- 既存メンバーの “Works on my machine” も激減
5. 改善サイクルを走らせる Tips
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メトリクスを自動収集
- GitHub Actions + Datadog → ビルド失敗・レビュー時間を可視化
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ふりかえりテンプレを標準化
- 5 Whys + 技術/プロセス/人 の三軸で原因特定
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小さく実験 → 展開
- 1 チームで Docker 導入 ⇒ 成功データを元に全プロジェクトへ横展開
まとめ
- SE チームの属人的トラブル は、多くの場合 開発プロセス・技術基盤の構造課題。
- 4 ステップ(観察 → パターン → 構造特定 → 仮説・対策)で抽象化し
CI/CD・自動化・明確な役割分担 に落とし込むと再発を防げる。 -
今日できること
- 直近 1 週間の障害・手戻りログを洗い出す
- 共通パターンを抽象化し “技術 vs プロセス” どこが原因か貼り付け
- 改善 Backlog にチケット化 & スプリントに入れる
失敗は人に依存させず、仕組みで潰す。
その第一歩は “個人の課題” を “チームの課題” として捉え直す視点転換だ。