0
0

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?

[origin/私][目次]いつから

0
Last updated at Posted at 2026-06-29

〈ショートストーリー〉

改札の向こうへ、田中の背中が消えていく。

二十年ぶりだった。楽しかった。本当に、楽しかった。なのに別れぎわの一言が、ホームに立った今も耳の奥で鳴っている。

「お前、変わらないなあ」

私も同じことを思っていた。だから笑って、手を振った。

電車を待つあいだ、その「変わらない」が、だんだん妙な手触りになってきた。嬉しいはずの言葉なのに、底のほうが少し寒い。

私の中の田中は、たぶんまだ十八歳のままだ。あいつの中の私も、きっとそうなのだろう。二人ともどこかで、相手を更新するのをやめた。会えば昔の話だけがなめらかに転がる。今の話は、お互いうまく受け取れない。

いつからだろう。

いつから、あの友達と話が合わなくなったんだろう。

はっきりした喧嘩はなかった。決定的な裏切りもなかった。ただ、気づいたらこうなっていた。犯人のいないすれ違い。

手首をさすった。心のリポジトリが薄く灯る。生まれた日から今日までの、長いログ。このどこかに境い目があるはずだ。まだ二人の話が合っていた私と、もう合わなくなった私の、あいだに。

それを知りたい、と思った。

知るには、たぶんいちばん最初まで遡るしかない。私が、まだ誰でもなかったあの日まで。誰かにcloneされて、この世界に生まれ落ちた最初のcommitまで。

電車が来る。

私は、自分の履歴のいちばん最初へcheckoutした。

〈この本の読み方〉

この世界では、人は心をgitで管理している。生まれ(clone)、家を出て(fork)、人と出会い(remote)、ぶつかり(conflict)、過去を悔い(revert / rebase)、やがて読み取り専用の記憶(tag)になる。

各章は、二枚で一組だ。

  • 〈ショートストーリー〉 が、gitの言葉で人生のひとときを描く。
  • 〈技術ノート〉 が、物語が比喩で嘘をついた、ちょうどその場所を、正確なgitの言葉で正す。

感情で覚える。ノートで確かめる。── 物語を信じすぎないために。

目次

姉妹作

0
0
0

Register as a new user and use Qiita more conveniently

  1. You get articles that match your needs
  2. You can efficiently read back useful information
  3. You can use dark theme
What you can do with signing up
0
0

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?