仕事でSaaSやノーコード系のサービスを使用することが増えてきたため、SaaS同士を繋がないと仕事が回らなくなるとひしひしと感じています。そこで必要となるのがiPaaS(integration Platform as a Service)というSaaS同士を連携するクラウドサービス。きっとこれからSaaSを使う情シス/IT部門/ビジネスユーザーも同じ課題を感じることになると思うので、これまで集めてきた情報を比較も兼ねてまとめてみたいと思います。今回は国内事業者を対象としています。
なお、ここに書く内容は各ベンダーに許諾を得ているわけではありませんので、正確な情報は各社にお問い合わせください。
今回は調査対象を国内のiPaaSに限定しており、下記のようなETLやCDPに該当すると思われるサービスは除外しています。
・Reckoner:ノーコード型ETL https://reckoner.io/
ターゲット:中小企業
類似:ASTERIA Warp、Waha! Transformer
・trocco:データ分析基盤 https://trocco.io/lp/index.html
ターゲット:大企業・中小企業
類似:Dr.Sum
・Yoom:SaaS連携データベース https://lp.yoom.fun/
ターゲット:中小企業
類似:Treasure Data CDP、b→dash
また、iPaaSを謳う「DataSpider Cloud」は、価格表( https://www.hulft.com/software/dataspidercloud/adapter-option
)を見る限りでは接続可能なクラウドサービスが限定的であったりCPUや機能や容量で細かな料金設定がされていることから、クラウドネイティブなiPaaSとは乖離が大きいため除外をしております。EAIツール「DataSpider Servista」のクラウド版という位置付けから、iPaaSというよりはASTERIA WarpのようなEAIツールという認識です。
・DataSpider Cloud:EAI https://www.hulft.com/software/dataspidercloud
・DataSpider Servista:EAI https://www.hulft.com/software/dataspider
ターゲット:大企業
類似:ASTERIA Warp、Waha! Transformer
【iPaaS国内事業者の比較】 (五十音順)
ActRecipe (アクトレシピ)
https://www.actrecipe.com/
●提供企業:アクトレシピ株式会社
●ターゲット:大企業・中小企業
●サービス開始:2019年8月1日
●無料プランの有無:○
●価格:月額5万円より
●主な国内事例:セブン-イレブン・ジャパン、グリー、ANYCOLOR、ラクスル他
●特徴:国内企業によるiPaaSでは最も古く(といってもあまり差がない)、大企業を主なターゲットとしているとのこと。国内のiPaaSとしては唯一無料プランがあったり、iPaaSとしてはこれまた唯一銀行APIを含むFinTech対応をしていたり、業務フローがパッケージになっているレシピだけを提供していたりと、他のiPaaSにはない様々な特徴がある。当初は財務会計領域を中心に展開していたようだが、現在はバックオフィス周りに強みを持つとのこと。無料プランでは数十件のレシピが利用可能。レビューを見る限りだと大企業向けということもあって有償プランのサポートは充実している様子。企業間のSaaSを連携する特許を取得済み。
●私見:公開されていた資料を見ると解約率が0%らしくて凄い。連携リリースも途切れることなく行われており、他社にはない連携や特徴が個人的にはとても興味深く今後に期待が持てる。無償のFreeプランは中小企業でも手軽に使えるように設けられているとのこと。有償のStandardプランが月額5万円と、大企業向けとしては安すぎるので、個別見積もりのProfessionalプランの金額が気になるところ。
ASTERIA Warp Cloud (アステリアワープクラウド)
https://www.asteria.com/jp/warp/
●提供企業:アステリア株式会社
●ターゲット:不明
●サービス開始:2025年8月 (2025年5月13日時点の情報)
●無料プランの有無:-
●価格:月額16万円より
●主な国内事例:-
●特徴:執筆時点での主な特徴は「ノーコードで連携を記述」「データマスキング機能を標準搭載」「24時間365日のサポート体制」の3点。今後の機能拡充等に期待。
●私見:企業データ連携(EAI/ESB)の「ASTERIA Warp」において1万社以上の提供実績があることから、そのノウハウをiPaaSとして提供されているものと思われる。インターネットイニシアティブ社に対して「ASTERIA Warp」をクラウド版で提供してiPaaSとして販売されているため、このサービスとの棲み分けが不明。
bindit (バインディット)
https://www.bindit.jp/
●提供企業:株式会社ユニリタ
●ターゲット:中小企業
●サービス開始:2022年4月26日 (クローズドβ開始)
●無料プランの有無:○
●価格:月額3万円より
●主な国内事例:ユニリタ(自社利用)
●特徴:執筆時点ではクローズドβのみの提供となる、ユニリタ社によるiPaaS。事例も自社利用のみのため詳細は把握できないものの、公開されている情報を確認する限りでは個人のタスクの自動化にフォーカスされているようなので主なターゲットは中小企業と思われる。今後の展開に注目。
●私見:国内サービスとしては後発ということもあってか、「レシピを選ぶだけ」というActRecipeと同じ表現をしていたり、「シンプルで直感的なUI」というAnyflow(現在は一般向け提供停止)と同じ使い勝手を謳っており、サービスとしてのオリジナリティを感じられない。直近の会社全体の営業利益が赤字であることからサービスへの大規模な投資や急拡大は難しい印象。
BizteX Connect (ビズテックスコネクト)
https://service.biztex.co.jp/connect/
●提供企業:BizteX株式会社
●ターゲット:中小企業
●サービス開始:2020年5月11日
●無料プランの有無:○
●価格:月額3万円より
●主な国内事例:スターフェスティバル、アドウェイズ、デジタルガレージ他
●特徴:クラウド型のRPAを提供している会社によるサービス。「BizteX cobit」というRPAとの連携によって、SaaSを含むシステムと連携してワークフローの自動化や一元化を目指す。ノーコードで営業部門、マーケティング部門、人事・労務等の管理部門まで幅広い部門の業務効率化を実現するとのこと。TIS社と資本業務提携を行い、TIS社の提供するAI-OCRやチャットボット連携を進める。
●私見:BizteX Connectでのリリースの頻度は高くないことからiPaaS単体にあまり力を入れている印象がなく、「BizteX cobit」との組み合わせによる業務自動化ソリューションの一部と思われる。
HULFT Square (ハルフトスクウェア)
https://www.hulft.com/hulft_square
●提供企業:株式会社セゾンテクノロジー
●ターゲット:大企業
●サービス開始:2022年6月8日
●無料プランの有無:-
●価格:月額24万円より
●主な国内事例:日清食品ホールディングス他
●特徴:2023年2月8日に正式リリースされたグローバル対応のiPaaS。ファイル連携ミドルウェアの「HULFT」を提供するセゾン情報システムズ社が満を持してリリースしたサービスであり、HULFTやDataSpiderの顧客基盤や既存商材を活かした展開や連携を進めるものと思われる。価格は国内のiPaaSの中では高めの設定。グローバル展開を見据えていることからInformaticaやBoomi、Workato等を意識したサービス展開が予想される。
●私見:非公式な情報ながら開発費は10億円を超えるようで、大企業向けということもあり重厚長大なシステムの印象。料金表を見るとCPUライセンスのようなものがあるためiPaaSというよりもSaaS型データ連携ツールではないかと思う。(同様に海外のInformaticaもiPaaSと呼ぶかには賛否がある)
JENKA (ジェンカ)
https://jenka.jp/
●提供企業:スターティアレイズ株式会社
●ターゲット:中小企業
●サービス開始:2023年4月
●無料プランの有無:○
●価格:初期費用10万円、月額5万円
●主な国内事例:-
●特徴:元々「RoboTANGO」というRPAを提供していた企業によるiPaaSなのでBziteX社のモデルの模倣と思われる。連携しているサービスやユースケースもBizteX社と似ており、公開情報では特徴らしい特徴がない。
●私見:上場企業の子会社なので赤字を掘っていくことはあまり考えられず、RPAとシナジーがあり儲かりそうだから始めた事業のように見える。
SaaStainer by JOINT (サーステイナーバイジョイント)
https://saastainer.com/
●提供会社:株式会社ストラテジット (HEROZ株式会社の連結子会社)
●ターゲット:中小企業
●サービス開始:2020年12月1日
●無料プランの有無:○
●価格:月額1.1万円より
●主な国内事例:ボンズコミュニケーション、PRONI、radiko他
●特徴:SaaSの導入等を行うストラテジット社によるサービス。Master HubというSaaS事業者向けのiPaaSでSaaStainerのアプリを作成されているとのこと。SlackとTeamsを連携するアプリのような「ありそうでなかったニッチな連携」や、あまり利用されていないSaaSの連携アプリもあり興味深い。アプリ単位の販売のためニーズが限定されている場合やスモールスタートには最適。アプリの数は数十件。2022年12月時点で国内最多を謳う1,500社以上が利用しているとのこと。
●私見:SaaStainer by JOINTはiPaaSというよりもデータ連携のアプリを公開・販売するアプリマーケットという印象なため一覧に加えるかは迷いましたが、SaaS連携だけをするという点ではほぼiPaaSなので加えました。おそらく、ActRecipeにおけるレシピがSaaStainer by JOINTにおけるアプリで、どちらもSaaSのように処理が固定なためカスタマイズはできなそう。
【関連:SaaS事業者向けiPaaS】
上記のサービスはいずれもiPaaSを利用する一般企業向けのものですが、一般企業ではなくSaaS事業者向けのiPaaSというものも存在するため簡単にまとめたいと思います。
■Anyflow Embed https://anyflow.jp/products/embed
●提供企業:Anyflow株式会社 (アスエネ株式会社の100%子会社)
●サービス開始:2022年12月9日
●内容:一般企業向けのAnyflowをSaaS事業者向けにピボット(?)したサービス。最短数時間で利用可能になるとのこと。特許出願中。
■Datable https://datable.jp/
●提供会社:株式会社Datable
●サービス開始:2022年3月17日
●内容:2022年9月に2.25億円の資金調達をして話題になったサービス。既に200種類以上のサービスとの連携が可能とのこと。
■hubflow https://hubflow.jp/
●提供会社:株式会社ミラスタ
●サービス開始:2023年3月14日 (β版リリース)
●内容:β版がリリースされたばかりのSaaS事業者向けのiPaaS。「どこどこJP」と連携しているWebサイトに組織(法人や団体など)からアクセスがあるとSlackやChatworkに通知する、という連携を提供。今後の展開に注目。
■JOINT iPaaS for SaaS https://joint-data.com/
●提供会社:株式会社ストラテジット (HEROZ株式会社の連結子会社)
●サービス開始:2024年5月23日
●内容:SaaSベンダー向けのEmbedded iPaaSとして提供。一般企業向けには「SaaStainer by JOINT」も提供している。現在は提供を終了しているSaaSベンダー向けのiPaaS「Master Hub」の後継であり、Master Hubは国内ではいち早く事業者向け対応をし、実績も豊富。
【補足】
「サービス開始」と記している日付は利用規約の制定日やプレスリリースの日付としています。
【まとめ】
忖度なく入手可能な情報を目に映ったままを書き起こしてみました。繰り返しになりますが、正確な情報は各社にお問い合わせください。
上述のサービスだけでも「大企業向け」「中小企業向け」「事業者向け」という違いがあり特徴も様々なので、一概に「どのiPaaSが最も良いか」というのは難しいです。利用される企業の規模や目的に応じて柔軟に検討することが重要ではないかと思います。また、前述したETLやCDPとiPaaSの違いは一見すると判断がつかないため、利用者向けにはもっと情報が充実する必要がありそうです。最近ではITreviewやITトレンドといった比較サイトにiPaaSというカテゴリーができているようなので、これらのサイトに情報が集約されることにも期待をしたいです。
「iPaaS」というカテゴリー自体が日本ではまだ確立しきっていないこともあるので、今後は頻度が高く情報発信をしているサービスが必然的にシェアを獲得していくのではないかと思います。競合となる海外事業者に負けないためにも国内事業者にはがんばってほしいです。
次回は海外事業者についてまとめたいと思います。
追記:海外編を書きました。
SaaS/ノーコード時代に必須となるiPaaSを比較 (海外編)
https://qiita.com/jsys/items/350a989c5b4378db07d0