はじめに
最近、システム開発における「コアドメイン・支援ドメイン・汎用ドメイン」について学習しています!
ただ、書籍を読んで概念は理解できても、実際の業務をヒアリングして分類するとなると、なかなか難しいと感じました。
そこで今回は、ChatGPTに美容室5店舗を経営する社長になってもらい、私がシステム開発者として業務ヒアリングを行う練習をしてみました!
実際にヒアリングして、ドメインを分類し、最後にAIからフィードバックをもらうところまで実践しています。
今回の目的(ゴール)
- 業務ヒアリングを通して、企業の本当の強みを発見する
- コア・支援・汎用ドメインを分類できるようになる
- システム開発の目的と手段を区別する
- コアドメインの価値を言語化する
1. 今回のヒアリング設定
ChatGPTには、以下のプロンプトを渡しました。
こちらは企業秘密です
最初から競争優位性を教えてもらうのではなく、自分の質問によって発見する形式です。
企業設定
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会社名 | 株式会社Lino(架空) |
| 事業 | 美容室運営 |
| 店舗数 | 5店舗 |
| 従業員数 | 45名 |
| 創業 | 8年目 |
| 全店舗平均リピート率 | 約80% |
※本記事の企業情報・数値・業務エピソードは、すべてAIとのロールプレイで設定された架空のものです。
2. 業務ヒアリングを実施
質問① 他社に勝っている理由は何ですか?
社長からは次のような回答がありました。
一番の理由は、お客様のリピート率が高いことだと思っています。
うちの場合、リピート率は全店舗平均で約80%あります。
できるだけお客様に合った担当者が継続して対応するようにしています。
ここで私は、なぜ5店舗すべてで実現できているのか質問しました。
すると、顧客情報を共有する仕組みがあることがわかりました。
質問② なぜ5店舗すべてで実現できているのですか?
5店舗すべてでお客様の情報を細かく共有する仕組みを作っているからです。
髪型やカラーの履歴だけではなく、接客中の会話、お客様の好み、過去に不満を感じたことまで記録しています。
例えば、「美容室では静かに過ごしたい」というお客様の希望があれば、カルテに記録します。
次回、別の美容師が担当しても、その情報をもとに接客できます。
ここから、顧客カルテの運用が重要な業務だと考えました。
質問③ 現場では何が課題になっていますか?
社長によると、スタッフによってカルテの記録内容に差があるとのことでした。
例えば、
- スタッフA:施術内容、接客時の会話、お客様の希望まで記録
- スタッフB:「カット、カラー、仕上がり良好」のみ記録
このように記録内容が統一されていませんでした。
さらに、店舗によって来店客数が異なるため、記録する時間を確保できないこともわかりました。
3. 店舗ごとの業務状況
具体的な業務量を把握するため、各店舗の情報もヒアリングしました。
| 店舗 | スタッフ数 | 月間来店数 | 平均客単価 |
|---|---|---|---|
| 新宿店 | 13名 | 1,050人 | 9,500円 |
| 渋谷店 | 10名 | 780人 | 10,500円 |
| 池袋店 | 9名 | 690人 | 8,800円 |
| 中野店 | 7名 | 480人 | 8,200円 |
| 吉祥寺店 | 6名 | 390人 | 9,000円 |
新宿店では来店客数が多く、施術が終わるとすぐに次のお客様を担当するケースがあります。
そのため、カルテを入力する時間が確保できないことがありました。
一方、来店客数が比較的少ない店舗では、記録する時間を取りやすい状況でした。
ここで、単にスタッフの意識だけが問題なのではなく、店舗ごとの業務量も影響していると考えました。
4. 業務の負担をさらに深掘り
次に、スタッフがどのような業務で負担を感じているのか質問しました。
すると、予約調整や電話対応、情報の転記などが挙がりました。
予約調整の具体例
新宿店では、スタイリストが当日欠勤したことで、予約済みのお客様の対応を変更する必要がありました。
店長は、ほかのスタッフが対応できるか確認したうえで、お客様に連絡して予約を調整していました。
この調整だけで約40分かかったそうです。
情報の転記
現在、以下のように業務ごとに異なるツールを利用しています。
| 業務 | 管理方法 |
|---|---|
| 予約管理 | 美容室向け予約管理システム |
| 顧客管理 | 電子カルテ |
| 売上管理 | POSレジ・Excel |
| シフト管理 | Excel |
| 勤怠管理 | タイムカード |
| 社内連絡 | LINE |
例えば、POSレジの売上データを確認し、Excelの管理表へ転記する作業が発生していました。
コンテキストスイッチの問題
ヒアリングの中で、特に着目したのが「コンテキストスイッチ」です。
コンテキストスイッチとは、作業や意識の対象を切り替えることです。
美容師の場合、
カット・カラーの施術
↓
電話対応
↓
予約状況の確認
↓
アシスタントへの指示
↓
お客様の施術に戻る
というように、短時間で複数の業務を切り替える場面があります。
この切り替えが頻繁に発生することで、スタッフの負担につながっている可能性がありました。
5. 最初に考えた改善案
ここで私は、店舗独自のイベント管理機能を作ることを提案しました。
例えば、常連のお客様向けにヘアケア相談会を開催し、その参加履歴を管理する仕組みです。
しかし、社長からは次のような回答がありました。
イベントの開催がリピート率の向上につながるのであれば価値はあります。
ただ、イベントを開催すること自体が目的になるのは避けたいです。
この指摘を受け、イベント管理とリピート率の向上が直接結びついているわけではないと整理しました。
そこで、イベント管理の提案はいったん外し、顧客カルテの運用やスタッフの負担に着目することにしました。
6. 実際に行ったドメイン分類
ヒアリング後、業務をコア・支援・汎用に分類しました。
それぞれの意味は以下のとおりです。
| 分類 | 意味 |
|---|---|
| コアドメイン | 企業の競争優位性を生み出す重要な業務領域 |
| 支援ドメイン | コアドメインや事業運営を支える業務領域 |
| 汎用ドメイン | 他社でも共通して必要になる標準的な業務領域 |
最初に自分が考えた分類
| 業務 | 分類 | 理由 |
|---|---|---|
| 予約受付 | 汎用 | 既存の仕組みで問題ない |
| 自社予約 | 汎用 | 既存の仕組みで問題ない |
| 予約管理 | 汎用 | 既存の仕組みで問題ない |
| 顧客管理 | コア | 誰でも具体的にカルテを記録できる仕組みが必要 |
| 会計・売上 | 汎用 | 既存の仕組みで問題ない |
| 売上報告 | 汎用 | 既存の仕組みで問題ない |
| シフト管理 | 汎用 | 既存の仕組みで問題ない |
| 勤怠管理 | 汎用 | 既存の仕組みで問題ない |
| 社内連絡 | 汎用 | 既存の仕組みで問題ない |
| 店舗間の共有 | 汎用 | 既存の仕組みで問題ない |
この時点では、顧客管理をコアドメインと判断しました。
理由は、お客様の情報を具体的に記録することが、リピート率の高さにつながっていると考えたためです。
また、既存のシステムで対応できている業務は汎用に分類しました。
7. AIからのフィードバック
最後に、分類とドメインビジョンステートメントをAIに提出して評価してもらいました。
評価① コアドメインの方向性は合っていた
AIが設定していた本当の強みは、次のものでした。
担当美容師が変わっても、お客様の好みや過去の不満を引き継ぎ、そのお客様に合った接客を再現できること。
私が選んだ「顧客管理」という領域は、方向性としては合っていました。
ただし、AIからは次の指摘がありました。
「カルテを具体的に書けること」と「記録した情報を接客に活用すること」は別である。
つまり、情報を記録するだけでは競争優位性にはなりません。
記録した情報をスタッフが適切に活用し、担当者が変わっても接客品質を維持できることが強みだったのです。
評価② ドメイン分類の理由が不十分
もう一つ指摘されたのは、汎用ドメインに分類した理由です。
最初は「既存の仕組みで問題ないから」と考えていました。
しかし、ドメイン分類は、既存システムが使えるかどうかだけでは判断できません。
重要なのは、競争優位性・業務の複雑さ・変化のしやすさなどです。
例えば、シフト管理は一般的な機能としては汎用的ですが、今回の会社ではスタッフの配置が施術品質や現場の負担に影響しています。
そのため、今回の文脈では支援ドメインとして扱う方が適切だというフィードバックでした。
修正後の分類
| 業務 | 修正後の分類 | 理由 |
|---|---|---|
| 予約受付 | 汎用 | 一般的な予約受付は差別化しにくい |
| 自社予約 | 汎用 | 独自の予約戦略がなければ汎用 |
| 予約管理 | 支援 | スタッフ配置や施術時間の調整を支える |
| 顧客管理 | コア | 顧客情報を接客に活用し、品質を再現する |
| 会計・売上 | 汎用 | 標準的な会計処理 |
| 売上報告 | 支援 | 店舗改善の意思決定を支える |
| シフト管理 | 支援 | 人員配置がスタッフの負担と施術品質に影響 |
| 勤怠管理 | 汎用 | 標準的な労務管理 |
| 社内連絡 | 汎用 | 連絡手段自体は差別化にならない |
| 店舗間の共有 | 支援 | ノウハウ共有と店舗運営を支える |
※これは今回の架空企業に対する暫定的な分類です。実際には、さらに業務の詳細を確認する必要があります。
8. ドメインビジョンステートメント
最初に書いた文章
リピート率を上げるためにはカルテを構造的に誰でもわかりやすく具体的に書いてあるとのことでしたので、それ自体はコアだと思いました。
しかし、美容師の負担を考える上で、美容師の働きやすさについては具体的に深掘りしていかないとまだまだですが、今私が考える正解はここだと思いました。
この文章に対しては、課題への考察にはなっているものの、コアドメインが実現する価値を十分に表現できていないという評価でした。
改善後の文章
お客様の施術履歴・好み・過去の要望をスタッフ間で正確に引き継ぎ、担当者や店舗が変わっても、一人ひとりに合った接客を提供できる状態を実現する。
これにより、美容師の確認・記録負担を抑えながら、属人的になりやすい接客品質を店舗全体で維持し、継続的な来店につなげる。
改善後は、「誰に」「どのような価値を」「どのような強みによって提供するのか」が明確になっています。
9. 競争優位性を発見するための質問
今回のフィードバックでは、強みにたどり着くために、次のような質問をすることが有効だとわかりました。
| 質問 | 確認したいこと |
|---|---|
| リピート率80%は、他社と比べてどのくらい高いですか? | 競争優位性の確認 |
| リピートにつながった具体的な成功事例はありますか? | 成果を生んだ業務の発見 |
| 他社でもカルテは使っていますが、御社の違いは何ですか? | 独自性の発見 |
| 前回不満があったお客様に、次回どのような対応をしていますか? | 業務の判断ルール |
| カルテが記録されなかった場合、どんな問題が発生しますか? | 失敗条件と業務上の課題 |
| 特定のスタッフがいなくなっても、同じ接客はできますか? | 属人性と再現性 |
特に重要なのは、業務の名称だけを聞くのではなく、実際に何を判断し、どのように行動しているのかを確認することです。
10. 今回のまとめ
今回のヒアリングで整理できた内容は、以下のとおりです。
- コアドメインは、単に重要な業務という意味ではない
- 企業の競争優位性を生み出す部分に着目する
- 使用するシステムではなく、業務が生み出す価値で分類する
- 顧客情報を記録することと、実際に活用することは異なる
- システムによる効率化は目的ではなく、価値を実現するための手段である
- ヒアリングでは成功事例・失敗事例・判断ルールを具体的に聞く
おわりに(感想)
今回、初めてAIを相手に業務ヒアリングを実践してみましたが、想像以上に難しかったです!笑
特に難しかったのは、社長の話を聞いていると、すぐに「こういうシステムを作ったらいいんじゃないか」と考えてしまうことでした。
途中でイベント管理を提案しましたが、話しているうちに、イベントを開催すること自体が目的になっていると気づきました。
ここは自分にとって大きな学びでした。
また、最初は「美容師の負担を減らすこと」が最も重要なのではないかと考えていました。
もちろん負担軽減も大切ですが、それが企業の競争優位性とどうつながっているのかまで考える必要があると学びました。
今回の練習を通して、システム開発は、ただ便利な機能を作ることではなく、まず業務を理解して、何に価値があるのかを見極めることが大切だと感じました。
今後もAIを使って、いろいろな業界の業務ヒアリングに挑戦していこうと思います!✨
