蓄電池併設FIP転シミュレーターをOSSで公開した
——JEPX価格×蓄電池LP最適化×出力制御回避×P-IRR算出まで
FIP転を検討している人が直面する問題
FIT期間が満了、あるいはFIP移行を検討している
太陽光発電所オーナー・EPC事業者が
まず突き当たる問いはこれだ。
「蓄電池を入れてFIP転すると、本当に収益は上がるのか。
上がるとして、何kWh入れれば最適なのか。」
この問いに答えられるツールが市場にほぼ存在しない。
エネがえるのような商用SaaSは存在するが、
ソースは非公開で料金もかかる。
既存のPV需給シミュレーター(住宅用・産業用)を
作ってきた延長として、FIP転+蓄電池の事業性を
ブラウザから無料で試算できるOSSを公開した。
FIP転と蓄電池の組み合わせが注目される理由
2026年度から出力制御の優先順位がFIT>FIPに変更される見通しだ。
つまりFIT発電所は先に制御を食らいやすくなる。
FIP移行+蓄電池の組み合わせが有効な理由は3つある。
① アービトラージ収益
JEPXスポット価格は30分ごとに変動する。
昼間(PV発電ピーク時)は価格が低く、
夕方〜夜間は高い。
蓄電池で昼間に充電し夕方に放電することで
価格差(アービトラージ)を稼げる。
② 出力制御の回避
出力制御がかかる時間帯(主に春秋の昼間)に
PV発電を蓄電池に充電して後で売電できる。
蓄電池なしだと捨てるしかなかった電力が収益に変わる。
③ インバランスリスクの軽減
FIP発電所は計画値同時同量が義務だ。
天候変動で計画と実績がずれるとインバランスペナルティが発生する。
蓄電池があれば計画値との差分を吸収できる。
シミュレーターの機能
2つの売電モード
モード①:市場売電(JEPX+FIPプレミアム)
- JEPXスポット価格×売電量がベース
- FIPプレミアム(基準価格−参照価格)が上乗せ
- PuLP/CBC線形計画で17,520コマの充放電を最適化
- 蓄電池のアービトラージ価値が最大化される
モード②:アグリゲーター固定価格買取
- アグリゲーターが提示する固定単価×売電量
- JEPX変動・プレミアム・インバランスは
アグリゲーター側が引き受ける - 事業計画が立てやすく、銀行融資も通りやすい
モード①の結果が「理論上の収益上限」、
モード②が「確実に得られる下限」として機能する。
アグリゲーターから提示された固定単価が
妥当かどうかの判断材料になる。
2つの事業ケース
ケースA:新規FIP発電所+蓄電池
FIP認定から始める新規案件を想定。
PV規模・蓄電池容量・CAPEX一式で試算。
ケースB:既存FIT発電所からのFIP転
FIT期間中の固定収入フェーズと、
FIP転後の変動収入フェーズを2フェーズで計算する。
FIT満了年度、蓄電池導入タイミングをパラメータ化。
JEPXスポット価格データ
エリア別(東京・関西・九州等)×年度別の
対応エリア: 北海道・東北・東京・中部・北陸・
関西・中国・四国・九州・沖縄
対応年度: 2019〜2023年度
ウクライナ危機の影響で価格が跳ね上がった
2022年度を除外して試算する、といった使い方もできる。
複数年度の平均値を選択することも可能だ。
LP最適化の定式化
# 目的関数: JEPX売電収益 + プレミアム + 非化石証書 − BGコスト の最大化
for t in range(T):
revenue += (
jepx_price[t] * export[t] # 市場売電
+ premium * (pv[t] - curtailed[t]) # FIPプレミアム
+ nonfossil_price * export[t] # 非化石証書
- bg_fee * export[t] # BG手数料
)
# 制約条件
# SOC: SOC_min ≤ SOC(t) ≤ capacity × (1 − degradation_rate × year)
# 充放電レート上限
# エネルギーバランス: PV = 充電 + 売電 + 出力制御
# 出力制御回避: 制御対象コマに蓄電池充電を優先
pv-sim-bizのLP最適化エンジンを流用し、
目的関数を「電気代最小化」から「FIP収益最大化」に
差し替えた構造だ。
出力制御モデル
月×時間帯の制御確率テーブルを内蔵している。
ユーザーが「年間制御率 ○%」を入力すると
テーブルにスケーリングして適用する。
制御対象コマでは蓄電池への充電を優先し、
「本来捨てるはずだった発電量」を後で売電できる分を計算する。
蓄電池劣化モデル
FIP転は20年スパンの事業だ。
蓄電池の容量は年率2%(デフォルト)で線形劣化する設定にした。
20年後には約67%の容量が残る計算になる。
各年のキャッシュフロー計算に劣化後の有効容量を反映し、
年次P-IRRが現実的な値になるようにしている。
蓄電池最適容量探索
pv-sim-bizで実装した2段階アプローチをそのまま移植した。
段階1(約15秒): 蓄電池容量をLP決定変数に含めて一体最適化
→ 最適容量とP-IRRを即座に提示
段階2(約2〜3分): 最適容量前後をグリッドサーチ
→ P-IRRカーブ・投資額・回収年数を4象限グラフで可視化
「100kW発電所に何kWhの蓄電池が最適か」という問いに
数十秒で答えが出る。
これまでのシリーズとの関係
このシミュレーターは以下の延長線上にある。
| シミュレーター | 対象 |
|---|---|
| pv-sim-gh | 住宅用PV+蓄電池の需給・経済性 |
| pv-sim-ge | 両面パネル発電量計算 |
| pv-sim-biz | 産業用自家消費・マイクログリッドP-IRR |
| pv-sim-fip | FIP転+蓄電池の事業性(本記事) |
発電計算エンジン(JIS C 8907 × NEDO METPV-20 × pvlib)と
蓄電池LP最適化(PuLP/CBC)はすべて共通の資産だ。
FIP転向けに差し替えたのは主に経済性計算の部分で、
「電気代削減」から「JEPX売電収益最大化」に目的関数を変えた。
使ってみてわかったこと
実際に試算してみると、アービトラージ収益単体では
回収年数が長くなるケースが多い。
蓄電池の価値が最も出るのは
出力制御率が高いエリア(九州・四国・中国等) で、
「制御回避」と「アービトラージ」が重なるシナリオだ。
逆に東京・関西エリアのように
出力制御がほぼない地域では、
アービトラージ単体での事業性はシビアになる。
エリアと出力制御率のパラメータを変えながら
感度分析できるのがこのシミュレーターの使い方だ。
まとめ
- FIP転を検討する発電所オーナー・EPCが
ブラウザから無料で試算できるOSSシミュレーター - JEPXスポット価格(エリア別・年度別)内蔵
- 市場売電(JEPX+プレミアム)と
アグリゲーター固定買取の2モード比較 - 出力制御回避・蓄電池劣化・2フェーズキャッシュフロー対応
- 蓄電池最適容量をP-IRR最大化で自動算出