前回の記事では、LLM Wikiという考え方に基づき、自分の価値観や好き嫌いをまとめた「自分の取説」を作った。LLM Wikiは出来合いのソフトウェアではなくあくまで考え方ということで、AIに逐一指示してやっとこさ欲しいアウトプットを得ることができた。
ここで、LLM Wikiについて調べているとき、arscontextaというツールも一緒に紹介されることが多かった。似て非なるものらしいが、一体どんな違いがあるのか。LLM Wikiの時に使ったものと同じデータで再び自分の取説を作り、どんな結果が出てくるか実験してみることにした。
arscontextaとは
arscontextaは、LLM Wikiという考え方を実際に使えるツールにまで落とし込んだ、Claude用のプラグインだ。コアにあるのは「書いたノートは発見できる必要がある」という考え方。単純に書き溜めるだけだと、後からそのノートを見つけ出すのが難しくなってしまう、その問題の解決を目指している。
中心となる処理プロセスは総称6Rと呼ばれ、Record(記録)、Reduce(知見を抽出)、Reflect(つながりを見つける)、Reweave(情報更新)、Verify(設計やリンク構造の診断)、Rethink(システムの前提を考え直す)を意味する。
LLM Wikiとの違いを一言でいうなら、LLM Wikiは「多くのことができるわけではないけど、指示したら低コストでちゃんと動いてくれる人」で、arscontextaは「色々なスキルを持っているけれど、フルスロットルで動きがちなので暴走・息切れしやすいピーキーな人」というイメージが近い。もう少し具体的に比較すると、こんな感じになる。
| 観点 | llm wiki | arscontexta |
|---|---|---|
| 更新の仕方 | アドホックに更新する | 処理そのものが定型化されている1 |
| Wikiの作り方 | その都度調整する | 作り方自体が固定されていて、記述内容の整合性確認もできる。崩れるリスクが少ない1 |
| 設計のベース | 状況に合わせてベストプラクティスをその場で作る | ←に加えて、認知科学などの理論的研究249本の結果をベースに設計されている |
ちなみにarscontextaは割と既存の理論に基づいている部分が面白い。例えば、先述した6Rはかの有名なコーネル式ノート術の5Rがベースになっているそう。また、設計のベースとしている249件の研究成果は、ツェッテルカステンやPARA、GTD、ネットワーク理論などなど、生産性に関心のある人なら一度は聞いたことのある単語が盛り盛りである。名前からしてアルス・コンビナトリアに関連してるんじゃないかと思ったけど、本当だったのか。ちょっと感銘。
方針
前回に引き続き、2026年7〜8月にObsidianのデイリーノートに書き溜めたメモを分析してもらうことにした。メモはツイッターのような感覚で、短文の箇条書き+タグの形式でまとめている。このメモから共通するテーマを抽出し、まとめてもらうのが今回のテーマだ。
arscontextaのセットアップは対話形式で進む。ResearchやExperimentalなど複数のモードが用意されているが、今回はデイリーノートの分析なのでPersonal assistantを選んだ。管理はGitHubのブランチ上で行い、mainのデータには一切触らないようにしている。
結果
生成されたフォルダの構成は以下の通り。かなり複雑。
ArsContexta
├── self/ # ArsContextaの自己紹介
│ ├── identity.md # 人格・価値観
│ ├── methodology.md # 作業のやり方
│ └── goals.md # 現在の目標
│
├── records/ # 実際の分析結果
│ ├── index.md # 全体のインデックス
│ ├── やりたいこと.md # 例えばここには、Wish タグのついたメモが貯まる
│ ├── 快と痛み.md # Positive/Painタグ
│ ├── キャリアの迷い.md #Careerタグのメモ
│ ├── ミス.md #Mistakeタグのメモ
│ ├── 美味しい記録.md #Cookingタグのメモ
│ ├── 体調.md #Healthタグのメモ
│ └── ... # 71件の原子的な記録
│
├── ops/ # 知識基盤の運用・管理
│ ├── config.yaml # granularity・processingなどの動作設定
│ ├── derivation.md # なぜこの構成になったかの説明
│ ├── reminders.md # 時限つきの覚え書きや次にやることのログ
│ ├── tasks.md
│ ├── queue/ # デイリーノートを取り込んだ`queue.json`が入る
│ ├── sessions/ # セッション記録
│ ├── observations/ # 処理中に気づいた不具合や違和感
│ ├── methodology/ # システム自身の設計判断メモ
│ ├── health/ # ヘルスチェックレポート
│ └── scripts/ # リンク切れや孤立ノート検出を行うシェルスクリプト一式
│
└── templates/ # 各ノートのテンプレート
├── record-note.md
├── theme.md
├── theme-consolidated.md
├── source-capture.md
└── observation.md
recordsのテーマノートには、特定の内容に対応したメモを入れるようにしている。メモごとにタグをつけていたので、最初はこのタグベースでメモの収集を行っていたが、のちにarscontextaは「タグは付いていないが類似した内容」もテーマノートに付け加えるようになった。例えば以下のような感じに。

キャリア関連でリンクをメモしていたら、内容面で関連性を見出し「こんな記事を読んでました」と追記してくれる
手の込んだフォルダとノートを作り、ルールを全部明示してくれる。
便利ではある。でもこれがObsidianのVault上に読書メモと一緒に入ってくると、少し整理が大変かも。
LLM Wikiとの比較
実際に両方を使ってみて、特に違いを感じたのは3つある。
1. 複数のテーマをまたいだ気づきを拾ってくれる
まず、arscontextaは複数のテーマにまたがる気づきを拾うのが上手い。例えば、「キャリアについて考えているときにアイデアが湧く」など、別々の場所に書かれていたメモを関連づけて、「この2つには関係があるのではないか」と記録してくれる。
これは、単純にテーマごとにノートをまとめるだけでは見つけにくいし、かといって人間がいちいち関連性を考察するのも時間がかかる。そんな関連性の分析をAIがやってくれるのは便利だ。
2. 抜け漏れが少ない
次に、拾ってくれる情報量が多い。LLM Wikiで作った取説では見逃されていた事項も、arscontextaではしっかり反映されていた。特に、LLM Wikiでは、類似したメモがあってもタグが付いていないとメモを抽出しなかったり、タグを付けていてもテーマごとのノートに反映されなかったりしたが、その点をarscontextaはばっちり解決してくれた。

これは、全体像をざっくり把握する傾向のあるLLM Wikiと比べて、arscontextaが1出来事1ノートを作るほどに一つひとつのメモや記述を精査できるポテンシャルを持っているからと言えよう。
3. とにかく手が込んでいる
そして、とにかく丁寧だ。
先ほど紹介した複雑なフォルダ構成も、単に「こうしたほうが便利そうだから」というノリで生成しているわけではない。認知科学などの理論に基づいて設計を提案してくれる。
しかも、そんなフォルダの設計でも人間が考え込む必要はない。フォルダの作成、スクリプトの記述などのセットアップは対話形式で進む。そのうえ、ノートの書き方だけでなく、どのようなトーン(淡々と事実を記述するか、優しく責めない口調で書くか)で記述するかまで指定できる。
さらに、一通り処理を終えると、「次はこのskillを使って、こういう作業をするといい」と、次に何をすればいいのかまで教えてくれる。
何から何まで至れり尽くせりのツールである。
arscontextaの欠点:「頑張り過ぎ」
一方、arscontextaを使っていて一番困ったのが**「ちゃんとやりすぎる」こと**だった。
最初は、「とりあえず好きなやり方でやっていいよ」と指示してみたら、1つの出来事を1つのノートにしていた。すると、当然ながらノートがものすごい勢いで増えていく。トークンの消費も激しく、処理が中止することもしばしば。
これはさすがにまずいと思い、途中で「6つのテーマを定めて、それに応じて各日付のノートを整理する」という方針へ変更。これは自分から指示することになった。
つまり、arscontextaは「何でもいいから適当にまとめて」と言うと、ユーザーの意図にも沿うという意味で完璧な答えを出してくれるわけではない。むしろ、与えられた設計思想に忠実に、かなり真面目に仕事をする。持てる機能の全てを使って全力で処理してしまうからこそ、ユーザーの必要以上のことまでやってしまうらしい。
もう一つの問題は、セッションがすぐ切れてしまうことだった。1出来事1ノート方式で処理していたときは特にこれが顕著だったし、その後も凝った機能を何回か実行するとすぐに1日・1週間のトークン上限に達する。
今回の経験からすると、arscontextaを使って知識基盤を構築するには、最初から全部を処理させるのではなく、まずは小規模のファイルから始めてみること、そこでもし違和感を覚えたら、扱うファイルを増やす前にその違和感を対処することが重要なのだと感じた。
結局、どちらを使うのか
では、LLM Wikiとarscontextaのどちらを使うのか。
今回一通り試してみた結果、私は役割を分けることにした。
単純なタグベースのメモ収集、テーマノートへの追記、傾向分析など、日常的に繰り返す処理については、AIエージェント+スクリプトに任せる。この部分では、arscontextaは使わない。
一方で、
- メモ同士にどんな関連性があるか調べたい
- ノート同士のリンク構造を見直したい
- 孤立しているノートがないか確認したい
- 知識基盤そのものの健全性をチェックしたい
といった、知識基盤を一段深く分析したいときだけarscontextaを呼び出す。
システムの全てを作り込むわけでも、arscontextaに丸投げもしない、このくらいの距離感が、今の自分にはちょうどよさそうだ。
まとめ
今回の記事ではarscontextaで自分の取説を作り、LLM wikiをベースに独自で作ったシステムと比べてみた。arscontextaはプラグインとしては非常に充実しているものの、必ずしもどんな問題も魔法のように解決してくれるというわけではない。LLM wikiの考え方を実際のシステムに落とし込んで運用している人は少なくないが、その背景にはこのように出来合いのツールが(どんなに理論的な根拠に基づくものであったとしても)完璧な働きをしてくれるとは限らない、というのもあるのだろうと感じた。
どんな実装方法を取るかは、結局のところ各々のシステムや設計に委ねられているのが現状なのだろう。今後の発展に期待したい。
