前提
僕はエンジニアではなく、ロボティクスSaaS会社のCOOとして契約書を毎月何本も読んでいる側の人間だ。社内に法務担当はいない。
その立場で、自社のプロダクト開発チームと一緒に「海外からでも日本語契約書を1人で読めるAIツール」を作った(Keiyaku AI)。
この記事は、AIに契約書レビューを任せたい人が、実装レベルで踏んではいけない3つの罠についてのメモだ。ビジネスサイドの目線から、技術判断が必要になるポイントを書く。
1. 「全文をそのままLLMに投げる」は本番運用で壊れる
契約書は5ページならいいが、15ページを超えると普通にある。PDFをそのままテキスト化して投げると、
- トークン上限で後半が切れる
- コンテキスト中央の条項が無視される(Lost in the Middle)
- 「第12条」などの参照が解釈できない
対策として、条項単位で構造化して分割し、条項ごとにプロンプトを回すのが実運用ではまともに動く。Article, Clause, Sub-clause の3階層で抽出してから、条項ごとにリスク分類器を通す。
PDF → OCR → 条項抽出(正規表現+LLM) → 条項ごとに評価 → 集約
全文投げは「デモでは動くが本番で壊れる」典型例。
2. 「AIが見落とす条項」を知っておく
統計的に、以下の条項は見落とされやすい。
- 準拠法・管轄条項(末尾にあり、テンプレ化されているため重要度が低く見える)
- 契約終了後も残る条項(秘密保持、競業避止の期間)
- 自動更新と解除通知期間(日数指定が相手有利になっていることが多い)
対策は、「一般的な条項の抽出」と別に、この3カテゴリを必ず独立に探索させるフォールバック層を作ること。プロンプト1つで全部見るな、分割して確実に見る。
3. 「最終判断はユーザーに返す」をUIレベルで徹底する
AIに判断させると、ユーザーは必ず鵜呑みにする。出力UIを
- 「✅ 問題なし」
- 「⚠️ 注意」
- 「❌ 危険」
の3段階だけにすると、相手との関係性や業界慣行を無視した判定が一人歩きする。
実運用に耐えるUIは、AIは「着目すべき箇所」を出す、判断は人間に返す型になる。条項をハイライトして「ここを見てください」「この期間は交渉余地があります」で止める。
まとめ
AI契約書レビューの実装で、僕らが自社プロダクトを作る過程で学んだのは以下の3つ:
- 条項単位に分割してLLMに渡す
- 見落としやすい条項カテゴリを独立に探索する
- 判断はAIではなくユーザーに返すUIにする
同じようなAIレビュー機能を社内ツールに組み込みたい人の参考になれば。実際に動いているプロダクトは Keiyaku AI で無料枠で試せる。
書いた人:Julian Loh / Cocon Robotics COO
フィードバック歓迎。j_loh@cocon-inc.co.jp までどうぞ。