はじめに
この記事では量子コンピューティングに関連するサービスをクラウド上に展開しているものを紹介しようと思います。
ここで一点お断りですが、単一のハードウェアを使うための手段としてクラウド提供しているもの(IBM QuantumやD-Wave Leap等々)まで挙げるには余白が狭すぎる、というのと、量子ハードウェアの記事と重複してしまうので、複数の量子系サービスを統合的に利用できるようなプラットフォームっぽいものをこの記事では取り上げていこうと思います。
そうすると、結局
- AWS
- Azure
- GCP
の三大クラウドのあたりに収束しますので、今回はそれらのクラウドサービスにおける量子コンピューティングプラットフォームについて現在の状況をまとめていきたいと思います。
クラウドで提供されると何が嬉しいか?注意することは?
クラウド上で量子コンピューティングプラットフォームが提供されると嬉しいことは、
- ハードウェア提供者と契約を個別に取り交わすことなく開発者が慣れ親しんだクラウドサービス上で利用ができる
- 課金管理や権限管理がクラウドサービス内で完結する
- 複数の量子ハードウェアを利用することができるため比較検証ができる
- クラウドサービス上にある他のサービスとの連携がスムーズにできる
といった点だと思います。
逆に注意するべき点としては、
- 直接ハードウェア提供者と契約をする場合よりも課金体系としてコストが割高になることがある
- ハードウェア提供者がリリースした最新の機能やデバイスを使えるようになるまでリードタイムがある
という点が挙げられると思います。
とはいえ何よりも、未来のコンピュータと考えられていた量子コンピュータが気軽に使えるという点だけでも価値があるといえると思っています。
三大クラウドの状況はいかに?
Amazon Braket
大手クラウドサービス系としては一番最初に量子コンピューティングプラットフォームをリリースしたのがAWSのAmazon Braketで、2020年8月から一般提供が開始されました。
フルマネージドで利用ができるため、AWSアカウントを作成して、Amazon Braketを有効化するだけで利用を開始することができます。
利用することができる量子ハードウェアは
- 量子アニーリング型マシン
- D-Wave
- 量子ゲート型マシン
- IonQ
- Rigetti
ですが、今後QuEra(冷却原子方式)、Oxford Quantum Circuits(超伝導方式)も使えるようになるとの発表が2021年12月にありました。
接続ができる実機としては上記の通りですが、その他にAWS独自の高性能な量子ゲート型シミュレータもマネージドサービスとして提供されております。
また、AWSからはAmazon Braket専用のSDKが提供されており、設計した回路をそのままに接続先ハードウェアを変えるようなこともできます。
そのため、計算実行に対する課金額が高い実機に接続する前にシミュレータで挙動を確認してから実機につないで計算を実行するような使い方も簡単にできます。
Amazon Braketの中にはJupyter Notebookも備えられており、さらにその中にチュートリアルも整備されています。
2021年12月にはAmazon Braket Hybrid Jobsという、古典コンピュータと量子コンピュータの両方を使いながら実行する変分アルゴリズム向けのサービスも発表されておりますので、今後も新機能の追加やアップデートに大きな期待がかかります。
AWSのではAmazon Braketのリリースに合わせてでしょうか、量子コンピューティングの研究者を採用したようで、そういった方々も積極的に情報発信
Azure Quantum
2021年2月にパブリックプレビュー版としてリリースされたAzureQuantumでは、
- イジング最適化ソルバ(≠量子コンピュータ)
- Microsoft QIO
- 1QBit 1Qloud
- 東芝 SBM
- 量子ゲート型マシン
- Honeywell
- IonQ
- QCI
をサポートしていると公式ページに記載があります
このうち、東芝SBMはプライベートプレビュー状態のようで一般公開はされていないようです。
また、QCIについてはQCI自体の企業活動についての情報発信も更新が止まっており、当然そんな状況なのでAzure Quantumでも利用ができる状態まで至っていない様子です。
その他、注意すべき点として、
- 1QBit 1QloudとIonQについてはAzureのBillingRegionをUSにしておかないと利用することができない
- Honeywellの利用料金が月額定額での支払なのですが、Standardプランで$125,000/月、Premiumプランで$175,000/月となっている
といった点が挙げられます。
一方、ドキュメントやチュートリアルは非常に充実しており、チュートリアルについてはAzure Quantum内のJupyter環境から実行することができます。
量子ゲート型の開発についてはMicrosoft QDKによる開発ももちろん可能ですが、QiskitやCirqを使うこともできます。
プレビュー版ということで対応ハードウェアの面では成熟していない感じもしますが、GA版リリースに向けて改善されていくのではないかと考えられます。
Google Cloud
実はGoogle Cloudには量子コンピューティングプラットフォーム的なものがまだ存在しておらず、筆者の認識が正しければ2021年6月に発表された通りIonQがMarketplace経由で利用できるだけです。
しかし、GoogleはCirqの開発も手掛けているGoogle Quantum AIという枠組みの中でQuantum Computing Serviceというプラットフォームを準備しており、そのうち準備が整った段階で公開がされるのではと見られますので、今後の動向には注目です。
Quantum Computing Serviceでは、おそらくですがCirqが対応している
- IonQ
- Alpine Quantum Technologies(イオントラップ方式)
- Pasqal(冷却原子方式)
は使えることになるのでは?と個人的に予想しています。
最後に
今のところ最も量子コンピューティングのプラットフォームサービスに力が入っているのはAWSじゃないかなと思いますが、AzureやGCPの追い上げもきっとあるだろうと思いますので、この三大クラウドの競争は量子コンピュータの観点でも引き続き目が離せないと思います。
さて、このAdvent Calendarでは2日目~4日目まで、「量子コンピュータ市場の主要プレーヤーはどんな企業・サービスがあるのか?」という観点で自分なりにまとめてみました。
市場全体としてはかなり盛り上がりつつある領域ですが、実際のところ実用段階にはまだまだ達していないので過度な期待は禁物です。
とはいえ次々と新しい取り組みやプロダクトがこれからも世に放たれていくことが予測されます。
これまで筆者が挙げたものの他にも注目企業や注目サービスがあれば是非コメント等で教えていただけると大変嬉しいです!
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