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OpenAMP on ZYBO (Zynq) 1回目: とりあえずサンプルを動かす

Last updated at Posted at 2018-03-01

本記事について

Linux + ベアメタル(or FreeRTOS)のマルチ環境を、OpenAMPを使用してZYBOで実現させます。

  • CPU0: Linux
  • CPU1: ベアメタル (or FreeRTOS)

基本的には、ug1186-zynq-openamp-gsg_2018.pdfの内容と同じです。ただし、このドキュメントはZCU102ボードをターゲットにしていることと、あらかじめBSPが用意されている前提で書かれています。本記事では、ZYBOを対象に、作業内容が一から(ハードウェア作成から)分かるように記載しました。

まずは、サンプルプログラムである、echo_testを動かせるようにします。

環境

  • 開発用PC: Windows 10 64-bit
    • Vivado 2017.4 WebPACKライセンス
    • Xilinx SDK 2017.4
  • 開発用PC (Linux): Ubuntu 16.04 本家 (日本語版じゃない) (on VirtualBox 5.2.4)
    • PetaLinux 2017.4
  • ターゲットボード: ZYBO (Z7-20)

手順は一から記載します。ただし、VivadoとPetaLinuxの基本的な説明は省略します。必要に応じて、こちらの記事を参照してください。

事前知識

まず最初に事前知識に説明です。具体的なやり方を先に知りたい方は、ここに飛んでください。

マルチプロセッサのコンフィギュレーション (AMP/SMP)

ZYBOにはCortex-A9のコアが2つ搭載されています(CPU0, CPU1)。
なお、本記事内でCPU, コア, プロセッサといった単語は全て同じ意味とします(本来は区別すべきですが、元ドキュメントや図に合わせました)。

AMP (ベアメタル/FreeRTOS)

XSDKで、ベアメタル(OS無し)またはFreeRTOSとしてプロジェクトを作成した場合は、シングルコア動作となります。CPU0とCPU1のどちらで動かすかはプロジェクト作成時に指定できます。また、XSDK上で2つプロジェクトを作り、FSBLやローダの設定をちゃんとすることで、CPU0, CPU1でそれぞれ別々のファームウェアを動かすことが出来ます。この場合は、AMP(Asymmetrical multi processing)動作となり、各ファームウェアは決められたCPUでのみ動作します。このとき、L1キャッシュのコヒーレンシも保たれません。ちなみに、L2キャッシュがどうなるかは不明。

01.jpg

SMP (Linux)

PetaLinuxで、通常通りにLinuxイメージを作成した場合は、SMP(Symmetrical multi processing)動作となります。通常のPCと同じ動きになります。Linux上の各プロセスは、CPUの空き状況や優先度に応じて、CPU0,CPU1に動的にスケジューリングされます。同じプロセスでも、ある時はCPU0で動き、ある時はCPU1で動くというようになります。このとき、動作するCPUが変わってもL1キャッシュのコヒーレンシは保たれます。

AMP (Linuxとベアメタル(or FreeRTOS))

開発するプロダクトの性質に応じて、Linuxとベアメタルを動かしたいというケースが出てきます。例えば、以下のような処理が必要な場合が考えられます。

  • Linux: USBやネットワーク周りの処理。UI関係の処理
  • ベアメタル: リアルタイム性の高いデバイス制御

このとき、例えば、CPU0でLinuxを動かし、CPU1でベアメタルを動かしたい、となります。また通常は、各CPUで動作する処理は協調して動く必要があります。そのため、CPU間通信機能も必要になります。
これらを実現するために、OpenAMP を使用します。

02.jpg

その他

巷には、Linux上の一つのプロセスとしてベアメタルプログラムやRTOSタスクを走らせたり、逆にRTOS上でLinuxを動かすといった方法もあります。

また、ハイパーバイザを使うという方法もあるそうです。

OpenAMP

OpenAMPとは、The Multicore Associationによって管理されている、マルチプロセッサ用のオープンなフレームワークです。
OpenAMPによって、以下のことが可能になります(他にも色々あると思うが、今回使うものだけ)。

  • Linuxからベアメタル(or FreeRTOS)用ファームウェア(elfバイナリ)のロードを行う
  • 通信機能の提供

重要な点として、OpenAMPを使うときは、ベースとなるOSはLinuxになります。まずCPU0(ホストプロセッサ)でLinuxを起動して、CPU1(リモートプロセッサ)にベアメタル側のファームウェア(リモートアプリケーション)をロードします。

OpenAMP コンポーネント

OpenAMPは下記3つのコンポーネントを持ちます。

  • virtIO
    • 共有メモリの管理
  • remoteproc
    • リモートプロセッサのライフサイクル管理。ファームウェアをロードしたりする
  • RPMsg
    • 異なるコアで動作するプロセス間の通信機能(IPC: Inter-Process Communication)

Libmetalライブラリ

LibmetalはOpenAMPによって提供されるライブラリです。LibmetalはLinux, FreeRTOS, ベアメタル環境で使用可能です。
Libmetalライブラリが、デバイスアクセス、割り込み、メモリアクセスといったハードウェアを抽象化したAPIを提供します。
OpenAMPの各コンポーネントがLibmetalライブラリを使用します。

05_2.jpg

プロセッサ間のメッセージ通信の仕組み

03.jpg

基本的なプロセッサ間通信の流れとしては、以下のような感じです。

  1. 送信側プロセッサが、共有メモリ(Shared Memory)にデータを書く
  2. 送信側プロセッサが、プロセッサ間割り込み(IPI: Inter Processor Interrupt)を発生させ、受信側プロセッサに通知する

OpenAMPを使用したAMP環境の構築

ここから、実際にLinux+ベアメタルのAMP環境を作っていきます。作業の流れは以下のようになります。

  1. ハードウェアの作成 (Vivado)
    • 特別なことは不要
  2. ベアメタル (or FreeRTOS) 用ファームウェアの作成 (XSDK)
  3. Linuxイメージの作成 (PetaLinux)
    • OpenAMPを有効にする
    • 2で作成したファームウェアをインストールする
    • デバイスツリーの編集

ハードウェアの用意 (on Vivado)

まずVivadoで、PSだけを配置したハードウェアを作ります。デザインの名前はデフォルトのままで、design_1にします。また、必要に応じてEthernet 0の設定を修正しておいてください。こちらを参照

04.jpg

hdfをエクスポートして(ビットストリーム込みで)、Ubuntu側にコピーしておきます。コピー先は~/work/peta/design_1_wrapper.hdfとします。
また、次の作業のために、メニューバー -> File -> Launch SDKで、XSDKを起動します。

ベアメタルファームウェアの作成 (on XSDK)

echo_test用サンプルプロジェクトの作成

メニューバー -> File -> New -> Application Projectで、新しいプロジェクトを作成します。重要な設定は、CPU1(ps7_cortexa9_1)で動作させる点です。

  • Project Name: my_echo_test (何でもいい)
  • OS Platform: standalone
  • Hardware Platform: design_1_wrapper_hw_platform_0 (Vivadoで作成したもの)
  • Processor: ps7_cortexa9_1 ⇐ 重要
  • Language: C
  • Templates: OpenAMP echo-test

bspをカスタマイズする

Project Explorer -> my_echo_test_bspで右クリック -> Board Support Package Settingsをクリック。

05.jpg
06.jpg

ps7_cortexa9_1を選択して、extra_compiler_flagsのValueに -DUSE_AMP=1を追加します。

また、openampを選択して、WITH_PROXYをfalseに設定します。これは、Remote Procedure Call (RPC)機能を使う時にはtrueにする必要があります。今回は使用しないので、falseにします。(が、別にデフォルトのままでも大丈夫なようです。コードサイズが増えるだけっぽい)

ファームウェアの作成

ソースコードは何も変えずに、ビルドします。(デフォルトでオートビルドになっている)

作成されたmy_echo_test.elfをUbuntu側にコピーしておきます。

Linuxイメージを作る (on PetaLinux in Ubuntu)

PetaLinuxプロジェクトを作る

下記コマンドで、PjOpenAmpというプロジェクトを作成します。そして、先ほどVivadoで作成したハードウェアで設定をします。コンフィグ設定画面では何もせずにExitします。

コマンド
cd ~/work/peta
petalinux-create --type project --template zynq --name PjOpenAmp
cd PjOpenAmp
petalinux-config --get-hw-description=~/work/peta

Kernelコンフィグ

Kernelのコンフィギュレーションをします。ただ、これはデフォルト設定でOKなはずなので、確認だけ行います。

コマンド
petalinux-config -c kernel

下記設定が有効になっていることを確認してください。

  • Enable loadable module supportが、[*]
  • Device Drivers > Generic Driver Options > Userspace firmware loading supportが、-*-
  • Device Drivers > Remoteproc drivers > Support ZYNQ remoteprocが、<M>

07.jpg

rootfsコンフィグ

rootfsのコンフィギュレーションをします。

コマンド
petalinux-config -c rootfs

下記のように設定してください。libmetalとOpenAMPを有効にします。また、テスト用にテストアプリをインストールします(これはなくてもOK)。もしかしたら、packagegroup-petalinux-openampだけで大丈夫かもしれません。

  • Filesystem Packages > misc > sysfsutils > libsysfsを、[*]
  • Filesystem Packages > libs > libmetal > libmetalを、[*]
  • Filesystem Packages > misc > packagegroup-petalinux-openamp > packagegroup-petalinux-openampを、[*]
  • Filesystem Packages > misc > openamp-fw-echo-testd > openamp-fw-echo-testdを、[*]
  • Filesystem Packages > misc > openamp-fw-mat-muld > openamp-fw-mat-muldを、[*]
  • Filesystem Packages > misc > openamp-fw-rpc-demo > openamp-fw-rpc-demoを、[*]

08.jpg

リモートアプリケーション(ベアメタルファームウェア)を含める

先ほどXSDKで作成したベアメタルファームウェアである、my_echo_test.elfを取り込みます。
まず、MyRemoteAppEchoTestという名前の、ファイル取り込みだけをするアプリケーションを作成します。そこに、バイナリファイルをコピーします。最後に、レシピ(MyRemoteAppEchoTest.bb)を編集します。

これによって、my_echo_test.elfが/lib/firmware/my_echo_test.elfにインストールされます。

コマンド
petalinux-create -t apps --template install -n MyRemoteAppEchoTest --enable
cp ~/work/peta/my_echo_test.elf project-spec/meta-user/recipes-apps/MyRemoteAppEchoTest/files/.
code project-spec/meta-user/recipes-apps/MyRemoteAppEchoTest/MyRemoteAppEchoTest.bb &
MyRemoteAppEchoTest.bb
SUMMARY = "Simple MyRemoteAppEchoTest application"
SECTION = "PETALINUX/apps"
LICENSE = "MIT"
LIC_FILES_CHKSUM = "file://${COMMON_LICENSE_DIR}/MIT;md5=0835ade698e0bcf8506ecda2f7b4f302"

SRC_URI = "file://my_echo_test.elf \
	"

S = "${WORKDIR}"
INSANE_SKIP_${PN} = "arch"

do_install() {
	install -d ${D}/lib/firmware
	install -m 0644 ${S}/my_echo_test.elf ${D}/lib/firmware/my_echo_test.elf
}
FILES_${PN} = "/lib/firmware/my_echo_test.elf"

デバイスツリーを編集する

割り込み番号や、リモートアプリケーション用メモリ領域の設定のため、デバイスツリーを編集します。これは、ug1186-zynq-openamp-gsg_2018.pdfに記載されている内容そのままです。

コマンド
code project-spec/meta-user/recipes-bsp/device-tree/files/system-user.dtsi &
project-spec/meta-user/recipes-bsp/device-tree/files/system-user.dtsi
/include/ "system-conf.dtsi"
/ {
	reserved-memory {
		#address-cells = <1>;
		#size-cells = <1>;
		ranges;
		rproc_0_reserved: rproc@3e000000 {
			no-map;
			reg = <0x3e000000 0x01000000>;
		};
	};
	amba {
		elf_ddr_0: ddr@0 {
			compatible = "mmio-sram";
			reg = <0x3e000000 0x400000>;
		};
	};
	remoteproc0: remoteproc@0 {
		compatible = "xlnx,zynq_remoteproc";
		firmware = "firmware";
		vring0 = <15>;
		vring1 = <14>;
		srams = <&elf_ddr_0>;
	};
};

ビルドしてイメージを完成させる

コマンド
petalinux-build
petalinux-package --boot --force --fsbl images/linux/zynq_fsbl.elf --fpga images/linux/design_1_wrapper.bit --u-boot

上記コマンドで生成された、images/linux/BOOT.BINimages/linux/image.ubを、SDカード(FAT32)にコピーします。

自分で作成したエコーテストを試す

先ほど作成したSDカードをZYBOにさして、ZYBOのJP5をSDカード起動に設定します。そして、電源ONします。
UARTターミナルから、以下コマンドを実行します。

ZYBOのUARTターミナル(開始)
modprobe rpmsg_user_dev_driver
echo my_echo_test.elf > /sys/class/remoteproc/remoteproc0/firmware
echo start > /sys/class/remoteproc/remoteproc0/state
echo_test

すると、このように動いていることが分かります。

echo_test実行結果
root@PjOpenAmp:~# echo_test
 Echo test start
~省略~
 1 - Send data to remote core, retrieve the echo and validate its integrity ..
 2 - Quit this application ..
 CMD>1
 sending payload number 0 of size 9
echo test: sent : 9
 received payload number 0 of size 9
~省略~
 echo test: sent : 478
 received payload number 470 of size 478

 sending payload number 471 of size 479
echo test: sent : 479
 received payload number 471 of size 479
 **************************************
 Test Results: Error count = 0

Linux側のアプリケーションとベアメタル側のファームウェアが通信しています。
確認できたらファームウェアを停止します。これによって、OpenAMP動作も停止します。

ZYBOのUARTターミナル(停止)
echo stop > /sys/class/remoteproc/remoteproc0/state

備考

おそらく不要ですが、場合によっては modprobe zynq_remoteproc が最初に必要かもしれません。
OpenAMPのメッセージ通信用のモジュールをアンロードする場合は、 modprobe -r rpmsg_user_dev_driver を実行してください。

AMPになっていることを確認してみる

起動直後に、/proc/cpuinfoを見ると、CPU0とCPU1があります。しかし、echo start > /sys/class/remoteproc/remoteproc0/state後に見ると、CPU0しかないことが分かります。

root@PjOpenAmp:~# cat /proc/cpuinfo
processor       : 0
model name      : ARMv7 Processor rev 0 (v7l)
-省略-

processor       : 1
model name      : ARMv7 Processor rev 0 (v7l)
-省略-

Hardware        : Xilinx Zynq Platform

-///////////////////////////////////-
-echo start > /sys/class/remoteproc/remoteproc0/state 実行後-
-///////////////////////////////////-

root@PjOpenAmp:~# cat /proc/cpuinfo
processor       : 0
-省略-

Hardware        : Xilinx Zynq Platform

デモアプリを試す

順番が逆になってしまいましたが、自分でファームウェアを作らないでも、デモアプリを使ってOpenAMPを試すことができます。それを実行してみます。

rootfsでopenamp-fw-XXXを有効にしたことで、以下のバイナリ(ファームウェア)が/lib/firmwareにインストールされています。ちなみに、自作のmy_echo_test.elfも同じ場所にインストールされています。

  • /lib/firmware/image_echo_test
  • /lib/firmware/image_matrix_multiply
  • /lib/firmware/image_rpc_demo

image_echo_testを試す

image_echo_testはmy_echo_test.elfと同じ動作をします。自作のmy_echo_test.elfがうまく動かない場合は、image_echo_testを試すことで、問題の切り分けが出来るかもしれません。

ZYBOのUARTターミナル
modprobe rpmsg_user_dev_driver
echo image_echo_test > /sys/class/remoteproc/remoteproc0/firmware
echo start > /sys/class/remoteproc/remoteproc0/state
echo_test
echo stop > /sys/class/remoteproc/remoteproc0/state

image_matrix_multiplyを試す

ZYBOのUARTターミナル
modprobe rpmsg_user_dev_driver
echo image_matrix_multiply > /sys/class/remoteproc/remoteproc0/firmware
echo start > /sys/class/remoteproc/remoteproc0/state
mat_mul_demo
echo stop > /sys/class/remoteproc/remoteproc0/state

image_rpc_demoを試す

proxy_appを実行するだけで、ファームウェアのロードなどを行ってくれるようです。そのため、事前に他のファームウェアをロードしていた場合には、終了させておく必要があります。

ZYBOのUARTターミナル
echo stop > /sys/class/remoteproc/remoteproc0/state
modprobe -r rpmsg_user_dev_driver
proxy_app

おわりに

ひとまずコードの中身や仕組みは置いといて、手順としてOpenAMP環境を作れるようにしました。次回は実際にコードをいじってみようと思います。

参考

そういえば

msysやmingwのbinにパスが通っていると、XSDKでOpenAMPプロジェクトを作成したときにフリーズする可能性があるのでご注意ください。

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