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電子商取引まわりの法律と申請を、開発者目線で整理する

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この記事に書いてあること

  • そもそも「電子商取引」とは何か、その法的な扱い
  • 「電子商取引法」という単一の法律は存在しない、という前提整理
  • 個人開発・受託開発でサービスを立ち上げるときに、申請・届出・許可が必要かどうかの判断軸
  • 申請しなかった場合のリスクと、主要な申請窓口・手続き

この記事により解決すること

  • 「ECサイトを作るときって、なんか役所に申請するんだっけ?」というモヤモヤが消える
  • 自分のサービスが、どの法律のどの届出に該当するかを自分で当たりを付けられるようになる
  • 受託開発でクライアントから「これって何か届出いるの?」と聞かれたときに最低限の地図を持てる

必要な前提知識

  • 特になし(法律の知識は不要、実装方法には触れません)

そもそも「電子商取引」とは何か

電子商取引(Electronic Commerce、EC) は、ざっくり言うと ネット上でモノやサービスを売り買いする取引 のことです。

身近な例だと

  • Amazonや楽天での買い物
  • ユニクロや無印良品の自社ECサイト
  • BASE・Shopify・STORESで作った個人ショップ
  • SaaSサブスクリプション
  • 電子書籍・有料テンプレート販売

このあたりが全部電子商取引です。BtoB(企業間)/ BtoC(企業対消費者)/ CtoC(消費者間)と取引相手で分類されることもありますが、いずれも電子商取引には変わりありません。

「電子商取引法」という法律はない

ここが本記事の最重要ポイントです。

日本には「電子商取引法」という名前の単一の法律は存在しません。

「ECを始めるなら電子商取引法に従う必要がある」と検索しても、それ専用の法律が見つからないのは当たり前で、ECに関するルールは複数の法律にまたがって規定されている からです。

つまり「ECサイトを立ち上げる = 電子商取引法に基づいて申請する」という単純な構図ではありません。代わりに、

  • 何を売るか(商品・サービスの種類)
  • どう売るか(決済、ポイント、ユーザー間取引の有無)
  • 誰に売るか(消費者か事業者か)

によって、適用される法律と必要な届出が変わってきます。

ECに関わる主な法律の俯瞰

ECサービスに関係しうる法律を、開発者目線で気にすべきポイントとセットで一覧にすると以下です。

法律 何を規制するか 開発者目線で気にすべきポイント
特定商取引法(特商法) 通信販売としての消費者保護 「特定商取引法に基づく表記」の掲載、返品特約の明示
電子契約法(電子消費者契約法) 消費者の操作ミスによる誤発注を救済 注文確定前の確認画面を設けないと、操作ミスによる無効主張を受けるリスク
景品表示法 不当表示・過大景品の禁止 価格表示の二重価格、ステマ規制への対応
個人情報保護法 個人情報の取り扱い プライバシーポリシー、安全管理措置、漏えい時報告
古物営業法 中古品の売買 古物商許可(警察署)
資金決済法 前払式支払手段、資金移動、暗号資産 ポイント発行、送金機能、決済代行の扱い
酒税法 酒類の販売 通信販売酒類小売業免許(税務署)
食品衛生法 食品の製造販売 営業許可・営業届出(保健所)
薬機法 医薬品・化粧品・医療機器 各種許可(都道府県)
電気通信事業法 通信サービス・利用者間メッセージング 利用者間で通信を媒介する機能(チャット・DM・コメント)があると届出が必要になりうる、外部送信規律
特定電子メール法 広告・宣伝メールの送信 メルマガ・通知メールはオプトイン必須、送信者表示・解除リンク必須
割賦販売法 クレジットカード番号等の取扱い 自社でカード番号を保持する場合のセキュリティ義務(決済代行に乗ればほぼ免除)

ここで重要なのは、特商法・電子契約法・景表法・個人情報保護法はECならほぼ必ず関係する 一方、それ以外は 取扱商品や機能によって関係するかが変わる という構造です。

「申請」が必要かどうかの判断軸

ユーザーが一番気になっているのはここだと思います。「ECサービスを立ち上げる = どこかに申請が必要」と短絡的に考えがちですが、実態は 「ECだから申請」ではなく、「扱う商品・機能によって申請」 という構造です。

申請が必要な典型例

以下のサービスは、それぞれ個別の 業法上の届出・許可 が必要です。

サービス内容 必要な手続き 窓口
中古品の販売(リユース、フリマ転売、買取再販) 古物商許可 営業所所在地の警察署
酒類のネット販売 通信販売酒類小売業免許 所轄税務署
食品の製造販売・調理販売 食品衛生法上の営業許可・営業届出 保健所
医薬品・医療機器のネット販売 薬局開設許可、特定販売の届出 等 都道府県(薬務課)
化粧品の自社製造・輸入(仕入れて単純小売する場合は不要) 化粧品製造販売業許可、製造業許可 等 都道府県(薬務課)
プリペイドポイントの発行 前払式支払手段の発行届出/登録 財務局
ユーザー間送金機能 資金移動業の登録 財務局
暗号資産の売買・交換 暗号資産交換業の登録 財務局
旅行手配(航空券・ホテルパッケージ等) 旅行業登録 観光庁/都道府県
利用者間のチャット・DM・メッセージング機能 電気通信事業の届出(届出電気通信事業者) 総務省(管轄総合通信局)

「ECだから」ではなく、「中古品を扱うから」「酒を売るから」「ポイントを発行するから」 という理由で申請が発生していることに注目してください。

「チャット機能」の落とし穴

ECやマッチング系のサービスで地味に踏みやすいのが 電気通信事業法 です。判断軸は「他人の通信を媒介しているか」の一点です。

機能 電気通信事業の該当性
運営 ↔ 利用者の問い合わせチャット(Intercom的なCS) 対象外(自社と顧客の通信は「媒介」ではない)
運営 → 利用者へのお知らせ配信のみ 対象外
社内向けクローズドツール 「不特定の利用者向け」ではないので対象外になりやすい
利用者 ↔ 利用者のDM、グループチャット、取引メッセージ、コメント機能 該当しやすい(届出対象)
マッチングアプリ・CtoCマーケット・SNS・ゲーム内チャット ほぼ該当

「便利だからDM機能つけておこう」くらいの感覚で実装すると、利用者間メッセージングを提供している = 電気通信事業者 になり、回線設備を持たない事業者は 届出電気通信事業者 として総務省(管轄総合通信局)への事前届出が必要になります(この届出義務はもともと電気通信事業法に存在しており、2023年6月の改正で新設されたものではありません)。

届出とは別系統で、チャット機能を含むWebサービス全般に関わるルールも押さえておくと安全です。これらは届出ではなく 運用体制の整備 がポイントです。

  • 外部送信規律(電気通信事業法27条の12、2023年6月施行):Cookie・SDK・計測タグで利用者情報を外部送信する場合の通知/公表義務
  • 特定利用者情報の適正な取扱い義務(同改正):「指定電気通信事業者」に課される利用者情報保護の追加義務
  • プロバイダ責任制限法(情プラ法):利用者間の誹謗中傷・権利侵害に対する削除請求・発信者情報開示請求への対応義務

「ポイント機能」「ユーザー間取引(CtoC)」「送金機能」の3つが絡む要件は、要件定義段階で 法務確認をかけずに実装すると後から致命傷になる 領域です。受託開発でこの3つがRFPに出てきたら、必ずクライアント側に許認可状況を確認してから設計に入るのが安全です。

申請しなかったらどうなるか

業法ごとに罰則は異なりますが、無届けで運営した場合のリスクは大きく分けて3つあります。

刑事罰:主要な業法の罰則の例です。

法律 違反内容 罰則
電気通信事業法 無届出での電気通信事業(利用者間メッセージング等) 1年以下の懲役 または 100万円以下の罰金(または併科)
古物営業法 無許可営業(中古品の売買) 3年以下の懲役 または 100万円以下の罰金(または併科)
資金決済法(資金移動業) 無登録営業(送金機能) 3年以下の懲役 または 300万円以下の罰金(または併科)

「個人だしバレないだろう」と思いがちですが、決済代行業者(PSP)やプラットフォーム側のKYCで把握される ケースが増えていて、運営の途中で止められる事例は珍しくありません。

行政処分:営業停止命令、登録取消し、業務改善命令などが出ます。サービス停止 = 売上停止なので、事業継続に直結します。

受託開発先(クライアント)への波及:受託開発の場合、直接違法状態に置かれるのはクライアントです。エンジニア個人が罰せられるわけではないとはいえ、「許認可不要だと思って組み込んだ → 実は必要だった → クライアントが営業停止 → 損害賠償」という流れで、開発会社・フリーランス側の信用にも跳ね返ります。

どうやって申請するか

IT実装で踏みやすいものを中心に、代表的な申請窓口・必要書類・スケジュール感をまとめます。詳細は窓口や時期によって変わる ので、最終的には公式情報か専門家に確認してください。

申請内容 窓口 主な必要書類 費用 標準処理期間
電気通信事業の届出(届出電気通信事業者) 総務省(管轄総合通信局) 電気通信事業届出書、提供役務の概要 等 無料 数週間〜
古物商許可 主たる営業所の警察署(生活安全課) 申請書、住民票、誓約書、略歴書、登記されていないことの証明書 等 19,000円 約40日
前払式支払手段の発行届出 財務局 届出書、業務方法書、財務諸表 等 個別 個別
資金移動業の登録 財務局 登録申請書、業務方法書、履行保証金供託の準備 等 登録手数料は無料、ただし 履行保証金として送金額の100%以上の供託 が常時必要 数か月以上
暗号資産交換業の登録 財務局 登録申請書、業務方法書、AML/CFT体制 等 登録手数料は無料、ただし最低資本金1,000万円・分別管理体制等の重い要件 半年〜

物理商品系の業法(通販酒販免許、食品衛生法上の営業許可、薬機法上の許可 等)は、Webサービスの実装より 施設要件・在庫管理・取扱資格 といった非IT領域がボトルネックになるため、本記事では割愛します。踏み込むサービスを作るときは、設計に入る前に行政書士・該当業界の専門家に確認するのが定石です。

実務上のコツ

  • 電気通信事業の届出 は無料・書類も比較的シンプル。利用者間メッセージング機能を入れる前にサクッと済ませておく
  • 古物商許可 は個人でも取れる現実的なライン。書類を揃えれば40日ほどで取得できる
  • 資金決済法系(前払式・資金移動・暗号資産交換)は個人開発で踏むには重すぎるラインなので、最初から既存事業者のAPIに乗る(Stripeの送金API、既存資金移動業者の決済代行 等)のが現実解

まとめ

  • 「電子商取引法」という単一の法律は 存在しない。ECは複数の法律にまたがる
  • 「ECサイトだから申請が必要」ではなく 「何を売るか」「どんな機能を持つか」で個別の業法に当てはめる
  • 中古品・酒・食品・医薬品・送金・ポイント発行などは個別の業法で 届出や許可が必要
  • 申請を怠ると、刑事罰・行政処分だけでなく 決済代行停止・プラットフォームBAN のリスクがある
  • 受託開発では「ポイント・ユーザー間取引・送金」がRFPに出てきたら 要件定義の段階で法務確認 を入れるのが安全

感想

調べてみて一番ハマりそうだなと思ったのは 「ポイント・ユーザー間取引・送金」と「DM・コメント機能」 の組み合わせでした。この種の機能は、受託開発で要件定義に同席する立場としては「機能名でフラグを立てて法務確認に投げる」習慣を持っておかないと事故るな、と感じています。

参考

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