はじめに
PBI(Product Backlog Item)やプロダクトバックログといった用語は、スクラム(Scrum) という開発フレームワーク全体の一部です。本記事では、公式のScrum Guideに基づいて、スクラムを構成する「3つの役割」「5つのイベント」「3つの作成物」を整理します。
スクラムとは
スクラムは、複雑な問題に対応するためのプロダクト開発フレームワークです。決まった手順を細かく規定する「手法(methodology)」ではなく、チームが自分たちのやり方を作っていくための軽量な 枠組み(framework) という位置づけである点が特徴です。経験主義(実際にやってみて学ぶ)と、リーン思考(無駄を減らし本質に集中する)を土台にしています。
3つの役割(スクラムチームの構成)
スクラムチームは、以下の3つの役割で構成されます。役割は「肩書き」ではなく「責任範囲」を表します。
| 役割 | 責任 |
|---|---|
| プロダクトオーナー(Product Owner) | プロダクトの価値を最大化することに責任を持つ。プロダクトバックログの内容・優先順位に説明責任を持つ |
| スクラムマスター(Scrum Master) | スクラムの理解・実践を促進する。チームが直面する障害を取り除き、プロセスを機能させる役割 |
| 開発者(Developers) | スプリントごとに実際に「使える成果物(インクリメント)」を作り出す人たち。設計・実装・テスト等、作業内容を問わず全員がこの役割に含まれる |
2020年版のScrum Guideでは、これら3つの役割を持つメンバー全体を指して「開発チーム」ではなく単に 「スクラムチーム」 と呼ぶよう整理されました(役割間の上下関係を強調しない、フラットなチームという位置づけを明確にするため)。
5つのイベント
スクラムでは、決まった時間枠(タイムボックス)の中で活動を進めます。すべての活動を包み込む器が スプリント(Sprint) で、その中に4つの具体的なイベントが含まれます。
| イベント | タイミング・目的 |
|---|---|
| スプリント(Sprint) | 1ヶ月以内の固定された期間。この中で他の4イベントがすべて行われる、「イベントを包む入れ物」 |
| スプリントプランニング(Sprint Planning) | スプリント開始時に行う。「このスプリントで何を・どうやって行うか」を計画し、スプリントゴールを立てる |
| デイリースクラム(Daily Scrum) | 毎日決まった時間に行う15分程度の短い会。進捗を確認し、その日の計画を調整する |
| スプリントレビュー(Sprint Review) | スプリント終了時に行う。完成した成果物を関係者に見せ、フィードバックを得てプロダクトバックログを見直す |
| スプリントレトロスペクティブ(Sprint Retrospective) | スプリントレビューの後に行う。チーム自身のやり方(プロセス・協働の仕方)を振り返り、次のスプリントへの改善点を洗い出す |
3つの作成物と、それぞれに紐づく「確約(Commitment)」
スクラムには3つの公式な作成物(Artifact)があり、2020年版のScrum Guideからは、それぞれに対応する「確約(Commitment)」という概念が明記されるようになりました。確約とは、その作成物が向かうべき目的・状態を表す指標です。
| 作成物 | 内容 | 対応する確約 |
|---|---|---|
| プロダクトバックログ(Product Backlog) | プロダクトに必要な作業(PBI群)の一覧 | プロダクトゴール(Product Goal): プロダクトが目指す将来の状態 |
| スプリントバックログ(Sprint Backlog) | そのスプリントで取り組むPBIと、それを実現するための計画 | スプリントゴール(Sprint Goal): そのスプリントで達成したい単一の目的 |
| インクリメント(Increment) | スプリント中に完成した、実際に使える成果物の積み重ね | 完成の定義(Definition of Done): 何をもって「完成」と呼べるかの共通基準 |
「確約」という考え方が加わったことで、それぞれの作成物が単なる「リスト」ではなく、「向かうべきゴール」を伴うものとして扱われるようになった点が、2020年版での大きな変更点です。
PBIはどこに位置づけられるか
前段の記事「プロダクトバックログとPBIとは」で解説したPBIは、この3つの作成物のうちプロダクトバックログを構成する個々の項目にあたります。プロダクトバックログの中から優先度の高いPBIが選ばれ、スプリントプランニングを通じてそのスプリントのスプリントバックログに取り込まれ、実装・検証を経てインクリメントの一部になる、という流れです。
まとめ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| スクラムとは | 複雑な問題に対応するための軽量なプロダクト開発フレームワーク |
| 3つの役割 | プロダクトオーナー・スクラムマスター・開発者 |
| 5つのイベント | スプリント(包む器)、スプリントプランニング、デイリースクラム、スプリントレビュー、スプリントレトロスペクティブ |
| 3つの作成物 | プロダクトバックログ、スプリントバックログ、インクリメント |
| 確約(Commitment) | 各作成物に紐づく目的・基準(プロダクトゴール・スプリントゴール・完成の定義) |