【Kotlin】for 文で LocalDate を Int のように扱う

TL;DR

• 実用的には datesUntil（） を使うのがてっとり早い
• Kotlin の for 文は iterator() メソッドで取得したイテレーターでループしている
• 次のようにして Int 型と同じようにループできる
  • iterator() メソッドを定義した Range クラスを作成
  • rangeTo() メソッドをオーバーライドしてその Range クラスを返す

はじめに

Kotlin で Int 型のループは次のように書くことが可能です。

Int 型のループ

val start = 1
val end = 10

for (x in start..end) {
  println(x)
}

LocalDate 型のループも同じように書けると思いきや、これはコンパイルエラーになります。

LocalDate 型のループ

val startDate = LocalDate.of(2022, 1, 1)
val endDate = LocalDate.of(2022, 1, 31)

for (date in startDate..endDate) {
  println(date)
}

エラーメッセージ

For-loop range must have an 'iterator()' method 

本記事の目的

• エラーを読み解き、Kotlin の for 文を理解する
• for 文で Int 型と同じように LocalDate 型を扱えるようにする

datesUntil を使う

LocalDate には datesUntil というメソッドが存在し、次のような書き方で日付のイテレーションは可能です。ループするだけならこれで済みますが、本記事では for 文をきちんと理解することを目的として実装を行います。

startDate.datesUntil(endDate.plusDays(1)).forEach { println(it) }

for 文の基本

公式ドキュメントによると、ループ対象のオブジェクトに必要な条件は次の３つです。

• メンバー関数または拡張関数として iterator() を持っていて、Iterator<> を返すこと
• その Iterator<> は、メンバー関数または拡張関数として next() を持っていること
• その Iterator<> は、メンバー関数または拡張関数として hasNext() を持っていること

つまり、Kotlin の for 文はイテレーターでループしているだけで、以下の for 文のループ と while文のループ は実質的に同じ処理になります。

for文のループ

val list: List<Int> = listOf(1, 2, 3)

for (i in list) {
  println(i)
}

while文のループ

val list: List<Int> = listOf(1, 2, 3)
val iterator: Iterator<Int> = list.iterator()

while (iterator.hasNext()) {
  val i = iterator.next()
  println(i)
}

つまり For-loop range must have an 'iterator()' method というエラーメッセージが言っているのは、startDate..endDate で作成したオブジェクトが iterator() メソッドを持ってないよ、ということです。

逆に言えば 1..10 のように作成したオブジェクトは iterator() メソッドを持っているわけですが、これは何者なのでしょうか？

Int 型のループを理解する

Int 型のループがどういう仕組みで動作しているのか見ていきましょう。

題材にする for ループ

for (x in 1..10) {
  println(x)
}

IntRange

1..10 の .. は範囲を表現するための演算子で、rangeTo メソッドで実装されています。
そのため、明示的にメソッドを呼んでも同じように動作します。

val range: IntRange = 1.rangeTo(10)
for (x in range) {
  println(x)
}

rangeTo メソッドの戻り値は IntRange です。Int の「範囲」を表すクラスで、端点の値（start と endInclusive）をプロパティとして持っています。

このクラスの iterator() メソッドでは start から endInclusive まで数値が 1 ずつ増えるイテレーターが返ります（実際には親クラスの IntProgression で定義されています。長くなるので説明は割愛します）。

LocalDate 型でループする

ClosedRange

LocalDate は Java のクラスであり、rangeTo メソッドを持ちませんが、Kotlin 標準ライブラリに Comparable<T>.rangeTo メソッドが定義されているため Range を作成可能です。ただしその戻り値は ClosedRange<T> 型です。

val start = LocalDate.of(2022, 1, 1)
val end = LocalDate.of(2022, 12, 31)

val range: ClosedRange<LocalDate> = start..end

これは「範囲」を表すインターフェースで、端点の値（start と endInclusive）を持っているだけです。IntRange にはあった iterator() メソッドが無いのでループできません。

LocalDateRange を作る

ClosedRange に iterator() メソッドが存在しないからループできないので、iterator() メソッドを持ったクラスを返すように変更してみましょう。

まずは ClosedRange を継承した LocalDateRange クラスを作成します。

class LocalDateRange(
    override val start: LocalDate,
    override val endInclusive: LocalDate
) : ClosedRange<LocalDate>

LocalDate の拡張関数として rangeTo メソッドを定義して LocalDateRange を返すようにします。

operator fun LocalDate.rangeTo(that: LocalDate) = LocalDateRange(this, that)

これで .. 演算子を使ったときに LocalDateRange が返されるようになりました。

val start = LocalDate.of(2022, 1, 1)
val end = LocalDate.of(2022, 12, 31)
val range: LocalDateRange = start..end

この時点では ClosedRange と変わらないので、まだループはできません。

LocalDateIterator を作る

LocalDateRange クラスに Iterable<LocalDate> インターフェースをつけて、iterator() メソッドを実装します。

class LocalDateRange(
    override val start: LocalDate,
    override val endInclusive: LocalDate
) : ClosedRange<LocalDate>, Iterable<LocalDate> {
    override fun iterator(): Iterator<LocalDate> = LocalDateIterator(start, endInclusive)
}

そこで返すイテレーターは次のように定義しています。このクラスはふつうのイテレーターです。内部状態として次に返す値（next）を持っていて、要素を取り出すたびに１日日付を進めます。終了日（endInclusive）を超えたら hasNext() が false を返すようになります。

class LocalDateIterator(
    val start: LocalDate,
    val endInclusive: LocalDate
) : Iterator<LocalDate> {
    var next = start

    override fun hasNext(): Boolean {
        return next <= endInclusive
    }

    override fun next(): LocalDate {
        val returnValue = next
        next = next.plusDays(1)
        return returnValue
    }
}

これで次のように startDate から endDate まで1日ずつループすることが可能になります。

val startDate = LocalDate.of(2022, 1, 1)
val endDate = LocalDate.of(2022, 1, 31)

for (date in startDate..endDate) {
  println(date)
}

補足

ここまでで for 文でループ可能になりましたが、2点補足です。

1. Itarable は必須ではない

for 文でループするには iterator() メソッドが必須ですが、実は Iterable インターフェースは必須ではありません。インターフェースを使わない場合は iterator() メソッドに operator を付けてやれば for 文でループ可能です。

Iterable を使わない場合

class LocalDateRange(
    override val start: LocalDate,
    override val endInclusive: LocalDate
) : ClosedRange<LocalDate> {
    operator fun iterator(): Iterator<LocalDate> = LocalDateIterator(start, endInclusive)
}

2. Iterator クラスも必須ではない

実はイテレーターはクラスとして定義する必要もなく、iterator 関数を使うと簡単に定義できます。詳細はリファレンスを参照していただきたいのですが、簡単に言えば next() を呼ぶたびに yield() に渡した値を返すイテレーターが作成されます。

class LocalDateRange(
    override val start: LocalDate,
    override val endInclusive: LocalDate
) : ClosedRange<LocalDate> {
    operator fun iterator(): Iterator<LocalDate> = iterator {
        var date = start
        while (date <= endInclusive) {
            yield(date) // ここで処理は中断。next() が呼ばれると値を返して次の行へ処理が進みます。
            date = date.plusDays(1)
        }
    }
}

最終的なコード

// LocalDateRange の定義。
class LocalDateRange(
    override val start: LocalDate,
    override val endInclusive: LocalDate
) : ClosedRange<LocalDate> {
    
    // iterator 関数で Iterator<LocalDate> を作成
    operator fun iterator(): Iterator<LocalDate> = iterator {
        var date = start
        while (date <= endInclusive) {
            yield(date)
            date = date.plusDays(1)
        }
    }
}

// .. 演算子で LocalDateRange を返すようにする
operator fun LocalDate.rangeTo(that: LocalDate) = LocalDateRange(this, that)

fun main() {
    val startDate = LocalDate.of(2023, 1, 1)
    val endDate = LocalDate.of(2023, 1, 31)

    // 2023-01-01 から 2023-01-31 まで出力
    for (date in startDate..endDate) {
        println(date)
    }
}