本記事の位置付けや各種表記
本誌の位置付けは、"専門書の導入"です。まず定性的に原理を理解することに重きを置いています。また、本誌では、理解のしやすさを優先するため、厳密さや網羅性に欠ける部分がございます。取捨選択のやり方に間違いや、説明の致命的なミスリードなどがございましたらご指摘ください。よろしくお願いいたします。
また文章の体裁が未整備で読みにくいのはご甘受ください…逐次修正していきます。
主な参考文献
本記事は、先行研究者/学習者の重要な業績に基づいており、彼らの貢献に深い感謝の意を表します。中尾公一氏や村上雅人教授、楠瀬博明教授、東京大学理学部物理学科有志の方々の長年のご経験からご提示された理論的枠組みは、学習者の自分にとってとても示唆に富むものでした。
資料1
資料2
資料3
書籍
では本題に入っていきましょう。
「超伝導が起こる」とは一般には以下のことを指します。
- 電気抵抗がゼロになる
- マイスナー効果が観測される
ただし本記事では、電気抵抗がゼロになるという現象に主眼をおくので、「超伝導」=「すごく金属を冷やした時に抵抗がゼロになる現象」と理解してください。
また、同時に超伝導について持っていただきたいイメージがあります。
それは、超伝導状態は固体が取りうる一つの「相」であるということです。水が、温度に応じ気化したり氷になったり、することを「相転移」と言い、物性が不連続的に変化しますが、金属も同様に、通常の「電気抵抗を持つ状態」から「超伝導」になる時に、不連続的な変化をします。それを示したのが以下の図です。
図1:超伝導体の電気抵抗率の温度依存性
出典:応用物理学会1
以下では、電気抵抗がゼロになる理屈を解説していきたいと思います。
電気抵抗ゼロの原理のざっくりとした説明
そもそも"電気抵抗"とは
電流とは、『(金属に電圧を加えると発生する)自由電子の移動』です。定義式は以下の通りです。
I = nev\
n:電子の数, e:電子の電荷, v:速度
上記の式では、自由電子は、電場によって加速されるにも関わらず、速度は一定だと見なされています。その理由は、電子の速度は以下の図2のように変化するからです。金属内では結晶格子が電子の運動を妨げるため、電子が電圧で加速されてもすぐに衝突して減速されるため電子の速度を平均すると見かけ上一定に見えるということでした。
図2: 電子のみかけの速度
出典:やさしい超伝導のおはなし2
自由電子の速度が低下して単位時間あたりの電子の流量が減少するということは、"結晶格子"が電気抵抗に関係がありそうということがわかります。
ただし、ただ結晶格子が"ただ存在する"ことが電気抵抗となるわけではありません。
かつては、「電気抵抗」は、金属を構成している格子の存在によるものだと考えられていましたが、実験を進めていくうちに、電子は格子間隔(金属イオン間の距離)の数十倍もの距離を自由に動けることがわかりました。つまり、"存在しているだけ"では電気抵抗として機能しません。
では、「金属内の不純物」が原因でしょうか?
実際に不純物濃度を下げたら抵抗が減ることが確かめられましたが、あるレベルから相関がなくなるため現実の事象を十分に説明できませんでした。
ここで至った結論が、「格子振動」でした。
電気抵抗の温度依存性を測定するとあらゆる金属で温度の低下とおもに電気抵抗が低下する現象が観察されます。その、『温度』の正体こそが、金属原子や分子の運動です。(この格子振動をフォノンと呼びます)
金属を構成している格子は常に振動しており、温度上昇とともに振動が大きくなります。その結果、+に帯電した格子が熱運動で揺れ動き、電子はクーロン相互作用により影響を受け、減速されます。実際にこのモデルは現実の事象を十分に説明することができます。
…以上。電気抵抗の原因は「結晶格子の振動」です。という話でした。
電気抵抗をゼロにするには?
それでは、電気抵抗を"ゼロ"にするにはどうすればいいでしょうか?
結晶格子の振動を"止める"ために絶対零度にすればいいのではないか、と考えるのが自然です。
ただ、実は、絶対零度にすればいいというわけでもないのです。
絶対零度で格子が振動を抑えても電子の運動が格子振動を誘導してしまうのです。
イメージを図3に示します。-に帯電した電子と+に帯電した格子の間にクーロン力が働くため、わずかに格子が電子に引き寄せられて歪み、電子が通過すると格子は元の位置に戻ろうとし振動が起こってしまいます。
この結果、電子の運動エネルギーが格子振動に奪われてしまいます。
図3:電子が格子へ影響を与える様子
出典:やさしい超伝導のおはなし2
今のところ絶対零度にしても、振動を取り除くことができず、電気抵抗が生じてしまうので超伝導という現象が説明できません。
ここで、この格子振動を祐希した電子と十分近い位置に他の電子がいるものとします。最初の電子が格子の引力相互作用によって格子間の距離が狭まる(図4-a)ことになるので、その領域は局所的に静電化の濃度が周りより高くなっています。すると第二の電子は、図4-bのようにこの静電化濃度の高い領域から引力を受け加速されます。言い換えれば、最初の電子は格子のエネルギーを奪われるが、第二の電子は逆に格子からエネルギーを奪うことができるということです。
超伝導状態では、ある電子が格子に奪われたエネルギーを別の電子が奪うことでこれら二つの電子ペアで考えればエネルギー損失がない状態ができています。この電子対のことを提唱者に因んでクーパー電子対と呼んでいます。
ピッタリ打ち消し合うのか?
エネルギーは連続量なのに、第一の電子が奪われたエネルギーを"そっくりそのまま"次の電子が受け取るなどということがそう簡単に起こるのか?という疑問が起きます。
そこで、量子力学の話に入ります。量子力学では離散的な値をとることに留意してください。結論からお伝えすると、第1の電子が格子に奪われるエネルギーもある決まっており、これをkとすると、第1の電子が格子から奪うことができるエネルギーも自由な量ではなく、kである。ということがわかります。
この『電子が格子との相互作用を通して電子がペアを作り、その結果電気抵抗ゼロの状態ができる』という現象をまとめたのが、BCS理論です。この理論の登場によって、超伝導の性質がほとんど全て説明できるようになりました。(ただし『高温超伝導』は完全には説明されていない)
というのが電気抵抗(電子の減速)の原理でした。
BCS理論の紹介
前述した、BCS理論について、詳しい理論解説があるのでこちらをご覧ください。
もう少し踏み込んだ説明
今まで、確認してきたのは、『電子がペアを作ることで電子全体で考えたらエネルギー収支が±0になる』ということでした。
ここからは、2つの電子がペアになってエネルギー収支が±0になる理論的な補足をしようかなともいます。BCS理論の入り口にあたるところです。
さっそく本題に入りましょう。
導入
改めまして、今まで確認してきたのは『超伝導状態では、2つの電子が間接的な引力で結びつき、ペア組む(と考えられる)。まず一つ目の電子が通るとき、結晶格子が近づき電子の運動をさまたげ、+の電荷が局所的に増加させる。そこへ2つ目の電子が近づくと増加したプラスの電荷によって加速される。つまり1つ目の電子が失った分のエネルギーを2つ目の電子が受け取っていることになり、全体としてエネルギーの損失はゼロになる。これが電気抵抗がゼロになる』ということでした。
そして、最初にお伝えしたとおり、超伝導状態とは、固体がとりうる一つの「相」です。「相」とは、一つの物事が色々と違った見掛けを持って現れるときにその見掛けのことで、例えば人相とか様相とか、水で言うと、液体層、固体相、気体相とか、というものにあたります。高温では常伝導、低温では超伝導ということです。超伝導物質が、温度低下に従って常伝導状態から超伝導状態に移ることを超伝導転移とよびます。
厳密には超伝導転移と水の相転移は次元数が異なっているので、超伝導と水の相転移を比べるには、色々な都合から『強磁性転移』を扱います強磁性転移とは、徹夜ニッケルのような物質が高温の常磁性状態(永久磁石にならない普通の状態)から低温の強磁性状態(永久磁石の状態)に転移する現象のことです。
まず、『超伝導物質が低温で超伝導状態になると、エネルギー的に安定する』ということを納得していただきたいです。
エネルギーが小さいほど安定するというのは高校物理でも習ったことかと思います。エネルギーが大きいと余ったエネルギーを何らかの形で放出して、自分はより低いエネルギーの状態に変化する可能性があるためです。持っているエネルギーが小さければ変化が起こる余地がないということですね。
ただし、状態が変化するにはエネルギーを放出する以外に逆に周りからエネルギーを受け取ることにより別の状態に変化する可能性もあります。従って、局所的にエネルギーが小さいからといって必ず安定で変化しないわけではないです。特に周囲の温度が高いときにはそういう可能性が高くなるのは想像がつくと思います。そう言う環境にある時には"最もエネルギーの低い状態"というわけではなく、むしろ少しエネルギーの高い状態が実現します。これが低温で超伝導状態が、高温で常伝導状態が実現する理由です。
この状況を手短に表現するために、エネルギーに温度の影響を取り入れた『自由エネルギー』という物理量が定義されています。この概念を使えば、絶対零度でも有限温度※の時でもシンプルに「自由エネルギーが低ければ低いほど状態が安定に実現する」といえることになるので便利です。
(※有限温度とは絶対零度でなく少し高温という意味で使っています。)
よって、超伝導状態(対象の物体だけではなく周囲の温度も低い絶対零度状態)は、自由エネルギーが低く安定します。
ちなみに、自由エネルギーの自由という言葉は、全エネルギーのうち「(有用な形で)自由に取り出せる部分」という意味だそうです。
超伝導相と常伝導相は具体的にどう異なるのか?
電気伝導は物質中の電子の流れによって担われることから、超伝導状態を理解するには、量子力学と呼ばれる理論体系を知る必要があります。
まずは、常伝導状態の固体中の電子の挙動の理解
固体は多数の原子からなっており、それぞれの原子は正の電荷を持った原子核とその周りの電子からなっています。原子が集まって固体を形成した時、電子の一部が元々所属していた原子を離れて固体全体を動き回るようになることがある。そのような電子を伝導電子と呼びますが、伝導電子を持つ固体が電気をよく通す導体となります。
ここで、電動電子についてどのような足で動いているかに注目してその電子の「状態」の「所属」を考えてあげます。
物理系はそのエネルギーが小さければ小さいほど安定するわけですから、全てのどう電子同士が最も遅い共通の速度をもつ状態が固体全体として最も安定なはずです。ですが、量子力学ではそうはならなりません。
量子力学では2個以上の電子が同じ「状態」をとることができないという決まりがあります。これをパウリの原理(またはパウリの排他律)と言います。
パウリの原理は、"定理"や"法則"ではないです。量子力学の中で導き出されるものではなく、量子力学がそれを土台として成り立っているとして受け入れて成り立っているということに注意ください。
パウリの原理を受け入れた上で、電動電子"全体"として最もエネルギーの低い状態はどのようなものか考えてみます。
まず、最も遅い速度をもった「状態」に一個の電子が入り、それ以降は順番に全ての電子をパウリの原理に抵触しない範囲で最も小さなエネルギーをもつ「状態」に割り振った状態が、全体として最も小さなエネルギーを与える状態です。ある「状態」をもつ電子が存在しているとき、その「状態」が電子によって占められているという言い方をします。
例えば、その電子がいる位置を$x$、スピンを上向き($↑$)という風に指定出来たとすれば、その電子を$x↑$という部屋番号の部屋に収納することにします。
なお、速度はベクトル量なので、ベクトルとして異なる速度をもった、「状態」同じ運動エネルギーを持つこともあり得ます。
ここで、仮想的な『運動量空間』を導入します。
電動電子系を考察するときには各電子が"どの位置にあるか"よりも、各電子が"どういう速度で動いているか"に主眼を置くので、電子の状態を表現する座法系として、運動量座標で表した方が何かと都合がいいためです。
これによって、速度は方向と大きさを持ったベクトル量であることから、矢印の終点として表現できます。この時、運動量空間で原点に近い点は比較的遅い速度をもつ状態ですね。
物理では、考えている対象がエネルギーが低い安定した状態を好んで取ると考えて考察を進めることがよくあります。例えば、球を斜面の上に配置した時のことを考えてみましょう。球は斜面上を下に向かって転がり落ちていくはずです。これは、球が位置エネルギーが低い安定な状態になろうとして動くためであると説明することが出来ます。球にとっては、斜面の高い位置に置かれることは不安定な状態になっているわけです。
同じような説明が、金属中の電子にとっても成り立ちます。先述の通り、電子は運動量によって「状態」が決定されるということでした。すると、パウリの原理によって、同じ状態に2つ以上の電子は入ることが出来ないため、運動エネルギーの大きさと、運動する方向によってラベル付けされた部屋に電子は1つずつ割り振られることになります。 このような"状態"はエネルギーの大きさ0から始まって、全ての方向に対応した部屋が様々な大きさのエネルギーに対して存在することになりますが、まずは最も安定な状態(球が斜面を転がり落ちていって最後に止まった部分のようなイメージ)を考えることにしましょう。
電子達は安定した状態を好んでエネルギーの低い部屋から入って行きます。すると、パウリの原理によって部屋はエネルギー0のものから順番に埋められていって、全ての電子の個数だけ入り尽くした時に一番エネルギーの高い部屋が存在することになります。この状態(達)のことをフェルミ面と呼びます。また、同じエネルギーに対して全ての方向に対応した部屋があるので、1つのエネルギーに対して球面のように部屋を配置することが出来ます。このようにして出来た部屋をフェルミ球と呼びます。このフェルミ球が金属中の、束縛されていない自由電子達が取る最も安定な状態を指します。
図5:フェルミ球の様子
出典:超伝導の仕組みや性質とその応用3
と、ここで、外部からの何らかの影響を受けた時のことを考えましょう。外部からの入力を受けるとこの最も安定な状態(基底状態)からより高いエネルギー状態(励起状態)になることがあります。励起状態を考える際には、当然最も高いエネルギーの部屋であるフェルミ面に住んでいる電子から順により上のエネルギーの「状態」に移動していくことになりますが、パウリの原理がありますから、すでに占められている「状態」に移ることはできません。
従って、もともと運動量空間の原点に近いところにいた電子は少しくらい高温になっても、上の「状態」は全て塞がっていることから、別の「状態」に移ることができません。(原点に近いところにいた電子がフェルミ面の上の空席まで一気に飛び移るには数万度もの高音が必要です。)
もともとフェルミ面の少し下にいた電子にとっては、わずかなエネルギーを貰えばフェルミ面の上の空席に飛び移ることができますから、比較的低音でもそのような飛び移りが起こるはずです。一旦そのような飛び移りが起これば、今度はフェルミ面の下に空席ができますから、より高いエネルギーを持っていた状態から別の電子が飛び移ってくることもあります。
有限の温度ではこのような動きが常に起こっています。常伝導状態では、運動量空間で各電子がお互いに影響されず、それぞれ無関係に飛び回っていると考えることができます。(この見方はもちろん厳密には正しくなく、近似的に考えていますが)
常伝導と超伝導の違い
常伝導と超伝導の違いは、この電子の状態の変化の仕方(タイミングと量)の違いです。
常伝導では、電子の移動がランダムに起こるのに対して、超伝導では規則的に起こります。
ここで、常伝導状態から超伝導状態への変化は相転移と呼ばれる現象であることをお伝えしました。 相転移というのは、ある物質の性質が急激に変わるというイメージを持たれると思いますが、それは協力現象というものがあるからです。電子それぞれが他の電子と相互的に影響を与えあうことで全体が協調して振る舞うようになることです。
それでは、実際に超伝導状態に起きている電子間の相互作用とはなんでしょうか?その相互作用が働いた結果どうなるのでしょうか?
以下で考えていきます。
元々基底状態であるフェルミ球においては、パウリの排他律によってエネルギーの低い部屋に複数の電子が入ることが許されないせいで、フェルミ面付近の電子達は、エネルギーが低い状態にいる方が心地よいのに、わざわざ高いエネルギーの部屋に入れさせられて若干のフラストレーションを感じていると想像出来ます。つまり、何かきっかけさえあればフェルミ面付近の電子達はより低い状態を取りたいと思っています。
ここで、フェルミ面付近の2つの電子同士に何らかの引力が働いたと仮定しましょう。
電子は全て-電荷を持っているので、電子同士には、クーロン反発力が働きます。しかし、電子同士の相互作用としては、直接的な反発力以外に磁気的なものや間接的なものもあるので、それらを総合すると物質によっては引力が働いているとみなせます。
このような設定で量子力学に基づいて計算をしてみると、この2つの電子を引力を介した1つのペアとして考えれば、元々電子が取っていたフェルミエネルギーよりも低いエネルギーを取りうることが分かるのです。つまり、このような引力がきっかけでフラストレーションを感じていたフェルミ面付近の電子達はこの低いエネルギー状態へと引っ越すことになります。
(ただし、元のフェルミ球の下の部屋は埋まっているので、フェルミ球の下の部屋に行くのではなく、下の部屋と元の部屋の間を改造して新たな部屋を作ったという風にイメージして下さい)。
このようにして、フェルミ面付近の電子達がこのペアをどんどん作って元のフェルミ球は崩れていき、別の安定な状態へと移行します。これが超伝導における基底状態になります。この時の電子のペアのことをクーパー電子対と呼びます。
以下、引用です。
クーパー対は、電子同士が何かばねのようなもので繋がれて一緒に動いている、というようにイメージして下さい。このように超伝導の基底状態は、フェルミ面付近にいた電子達がたくさんのクーパー対を作ることで生まれます。さらに、このクーパー対達は大勢で一つの波のように振る舞うという面白い性質を持ちます。つまり、一定の秩序がクーパー対達にはある訳です。この特異さをイメージするために例えば、スクランブル交差点を空から見たときのことをイメージしてみましょう。普段は人がバラバラな方向にそれぞれ移動しておりあまり秩序はないはずです。ところが、突然歩いていた人々が2列になって集団を組み、一定の方向に歩調を合わせて歩き出したとしたらそこには大きな一つの流れが出来ることになります。これがクーパー対の集団においても起きていて、これをコヒーレント状態と呼びます。このような超伝導状態の性質が電気抵抗を説明する鍵になります。
出典:https://event.phys.s.u-tokyo.ac.jp/physlab2021/articles/pi8lz8zo2l/
これまでで電子対を作ることはわかりましたが、果たして『電子がペアを作ることがさまざまな超伝導体の性質を生み出す要因である』と言えるのでしょうか?
以下でそれを考えたいと思います。
運動量空間ないの点で表される状態はあくまで一つの電子がとりうる状態を示しており、位置電子状態を指します。電子間の相互作用で超伝導状態を説明するにはこれでは不十分です。
ここで位置電子状態に対して、運動量空間全体で表される、全ての電子を同時に考慮した状態を仮に全電子状態と呼ぶことにします。全電子の数を仮にN個とします。Nは$10^{20}$というぐらいの大きな数です。運動量空間内の点のうちから、N個を選んでそれらの点が電子のよって占められて、他は全て空席だとすると、それが一つの「全電子状態」に対応します。
この「全電子状態」は全ての電子を考慮しているとは言っても、N個の位置電子状態を単に寄せ集めただけですから特に『単純な「全電子状態」』と呼ぶことにします。Nがもともとも巨大な数である上に、その組み合わせになりますから『単純な「全電子状態」』の数はほとんど無限大になります。
しかし、考慮しなければならないのは、このような『単純な「全電子状態」』だけではないです。実は量子力学における「状態」はいくつかの重ね合わせて新しい「状態」を作ることができるという性質を持っています
これを「状態」の重ね合わせと呼びます。重ね合わせは位置電子状態についても、全電子状態についても可能です。「状態」の重ね合わせは、学校で習ったベクトルの合成のようなものです。
超伝導状態とは、上で考えたような、運動量空間内の点のうち、N個を選んで作った『単純な「全電子状態」』ではなく、それらを重ね合わせて作られた『複雑な「全電子状態」』なのです。超伝導状態がほとんど無数にある『単純な「全電子状態」』のうちどれをどのように重ね合わせた『複雑な「電子状態」』からできているかが問題です。
1957年にアメリカの3人の物理学者がこの問題に取り組みました。
彼らは、運動量空間で、原点を挟んでちょうど反対側になる全ての一対の「一電子状態」をまずペアにしました。ペアにするという意味は、原点を挟んで対象の位置にある二つの点は常に両方占められているか、又は両方空席になっているということです。
そして超伝導状態を実現するためには全ての『単純な「全電子状態」』のうち、そのような性質を持っているものだけを重ね合わせれば良いと仮定しました。その重ね合わせ方は、全体のエネルギーが最も小さくなるように決めました。そして彼らはもし実際にそのような状態があったとするとその物質はどのような資質を示すのか計算することができました。
この結果によって、電子がペアを作った『単純な「全電子状態」』を重ね合わせた『複雑な「全電子状態」』が超伝導状態であり、超伝導現象の本質が、電子がペアを作ることにあり、それがさまざまな超伝導体の性質を生み出す要因であると結論づけることができたのです。
電気抵抗が"消滅する"ということを改めて考えてみる。
超伝導状態における電流を考えることは、クーパー電子対の流れを考えることになります。最初に電気抵抗は金属中の自由電子の動きを妨げる障害物のようなもの、と説明していましたが、この「障害物」の正体は格子振動と言われるものです。格子振動は、簡単に言うと結晶中の原子の振動のことを指し、格子振動は熱と共に大きくなります。さらに、先ほど説明したクーパー電子対を作る原因となった引力の正体もこの格子振動です。
ここで、クーパー電子対が格子振動によって阻害されるとしましょう。通常、金属中の自由電子は秩序立っていないため、個々の電子がこの格子振動によって跳ね飛ばされてエネルギーを失い、この失ったエネルギーがジュール熱となります。
ところが、この格子振動による「ばね」を持ったクーパー対では状況が違います。つまり、ばねの一方の端にあった電子がばねによって運動を妨げられてエネルギーを失っても、もう一方の電子がそのエネルギーを受け取って運動を阻害された電子の方に近づき、結果としてクーパー電子対は元の状態に戻ります。このため、クーパー対は格子振動によってエネルギーを失わず、そのため電気抵抗を感じないと説明することが出来ます。
ただ、これでは抵抗が"ゼロ"になっているのかの説明ができていないように思います。
超電導体ではなぜ電気抵抗が"ゼロ"になるのかを考えるために常電導状態ではなぜ電気抵抗があるのかという問題から出発する必要があります。
常電導体における電気抵抗の機構を運動量空間を用いて考える
常電導状態の性質は運動量空間を使うとよく説明されるのでした。運動量空間内のそれぞれの点はある速度を持って運動している一電子の状態を表しています。原点を中心とする球内の状態が占められており、外部の状態が空席になっている状態(中心が原点にあるフェルミ球)では、すべての電子の運動がそれぞれ相殺し合って全体としては電子の流れ、即ち電流はありません。ただし個々の電子はかなりの高速で動いています。
この状態にたとえばx方向に電場を印加するとどういう変化が起こるでしょうか。電子は負の電荷を持っていますから電場の方向と逆向きに力を受けます。そのために個々の電子の運動の方向が-xの方向に変化しようとします。このことを運動量空間で説明すると、全体として運動量空間内のフェルミ球が少し-x方向に移動することになります(図6)。
図6: -x方向に移動したフェルミ球
出典:やさしい超伝導[^1]
すると電子の運動が全体として相殺されず、その分だけ-x方向の運動が残ります。即ち+xの方向に電流が流れることになります。そのとき全運動量エネルギーは多少大きくなりますさて電子は真空中を動いているわけではなく、伝導電子を失って差し引き正の電荷を持つことになった原子が並んでできている固体の中を動いています。従って、すぐにも原子にぶつかりそうです。
しかし実は量子力学の世界では電子は波のような性質も持っており、原子が規則正しく並んでいる限りは、原子に邪魔されずに、あたかも真空中を進むかのように運動することができるのです。
しかしこれはあくまで原子が規則正しく並んでいる時の話です。実際には原子は多少振動しています。そのため原子の配置の規則正しさが失われ、電子の運動も乱され、真空中を進むかのように運動することができなくなります。
運動量空間の各点は一定の速度で動いている状態に対応していますから、電子は運動量空間の一点に長時間とどまることはできず、別の点で表される状態に飛び移ることになります。電子の状態間の飛び移りはパウリの原理を破らない範囲でランダムに起こりますが、確率的にはエネルギーの高い状態から低い状態への変化が起こりやすいので、上で考えた、フェルミ球が少しシフトした状態は電場を印加し続けない限り、やがて元の中心の位置に戻ってしまいます。
つまり電場を加え続けない限り、一定の電流は維持できないのです。言い換えると電気抵抗があることになります。それでは超電導体では何が違ってくるのでしょうか。
なぜ超電導状態では電気抵抗が"ゼロ"と言えるのか (の準備)
超電導現象においては「エネルギーギャップ」という言葉が重要なキーワードになっています。 この節ではエネルギーギャップの意味を少し丁寧に説明したいと思います。エネルギーギャップは 常電導状態では存在しません。ギャップがないということは連続的だと言うことです。
そこでまず、常電導状態においてエネルギーが連続的であるということの意味を説明します。常電導状態での性質は運動量空間を使ってうまく説明できるということをお話ししました。運動量空間の各点はそれぞれ異なる一電子の状態を表しています。運動量空間ではたくさんの点が密集しています。したがって隣り合った点が表す状態のエネルギーの大きさの差はわずかです。
今、常電導状態で最もエネルギーの低い状態、つまりフェルミ面の内側の状態がすべて占められており、フェルミ面の外側がすべて空席になっている状態を考えます。フェルミ面のすぐ下にある電子をフェルミ面のすぐ上の空席の状態に移動させてみます。今考えた二つの一電子状態は近接していますからそれぞれのエネルギーはほとんど同じです。従って移動の前後で全電子状態のエネルギーもほとんど同じです。
このように、常電導状態の全電子エネルギーは最も低い値から始まって、遥かに高い値まで、事実上すべての値を連続的にとる事ができるのです。このことをエネルギーギャップがないと表現します。これは極めて自然なことと思われますが、超電導状態では以上の議論が成立しないのです。
超電導状態では電子間に引力があり、全電子がある規則性を持った状態をとることにより、この引力によるポテンシャルエネルギーの大幅な低下を実現し、運動量エネルギーに関しては多少大きくなるにもかかわらず、全エネルギーの減少が実現されているのでした。またこの現象は協力現象であり、すべての電子がすべての電子の影響を受けて全エネルギーの低下が実現しているのでした。
この状況は運動量空間では表しにくいのですが、強いて描写すれば、運動量空間の点滅に規則性があり、特に原点を中心に対称な位置にある二つの点は常に同時に点滅しています。ここでどれか一つの電子をこの規則的な点滅から逸脱させ、別の点に移したとします。
超電導状態ではフェルミ球の外側の状態も一部確率的に占められており、内側の状態も一部確率的に空席になっていたことを考えると、運動量エネルギーだけに関しては、この操作により大きくなるどころかむしろ小さくすることも可能です。
しかしポテンシャルエネルギーに関してはどうでしょうか。問題は超電導状態におけるポテンシャルエネルギーの低下はあくまで協力現象であることです。そのため一個の電子が規則的点滅から逸脱したことは、その一個の電子のエネルギーが増加することを意味するだけではなく、他のすべての電子のエネルギーにも影響を与えるのです。
わずか一個の電子を超電導状態から逸脱させることにより、その影響が全電子に及び、全体のエネルギーとしてはかなり大きな増大が起こってしまうのです。そのため超電導状態を一部壊そうとするといきなりエネルギーが大きくなってしまいます。この事情を超電導状態にはエネルギーギャップがあると表現しています。
超電導状態における電気抵抗の消滅の結論
いよいよ超電導状態でなぜ電気抵抗が消滅するのかの説明に取りかかることができます。まず超電導電流が流れている状態はどのようなものでしょうか。常電導状態で電流が流れている状態はフェルミ球が全体としてシフトしたような状態だというお話をしました。
これは超電導状態についても同じです。全体が規則的に点滅している状態を全体として運動量空間の中でシフトさせると超電導電流が流れている状態が実現されます。
その状態では原点を中心として対称な位置にある点が同時に点滅するのではなく、原点から少しシフトした点を中心として対称な位置にある点が同時に点滅することになります。全体としては運動量エネルギーが少し大きくなりますが、それでも立派な超電導状態なのです。
常電導状態の場合フェルミ球がシフトした状態は電場をかけ続けないと、電子の散乱のためにやがてもとの電流が流れていない状態に戻ってしまうのでした。
超電導体の場合も潜在的には電子を散乱させる機構はあります。しかし電子を散乱させることは、その電子を超電導状態の規則性から逸脱させることになります。その結果エネルギーがエネルギーギャップの分だけ大きくなってしまいます。エネルギーは全体として保存されなければなりませんから、その分のエネルギーはどこからか注入する必要があります。
そのエネルギー源がない場合は超電導電流が流れている状態は変化したくても変化のしようがなく、その状態にとどまり続けるしかないのです。つまり電流は流れ続け、電気抵抗はないことになります。
超電導電流が流れている状態(原点からずれた点を中心とする超電導状態)は電流が流れていない状態(原点を中心とする超電導状態)より全体として大きなエネルギーを持っています。それなら後者の方がより安定なので、前者が自然と後者に移り変わるということがおこらないでしょうか。
これは原理的にはあり得ます。ただしこの変化が、固体を作っている原子の振動による電子の散乱によって起こる可能性はほとんどゼロです。その変化を起こすためにはすべての電子を同時に都合良く散乱させる必要があり、そんなことは確率的にあり得ないからです。
超電導状態といっても無限に大きな電流を流せるわけではありません。流れている電流があまりに大きいときは運動エネルギーの増加が大きすぎ、ポテンシャルエネルギーの低下の効果が及ばなくなるため超電導状態は壊れてしまいます。そのため超電導体が抵抗ゼロで流すことのできる電流値には限界があります。この電流値を対破壊電流と呼んでいます。
動いている物体は力を加え続けない限り、スケートリンクのような滑りやすい場所でさえ、いずれ摩擦のために止まってしまう、という事実を経験しているので納得しやすいのだと思います。かといって、それではなぜ摩擦があるのですかという質問に答えられる人は少ないとおもいます。納得できるかできないかの違いは、単に慣れているかどうかにすぎないのかもしれません。
まとめると…
以上の『なぜ"ゼロ"になるか』という話をまとめると、超伝導状態で抵抗が"ゼロ"になるのは『常伝導状態において電気抵抗をもたらしている機構が、超伝導状態ではエネルギーギャップの存在により、働かなくなるため』です。
運動量空間における電気抵抗の消滅の捉え方
こちらの資料の(その5)にとても興味深い内容がございました。
「回転しているコマはなぜ倒れないか」「ニュートリノはなぜ地球をも透過するか」
という話から、超伝導で抵抗がゼロになる理由の考え方として、「抵抗がゼロにならないと物理過程が自然法則に反するので許されないから」というものがあると紹介してくださっていたのは印象的でした。
「もっとやさしい「超伝導」のおはなし」
技術の開発アプローチ
開発の方針には、大きく3つあります。
- 理論研究
- 材料開発
- 超伝導技術の応用
その中でも特に材料開発と超伝導技術の応用について詳しく述べていきたいと思います。
材料開発
性能の改善とその壁
超伝導になる条件(制約)というのがあります。これを伸ばしていくことが必要です。
工業的な文脈ではには超伝導が線材や胴体として実用化されるには十分に高いTc、Jc、Hc2を持ち、超伝導性が崩壊しづらい材料を探すことが要求されます。それを実現する材料の研究開発が進められています。
温度の壁
BCS理論の基本は電子が講師に及ぼす影響について考えています。電気をよく通す物質は、この相互作用が弱いことを意味しています。事実、菌や銀や銅などの良導体は超伝導にならず、電子が格子に与える影響が弱すぎるのです。一方温度が高くなり、格子の熱運動が激しくなると、電子が引き起こす小さな振動などその中に埋もれてしまう、つまり、温度が高くなると超伝導機構が働かなくなるということが起きます。よって高温で超伝導を生じさせるには熱振動に勝つぐらい、電子が格子に与える影響を大きくする必要があるのです。
電子格子の相互作用はどこまでも強くできるのでしょうか?
強くなり過ぎると、電子が講師に捉えられて動かなくなり、絶縁体になってしまいます。つまり、自由電子が自由に動ける状態で、強くできる電子講師相互作用には限界があるということです。
これはこの気候では超伝導になる温度に上限があることを示しています。これをBCSの壁と呼んでおり、30-40K程度だと考えられています。
1986年までは、多くの人がBCSの壁が限界だと考えていましたが、それが覆されたのが高温超伝導の発見である。130Kという高温で超伝導が起こされております。しかし、高温超伝導のメカニズムについては、いくつか有力な理論が提出されているものの、決着がついていないのが現状です。
臨海磁場の壁
今回、詳細な言及を避けた、マイスナー効果に関する項目です。マイスナー効果の発見によって超伝導状態が常伝導状態とは異なる新しい熱力学的状態であることが明らかになったのですが、これは、超伝導状態では、外部磁場が超伝導体内に存在できないことに対応しています。これが実現できる条件には限りがあるよというのがここでの話です。
詳細は割愛します。
今使われている超伝導体材料
整形方法
超伝導体の整形方法には以下のものがあります。
- 線材
- バルク(塊)
- 薄膜
工業的には、電線やコイルの形にしたいです。ただ、全て潜在化できるわけではないのです。そもそも伸ばせない、曲げたら破断するといった性質を持った金属が多いので強度との両立を取るために配合を変えたりして調整しています。
ちなみに、薄膜には超伝導体のジョセフソン効果を活かした磁気センサーなどがあります。
材料
代表的な超伝導体は以下の通りです。
- 水銀
元祖超伝導素材です。
. - ニオブ&チタン,スズ
チタンは線材化され、コスト○、伸びやすい、ということから普及しています。
欠点は磁場の強さが10テスラがMAXであることです。
すずの方は30Tまで大丈夫ですが、線材化が難しいです。
. - 銅酸化物
液体窒素(-196°)で超伝導状態になることが最大の利点です。
この性質から高温超伝導体と呼ばれます。
ただし先ほどお伝えした通り、化学的なメカニズムが理解されていないため解明が続いています。
. - イットリウム利用
YBCO(YBa2Cu3O7)
高温超伝導体の一種。イットリウムY、バリウムBa、銅Cu、酸素Oからなる
. - ビスマス利用 ←BSCCO ストロンチウム、カルシウム、
線材化が難しいためコイルやケーブルにはできない(?)
超伝導体は磁場に弱く、ある程度の強さの磁場が発生すると超伝導状態は失われてしまいます。
これを臨界磁場といいますが、この臨界磁場が低く扱いづらいことが難点です。
. - 2ホウ化マグネシウム
青山学院大学が-234°で超伝導化させました。
転移温度が高く、ニオブより性質が優れており、銅酸化物より線形化しやすいという、非常にバランスが良い素材です。
. - 鉄系超伝導体
物質内部に磁性があると壊れてしまうというクーパー電子対の性質から、強磁性を持ってしまう"鉄オンリー"はだめです。ヒ素やセレンと一緒に組み合わせると超伝導体になります。
そのほか詳しいことを知りたい方は以下のようなサイトを参考にされることを推奨いたします。
[超伝導 Web21]
扱っている項目
・結晶成長(一般論)
・鉄系超伝導体の薄膜作製
・MgB2の薄膜作製
・Nb,NbN薄膜およびデバイス作製技術
・Bi-2223線材
・REBCO系線材
・低温超伝導線材、Bi-2212線材、MgB2線材、鉄系線材
・酸化物系ジョセフソン接合
・固有ジョセフソン接合
今後の方針
こちらの記事で、高温超伝導についてまとめてくださっていました。
サイトの目次
1. はじめに
2. 高温超伝導
3. 高温超伝導が注目される理由
4. 超伝導関連市場
5. 超伝導送電の技術
6. 超伝導送電の課題
7. 考えられる課題解決策とは
8. 超伝導の未来
ところで、2023年7月22日に、韓国の研究機関「Quantum Energy Research Centre」がarXivにて発表した論文をきっかけに「常温常圧超伝導」が話題になっています。
論文は常温かつ常圧で超伝導状態になる「LK-99」を開発したという内容で、論文の再現性を確認できれば、これまでの常識を覆す発見になります。
この論文が世界に衝撃を与えている理由は、主に以下の3点です。
- 常温・常圧で超伝導状態を実現できること
- わりと簡単に作れること
- 産業革命をはるかに超える革命が起こる可能性があること
室内超伝導についてコラムはこちらにあります。
超伝導技術の応用
実用上の制約
超伝導体の使用中に何らかの原因により温度、磁場、電流密度のいずれかが臨海値を超えたら何 が起こるのでしょうか?
まず、超伝導状態が破壊されます。すると電気抵抗が発生するので、電流う密度がすぐにゼロにならないとすると大きな発熱が起こり、超伝導体の温度がますます上昇し、発熱します。
このように連鎖的に温度が上昇する事故は、クエンチ現象と呼ばれます。例えば、液体ヘリウムが急激に気化すると体積が700倍になり、機体が損傷する他、室内の酸素濃度が低くなることで人体に深刻な影響をもたらします。
超伝導状態が維持されるかどうかは、温度、磁場、電流密度の三つのパラメータで決定され、臨海温度は超伝導体の種類が決まるとほぼ決まると言えます。高い臨海温度を持った新しい超伝導体が発見されると嬉しいですね。臨海電流の値は、超伝導体の種類が決まっても一意的には決まらず、さまざまな要因によって変わります。従って、より高い臨海電流値を実現することは材料の開発者の腕の見せ所になります。製造プロセスによって改善できるかどうかという点に関しては、臨海磁場の場合は臨海温度と臨海電流値の中間くらいで基本的には物質で決まるが、多少は色々な外部要因によっても変わるそうです。
他にも、交流であることで、損失が発生することが大きな論点になります。このことのために交流損失の少ない材料開発を進めなければならないし、機器開発に関しても交流損失の少ない機器構成を考えなくてはならなりません。
さらに、電力系統の中に組み御魔れることが多いことが挙げられます。系統に組み込まれた場合、万一の事故があると大きな影響が出ます。信頼性を徹底的に追求し、技術を熟したものにしないと実用にはならなりません。
研究開発は、直流→パルス→交流の順に難しくなり、信頼性が利用者に与える影響は科学技術分野<一般産業<電路<運輸等社会インフラ分野の順に大きくなると考えられます。。
応用先
超伝導には以下の特徴/メリットがあります。
- 電気抵抗がゼロである
- 電気を発電所から家庭、工場までロスなく送ることができる。
- 超電導線材で閉回路を作れば、電流はいつまでも流れ続ける。つまり、電流が直接貯蔵できる。
- 高い磁界を発生するので機器のエネルギー変換効率が良い
- 強い磁場が電力消費をせずに発生できる
- 各種電力、産業機器の小型化。 高性能化、省エネ化が可能となる。
- 高速のスイッチが作れる
- 超高速、低消費電力のコンピュータやネットワークが実現できる。
- 弱い磁場を検出したり、磁場を遮断したりできる
これらのメリットを活かすような応用先として以下の項目が挙げられます。
エネルギー
- 超電動発電機
- 超伝導変圧器
- ケーブル
- 超伝導限流器
- 超伝導モーター
- 大型加速器
- 核融合装置など
モビリティ
- 磁気浮上列車 (リニアモーターカー)
- 超伝導エネルギー貯蔵装置
- 電磁推進船
- 電気自動車
医療
- MRI
- 心磁計
- 脳磁計
- NMR
エレクトロニクス
- ルーター
- AD変換機
- 量子コンピュータ
- 高速大容量通信システム
- 非破壊検査装置
- 地殻中金属資源探査装置
- マイクロ波受動デバイス
- 磁気検出器(SQUID)
- テラヘルツ受信機
- 光子検出器
- デジタル集積回路
超伝導の市場
こちらでまとめてくださっています。
サイトの目次
1. はじめに
2. 高温超伝導
3. 高温超伝導が注目される理由
4. 超伝導関連市場
5. 超伝導送電の技術
6. 超伝導送電の課題
7. 考えられる課題解決策とは
8. 超伝導の未来
また、こちらでも超伝導製品について解説をしてくださっています。
図2 低温超電導または高温超電導を利用した超電導製品・技術
出所:古河電気工業株式会社ホームページ “超電導とは”(閲覧日:2018.7.5)
(参考)超伝導のいままで
以下、引用です。
超伝導の歴史のはじまりは1911年です。オランダのカマリン・オンネスが※4K(-269°)で水銀の電気抵抗がゼロになるのを発見しました。その後、スズや鉛でも起こることが発見され、多くの研究者が超伝導について研究するようになります。超伝導の研究がさらに一歩進んだのは、1957年にバーディーン、クーパー、シュリーファーの3人の科学者により提唱された「BCS理論」です。BCS理論は超伝導の研究だけではなく、多くの物理学に影響を与えるほど完成度の高い理論でした。しかし、BCS理論では超伝導現象が起こるのは30K(-243°)程度と推察されました。この温度帯のことを「BCSの壁」と呼び、この壁を突破する超伝導体の発見が研究者の大きなテーマになっていきます。1986年に、ベドノルツとミュラーにより30K(-243°)の超伝導体が発見されたのを皮切りに、BCSの壁を大きく打ち破る92K(-181°)の高温超伝導体が発見されます。ここでの高温超伝導とは、液体窒素温度77K(−195.8 °C)以上で転移するものを指します。それまで高価な液体ヘリウム(温度4K)を用いて冷却していましたが、液体ヘリウムより安価(おおよそ1/10の価格)な液体窒素を用いても超伝導に転移出来るため、様々な可能性が広がることになります。その後も多くの研究者が現在に至るまで、より常温・より常圧に近い超伝導体を探しているのが超伝導の歴史です。
上記からわかる通り、超伝導現象の解明には多くの時間が費やされ、以下のような理論が構築されました。
・マイスナー効果
・ロンドン方程式
・同位体効果
・ギンズバーグ-ランダウ理論
・BCS理論
シミュレーション技術
LTspiceで超伝導遷移端検出器の電熱フィードバックを簡単にシミュレーションする方法
https://qiita.com/yamadasuzaku/items/458b152a4e1ba606a365
JuliaでTightBinding模型を作ってみた
https://qiita.com/cometscome_phys/items/2bc0859cec8bb12e8d83
超伝導デバイスでの電気特性の数値計算
https://qiita.com/hiro949/items/b0c7c36ad260a550e374
[1]やさしい超伝導のおはなし - 2010 (閲覧日:2023.10.28)
http://www.istec.or.jp/web21/series/2010-nakao.pdf
[2]やさしい超伝導のおはなし - 2003 (閲覧日:2023.10.28)
http://www.istec.or.jp/web21/series/2003-murakami.pdf
[3]超伝導の仕組みや性質とその応用 (閲覧日:2023.10.28)
https://event.phys.s.u-tokyo.ac.jp/physlab2021/articles/pi8lz8zo2l/
[4]三菱総合研究所「超伝導技術の将来展望」(閲覧日:2023.10.28)
https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20180807.html