先日、知人から正社員の打診をもらった。
これをきっかけに、フリーランスSE(SES前提)で4年やって見えたメリット/デメリットと、誰に向くかを実務目線でまとめる。
スタンス
これは「フリーは茨の道だ」と脅す記事でも、「誰でも稼げる」と煽る記事でもありません。
特別な才能は不要だけれど、甘い前提で動くと苦労する——ど真ん中のリアルを書きます。
そして、最近はフリーに限らず自分に合った働き方(正社員・個人開発など)へ視野を広げるのもアリだと感じています。
目次
- 前提(SES想定)
- フリーランスのメリット(条件付き)
- フリーランスのデメリット/落とし穴
- 正社員との対比(要点サマリ)
- 視野を広げる:フリーランス“以外”の選択肢(実例メモ)
- 余談:なぜ「フリーランス転向広告」が多いのか
- フリーランスSEに向いている人・向いていない人
- まとめ
前提(SES想定)
- エージェント(SES)経由の準委任案件が中心。
- 1案件の稼働は半年〜数年が多め。
- 採用時の評価は実績ベース(過去案件での経験有無が強い指標)。
- 未経験歓迎は稀。現場で信頼関係を築いてからチャンスを得るのが基本。
フリーランスのメリット(条件付き)
1) 高額報酬が狙える
- 実装・テスト → 設計 → 要件定義と上流へ行くほど単価は伸びやすい。
- 実装・テストしか経験がない場合はどうするか?
同一顧客での別案件スライドにより、設計から入れる可能性が出る(日頃から設計観点を示す/アウトプットでバリューを出して評価を上げる)。
- 実装・テストしか経験がない場合はどうするか?
- 管理側への転向(メンバー→サブリーダー→リーダー→PM等)も選択肢。ただし求められるスキルは別軸。
補足
- レガシー/下流寄りは単価が伸びにくい傾向。
- モダン系は実務経験が特に強く問われる。レガシーからの転向機会は限定的。
- フリーの場合即戦力としての活躍が期待される。正社員と異なり「未経験でも経験を積ませるため」という配慮は期待しにくい。
2) 技術選好ができる
- 条件提示はできるが、採用側の基準は期限と品質で価値を出した実績。
- 自学は好印象を与える加点要素(商談を十回以上経験した体感)。ただし、採用可否のベースラインは別(“ギークさ”と“顧客にとっての価値”はイコールではない)。
- 自学の重要性を否定するものではない。むしろ自助努力しないとジリ貧となる。最近特に技術進歩の速度そのものの加速を実感する。
3) 稼働コントロールの自由度
-
フル稼働でないと案件は激減。
- ゼロではないが競合と案件の取り合いになる。
- 件数が少ないのでタイミングが合わないこともある。
- 1–2か月待てる余裕資金があると選択肢が広がる。
- レガシー寄りはフル前提が多い体感。
- なお、諸事情により非稼働期間があっても、実績さえあれば再参画は可能。
商談で経緯を聞かれても、無難な答えを準備しておけば問題ない。
私自身も経験済み。不安ならSESの担当者に相談すると良い。
4) 働き方の条件選択
-
リモート案件数は「増えている」説と「減っている」説の両方があり、エージェントによって意見が異なる(2025年7月時点)。
- おそらく、エージェントによって取引先に偏りがあるからではないか。
-
リモート可否は取引先文化の影響が大きい。
- いわゆる“昭和っぽい”会社は出社率高めの印象。
- スタートアップやモダン寄りの技術を使う現場は働き方も柔軟な傾向。
5) 現場に入るほど“学び”が増える=条件交渉のカードになる
-
新規参画で100%既知はまず無い:環境・プロジェクト管理手法・ツール等、何かしら未経験。
例)アプリは経験の有るPythonでも周辺で未経験のAWS構築に部分参加 → スキルシートに「AWS経験あり」と書ける。 - 小さく触れた新技術でも、作業範囲/アウトプットを具体化して書けば実績化できる
(例:「VPC/ALB設定」「認証機能のElastiCache化検証」など)。 - その実績は契約更新・次案件での評価ポイントとなるため、単価・条件の交渉に直結。
6) 継続打診=交渉チャンス(単価/時短/スキル)
-
当初のプロジェクト終了時、顧客からの別プロジェクト参画打診は交渉が通りやすい局面。
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交渉例:
- 単価:◯万円 → ◯万円+α
- 稼働:フル → 時短(160h→140h等)
- スキル:現行A → 未経験Bへ移行もしくは追加
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-
SES経由なら交渉は営業に任せればOK
- こちらは現場での価値に集中しつつ…、
- 営業担当者に先方評価をヒアリングしていただく(勇気があれば自分で聞いても良い)
- 営業担当者にこちらの希望を伝え、通りそうか相談
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手応え(スキルや生産性向上)と条件アップが連動すると、自己効力感向上との好循環が起きる。
🟩 現場が「思ったのと違う」と感じた時の立ち回り
- 実際に入ってみると「想定と違う」現場は珍しくない。
ただ、すぐに抜けるよりもある程度継続して実績を作る方が交渉材料になる。
「○○の課題を改善した」「XX環境でも安定稼働した」という実績が次の商談で強い武器になる。 - 視野を広げてプライベートも含めて考えると良い。例えば業務は退屈でも残業が少ない現場なら、個人開発や学習時間の確保という形でメリットに転換できる。
- 一見“外れ”に見える案件も、うまく活用すれば次につながる材料になる。
“我慢”ではなく自分に有利なように“再設計”するのがおすすめ。 - あまり短期間での離任を繰り返すと後の商談で不利になる。
フリーランスのデメリット/落とし穴
1) 収入が変動する(税のタイムラグも要管理)
- 長期参画なら変動は小さめ。
- 報酬が急にアップした場合、翌年税額の跳ね上がりに備えが必要(住民税など見落としのないように)。
- 私は翌年に体調不良で収入ゼロ月があり、キャッシュフローがタイトになったことがある。
- とはいえ長期参画の募集は多いので、正社員ほどではないが安定稼働は実現可能。信頼があれば先方から継続打診も来る。
2) 組織のバックアップがない=心理的な孤立リスク
- フリーの場合、体調不良やスランプ時に支えてくれる仕組みがない。
誰かが代わりに動いてくれるわけでもなく、心理的に孤立しやすい。 - 組織に属していないということは、人間にとって意外とストレスになる。
自分から助けを求めるスキルも、フリーとしての大事な能力の一つ。 - 不安を感じやすい人は仕事も丁寧なので自己評価 < 顧客評価となりやすい。
あまり重く考えずに相談してみると良い。 - 各方面の関係者(特に現場の上長やSESの担当者など)と普段からこまめにコミュニケーションを取っておくことが重要。
-
不安を感じたら早めに相談。これは弱音ではなく、リスク管理の一部。
「実はついていけるかちょっと不安がありまして…」等と言えるかどうかが、長く続けるための鍵。 - 「通勤が負担ならリモート頻度増やしましょうか?」等と柔軟に対応してもらえることもある。
3) スタートラインに必要なのは“特別な才能”ではなく“普通のパフォーマンス”
-
採用側の実感:「スキルが圧倒的に不足している方からの応募が多い」(採用担当者ご本人から直接聞いたことがある)
-
まずは現職で評価を固める→転向が王道。特別な経歴でなくても、
- 一人分のアウトプットを出せる
- 期日・品質を守れる
- 守れなければ早めに相談・調整できる
- 抱え込んで期限直前に「できてません」したりする癖がない
- 柔軟な協調性
が“普通にできる”なら十分。
-
現職で「一人称で動けている」なら、他所でも通用する可能性は高い。自己評価と市場評価のズレがあると苦労しやすい。
4) キャッチアップ力が問われる
- おおむね1か月で「立ち上がる」ことが期待値。ここで“使えるか”を見られる。
- あまりにもキャッチアップに手こずると、そこで更新終了もあり得る。
- 能力より心構えの問題。新しいことを吸収する姿勢を習慣にする。
- 実例)長年ニッチな分野で保守をやってきたベテランが新環境にキャッチアップできず。
「〇〇なら得意なんですけどね~」が口癖になっている。
顧客は「キャッチアップできると言っていたのに話が違う」と漏らしていた。
正社員との対比(要点サマリ)
| 観点 | フリーランス | 正社員 |
|---|---|---|
| 安定性 | 変動。税のタイムラグに注意 | 高い(休業耐性・福利厚生) |
| 学習・育成 | 自走前提 | 育成視点でのサポートが得やすい |
| 単価上限 | スキル・実績次第 | 社内制度により決定 |
| 案件選択 | 自分で選べるが競争もある | 会社都合(ただし異動で調整可) |
| セーフティ | 自己防衛 | 制度で守られやすい |
視野を広げる:フリーランス“以外”の選択肢(実例メモ)
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実例:知人の会社では、時短歓迎・フルリモートの正社員募集をしていた。
-
所感:こういう募集は求人媒体よりも人づてで入ってくることが多い。
-
出会い方(リアル推奨):
- 交流会や勉強会など、リアルな場で話す。
- FP講演会などファイナンシャル系イベントは未来志向の人が多い印象。
- 趣味の集まりも有効。2人で食事やカフェに行ける関係が築ければ、向こうから**「一緒にやらない?」**となることも。
-
示唆:
- 「フリー一択」と決めず、関係性を少し広げてみる。
- 会社によっては正社員でも柔軟性の高い働き方ができる。
余談:なぜ「フリーランス転向広告」が多いのか
- 市場が加熱し、希望者ばかりが増えて案件が飽和し始めると、
「未経験でも月80万」「今がチャンス」といった参入ハードルを低く見せる広告が増えやすい。
目的は、少ないチャンスにねじ込める人材プールを確保するため。
こうした構造は長期的には市場全体の信頼性を下げる悪循環にもつながる。 - 現実は、実務で価値証明できる人が伸びるだけ。
→ **構造(需要・単価・リスク配分)**を理解し、現実に即したキャリア設計を。
フリーランスSEに向いている人・向いていない人
| 観点 | 向いている人 | 向いていない人 |
|---|---|---|
| 1. 環境変化への適応力 | 新しい環境やルールを柔軟に受け入れ、学びに変えられる | 新しい環境や文化の変化を強いストレスとして感じる |
| 2. 自己管理と主体性 | スケジュール・健康・学習を自分で計画・調整できる | 誰かに管理・指示されないとペースを保てない |
| 3. 学びの姿勢 | 未知の技術を自走でキャッチアップできる | 教えてもらえないと動けず、受け身になりがち |
| 4. コミュニケーション | 最低限の報連相や相談を自分からタイミングよく行える | 問題を抱えても周囲に助けを求められない |
| 5. 安定と自由の価値観 | 安定よりも、経験の多様性や裁量の広さを重視する | 収入・地位・人間関係など、安定を最優先にしたい |
| 6. モチベーションの源泉 | 「スキルを伸ばす」「自分で選び取る」などの内発的動機で動ける | 「なんとなく自由そう」「稼げそう」など外発的動機が中心 |
| 7. 孤独耐性と心理構造 | 自由を成長や整理の機会として活かせる | 選択肢が与えられると不安や焦りが強まる |
| 8. 評価・報酬への考え方 | 評価を成果と信頼で勝ち取る感覚を楽しめる | 「保証されたい」思考が強い |
まとめ
フリーランスは特別な才能が必要な働き方ではありません。
ただ、構造的にどうしても自由とリスクを自分でコントロールする必要が出てきます。
それを理解したうえで「やってみたい」と思えるなら、挑戦する価値はきっとあります。
元々正社員で実績があるなら、その経験をベースに活躍することができます。
たとえ最初はうまくいかなくても、やりながら成長していけます。
私自身は現在フリー継続中ですが、状況が変われば最適解も変わると考えています。
“学び→実績→交渉→条件更新”のループを回しつつ、選択肢は常に開いておくのが安心です。
この記事がフリーランス転向を考える方の参考になれば幸いです。