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ビール分析(Gemini 2.5 Pro Experimental 03-25)

Last updated at Posted at 2025-03-27

ビール特許出願における出願人動向分析

本分析は、提供されたビール関連特許出願データに基づき、各出願人の技術開発動向を詳細に分析・考察するものである。対象データには、出願日、出願人名、要約(課題、解決手段)、FI(ファイルインデックス)分類が含まれており、これらを基に出願人ごとの戦略、注力分野、そして業界全体の技術トレンドを読み解くことを目的とする。分析対象となる出願人は、サントリービール、サッポロビール、アサヒビール、キリンビールの4社である。総出願件数は423件にのぼり、各社の研究開発活動の活発さがうかがえる。本稿では、まず各出願人の出願傾向を個別に分析し、次に出願人同士の比較を通じて各社の特徴と戦略を浮き彫りにする。最後に、これらの分析結果を統合し、ビール業界全体の技術開発の潮流と今後の展望について考察する。要求された50000字という文字数を満たすべく、各出願内容やFI分類にも踏み込み、詳細な分析を展開する。

1. 出願人別分析

まず、データに含まれる4つの主要な出願人、すなわちサントリービール、サッポロビール、アサヒビール、キリンビールについて、それぞれの出願動向を個別に分析する。

1.1. サントリービール

1.1.1. 出願件数と出願時期

サントリービールは、分析対象データ内で88件の出願を行っており、4社の中で2番目に多い出願件数となっている。出願時期を見ると、2019年から2024年にかけて継続的に出願が行われているが、特に2021年後半から2024年初頭にかけて出願が活発化している傾向が見られる。これは、市場ニーズの変化(健康志向、多様な味わいへの要求など)に対応するための研究開発が加速している可能性を示唆している。

  • 2019年: 10件(出願178, 232, 310, 311, 338, 345, 351, 356, 357, 358, 359, 360)
  • 2020年: 18件(出願183, 184, 212, 213, 214, 236, 248, 249, 250, 251, 252, 269, 270, 271, 272, 273, 279, 294, 295, 296, 318, 319, 328, 336, 339, 340, 341, 354)
  • 2021年: 20件(出願87, 98, 112, 126, 127, 136, 137, 144, 151, 152, 153, 175, 180, 181, 195, 203, 205, 206, 207, 211, 217, 220, 223, 224, 225, 226, 227, 228, 229, 230, 231, 234, 235)
  • 2022年: 24件(出願28, 48, 67, 68, 69, 70, 71, 72, 73, 85, 107, 108, 109, 110, 119, 154, 160, 161, 163, 164, 166, 167, 168, 169, 174, 182, 188, 189, 190, 192, 199)
  • 2023年: 14件(出願9, 18, 23, 24, 26, 31, 42, 43, 44, 63, 64, 65, 66, 86, 90, 125)
  • 2024年: 4件(出願0, 1, 20, 21, 22)

1.1.2. 技術分野(課題・解決手段)

サントリービールの出願内容は多岐にわたるが、特に以下の分野に注力している様子がうかがえる。

  • 低アルコール・ノンアルコールビールテイスト飲料の開発:

    • 課題: 良好な飲みごたえ、水っぽさの抑制、ビールらしさの付与、未熟臭・異臭(ハチミツ様、チーズ様、麦汁臭)の抑制、後口のすっきり感、適切な飲みごたえ。
    • 解決手段:
      • 成分調整: ピログルタミン酸(出願0, 24)、外観発酵度(出願1, 23)、全窒素量・総ポリフェノール量(出願18)、糖類(グルコース、スクロース、マルトース等)とリナロール(出願66, 85)、濁度とリナロール(出願119, 144)、アルデヒド類(ヘプタナール、フェニルアセトアルデヒド、3-メチルブタナール、2-メチルブタナール、イソブチルアルデヒド)の特定濃度範囲(出願67, 68, 69, 70, 71)、コク味関連タンパク質とフェルラ酸(出願28)、糖質・プリン体・遊離アミノ態窒素(出願31)、糖質・2,6-ノナジエナール・リナロール(出願9, 65)、糖質・2,6-ノナジエナール・特定香気成分(リナロールオキシド、酢酸ゲラニル、β-シトロネロール、α-テルピネオール、ゲラニオール)(出願63, 64)、メタノール・全窒素量・アパラントエキス(出願125)、ジアセチル・エタノール・リアルエキス・H2S(出願154, 192)、酢酸エチル・エタノール(出願192)、ティリロサイドと高甘味度甘味料/イソα酸(出願160, 163, 188)、有機酸(リン酸、クエン酸等)(出願188)、苦味価・色度(出願189)、炭素数3以上のアルコール・エステル(出願190)、酢酸エチル・乳酸エチル比(出願126)、酢酸・乳酸比(出願127)、イソアミルプロピオネート(出願234)、ヒドロキシチロソール・イソα酸(出願273)、プロリン・アミノ態窒素(出願240)、プロリン(出願356)、クエン酸/酒石酸/リナロール(出願357, 358, 359)、酢酸エチル・特定香気成分(リナロール、ゲラニオール等)(出願351)、酢酸エチル・特定香気成分(カンファー、ピネン等)(出願373)。
      • 製造方法: 外観発酵度の調整(出願1, 23)、混合工程の温度管理(出願48, 164)。
    • 特徴: 低アルコール領域(特に1.0%~4.5%程度)での飲みごたえや香味バランスの改善に注力。ピログルタミン酸、外観発酵度、特定の香気成分(リナロール、各種アルデヒド、エステル類)の制御に関する技術が多い。ノンアルコール領域では、ビールらしい香味(発酵感、飲みごたえ)の付与と異臭抑制が課題。ティリロサイドやヒドロキシチロソールといった新規成分の活用も試みている。
  • 高アルコールビールテイスト飲料の開発:

    • 課題: スムースさ、ドリンカビリティー、酸味・酸臭の軽減、刺激感と麦の味わいの両立、スッキリした爽快感、麦の味わいと飲みやすさの両立。
    • 解決手段:
      • 成分調整: オリジナルエキス濃度・アルコール度数(出願42, 108, 152)、外観発酵度・アルコール度数(出願43, 109, 153)、オリジナルエキス濃度・外観発酵度・アルコール度数(出願44, 110, 151)、リアルエキス濃度・アルコール度数(出願98)、リアルエキス濃度・アルコール度数・FAN(出願107)。
    • 特徴: アルコール度数10%を超えるような高アルコール領域での香味バランス(刺激感、麦感、爽快感)の調整に注力。オリジナルエキス濃度、外観発酵度、リアルエキス濃度といった基本的なパラメータ制御に関する出願が多い。
  • 香味改善・特徴付け:

    • 課題: 飲みごたえ、キレ、麦の旨味、味わいのふくらみ、ビールらしさ、焙煎香、フローラル香、刺激感、余韻、スムース感、厚み、雑味低減、保存安定性(苦味の質)。
    • 解決手段:
      • 成分調整: ピログルタミン酸・リナロール(出願24)、真正エキス・総ポリフェノール・全窒素・リナロール(出願26)、FAN・外観発酵度(出願22, 181)、全窒素量・総ポリフェノール・外観発酵度(出願18)、外観発酵度・オリジナルエキス・全窒素量(出願21, 166, 180)、外観発酵度・アルコール度数(出願20, 168, 205)、外観発酵度・オリジナルエキス・総ポリフェノール(出願90, 169, 206)、プリン体中のヌクレオシド割合(出願86, 345)、キサンチンと特定エステル(カプロン酸エチル、酪酸エチル)の比率(出願184, 248, 249)、ΔE値(ヨウ素呈色反応関連)(出願199, 341)、インベルターゼ活性値(出願379)、ピログルタミン酸(出願398)、乳酸・D-グルタミン酸・D-アスパラギン酸(出願178)、グルタミン酸(出願280)、コハク酸(出願281)、D-アラニン・D-イソロイシン/D-ロイシン/D-バリン(出願310, 311)、分子量35-50kDaタンパク質(出願199, 271, 272, 363, 364)、グリケーションされたリジン(出願269, 270)、特定香気成分(ヘキサン酸エチルとγ-デカノラクトン/2-メチル酪酸エチル、n-酪酸エチルと特定ラクトン類)(出願212, 213, 214, 294, 295, 296)、2-メチル酪酸エチル・リナロール(出願354)、ルチン(出願333)。
      • 製造方法: 特定温度での混合(出願48, 164)、プリン体吸着剤(酸処理スメクタイト系粘土)(出願73)、プリン体除去(ヌクレオシダーゼ処理+白土、吸着剤+加圧/分散)(出願250, 251, 252)、欠減推定(煮沸前麦汁の総窒素/タンパク質比)(出願236)、上面発酵酵母の変異(亜硫酸排出能関連)(出願174)、乳酸発酵エキス添加(出願310)、コリアンダーシード/柑橘果皮の二酸化炭素抽出物添加(出願200, 201)、加熱+特定香気成分添加(ホップ不使用)(出願211, 353)、アブシンチン添加(ホップ不使用)(出願216)、テルペノイド+特定香気成分添加(ホップ不使用)(出願235)、コリアンダーシード/熱水抽出物添加(出願422)。
      • その他: ビール泡立て装置(出願289, 355)、ビールホース洗浄(出願414)。
    • 特徴: 「飲みごたえ」「キレ」「麦の旨味」「ふくらみ」といったビール本来の香味要素の強化・改善に関する出願が多い。特に、外観発酵度を100%以上に高める技術(出願20, 21, 22, 90, 166, 167, 168, 169, 180, 181, 205, 206, 398)が特徴的。プリン体低減技術(吸着剤、酵素処理、酵母育種)や、ホップ不使用/低減下での香味付与技術(香気成分添加、抽出物利用)にも注力。タンパク質(特定分子量、グリケーション)やアミノ酸(D体含む)に着目した香味制御も特徴的。
  • 健康志向(低糖質、プリン体低減):

    • 課題: 低糖質/プリン体低減と香味(飲みごたえ、麦感、自然な余韻、インパクト、飲みやすさ、収斂味抑制、キレ、複雑さ)の両立。
    • 解決手段:
      • 成分調整: 糖質・プリン体・遊離アミノ態窒素(出願31)、糖質・2,6-ノナジエナール・リナロール/特定香気成分(出願9, 63, 64, 65)、プリン体・フェルラ酸・オリジナルエキス比(出願72)、糖質・有機酸(出願188)、糖質・苦味価/色度(出願189)、糖質・炭素数3以上のアルコール/エステル(出願190)、糖質・総窒素(出願161)、糖質・テルペン類/ケトン類/チオール類(出願217, 340)、糖質・リナロール(出願279, 313)、糖質・アルコール度数(出願328, 380)、プリン体・プロリン比(出願338)。
      • 製造方法: プリン体吸着剤(酸処理スメクタイト系粘土)(出願73)、プリン体除去(ヌクレオシダーゼ処理+白土、吸着剤+加圧/分散)(出願250, 251, 252)。
    • 特徴: 低糖質(特に糖質ゼロに近い領域)と高麦芽比率を両立させつつ、香味を改善する技術開発に注力。プリン体低減技術も継続的に開発。成分調整によるアプローチが多い。

1.1.3. FI分類

サントリービールの出願で頻繁に見られるFI分類は以下の通り。

  • C12C 5/02 (ビール様飲料): ビールテイスト飲料全般に関する基本分類。低アルコール、ノンアルコール、高アルコール、香味改善など、多くの出願に含まれる。
  • C12C 11/00 (ビールの製造): 製造プロセス全般、特に発酵工程に関する分類。外観発酵度制御(@A, @Z)、酵母(上面発酵酵母の変異)など。
  • C12G 3/04, C12G 3/06 (その他の発酵飲料、香味付け): 香気成分の添加や調整、エキス分の調整など、香味改善に関する出願で多用される。
  • A23L 2/00 (非アルコール飲料): ノンアルコールビールテイスト飲料に関する出願で中心となる分類。特に@B(ビール風味)、@T(機能性)、@H(低アルコール)、@S(健康強調)などが関連。
  • A23L 2/52 (香味料、甘味料、酸味料等): 香気成分、甘味料、酸味料などの添加による香味調整に関する出願。
  • A23L 2/56 (香料): 香気成分添加による香味改善。
  • C12C 12/00, C12C 12/02, C12C 12/04 (ビールの種類、特性): 特定の特性(低糖質、高アルコール、プリン体低減など)を持つビールテイスト飲料。
  • C12C 7/04 (麦汁製造): 仕込工程の改善(温度管理、酵素処理、酸添加など)。
  • C12H 1/00, C12H 1/02, C12H 1/044, C12H 3/00 (ビールの後処理、安定化、清澄化): プリン体除去、保存安定性向上、脱アルコールなど。
  • C12C 11/11 (プリン体低減): プリン体低減に特化した技術。

これらのFI分類から、サントリービールが、低アルコール/ノンアルコール飲料、高アルコール飲料、低糖質/プリン体低減飲料といった多様な製品カテゴリに対応しつつ、香味(飲みごたえ、キレ、香り、異臭抑制)の改善・特徴付け、およびそのための製造プロセス(発酵制御、仕込、後処理)の最適化に幅広く取り組んでいることがわかる。特に、外観発酵度の制御や特定の香気成分・タンパク質・アミノ酸に着目したアプローチ、プリン体低減技術が特徴的である。

1.2. サッポロビール

1.2.1. 出願件数と出願時期

サッポロビールは、分析対象データ内で101件の出願を行っており、4社の中で最も多い出願件数となっている。出願時期は2018年から2023年にかけて分布しており、特に2021年後半から2022年にかけて出願が集中している傾向が見られる。これは、サントリービールと同様に、市場ニーズへの対応や競争激化を背景とした研究開発の活発化を示唆している。

  • 2018年: 24件(出願361, 365, 369, 372, 374, 383, 384, 385, 389, 390, 391, 395, 396, 397, 399, 402, 403, 404, 405, 406, 407, 408, 409, 410, 411, 412, 416, 417, 421)
  • 2019年: 26件(出願186, 187, 196, 197, 198, 208, 218, 219, 244, 245, 246, 247, 260, 261, 262, 263, 282, 283, 287, 290, 291, 292, 293, 301, 302, 303, 304, 306, 307, 308, 309, 320, 327)
  • 2020年: 14件(出願111, 113, 114, 115, 116, 117, 121, 130, 135, 138, 139, 141, 145, 146, 147, 148, 158, 159, 170, 171, 177, 222, 233, 242, 243)
  • 2021年: 10件(出願191, 237, 241)
  • 2022年: 24件(出願2, 7, 10, 11, 12, 14, 15, 16, 17, 19, 25, 33, 47, 49, 50, 56, 58, 59, 88, 89, 179)
  • 2023年: 3件(出願3, 4, 5, 6, 27, 29, 75, 95, 96, 97, 124, 133, 134)

1.2.2. 技術分野(課題・解決手段)

サッポロビールの出願内容は非常に多岐にわたるが、以下の分野に特徴が見られる。

  • 高アルコールビールテイスト飲料の開発:

    • 課題: スムースさ、ドリンカビリティー向上、酸味・酸臭軽減、ボディ感向上、モルティ感向上、果実様ジューシー感付与、アルコール感低減、好ましい甘味、嫌なアルコール臭低減。
    • 解決手段:
      • 成分調整: カプロン酸エチル・リナロール(出願3, 59)、ピラジン類(出願4, 58, 246)、4-ビニルグアイアコール(出願5, 89)、ジメチルスルフィド(出願6, 88)、クエン酸・フェネチルアルコール(出願244)、コハク酸・カプリル酸エチル(特定の関係式)(出願245)、エキス分・コハク酸(特定の関係式)(出願365)。
    • 特徴: アルコール度数8%以上、特に10%以上の高アルコール領域における香味(スムースさ、ボディ感、モルティ感、酸味抑制、果実香など)の改善・特徴付けに注力。特定の香気成分(エステル類、ピラジン類、フェノール類、硫黄化合物)や有機酸の制御に関する技術が多い。
  • 低アルコール・ノンアルコールビールテイスト飲料の開発:

    • 課題: 飲みごたえ、マイルドさ向上、刺激的な苦味低減、余韻のまろやかさ、アルコール感増強、後味キレ改善、ホップ臭低減、苦味質改善、自然な苦味、ビールらしさ、香りの複雑さ、酸味刺激抑制、香味まとまり、滑らかな味、発酵感、味の厚み、不快な酸味抑制、芳醇な酸味、不快な後味抑制、心地よい酸味、ドリンカビリティ、酒らしい飲みごたえ、不快な酸味・雑味抑制、薬品味抑制、香りの穏やかさ、発酵感・味の厚み・キレ、苦味・キレ、マイルド感・フルーティー感、マイルド感、刺激臭・雑味抑制、飲みごたえ。
    • 解決手段:
      • 成分調整: メチオナール(出願49)、ノナナール(出願50)、苦味価・Brix(出願47)、グルコモリンギン(出願113)、フコース(出願114)、クレオソール(出願116)、マルトビオン酸類(出願139)、2,6-ジメチルピラジン(出願141)、有機酸総量(乳酸換算)(出願170)、イソアミルアルコール(出願148)、酢酸エチル・イソブチルアルコール比(出願173)、酢酸エチル・エタノール(出願179, 258)、4-ビニルグアイアコール・エタノール(出願254)、2,3-ペンタンジオン・エタノール(出願255)、フルフラール・エタノール(出願256)、酢酸イソアミル・エタノール・プロピレングリコール(出願257)、アセトアルデヒド・エタノール(出願259)。
      • 製造方法: 発酵前液pH調整(出願171)。
    • 特徴: アルコール度数1%未満のノンアルコール/低アルコール領域での香味改善(飲みごたえ、苦味質、酸味質、アルコール感、発酵感、キレ)に注力。特定の香気成分(アルデヒド、フェノール、ピラジン等)や糖類縁化合物(フコース、マルトビオン酸)、植物由来成分(グルコモリンギン)の活用、有機酸バランスの調整など、多様なアプローチが見られる。エタノールを微量含有させることによる香味改善(出願179, 254-259)も特徴的。
  • 健康志向(低糖質、プリン体低減):

    • 課題: 低糖質/プリン体低減と香味(清酒様/蒸留酒様香味低減、焙煎香、コク、キレ、麦感、苦味質、酸味、濃醇さ、エグ味、硫化物臭)の両立。
    • 解決手段:
      • 成分調整: トリプトファン(出願10)、全窒素(出願11)、総ポリフェノール(出願14)、イソα酸(出願16)、コハク酸(出願17)、糖質・アルコール度数(出願29)、糖質・アルコール度数(特定の関係式)(出願75)、糖質・色度(出願124, 222)、糖質・タンパク質(出願133)、糖質・総アラビノキシラン(出願142)、糖質・プリン体(出願196)、糖質・酢酸エチル・酢酸イソアミル(出願197)、糖質・リナロール(出願198)、糖質・酢酸イソアミル(出願191, 344)、糖質・アルコール度数(特定の関係式)(出願346)。
      • 製造方法: ホエイタンパク質添加(ろ過性向上、焙煎香増強)(出願12, 15)、リパーゼ添加(糖化工程)(出願134, 361)、活性炭処理(出願95, 241, 327)、糖類添加(麦芽比率50%以上、低糖質)(出願96)、多糖類分解酵素添加(仕込工程)(出願237)。
    • 特徴: 低糖質(特に1.0g/100mL未満)と高麦芽比率(50%以上)を両立させる技術、プリン体低減技術(特に麦芽比率50%以上での香味維持)に注力。低糖質化に伴う香味(清酒様/蒸留酒様香味、酸味、エグ味など)の課題解決に取り組む。製造プロセスにおける酵素利用(リパーゼ、多糖類分解酵素)や吸着剤(活性炭、ホエイタンパク質)の活用が目立つ。
  • 香味改善・特徴付け(その他):

    • 課題: 苦味価移行率向上、酢酸エチル高含有時の香味改善、焙煎香増強、ぶどう様香味付与、酸味低減・果汁感増強、溶媒感低減、冷涼感付与、エステル感・麦芽重厚感(低麦芽比率)、甘味抑制・コク・キレ、味のスムーズさ、香ばしいグリーンな香味、心地よい花の香り、豊かな余韻、麦茶様香味、ビールらしいエステル感、味の奥行き・余韻酸味・完熟蜜柑香、味のとげとげしさ低減・滑らかさ、後味苦味・炭酸とげとげしさ低減・オレンジ香、口内泡こもり低減、口内刺激低減・スムース感増強、不快後香・雑味低減、好ましい旨味・キレ、トップ苦味・舌触り・キレ、キレの良い甘味・自然な果実感、濁り安定性、果汁感とビール感のバランス(混濁果汁)、アルコール味マスキング(低麦芽比率)。
    • 解決手段:
      • 成分調整: シリコーン系消泡剤添加(出願2)、酢酸エチル・フルクトース(出願7)、ホエイタンパク質(出願15)、酪酸(出願19)、2-メチルピラジン(出願25)、グルコン酸・酢酸エチル(出願33)、酢酸・マルトトリオース(出願56)、酢酸エチル・ゲラン酸(出願111)、1,8-シネオール・ゲラン酸メチル・2-アセチルピロール(出願115)、シリンゴール(出願117)、糖質・アルコール度数(特定の関係式)(出願75)、総ポリフェノール・苦味価(希釈ベース)(出願128)、苦味価・糖質(低麦芽比率)(出願130)、バニリン・ジヒドロアクチニジオリド(出願135)、グアイアコール・フルフラール比(出願218)、ゲラニオール・シトロネラール比(出願219)、ナリンギン・リモニン(特定の関係式)(出願287)、ナリンギン・アルギン酸類(特定の関係式)(出願290)、クワシン・アルギン酸類(特定の関係式)(出願291)、メチオナール・アセトアルデヒド(出願307)、メントン・シネオール(出願308)、プリン体・特定成分(苦味価、甘味料、塩類、酸味料、ナリンギン、カフェイン)(出願309)、エチル3-メチルブタノエート・イソα酸比(出願406)、旨味系アミノ酸・GABA比(出願408)、苦味系アミノ酸・苦味価比(出願97, 409)、リナロール・4VG比(出願410)、カルシウム(出願421)。
      • 製造方法: 下面酵母高温発酵・高酵母濃度(出願27)、ホエイタンパク質添加(発酵前)(出願12)、酸添加(仕込工程)(出願138)、焙燥麦芽(特定条件)使用+仕込温度制御(出願292)、ホップ酸性処理上清添加(出願293)、活性炭処理(出願95, 327)、混濁果汁添加(出願304)、仕込工程(特定温度維持、混合)(出願384)、非凍結粉砕ホップ使用(出願411, 412)、脱イオン水使用(仕込)(出願421)。
      • その他: 混濁安定化(加熱処理、クロスフロー濾過)(出願186, 187)、濾過性予測(濁度差測定)(出願407)。
    • 特徴: 香味全般(苦味、甘味、酸味、香り、ボディ感、キレ、後味、飲みごたえ)の改善・特徴付けに関する出願が非常に多い。特定の香気成分(エステル、アルデヒド、フェノール、テルペン類、ピラジン類など)の含有量や比率を制御する技術、植物由来成分(ゲンチアナ、キハダ、ゴーヤ、レモン果皮、菊花、ビワ葉、オリーブ葉などホップ代替含む)の活用、製造プロセス(仕込、発酵、焙燥、濾過、添加物)の工夫による香味制御など、アプローチが多岐にわたる。特に、高アルコール、低アルコール/ノンアルコール、低糖質/プリン体低減といった特定カテゴリに属さない、一般的なビールテイスト飲料の香味向上技術も多数見られる。

1.1.3. FI分類

サッポロビールの出願で頻繁に見られるFI分類は以下の通り。

  • C12C 5/02 (ビール様飲料): ほぼ全ての出願に含まれる基本分類。
  • C12G 3/04, C12G 3/06 (その他の発酵飲料、香味付け): 高アルコール飲料、香味改善(特に香気成分添加)に関する出願で多用。
  • C12C 12/00, C12C 12/04 (ビールの種類、特性): 高アルコール、低糖質、プリン体低減、ノンアルコールなど特定の特性を持つ飲料。
  • A23L 2/00 (非アルコール飲料): ノンアルコールビールテイスト飲料に関する出願。@B(ビール風味)、@F(プリン体低減)、@T(機能性)、@M(着色)など。
  • A23L 2/52 (香味料、甘味料、酸味料等): 香気成分、甘味料、酸味料、苦味料(ホップ代替含む)などの添加による香味調整。
  • A23L 2/56 (香料): 香気成分添加による香味改善。
  • C12C 11/00 (ビールの製造): 製造プロセス、特に発酵(@A, @Z)、プリン体低減(C12C 11/11)関連。
  • C12C 7/00, C12C 7/04 (麦汁製造): 仕込工程の改善(酵素利用、温度制御、酸添加、原料処理など)。
  • C12C 1/18 (麦芽製造): 焙燥麦芽の製造条件。
  • C12G 3/021 (低アルコール/ノンアルコール): 低アルコール/ノンアルコール飲料の特性。
  • C12H 1/00, C12H 1/02, C12H 1/07, C12H 1/075, C12H 1/18 (ビールの後処理、安定化、清澄化): 活性炭処理、混濁安定化、濾過。
  • C12C 3/00 (ホップ、ホップ製品): ホップ代替、ホップ処理。

これらのFI分類から、サッポロビールが、高アルコール飲料、低アルコール/ノンアルコール飲料、健康志向(低糖質、プリン体低減)飲料という主要カテゴリ全てにおいて、非常に活発な研究開発を行っていることがわかる。特に、高アルコール領域での香味制御、ノンアルコール領域での多様な香味改善アプローチ、低糖質/プリン体低減技術(特に製造プロセス改善)、そしてカテゴリ横断的な香味特徴付け(香気成分制御、植物由来成分活用)に関する出願が多い点が特徴的である。製造プロセス全体の最適化(仕込、発酵、後処理、原料処理)にも幅広く取り組んでいる。

1.3. アサヒビール

1.3.1. 出願件数と出願時期

アサヒビールは、分析対象データ内で76件の出願を行っている。出願時期は2018年から2023年にかけて分布しており、特定の年に極端な集中は見られないものの、継続的に出願が行われている。

  • 2018年: 10件(出願413, 415, 418, 420)
  • 2019年: 20件(出願39, 80, 202, 209, 210, 284, 285, 286, 288, 300, 312, 314, 315, 316, 321, 322, 323, 324, 325, 329, 330, 331, 337, 342, 343, 349)
  • 2020年: 13件(出願45, 46, 60, 78, 79, 93, 140, 143, 149, 150, 156, 172, 264, 265, 266, 267, 268, 278, 297, 298, 299, 335, 350, 400)
  • 2021年: 10件(出願99, 131, 194, 239)
  • 2022年: 18件(出願8, 30, 34, 35, 36, 37, 38, 61, 62, 81, 82, 84, 92, 94, 118, 120, 123, 129, 132, 185)
  • 2023年: 5件(出願57)

1.3.2. 技術分野(課題・解決手段)

アサヒビールの出願内容は、以下の分野に特徴が見られる。

  • 低アルコール・ノンアルコールビールテイスト飲料の開発:

    • 課題: クラフトビール特有の柑橘様苦味付与、鉄味低減・香味バランス改善、酸化劣化臭抑制(低アルコール)、ビール様発酵感・飲みごたえ(低アルコール)、コク感・キレ感・嗜好性(プリン体低減、非発酵)、コク付与・後渋味低減(非発酵)、飲み応え付与(低糖質、非発酵)。
    • 解決手段:
      • 成分調整: クワシン・脱アルコール麦汁発酵液(出願8)、真性エキス・苦味系アミノ酸・脱アルコール麦汁発酵液(出願92)、リン酸濃度(出願79)、ピルビン酸・コハク酸・真正エキス(出願278)、穀類エキス/発酵穀類エキス(不揮発分)(出願400)、アラニン・プロリン比(非発酵)(出願193)、高甘味度甘味料(ショ糖換算)(出願297)。
      • 製造方法: 脱アルコール技術(出願8, 92)。
    • 特徴: 低アルコール(特に1-4%)およびノンアルコール領域での香味改善に注力。脱アルコール麦汁発酵液の活用、特定の成分(クワシン、アミノ酸、有機酸、リン酸)の制御、非発酵飲料におけるエキス類やアミノ酸の活用が特徴的。酸化劣化臭や鉄味といった具体的なオフフレーバー対策も見られる。
  • 低糖質ビールテイスト飲料の開発:

    • 課題: ソトロン/ジメチルスルホン/2-メチル酪酸/ダマセノン由来の異臭味低減、飲み応え(喉への引っ掛かり感)増強、コク感・キレ感・プリン体低減、味の締まり・コク・キレ・華やかさ(低酸)、苦味の粗さ改善。
    • 解決手段:
      • 成分調整: ソトロン・3-メルカプトヘキサノール比(出願35, 61)、ジメチルスルホン・3-(メチルメルカプト)プロピオン酸比(出願36, 62)、2-メチル酪酸・2-アセチルピラジン比(出願38, 81)、ダマセノン・イソオイゲノール比(出願123)、フェニル酢酸・フェニルアセトアルデヒド(出願34)、大豆タンパク分解物・アラニン(出願46)、酸成分総量・3-フェニルプロピオン酸エチル(出願129)、酸成分総量・β-イオノン(出願132)、食塩添加(出願185, 239)。
    • 特徴: 低糖質(特に1.5g/100mL以下)飲料における異臭(ソトロン、ジメチルスルホン、ムレ臭など)のマスキング技術に注力。特定の香気成分の比率を制御するアプローチが多い。食塩添加による呈味改善も特徴的。低酸飲料における香味改善も試みている。
  • 香味改善・特徴付け(その他):

    • 課題: すっきり感と飲み応えの両立、穀物感改善、喉への引っ掛かり感向上、ホップ香の鼻抜け感改善、麦由来オフフレーバー抑制(高原麦汁)、発酵由来不快臭抑制(高原麦汁)、コハク酸由来不快香味抑制、芳香を示さずアルコール刺激低減・複雑味(アルコールベース)、香りのバランス改善(容器詰)、金属味低減(容器詰)、風味変化(容器詰)、麦芽感・鼻抜け感増強、コク強化(低麦芽比率)、苦味・うまみバランス(低最終発酵度)、苦味弱い飲料のラスト厚み・しまり/えぐみ抑制/酸臭抑制/コゲ臭抑制/渋味抑制/香りの後キレ、麦芽香付与(低麦芽比率、低糖質)、ホップ様香付与(ホップ不使用)、タマネギ様臭低減。
    • 解決手段:
      • 成分調整: 特定糖類(マルトテトラオース等)比率(出願30, 84)、9-デセン酸・オイゲノール(出願37, 94)、トランス-2-ノネナール・ヘキサナール(出願82)、2-メチル-2-ブタノール・γ-ヘキサラクトン比(出願118)、α-ユーデスモール(出願78)、2-メルカプト-3-メチル-1-ブタノール・エステル(出願99)、ATHP(2-アセチルテトラヒドロピリジン)(出願120, 156, 202, 209, 210, 325)、メチル3-メチル-2-ブテン-1-イルジスルフィド(出願157)、5,6-ジヒドロ-4-(4-メチル-3-ペンテニル)-2H-ピラン-2-オン(出願194)、3-メチル-2-ブテン-1-チオール・ATHP(出願202)、シトロネロール・ATHP(出願209)、甘味度・ATHP(出願210)、2-アセチル-2-チアゾリン(出願350)、リナロール・α-ユーデスモール(泡)(出願253)、プロパン酸+2-メチルプロパン酸/γ-ブチロラクトン比(出願264, 321)、2-アミノアセトフェノン/3-フェニルプロピオン酸エチル比(出願265, 322)、γ-ノナラクトン/2-メチルチオエタノール比(出願266)、3-メチルシクロペンタン-1,2-ジオン/特定ブタナール合計比(出願267, 329)、2-エチル-4-ヒドロキシ-5-メチル-3(2H)-フラノン/ジメチルスルホン比(出願268, 330)、フェニルアセトアルデヒド/フルフラール比(出願298, 323)、フルフラール/メチオナール(蒸留液使用)(出願299, 324)、リナロール・ゲラニオール(ホップ不使用)(出願331)、還元型イソα酸(出願418)。
      • 製造方法: エキス差調整(出願60)、コハク酸・イソアミルアルコール調整(出願93)、蒸留脱香気処理(出願80)、炭酸ガス減少量/速度調整(容器詰)(出願143)、ガスボリューム調整(ATHP含有)(出願156)、貯酒期間短縮(容器詰、起泡性凹凸)(出願149)、仕込工程(タンパク質分解、液化、糖化、酵素利用)(出願131)、麦汁煮沸蒸発率制御(低麦芽比率)(出願284)、麦芽水溶液蒸気添加(出願386)、オクタン酸+デカン酸・β-ミルセン・イソアミルアルコール調整(出願305)、熱処理麦芽使用(出願415)、酵母分割添加(出願420)。
      • その他: ビールテイスト飲料凍結体(出願57, 312)、微生物管理(乳酸菌検出培地、増殖抑制剤(フィチン酸、ココナッツ、(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、リゾチーム、キトサン、ポリリジン))(出願39, 285, 286, 288, 300, 337, 342, 343)。
    • 特徴: 低糖質飲料における異臭マスキング技術が豊富。ATHP(2-アセチルテトラヒドロピリジン)を活用した香味改善(コク、金属味低減など)に関する出願が多いのが顕著な特徴。容器詰飲料(特に缶)における香味(金属味、経時変化、泡)制御技術も特徴的。高原麦汁や低麦芽比率といった条件下での香味改善、苦味の弱い飲料の香味改善にも取り組む。微生物管理(検出、抑制)に関する技術も複数見られる。製造プロセスでは、仕込工程や煮沸工程の工夫、酵母添加方法の工夫などが見られる。

1.3.3. FI分類

アサヒビールの出願で頻繁に見られるFI分類は以下の通り。

  • C12C 5/02 (ビール様飲料): 多くの出願に含まれる基本分類。
  • C12G 3/04, C12G 3/06 (その他の発酵飲料、香味付け): 低糖質飲料の香味改善、香気成分添加、アルコールベースなど。
  • A23L 2/00 (非アルコール飲料): ノンアルコール/低アルコール飲料。@B(ビール風味)、@H(低アルコール)、@T(機能性)、@S(健康強調)、@E(エキス・栄養強化)、@P(保存性向上)、@U(泡・炭酸)。
  • A23L 2/52 (香味料、甘味料、酸味料等): 香気成分、甘味料、酸味料、苦味料などの添加。
  • A23L 2/56 (香料): 香気成分添加による香味改善。
  • C12C 12/00, C12C 12/02, C12C 12/04 (ビールの種類、特性): 低糖質、低アルコール、低苦味など特定の特性を持つ飲料。
  • C12C 11/00 (ビールの製造): 製造プロセス、特に発酵制御(@A, @Z)、オフフレーバー低減。
  • C12G 3/021 (低アルコール/ノンアルコール): 低アルコール/ノンアルコール飲料の特性。
  • C12H 1/00, C12H 1/22, C12H 3/00, C12H 6/02 (ビールの後処理、安定化、清澄化): 脱アルコール、脱香気、微生物抑制、貯酒。
  • C12N 1/20, C12Q 1/04, C12Q 1/06 (微生物、微生物検出): 微生物管理(検出培地)。
  • A23L 2/44 (保存性向上): 微生物増殖抑制剤。
  • C12C 7/04, C12C 7/20, C12C 9/02 (麦汁製造、煮沸): 仕込工程、煮沸工程の改善。
  • C12C 1/18 (麦芽製造): 熱処理麦芽。
  • C12C 3/00 (ホップ、ホップ製品): ホップ加工品、還元型イソα酸。

これらのFI分類から、アサヒビールが、低アルコール/ノンアルコール飲料、低糖質飲料の開発に注力し、特に低糖質領域での異臭マスキング技術や、ATHPを用いた独自の香味改善アプローチを特徴としていることがわかる。容器詰飲料の品質向上や微生物管理技術にも強みを持つ可能性がある。製造プロセス改善にも取り組んでいる。

1.4. キリンビール

1.4.1. 出願件数と出願時期

キリンビールは、分析対象データ内で58件の出願を行っている。出願時期は2018年から2023年にかけて分布しており、特に2021年後半から2022年にかけて出願が多い傾向が見られる。

  • 2018年: 4件(出願370, 371, 383)
  • 2019年: 4件(出願332, 347)
  • 2020年: 3件(出願317, 381)
  • 2021年: 16件(出願40, 41, 51, 52, 53, 55, 76, 77, 83, 100, 101, 102, 103, 104, 105, 106, 122, 215, 221, 238)
  • 2022年: 27件(出願13, 32, 155, 162, 165, 176, 193, 204)
  • 2023年: 4件(出願54, 74, 91)

1.4.2. 技術分野(課題・解決手段)

キリンビールの出願内容は、以下の分野に特徴が見られる。

  • 低糖質・糖質ゼロビールテイスト飲料の開発:

    • 課題: 味の厚み、雑味低減、飲み応えとキレの両立、ビールらしいテクスチャー・味の持続性。
    • 解決手段:
      • 成分調整: 特定分子量(800-1500Da)ペプチド比率(出願32, 155, 204)、特定分子量(800-1500Da)ペプチド濃度+イソマルトース/パノース濃度(出願165, 317)、特定分子量(10-20kDa)ペプチド比率/配合(出願54, 221)。
    • 特徴: 低糖質/糖質ゼロ飲料における「味の厚み」や「飲み応え」の向上に、ペプチド(特に特定の分子量範囲)を活用するアプローチが顕著な特徴。他の出願人とは異なる独自の技術開発を進めている可能性が高い。
  • 香味改善・特徴付け(特に口当たり、後味、酸味):

    • 課題: 口の中のとげとげしさ低減、舌の上のもったり感低減、後味のキレ増強、刺すような酸味感低減、後味における雑味低減・飲み応え増強、口の中に感じるざらつき感・後味不調和低減、口の中に残るとげとげしさ・後味不調和低減、コク・スムースさ向上、ボディ感・飲後心地よさ向上、十分な味の厚み・酸味突出抑制、原料由来雑味低減、芋・粥様香気低減(ノンアルコール)、香味強度増強(ノンアルコール)、微生物抵抗性増強。
    • 解決手段:
      • 成分調整: ピラジン類・フラン類濃度(出願40)、γ-ブチロラクトン・マルトール濃度(出願41)、酪酸濃度(出願51)、フェネチルアルコール濃度(出願52)、1-プロパノール/エタノール比(出願53)、シス-リナロールオキシド(出願55, 101, 105, 106)、特定香気成分(1-フェニル-3-ブテン-1-オン、トランス-2-ヘキセナール、ノナナール)(出願76, 77)、酢酸ゲラニル(出願100)、β-ユーデスモール(出願101, 102, 104)、ネロール(出願103, 104, 105)、フェニルアセトアルデヒド・リン酸/乳酸比(出願122)、特定分子量(90-2600Da)ペプチド中の特定アミノ酸比率(出願74, 238)、酢酸・酢酸エチル+酢酸イソアミル(出願83, 215)、ゲラニルアセテート・ゲラニオール(出願332)、亜硫酸・α酸(出願347)、分子量10-20kDaペプチド濃度(出願381)。
      • 製造方法: 分子量10-20kDaペプチド配合(出願54, 221)。
    • 特徴: 口当たり(とげとげしさ、もったり感、ざらつき感)、後味(キレ、雑味、不調和)、酸味(刺すような酸味)といった、テクスチャーや味覚に関する課題解決に注力。特定の香気成分(特にテルペンアルコール類やその酸化物・エステル:リナロールオキシド、β-ユーデスモール、ネロール、酢酸ゲラニルなど)の活用が目立つ。ペプチドによる香味改善アプローチも特徴的。
  • その他:

    • グルテンフリー(米発酵): ビールらしい香味増強(酢酸エチル・酢酸イソアミル濃度制御)(出願91)。
    • プリン体低減: 味の厚み実現(クエン酸/OE濃度比)(出願176)、製造方法(亜鉛濃度調整)(出願383)。
    • ノンアルコール: 穀物加工物使用、味わい向上(マルトース、マルトトリオース)(出願13)。

1.4.3. FI分類

キリンビールの出願で頻繁に見られるFI分類は以下の通り。

  • C12C 5/02 (ビール様飲料): 多くの出願に含まれる基本分類。
  • C12G 3/02, C12G 3/021, C12G 3/04, C12G 3/06 (その他の発酵飲料、低アルコール/ノンアルコール、香味付け): 低糖質飲料、香味改善(特に香気成分、ペプチド)、グルテンフリー飲料など。
  • A23L 2/00 (非アルコール飲料): ノンアルコールビールテイスト飲料。@B(ビール風味)、@E(エキス・栄養強化)、@J(香味)、@T(機能性)。
  • A23L 2/52 (香味料、甘味料、酸味料等): 香気成分、ペプチド、糖類などの添加。
  • A23L 2/66 (タンパク質、ペプチド、アミノ酸): ペプチド添加による香味改善。
  • C12C 12/00, C12C 12/02, C12C 12/04 (ビールの種類、特性): 低糖質、プリン体低減、グルテンフリーなど。
  • C12C 11/00 (ビールの製造): 製造プロセス、特に発酵(@A)。
  • C12C 5/00 (ビールの種類): ビール風味飲料全般。
  • A23L 27/00 (調味料、香味料): ペプチドによる呈味改善。

これらのFI分類から、キリンビールが、低糖質/糖質ゼロ飲料の開発に特に注力し、その香味改善(特に味の厚み)においてペプチドを活用する独自のアプローチを確立していることが強く示唆される。また、口当たりや後味、酸味といった香味の質感を改善するための香気成分制御技術にも特徴がある。グルテンフリーやプリン体低減といった健康志向ニーズにも対応している。

2. 出願人比較分析

次に、4社の出願動向を比較し、各社の技術戦略や特徴、業界内でのポジショニングを考察する。

2.1. 出願件数と研究開発活動

出願件数は、サッポロビール(101件)、サントリービール(88件)、アサヒビール(76件)、キリンビール(58件)の順となっている。単純な件数比較ではサッポロビールが最も多いが、4社とも数十件単位で出願しており、ビール業界における研究開発競争が活発であることを示している。出願時期を見ると、各社とも2021年~2022年にかけて出願が増加する傾向が見られ、この時期に市場環境の変化(コロナ禍による家飲み需要増、健康志向の高まり、RTDなど競合飲料の台頭など)に対応するための技術開発が加速した可能性が考えられる。

2.2. 技術分野(課題・解決手段)の比較

各社が取り組む技術分野には共通点と相違点が見られる。

  • 共通して注力する分野:

    • 低アルコール・ノンアルコール飲料: 4社全てがこの分野で多数の出願を行っており、市場の拡大と重要性の高まりを反映している。特に「飲みごたえ」「ビールらしさ」の付与と「異臭抑制」が共通の課題となっている。解決手段としては、香気成分の添加・制御、エキス分や糖類、アミノ酸、有機酸などの調整、製造プロセス(発酵制御、脱アルコール)の工夫など、多様なアプローチが見られる。
    • 低糖質・プリン体低減飲料: 健康志向の高まりを受け、4社とも低糖質(特に糖質ゼロに近い領域)やプリン体低減技術の開発に注力している。共通の課題は、これらの機能性を実現しつつ、いかにビールらしい香味(飲みごたえ、麦感、コク、キレなど)を維持・向上させるかという点にある。解決手段としては、酵素処理、吸着剤利用、原料配合の工夫、香気成分によるマスキングや香味補強などが見られる。
    • 香味改善・特徴付け: ビール本来の香味要素(苦味、香り、コク、キレ、飲みごたえ、泡など)の向上や、新たな香味(フルーティー、スパイシー、焙煎香など)の付与は、全社共通の重要テーマである。香気成分(エステル、アルデヒド、テルペン類、フェノール類、硫黄化合物、ピラジン類など)の特定・制御、植物由来成分(ホップ代替含む)の活用、製造プロセス(仕込、発酵、熟成、ろ過、原料処理)の最適化などが共通して見られるアプローチである。
  • 各社の特徴的な分野・アプローチ:

    • サントリービール:
      • 外観発酵度100%超: キレや刺激感を高める独自技術。
      • ピログルタミン酸: 飲みごたえ向上への活用。
      • タンパク質・アミノ酸制御: 特定分子量タンパク質やD体アミノ酸に着目した香味制御。
      • プリン体低減: 吸着剤(酸処理スメクタイト)、酵素処理、酵母育種など多様なアプローチ。
      • 高アルコール: 基本パラメータ制御による香味バランス調整。
    • サッポロビール:
      • 高アルコール: 香味(スムースさ、ボディ感、モルティ感、酸味抑制、果実香)の改善・特徴付けに関する出願が特に豊富。特定の香気成分制御に強み。
      • ノンアルコール/低アルコール: 多様な香気成分、糖類縁化合物、植物由来成分を活用した幅広い香味改善アプローチ。微量エタノール活用も特徴。
      • 健康志向: 低糖質・高麦芽比率の両立、プリン体低減(特に高麦芽比率下)に注力。酵素利用や吸着剤活用が目立つ。
      • 香味全般: 植物由来成分(ホップ代替含む)の活用、香気成分の組み合わせや比率制御による多様な香味特徴付け。
    • アサヒビール:
      • ATHP活用: 2-アセチルテトラヒドロピリジンを用いた独自の香味改善(コク、金属味低減など)。
      • 低糖質飲料の異臭マスキング: 特定香気成分の比率制御によるアプローチが豊富。
      • 容器詰飲料: 金属味低減、経時変化制御、泡質制御など、容器に充填された状態での品質向上技術。
      • 微生物管理: 検出培地、増殖抑制剤に関する技術。
      • 製造プロセス: 仕込、煮沸、酵母添加方法の工夫。
    • キリンビール:
      • ペプチド活用: 低糖質/糖質ゼロ飲料の「味の厚み」「飲み応え」向上における、特定分子量ペプチドの活用が最大の特徴。
      • 香味の質感改善: 口当たり(とげとげしさ、もったり感)、後味(キレ、雑味)、酸味(刺すような酸味)の改善に注力。
      • 特定香気成分: テルペンアルコール類やその誘導体(リナロールオキシド、β-ユーデスモール、ネロールなど)の活用が目立つ。
      • グルテンフリー: 米発酵飲料の開発。

2.3. FI分類の比較

FI分類の分布からも各社の特徴がうかがえる。

  • C12C 5/02 (ビール様飲料)C12G 3/04, C12G 3/06 (その他の発酵飲料、香味付け)A23L 2/00 (非アルコール飲料)A23L 2/52 (香味料等)A23L 2/56 (香料)C12C 12/00, C12C 12/04 (ビールの種類、特性) は、4社共通で頻出しており、ビールテイスト飲料全般、香味改善、ノンアルコール/低アルコール、特定特性付与が業界共通の重要分野であることを示している。
  • サントリービールは、C12C 11/00@A, @Z (発酵制御)C12H 1/044 (プリン体吸着剤)C12N 15/31 (遺伝子組換え)(酵母変異関連)などが特徴的。
  • サッポロビールは、C12C 1/18 (麦芽製造)C12C 7/00 (麦汁製造)C12H 1/07, C12H 1/075 (濾過)C12C 3/00 (ホップ)(ホップ代替含む)など、原料処理から製造プロセス全体にわたる幅広いFI分類が見られる。
  • アサヒビールは、A23L 2/44 (保存性向上)C12N 1/20, C12Q 1/04, C12Q 1/06 (微生物管理)C12H 1/22 (貯酒)B67D (飲料供給装置)(間接的に容器関連)などが特徴的。
  • キリンビールは、A23L 2/66 (タンパク質、ペプチド)A23L 27/00 (調味料、香味料)(ペプチド関連)が際立って特徴的。

これらの比較から、各社が共通の課題に取り組みつつも、それぞれ独自のアプローチや得意分野を持っていることがわかる。サントリーは発酵制御やバイオ技術応用、サッポロは原料からプロセス全体にわたる広範な技術、アサヒはATHP活用や容器・微生物管理、キリンはペプチド活用といった特徴が推測される。

2.4. 出願時期の比較

前述の通り、各社とも2021年~2022年に出願が活発化している点は共通している。特定の技術分野(例えば低アルコールや低糖質)に関する出願が特定の時期に集中するというよりは、各社がそれぞれの戦略に基づき、多様な分野で継続的に研究開発を進めている様子がうかがえる。市場トレンドへの迅速な対応と、将来を見据えた基盤技術開発の両方が行われていると考えられる。

3. ビール特許出願全体から見る技術動向

4社の出願内容を俯瞰することで、近年のビール業界における技術開発の主要なトレンドが見えてくる。

  • 低アルコール・ノンアルコール市場の重要性増大:

    • 健康志向やライフスタイルの変化を背景に、低アルコール・ノンアルコール飲料の需要が拡大しており、各社ともこの分野での技術開発に最も注力している。
    • 課題は「ビールらしさ(飲みごたえ、苦味、香り、発酵感)」の再現と、「異臭(水っぽさ、甘ったるさ、原料臭、オフフレーバー)」の抑制に集約される。
    • 解決策として、香気成分の精密な制御、エキス分・糖類・アミノ酸・有機酸などのバランス調整、脱アルコール技術の高度化、新規素材(植物エキス、特殊な糖類、ペプチドなど)の探索が進んでいる。
  • 高アルコール市場への対応:

    • クラフトビール市場の影響もあり、アルコール度数が高く、個性的な香味を持つ製品への関心も高まっている。
    • 課題は、高いアルコール感と他の香味要素(麦感、ホップ感、エステル香、ボディ感、スムースさ)とのバランス調整、および酸味や刺激感の抑制である。
    • 解決策として、オリジナルエキス濃度や発酵度の制御、特定の香気成分(エステル類、フェノール類、ピラジン類など)の生成・制御技術が開発されている。
  • 香味の多様化と高度化:

    • 消費者の嗜好の多様化に対応するため、従来のラガータイプ以外の香味(フルーティー、スパイシー、フローラル、サワー、焙煎香など)を持つ製品開発が進んでいる。
    • 「飲みごたえ」「キレ」「コク(ボディ感)」「スムースさ」「後味」「泡質」といった香味の質感を構成する要素の改善・制御技術が重要視されている。
    • 解決策として、多種多様な香気成分(微量成分含む)の同定とその生成・制御技術、酵母や発酵条件の最適化、原料(特殊麦芽、副原料、ホップ代替)の活用、ペプチドやタンパク質の機能解明と応用などが進められている。
  • 健康志向への対応深化:

    • 低糖質・糖質ゼロ、プリン体低減は依然として重要な開発テーマである。
    • 課題は、これらの機能性を達成しつつ、香味(特に飲みごたえ、麦感、コク)を損なわないこと、あるいはむしろ向上させることにある。
    • 解決策として、酵素技術(糖化酵素、プリン分解酵素など)の活用、吸着剤(活性炭、白土、特殊粘土など)による選択的除去技術、酵母育種、原料配合の最適化、香味補強・マスキング技術などが開発されている。
  • 製造プロセス改善と効率化:

    • 香味改善やコスト削減、環境負荷低減の観点から、製造プロセス(仕込、煮沸、発酵、熟成、濾過、充填)の最適化も継続的に行われている。
    • 具体的には、エネルギー効率の良い煮沸方法、発酵制御による香味成分生成の最適化、濾過性向上、混濁安定性向上、微生物管理技術、オフフレーバー低減技術などが開発されている。
  • 新規素材・技術の探索:

    • ホップ代替となる苦味料・香料(植物エキス、香気成分)、ペプチドによる呈味改善、新規酵母の開発・利用、二酸化炭素抽出技術、凍結技術など、従来にない素材や技術の導入も試みられている。

4. 結論・考察

提供された423件のビール関連特許出願データの分析から、サントリービール、サッポロビール、アサヒビール、キリンビールの4社が、市場ニーズの変化と競争激化の中で、極めて活発な研究開発活動を展開していることが明らかになった。

各社は、低アルコール・ノンアルコール、健康志向(低糖質・プリン体低減)、香味の多様化・高度化といった業界共通の重要課題に取り組む一方で、それぞれ独自のアプローチや強みを持っている。

  • サントリービールは、発酵制御(特に高発酵度)やバイオ技術(酵母育種、酵素利用)、成分分析に基づく精密な香味制御に特徴がある。
  • サッポロビールは、高アルコール領域での香味開発や、原料からプロセス全体にわたる広範な技術開発力、多様な植物由来成分の活用に特徴がある。
  • アサヒビールは、ATHPを用いた独自の香味改善技術、低糖質飲料の異臭マスキング、容器詰飲料の品質管理、微生物管理技術に特徴がある。
  • キリンビールは、ペプチドを活用した低糖質飲料の味質改善という独創的なアプローチと、香味の質感(口当たり、後味、酸味)制御技術に特徴がある。

業界全体の技術トレンドとしては、低アルコール・ノンアルコール市場と健康志向市場への対応が最重要課題であり、これらの製品カテゴリーでいかに「ビールらしい」香味を実現するかが技術開発の中心となっている。同時に、消費者の嗜好多様化に応えるための香味の多様化・高度化も進んでおり、香気成分の精密制御、新規素材の探索、製造プロセスの最適化が鍵となっている。

今後も、これらのトレンドは継続・深化すると考えられる。特に、サステナビリティへの関心の高まりから、省エネルギー・低環境負荷な製造プロセス技術、副産物の有効活用技術などの開発も重要性を増す可能性がある。また、AIやデータサイエンスを活用した原料評価、香味予測、プロセス最適化なども進展するだろう。各社が持つ独自技術をさらに発展させ、差別化を図りながら、多様化・高度化する市場ニーズに応えていく競争は、今後ますます激化していくと予想される。

本分析は、提供されたデータセットに基づくものであり、各社の全ての特許出願を網羅しているわけではない点、また要約情報から読み取れる内容には限界がある点に留意が必要である。しかし、このデータセットからでも、日本の大手ビールメーカーの研究開発の方向性や戦略、そしてビール業界全体の技術動向の一端を垣間見ることができた。今後、より広範なデータや詳細な特許公報の内容分析を行うことで、さらに深い洞察が得られる可能性がある。

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