ここには僕が少しだけ関わった津波に関する研究で使ったものを紹介します。
詳しい導入方法の紹介はできません。
当時使っていた資料もプログラムも全部どっかいったので、記憶を掘り起こして書きます。
#序論
そろそろ3.11の記憶も薄まってきた頃かと思います。2011年のことですよ!
そもそも津波(wikipedia)って何か理解してますか?特に、台風等による高波との違いについてはよく理解しておくほうが良いと思います。
僕(35才)の記憶にある一番古い津波の話は、1993年の北海道南西沖地震(wikipedia)です。当時の僕には津波が何かまったく理解ができませんでしたし、世間的にも理解していなかったと思います。僕は、当時のマスメディアが報道する津波来襲後の映像から、ものすごい高波が襲ったと思っていました。実際には違います。
僕がはじめに津波に関わったのは、2004年のスマトラ島沖地震(wikipedia)からです。この地震・津波の時代的特徴は「映像」が多数残されたことです。しかも、それらがYoutube等で共有されたはじめての地震・津波だと思います。ここで初めて、津波は周期を持っているから波だけど、その周期長くて、実質的には長時間の海面上昇だということを理解しました。
そして、2011年の東日本大震災(wikipedia)です。
僕たち日本人は本当ににスマトラ島沖地震から学んでいたのでしょうか?大いに疑問です。
「津波が遡上する」とはどういうことか理解できていたのでしょうか?
スマトラ島沖地震が発生する遥か昔から、日本では津波研究がさかんに行われており、南海トラフ巨大地震の被害予測研究等が古くから行われてきました。
しかし、これらの研究成果は学会や政府の一部が共有しているだけで、たまにマスメディアが映像化して紹介する程度だったと思います。僕は大学生の時に、たまたま関わることがあったので理解しているつもりでしたが、やはり本質的には理解していたなかったようです。
ですので、この際、自分で計算してみてはいかがでしょうか?
#JAGURS
JAGURSは徳島大学の馬場教授.et.alによって開発された津波のシミュレーションコードです。そしてありがたいことに、ソースコードと3.11のサンプルデータをgitに公開してくださっています。
導入に必要なものについては、gitのdocを見てください(丸投げ
JAGURS(github)
このコードの特徴は Jamstec(PDF)とか見てください。
ちゃんとパラメータを設定すると、海底地形の地すべりによる津波や、3.11の時のハワイで観測された津波もほぼ完璧に再現するそうです。
ですが、僕が使った記憶では、分散波を計算すると計算が不安定になるようです。太平洋で100mの津波とか発生してどうしようかと頭を抱えました。
#自分でやるために必要なもの
##海底地形や地殻変動データ
津波計算をやるには、海底地形データを手に入れないと話になりません。
海図から頑張って作ってもいいんですがその作業だけで次の津波が来ます。
大昔は、持ってる人に出会うまで絶対に手に入らなかったのですが、今は50メートルメッシュのデータは以下から簡単にダウンロードできるようです。
G空間情報センター 内閣府 中央防災会議 東海地震、東南海・南海地震等に関する専門調査会が作成したデータセット(リンク)
便利な世の中になりましたね。僕は3年前にこれをもらうために、内閣府にDVD-Rを数枚用意して往復郵便で送ってもらった記憶があります。
こちらのリンクで、太平洋と瀬戸内海沿岸の最詳細10mメッシュが手に入るようです。
G空間情報センター 内閣府 南海トラフの巨大地震モデル検討会リンク
地殻変動モデルについては、3.11については、「波源モデル」で検索すれば出てきます。例えば、こことか、こことか。
まだ起こってない南海トラフについては、実質、内閣府が出したものを信用するしかありません。もしくは海底地すべり等を追加してみることを強くおすすめします。
##GMT
Greenwich Mean Time(Official Page, wikipedia)ではありません。
GMT(Generic Mappint Tools)(Official Page)です。
地形や地図情報を扱うための、おそらく業界標準のツールです。噂では、GMTで作成するグラフが最も美しいという方もいるそうです。僕の修士論文の図は大半がこれで描きました。GMTを駆動するためのbatファイルを作るためのFortranのプログラムを書いて、アニメーションさせてました(懐かしい!
僕はこのツールのことを古代人による超科学兵器と呼んでいます。めちゃくちゃ歴史が古く、めっちゃ強力なツールなのですが、古代兵器なため、マニュアルが複雑怪奇だったからです。Ver5は使ったことありません。少なくとも15年前からVer4は存在しています。
JAGURSへの海底地形等の入力ファイルは、~~grd形式?~~netCDF形式という、GMTでないと作れない作るのがめんどくさいファイルが標準となっています。出力ファイルもgrd形式なため、可視化もGMTでやってしまうことをおすすめします。
##テクニック的なはなし
・Windowsで計算するのを諦める。
必要なライブラリとコンパイラの導入がくっそめんどくさかったです。
Linuxだと、intel fortran compilerが無料で手に入るらしいです。
・JagursのMPI=ONを諦める
貧乏人の僕はクラスタを組む金も気力も技術もなかったので、パソコン一台で計算するために、openmpiだけでコンパイルして計算しました。
某大学のHPCや某大学のHPCで計算するために、MPI=ONを試したのですが、コンパイルが出来ずに諦めました!
・緯度経度座標系を諦める
緯度経度座標系は可視化するだけで一苦労します。だってExcelで対応してないんだもん。
UTM直交座標系を強くおすすめします。
内閣府がくれる地形図も緯度経度ではなく、直交座標系に変換されたものです。
旧日本測地系や世界測地系が入り混じってるので気をつける必要があります。
(ただし、東北の地形には、標準では対応してないような意味わからん直交座標形式でした)
・GMTのバージョン
GMTの開発者サイドとしてはいい加減にGMTの5に移行してほしいんだろうなぁと思います。ここに"We strongly recommend that existing GMT 4 users consider visiting the GMT 5 site and upgrade to GMT 5." 意味「てめーら、メンテしんどいから、いい加減にGMT4から5に移行しやがれ」って書いてあるんですが、手に入る日本語の情報の多くはGMT4です。英語でもかなりの量が4な気がします。
だって少なくとも15年前から存在してますから。
・シェルスクリプト
津波は時々刻々と変化するので、是非ともアニメーションで見たいですよね!
(僕の約10年前の修士論文の最大の成果は、GIFアニしか技術がなかった研究室に、当時Terragen Animationを使ったときに得た知識の、連番画像からAVI動画(及び圧縮)を導入したことだと自負しています、)
まずは、コマ送り画像を作るために、出力されたファイルを連続的に可視化する必要があります。そんなときにシェルスクリプトは役立ちます。ちなみに、Jagursを動かすことができるレベルの人でシェルスクリプトを使えない人は居ないと思います。
##気合と根性と時間
がんばってください。
#まとめ
ふと思いったって、昔の記憶を引き出してきました、
日本国内の話であれば、間違いなく津波の計算ができます。
そもそも、津波の計算したい奴が何人おんねん!というのが最大の疑問ですが。
徳島大学の馬場先生には大変お世話になりました。
お会いした時に、*「GMTも使えて、JAGURSを動かして試計算して可視化してから訪ねてきた奴は初めてや」*という言葉は忘れません。
今は見事に、日本から追い出されてアメリカをクビになって、無職です。仕事ください。