はじめに
私たちのチーム(10人ほど)では2週間ごとにスプリントレトロスペクティブ(振り返り)をやっているのですが、そこに MVP制度 を導入しました。スプリントごとにチーム内投票で「今回のMVP」を1人決める、というシンプルな仕組みです。
導入から10ヶ月以上が経ち、手応えも課題も見えてきたので、この記事にまとめます。
同じように「振り返りの型としてはちゃんと回っているけど、良かったことを書き合ってもそのまま流れていってしまうな」と感じている人の参考になれば嬉しいです。
前提: 振り返りの流れ
MVPの話に入る前に、前提として振り返りの流れをざっくり書いておきます。
- スプリントゴールの振り返り
- Keep / Good(各自が、自他含め良かった動きを書く)
- Problem(チームの課題・各メンバーへのリクエスト)
- 今回のTryの振り返り / 次のTry
- 次のスプリントのゴール設定
MVP制度は、この Keep / Good の直後に投票フェーズを差し込む形で入れています。
なぜMVP制度を入れたのか
1. そもそも褒められる機会が少ない
大人になると、仕事で誰かにちゃんと褒められる機会ってあまりないな、と感じていました。
Keep / Good で書き合う文化はすでにあったものの、テキストとして流れていくだけで終わりがちです。「今回はこの人でした」とチームの総意として1人を立てる場があると、良い動きがきちんと可視化されるんじゃないかと考えました。
2. AI時代、アウトプット量だけでは評価しづらくなってきた
AI活用が進んだことで、「たくさんコードを書いた」「たくさんIssueを消化した」といった単純なアウトプット量が、そのまま貢献度を表すわけではなくなってきました。
一方で、AIが肩代わりしてくれない部分もあります。何をやるべきか決めること、周りを巻き込んで進めることなど。アウトプットを出すコストが下がったぶん、こうした動きの価値は相対的に上がっていると感じます。
こういう「数字に出づらいけどチームにとって重要な貢献」は、一緒に働いているメンバーが一番よく見ています。だったら、メンバーの投票で決めるのが一番実態に近いのではと考えました。
3. 「目標に向かって頑張る」の具体像を共有したかった
「チームの目標達成に向けて頑張ろう」と言葉で伝えても、具体的にどう動けばいいのかは意外と伝わりません。
MVPに選ばれた人の動きを見ることで、「あ、こういう動き方が評価されるのか」 が具体例として共有される。これが個人的には一番大きい狙いでした。抽象的な行動指針より、実際の事例のほうが何倍も伝わります。
どうやって運用しているか
投票ツールは「多数決さん」を使っている
投票には 多数決さん を使っています。
選んだ理由はシンプルさです。
- URLを共有するだけで投票できる(アカウント登録不要)
- 無記名にできる
- 1人あたりの投票数を設定できる
- パスワードをかけられる
振り返りの最中にサッと投票して、その場で結果を見る、という運用にちょうど良い温度感でした。
無投票もOKにしている
「今回は該当なし」で投票しないのもアリにしています。
全員が必ず誰かに入れる形にすると、「消去法で誰かに入れる」が発生します。それをやると受賞の価値が下がってしまうので、「本当に推したい人がいるときだけ入れる」という運用にしました。
また、投票は無記名にしています。誰が誰に入れたか分からないぶん、入れる側も気を遣わずに済んでいると思います。
ただ、実際に無投票が出ることは稀でした。
半期で一番取った人にはちょっと良いご飯
インセンティブとして、半期で最もMVP獲得回数が多かった人には、ちょっと良いご飯をご馳走することにしています。
大げさな報酬にはしていません。「ちょっと良いご飯」くらいの温度感がちょうど良いと思っています。
受賞者インタビューをやる
投票結果が出たあと、受賞者に軽くインタビューをする時間を取っています。
「今回どういうところを意識していましたか?」みたいな話を聞くだけなのですが、これが地味に良くて、場が和みます。あと、受賞理由が本人の口から語られることで、さっき書いた「良い動きの具体像の共有」がより効きます。
たまに、他のメンバーに発破をかける人もいて、面白かったです。
例)もっと他の人もMVPを取ってください的な
導入してどうなったか
個人目標が立てやすくなった
想定していなかった効果として、メンバーが個人目標に「MVPを○回取る」を設定するケースが出てきました。
弊社には、半期ごとに個人目標を立てて振り返る評価制度があります。
個人目標って抽象的になりがちなのですが、MVPという分かりやすい指標があることで目標設定のとっかかりになっているようです。しかもこの目標、達成しようとすると必然的に「チームに貢献する動き」をすることになるので、目標としても健全だなと思っています。
ただ、MVPの獲得回数がそのまま評価になるわけではありません。マネージャーとしては当然、他の要素も加味したうえで最終的な評価をしています。MVPが担っているのは、抽象的になりがちな個人目標に最初の足がかりを与えるところまで、という感じです。
Keep / Good の記載量が増えた
投票するには、他のメンバーが今スプリントで何をやっていたかを思い出す必要があります。
その結果として、Keep / Good に書かれる内容が増えた実感があります。「投票のために他の人の動きを振り返る」→「振り返ったからには書く」という流れができているのかなと。
振り返りの質そのものが上がったのは、正直嬉しい誤算でした。
課題
もちろん、良いことばかりではありません。
担当プロジェクトの規模でバイアスがかかる
大きくて目立つプロジェクトを担当していると、どうしても目に留まりやすくなります。逆に、地味だけど重要な仕事は票が入りにくい傾向がある気がしています。
ここはまだ手を打てていないのですが、これから試したいと思っているのが、「人」ではなく「動き」に投票する形です。「〇〇さんのあの動き」に票を入れて、一番票が集まった動きをした人が受賞者になる、というイメージです。
投票先(どの「動き」を選択肢に載せるか)の設定が難しいので、工夫は必要。
評価の対象がプロジェクトの規模から個々の行動に移るので、バイアスの根っこに効くんじゃないかと思っています。
受賞者が偏る
これも起きています。みんなが投票した結果なので納得感はあるのですが、当然メンバーによって経験値もレベル感も違うので、「同じ基準で比べると経験のある人が勝ち続ける」構造は残ります。
こちらもこれからの話ですが、その人自身の過去と比べた伸び幅を見られる仕組みを別に用意できないかと考えています。
MVPは「全員を同じ基準で見て、そのスプリントで一番だった人を選ぶ賞」のまま残しつつ、伸び幅は別の軸で見る、というイメージです。
まとめ
- スプリントレトロスペクティブに、チーム投票で決めるMVP制度を導入した
- 狙いは「褒める機会をつくる」「アウトプット量以外の貢献を可視化する」「良い動きの具体像を共有する」の3つ
- 投票は無記名・無投票OK、半期の最多獲得者にはちょっと良いご飯
- 結果として、個人目標が立てやすくなり、振り返りの記載量も増えた
- 一方で、担当プロジェクトによるバイアスや受賞者の偏りは課題
仕組み自体はとても軽いので、「振り返りがマンネリ化してきたな」というチームは試してみる価値があると思います。
