はじめに
エンジニア採用の話で「最近は、一緒にいて楽しい人を採用するようになった」という言葉が出てきて、えっ、スキルじゃないんだ、と思わず前のめりになりました。
2026年8月21日にあった AI Professionals Kaigi #01 - AI時代のCTOお悩み相談室 に参加してきました。CTOやVPoEの方々が、AI時代のリアルな悩みを本音で話すパネルディスカッションのイベントです。
自分はQAエンジニア2年→開発エンジニア半年の若手なので、「上の人たちが今なにに悩んでいるのか」を生で聞ける時点でかなり貴重でした。特に刺さった話をまとめます。
筆者のメモと当日の録音をもとにした参加レポです。引用っぽく書いている部分も逐語ではなく、筆者が要約したものです。細かいところが違っていたらすみません(気づいた方はコメントで教えてください)。
登壇者の方が「細かいことは言えないんですけど」と前置きされた社内の数字や、個人が特定できる話は省いています。
イベントの概要
- イベント名: AI Professionals Kaigi #01 - AI時代のCTOお悩み相談室
- 日時: 2026年8月21日(金) 19:30〜21:00
- 主催: AI Professionals / TechFeed
- 会場: 株式会社Hajimari オフィス(渋谷)+ オンライン配信
登壇者はこの方々でした。
| 登壇者 | 所属 |
|---|---|
| 小澤 健祐 氏(おざけん) | AICX協会 代表理事 / 『生成AI導入の教科書』『AIエージェントの教科書』著者 |
| 橋口 剛 氏(ハッシー) | 株式会社Arty Intelligence Lab. 代表取締役 / 元Google執行役員 |
| 各務 茂雄 氏 | スギ薬局 DX戦略本部 本部長 / 元AWS |
| 岡田 幸紀 氏 | 株式会社Hajimari 執行役員CTO / 元Google |
| 白石 俊平 氏(MC) | AI Professionals 編集長 / TechFeed創業者 |
事前に集めた7つのお題から選んで議論する形式で、「社長にAI投資をどう説明するか」「エンジニア組織はこれからどう変わるべきか」「SI・コンサルビジネスの未来」といったテーマが出ました。以下、話題ごとに書いていきます。
「プログラミングをするのはエンジニアじゃない」
いきなり定義の話から始まったのが面白かったです。各務さんの話です。
プログラミングをするのはエンジニアじゃない、と自分は思っています。物事を構造化するのがエンジニアリングです。
言葉だけ聞くと「まあ、よく言いますよね」なんですが、続きが具体的でした。各務さんが今いる薬局の現場でも、薬剤師さんに文系寄りの人と理系寄りの人がいて、エンジニアリングができる人とできない人に分かれるんだそうです。職種じゃなくて、物事を整理できるかどうかで分かれる、と。
そのうえで、けっこう強い言い方が出てきました。
正直、要件定義ができる人以外いらない、と言っています。
ここでの要件定義は、仕様書を書くことじゃありません。アナログな仕事をしている人のところに自分から行って、「これって、こういうことじゃないんですか?」と業務を整理してあげることを指しています。
ただ、これがしんどいらしいです。グループ会社の現場には、今も一人で紙で仕事をしている人がいる。そこにデジタル寄りの人が行くと、単純にストレスなんだと。
そこを一人で乗り切れるなら乗り切ればいいし、できないならチームを組んで、マッチする人材と連携する。これができるかできないかが勝負だと結論を出しました。
聞きながら思い出したのが、QA時代に仕様書のない機能のテスト設計をするために業務フローを聞いて回っていたことです。あれ、実は要件定義だったのかも、とちょっと嬉しくなりました。
「今必要とされているスキルは、あと2年で要らなくなる」
橋口さんが、前日にスナックで話したという内容を紹介してくれました。バイブコーディングが流行って危ないよね、という話の流れです。
「エンジニアに今必要とされているスキルって、あと何年もつと思います?」と聞いたら、その人は「あと2年でほとんど要らなくなる」と。僕は5年くらいかな、ともう少し優しく思っていたんですけど。
若手としてはヒヤッとする話です。設計して実装するところは数年でなくなる。じゃあ何が残るのかというと、
課題を見つけること。ビジネスがどこを向いているかをWhatから見つける。Whyは当然共有されているとして、何をやるのかを決めて、結果責任を負う人たちに変わるんだろうな、と。
エンジニアリング組織自体は会社によって5年〜10年は残るけど、最終的には「課題を見つけて、解決して、事業に貢献するところまでやる人」になるんじゃないか、とのことでした。
似た話を小澤さんもしていました。
Why / How / What で分けたとき、WhatとHowは全部エージェントにできる。今ビジネスがうまくいっている人って、Whyの設計だけをしていて、HowとWhatは正直、誰がやってもいい状態になっているんですよね。
「一回、エンジニアをやめたらいい」── メルカリの社内交換留学の話
この日いちばん驚いたのがこの話でした。小澤さんが挙げたのが、メルカリの木村俊也さんがCTOのままCAIO(最高AI責任者)とCHRO(最高人事責任者)を兼任することになった、という人事です(ITmediaの記事)。
面白いのは、その前段だったそうです。
メルカリは準備の段階で、エンジニアを人事部に異動させて、社内でずっと交換留学のようなことをやっていた。そうしたら、人事の現場のAI化がめちゃくちゃ進んでしまった。
誰でもコーディングできて、誰でもマーケティングできる時代になると、方向は2つあります。
- エンジニアが現場寄りに行く
- 現場がエンジニア寄りになる
どっちにも良さがあって、
- 現場から来る人は、長く現場にいたからこその暗黙知を持っている
- エンジニアから来る人は、リスクの見方や「もっと上流をちゃんとやりましょうよ」という視点を持ち込める
そのうえで出てきたのが、この一言です。
一回、エンジニアをやめたらいいと思います。
現場に行かずに「非効率だ」とバカにする人がSNSにはいるけど、そうしなきゃいけない理由が現場にはある。だから一回エンジニアを"退職"して、いろんな部署に入ってみると面白いんじゃないか、という話でした。小澤さんはエンジニア向けの講演で「エンジニアの仕事、半年くらいやめたらどうですか」と言っているそうです。
これは自分にもちょっと当てはまる気がしました。QAから開発に移ったとき、テストする側で見ていたものがそのまま役に立ったので。
採用基準が「一緒にいて楽しい人」になった
「エンジニア組織はこれからどう変わるべきか、採用について」というお題への、Hajimari CTO 岡田さんの回答が冒頭の話です。
岡田さんはスタートアップのCTOを月2回くらい集める「CTOランチ」をやっていて、そこでいちばん出る悩みが組織づくりなんだそうです。今の若い人はどんなキャリアを歩めばいいのか。採用にアクセルを踏むべきか。AIが仕事を巻き取っていって人が余るんじゃないか。
で、回答は意外と落ち着いていました。
昔、オフショアでインドに全部出せばいい、みたいになった時代があって、その時も日本のエンジニアは「俺たちの仕事はなくなるんじゃないか」と迷っていた。でも結果的に全然なくならなかった。昔オフショアで悩んでいたことを、今AIで悩んでいるだけ、くらいにしか捉えていないです。
ただ、採用のやり方は変えている、と。
ガリガリの、Pythonの天才です、みたいな人は一昔前は貴重で、そういう人を採用するためにわざわざフィンランドに拠点を作ったりもしました。でも今は、そういう人よりも一緒にいて楽しい人を採用するようにしています。グラスが空いたらすぐお酒を注いでくれる人とか。本当にリアルに、そういう人を採るようにしていますね。
笑いながら話していましたが、「ソフトスキル中心の組織に変えようとしている」というのは本気っぽかったです。しかも「自分もそういうふうにならないといけない」と続けていました。
スキルの差が2年で埋まるなら、たしかにスキルで採用を決める意味は薄くなるのかも、と思いました。とはいえ若手としては「スキルを磨け」と言われたほうが分かりやすいので、正直ちょっと困ります。
MPマネジメントと「答えは昼寝」
各務さんが自分で出したお題が「AIと一緒に仕事をしていると、自分がポンコツだなと感じる」でした。
自分のエージェントを作っていると、俺はクビになるんじゃないかな、と。AIは記憶力があるし、変な感情もないし、疲れない。だから自分は進化しなくちゃいけない。
その進化の仕方が具体的でした。ゴルフのシャフトを、あえて自分には難しいものに買い替えて、そこに自分を合わせにいく。そういうルーティンを持っているそうです。
メンタルの強さが大事で、ドラクエで言うところのMPマネジメントをどうやるか。自分の能力として持っておくと、ルーティンができる。いつまでも挑戦を続けられるルーティンを作るのは、エンジニアリング組織にとって本当に大事です。
HPじゃなくてMPなのが妙に納得でした。体力より先に、やる気のほうが尽きるんですよね。しかもそれを根性じゃなくてルーティンで持つ、というのがいいなと思いました。
このお題には橋口さんがこう返していました。
自分の存在価値をなくすような効率化をすることが仕事だな、という逆説的な考えを持っていて。仕組み化して、自分がいなくても、より少ない人数で仕事が回るようにするのが、ある種、資本主義の本質じゃないかなと。
小澤さんは「ポンコツでいい」派で、ハンナ・アーレントの『人間の条件』を引きながら、仕事と活動(内発的な動機で他者と新しいことを生むこと)は違う、という話をしていました。うまくいっている人はこの2つが重なっているから、活動寄りの人生にしたほうがいい、と。ちなみに行きつけのスナックのマスターと「AI業界が集まるスナックを作りたい」という話で盛り上がっているそうです。
「下から順に仕事を決める」と、上に残る雑用
MPの話は、そのままAI疲れの話につながりました。各務さんの現場ではこんなことが起きているそうです。
- チームに**「ガベージイン・ガベージアウト禁止令」**を出している。AIに適当に投げて、適当に返ってきたものをそのまま送ってくる人が多発したため
- スプレッドシートのマス目を見た瞬間に「AIでやっただろ」と分かる
- 結果、レビューする側がめちゃくちゃ苦しくなる
- エージェントに仕事を任せていくと、自分に残るのは雑用と、意思決定だけの会議になる
「何も考えなくていい会議がほぼゼロになって、意思決定をすることだけの会議が残ってしまった。意思決定してるけどキツいな、と」というのは、聞いていてなかなかリアルでした。
そして組織のルールが独特でした。
自分たちの組織は、下から順に仕事を決められるというルールがあります。一番上に行く人は、残った仕事をやる。みんな楽しい仕事から順番に取っていくので、熱中しやすい。そうすると、私に雑用が残る。
普通は上から降ってきた仕事を下がやりますが、これは逆です。自分で選んだ仕事だから熱中できるし、やり切る。その代わり上のほうがキツくなる。
MCから「部下が去年の2倍のアウトプットを出していて、でも3時間昼寝していたら怒りますか?」と聞かれたときの答えも潔かったです。
見て見ぬふりじゃなくて、積極的にサボっていく。答えは昼寝です。
もうひとつ、各務さんが強く言っていたのが2:6:2の話でした。「下の2割の人たちをバカにするな」と徹底しているそうです。できる人が「あいつらは仕事ができない」と言い出す。それは言うな、と。できる人に仕事が集まりすぎないようにしつつ、できない人をないがしろにしないチームを作るのが大事だ、という話でした。
若手にちゃんとブチギレる
若手のキャリアの話で、小澤さんから出てきた提案が意外でした。海外では若手の仕事が減っている、という問題とセットの話です。
今日、各務さんがちょっとブチギレ気味に「クソみたいなアウトプットを俺のところに持ってくるな」と話していましたけど、そのブチギレをもっと増やしてもいいのかなと思っていて。
小澤さん自身、3社目のシステムコンサル時代に、パワーポイントの線が1ピクセルずれているだけで資料を破られたそうです。文字の色が1つだけ違う、固有名詞の表記が揃っていない、というレベルで詰められた、と。
コンプラ的な話はあると思うんですけど、徹底的に言語化して「クズを俺のところに持ってくるな」と言うのは、一つアリなのかなと。それを言語化して叱ってあげるのが、若い人にとっては成長チャンスだったりするので。
「疲れを回復させる話と逆なんですけど」と本人も笑っていました。でも、AIでそれっぽいものが出せてしまう今だからこそ、ちゃんと言葉にして指摘してもらえるのはありがたいよな、と若手側としては思いました。
SI・受託はなくならない ── 多重下請けとGDPの話
「日本のAI時代におけるSI・コンサルビジネスの未来」は橋口さんが出したお題でした。人月ビジネスの現場から「AIで10人月が1人月になったら、そのまま売上が減るのでは」という相談が実際に来ている、という話が背景です。
これに対する答えが、そろって「なくならない」だったのが意外でした。
岡田さん(HajimariはSI事業をやっていて、絶賛アクセルを踏んでいるそうです):
今までアプリを作れなかった人が、アプリを作れるようになる。でもそのアプリはセキュリティもめちゃくちゃだし、スケーラビリティもない。そこの面倒を見る人の需要は、むしろ増えるんじゃないかと。
コンサルについては「もともと情報の非対称性がネタのビジネスなので長期的には減るかもしれない。でも形が変わるだけで、セキュリティコンサルが爆発的に必要になったりもするので、縮小はしないんじゃないか」とのことでした。
各務さんは、発注側と受注側の両方を経験した立場から、日本の大企業がベンダーマネジメントをやめない限りAIもベンダー任せになりがち、と話していました。背景には「意思決定をした人が負ける」日本企業の文化と、「意思決定をどれだけしたかが評価される」アメリカ企業の文化の違いがある、と。
小澤さんは「一次請けは絶対なくならない」と言い切っていました。責任を取るという仕事があるからで、その意味で一次請けはシェアリングエコノミーみたいなものだ、と。
そして、いちばんびっくりしたのがこの話です。
二次請け・三次請けがなくなると、GDPがめっちゃ下がるんですよ。
説明はこうでした。
- 元の会社が 100 で発注する
- 一次請けが 70 で次に発注する
- それを 50 で三次請けに発注し、50でエンジニアが動く
- 100→70の間に 30の付加価値、70→50の間に 20の付加価値 が生まれている
- 足すと、GDPとしては 200 になる
- 内製化してしまうと、100にしかならない
つまり多重下請けをすればするほどGDPは伸びる。「百重請けとかしたら、やべえGDPになる」と笑っていました。そして結論がこれです。
だから僕、これからAIデフレに行きますよ、と言っているんですけど。AIでGDPが上がるなんて幻想だと思っていて。GDP主義を貫く限りは、意外とSIerが残るという見方も実はあるんですよ。
多重下請けは非効率だからなくすべき、と自分は何となく思っていたので、こういう見方があるのかと素直に驚きました。マクロの話なので自分では検証できませんが、「内製化=正義」で止まっていたな、とは思いました。
セキュリティがガチガチな現場でAIをどう使うか
会場のSIerの方から出た質問が切実でした。開発用PCと業務用PCがネットワークレベルで分かれていて、開発PCではコーディングエージェントが使えるけど、業務用PCは手作業のまま。物理的にも分かれているので根本から見直さないといけない、という状況だそうです。
これに答えたのが、三菱UFJ銀行での経験がある各務さんでした。
メガバンクは、セキュリティガチガチのガチガチのガチガチです。ただし、「ここはこうじゃないんじゃないか」という知恵が働く。このデータはここまで扱っていい、というガバナンスが細かく分かれているので、ここまでなら良し、という判断がしやすいんですよ。
そして意外だったのがこの続きです。
意外とつらいのは、メガバンクほどの組織力を持っていないところなんです。細かくセキュリティの境界線を引いて、ここまでは良し、かつ監査する、何かあったときはこうする、という設計は、組織力がないと結構厳しい。
「セキュリティが厳しいからAIが使えない」んじゃなくて、境界線を細かく引いて運用し続けられるかどうかが本当の壁だ、という話です。一律禁止は考えなくていいから楽だけど、それをやると現場が何もできなくなる。ここは自分の会社にも持ち帰りたい話でした。
まとめ
若手として持ち帰ったのはこのあたりです。
- エンジニアは「プログラミングをする人」じゃなくて「物事を構造化する人」。現場に行って整理してあげるのが要件定義
- 今必要なスキルはあと2年で要らなくなるかもしれない。残るのは課題を見つけて結果責任を負うこと
- だからこそ「一回、エンジニアをやめたらいい」。メルカリは社内交換留学というかたちで先にやっていた
- 採用基準が「一緒にいて楽しい人」になるのは、スキルで差がつかなくなったから
- 組織にはMPマネジメント(挑戦を続けられるルーティン)が要る。そして答えは昼寝
- AIでGDPが上がるのは幻想。多重下請けをやめるとGDPは下がるので、意外とSIerは残る
自分に今できるのは、構造化する力を鍛えつつ、開発の外にも足を伸ばしておくことくらいかなと思っています。QAから開発に移ったときの越境が効いたので、次はもう一段、事業側の話が分かるところまで行きたいです。
あと、スナックには行こうと思います。この日の登壇者、全員スナックの話をしていたので。
なお、このイベントの内容は後日、主催のAI Professionalsでも記事になるそうです。
参考
- AI Professionals Kaigi #01 - AI時代のCTOお悩み相談室(connpass)
- AI Professionals
- メルカリ、AIと人事の責任者を1人に統合 「組織ごとAI前提に」(ITmedia NEWS)
- メルカリCTO 木村俊也氏、「CAIO」と「CHRO」兼務へ 人と組織の運営基盤をAI前提で再設計(EnterpriseZine)
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