公開から6時間で Qiita のトレンド1位に入った。
その日のうちに★1レビューが50件を超えた。
Slack に「怖くて使えない」「胃が痛くなった」「こんなアプリ要らない」という感想が届き続けた。
炎上した。でも削除しなかった。
どんなアプリを作ったか
アプリ名は「Yomei」(余命)。ストレートな名前だ。
機能はシンプル。以下の生活習慣を入力すると、「生活習慣スコア」と「余命への推定影響」を返す。
| 入力項目 | 詳細 |
|---|---|
| 睡眠 | 平均睡眠時間、就寝時刻のバラつき、睡眠の質の自己評価 |
| 運動 | 週の運動頻度、1回の時間、有酸素・無酸素の比率 |
| 食習慣 | 野菜摂取頻度、加工食品・砂糖の摂取量、朝食の有無 |
| ストレス | 慢性ストレスの自己評価、趣味・回復時間の有無 |
| 孤立度 | 信頼できる人間関係の数、週の対面交流の頻度 |
| 喫煙・飲酒 | 本数・量・頻度 |
これらを入力すると、疫学研究のデータをもとにした「余命への影響推定」が出る。たとえば「あなたの現在の生活習慣は、平均的な生活習慣と比較して推定余命を−8.3年影響する可能性があります」のような形式だ。
さらに「一人暮らしリスク診断」という機能も付けた。社会的孤立が死亡リスクに与える影響(孤独は1日15本の喫煙と同等、という研究がある)を可視化するものだ。
公開初日の反応
Qiita に開発記事を投稿した。タイトルは「生活習慣が余命に与える影響を可視化するアプリを個人開発した」。
| 時間 | 出来事 |
|---|---|
| 0時間 | 投稿 |
| 2時間 | LGTM 200超え。Qiita トレンド入り |
| 4時間 | X(Twitter)でバズり始める。「これは使いたくない」ツイート多数 |
| 6時間 | トレンド1位 |
| 12時間 | ★1レビューが殺到。「公開するな」「削除しろ」のコメントも |
| 24時間 | PV 約8万。アプリのアクティブユーザー数 約3,500人 |
「バズった」と「炎上した」が同時に起きた。
★1レビューの内容を分析した
★1レビューが50件を超えたとき、ひとつひとつ読んだ。
傾向を分類すると、大きく3種類に分かれた。
| 分類 | 割合 | 代表的なコメント |
|---|---|---|
| 「当たりすぎて怖い」 | 約40% | 「思ってた数字が出た。見たくなかった」「当てはまりすぎて胃が痛い」 |
| 「こんなもの要らない」 | 約35% | 「知ってどうするんだ」「不安を煽るだけ」「使いたくない」 |
| 「一人暮らし機能が傷つく」 | 約25% | 「孤独を数値化しないで」「独身への差別」「余計なお世話」 |
興味深かったのは、「計算が間違っている」というレビューがほぼなかったことだ。
怒りの理由は「不正確だから」ではなく、「正確すぎるから」だった。
「知りたくない真実」の問題
アプリのフィードバックを整理していて、ある共通点に気づいた。
最も強い反発が来た機能は「孤立度」の項目だった。
| 項目 | 強い反発があった内容 |
|---|---|
| 孤立度 | 「信頼できる人が0〜1人」の場合のリスク表示 |
| 睡眠 | 「平均5時間未満」の場合の余命影響 |
| 一人暮らしリスク | 「週の対面交流が3回未満」のリスクスコア |
これらの共通点は、「自分で薄々気づいていたが、直視していなかった現実」であることだ。
「孤独がリスクだ」とは多くの人が知っている。「睡眠不足は良くない」とも知っている。
でも「あなたの孤立度は危険域です。推定余命への影響: −4.2年」と数値で出ると、知識が「自分ごと」になる。
これが不快感の正体だと思う。
炎上の構造
今回の炎上は、アプリの「欠陥」に対する反応ではなかった。
**「正確すぎるデータは人を不快にさせる」**という現象だった。
| 心理的メカニズム | 内容 |
|---|---|
| 認知的不協和 | 知識と行動が矛盾している状態を指摘される不快感 |
| オストリッチ効果 | 都合の悪い情報を見ないようにする傾向 |
| 自己効力感の低下 | 問題を知っても解決できないと感じると怒りに転換される |
オストリッチ効果(ダチョウが砂に頭を突っ込んで現実から目を背けるイメージ)は、行動経済学で有名な概念だ。株価が下がっているときに証券口座を見ない、健康診断の結果を開封しない、というあれだ。
「Yomei」が計算した数値は、多くのユーザーにとって「見たくなかった、でも正しい現実」だったのだと思う。
でも削除しなかった理由
炎上から48時間後、友人から「削除した方が良くない?」と連絡が来た。
自分は「しない」と答えた。
理由は2つある。
理由1: 「知ること」自体に価値があると思っているから
健康診断を受けたくない人はいる。でも健康診断は存在する価値がある。不快でも、知ることで行動が変わる可能性があるからだ。
「一人暮らしリスク診断」で「危険域」と出た人が、友人に連絡するかもしれない。睡眠スコアで警告が出た人が、就寝時刻を30分早くするかもしれない。
不快感は変化のきっかけになりうる。
理由2: ★1をつけた人たちが、アプリをちゃんと使っていたから
★1レビューの多くは、実際にアプリを使った上でのフィードバックだ。
数値が「当たりすぎて怖い」と言う人は、アプリを信頼している。不正確なら怖くない。怖いということは、認知としてリアルに受け取ったということだ。
怒りは「正確性」の証明でもあった。
3ヶ月後の状況
公開から3ヶ月が経った時点のデータ。
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| 累計ユーザー数 | 約18,000人 |
| DAU(日次アクティブ) | 約200人 |
| 平均セッション時間 | 8.2分 |
| ★5レビュー | 89件 |
| ★1レビュー | 61件 |
| 「友人に勧めた」回答(アンケート) | 34% |
★1と★5が両立している。これは「強い感情を引き起こすコンテンツ」の特徴だと思う。無関心な人はレビューを書かない。
アンケートで「このアプリを使って、何か生活習慣を変えましたか?」という質問をしたところ、「何か変えた」と回答した人が全体の28%だった。
ちなみに現在、同じ「知りたくない真実を直視する」系のコンテンツとして、IQテストも開発している。自分の認知能力を数値で知ることも、生活習慣スコアと同じく「不快かもしれないが有益な自己認識」だと思っている。
「知りたくない真実を直視する」行為について
「Yomei」の炎上を通じて考えたことがある。
人は「知ること」を恐れる。特に、知った後に「でも変えられないかもしれない」と思うことを。
孤独は「友達を作ればいい」と頭では分かっていても、行動に移すのが難しい。睡眠は「早く寝ればいい」と知っていても、スマホを置けない。
だから「知らない方が幸せ」という選択をする人がいる。それは一つの合理的な判断だと思う。
でも「知った人だけが変えられる」のも事実だ。
健康診断を毎年受けている人と受けていない人では、早期発見率に差がある。家計簿をつけている人とつけていない人では、無駄遣いへの意識に差がある。
「見たくない数値」は「変えるべき現実」の地図だ。
| 見たくない数値 | 見た場合のリスク | 見なかった場合のリスク |
|---|---|---|
| 生活習慣スコア | 不快感・自己批判 | 問題が続く |
| 認知能力スコア | 自己評価の揺らぎ | 認知の偏りに気づけない |
| 孤立度スコア | 孤独の直視 | 孤立が深まる |
| 体重・血圧 | 不安 | 疾患の見逃し |
不快でも、知ることの方が長期的には得だ。そう思っている。
まとめ
| 出来事 | 内容 |
|---|---|
| アプリ公開 | 生活習慣スコアと余命影響を可視化 |
| 反応 | 公開初日にトレンド1位、★1が殺到 |
| 炎上の理由 | 「不正確」ではなく「正確すぎた」 |
| 削除しなかった理由 | 知ることに価値があると思ったから |
| 3ヶ月後 | 28%のユーザーが何か生活習慣を変えた |
「余命が縮まる生活習慣診断」は炎上した。でもそれは、多くの人に「自分の現実を直視させた」ということだと思う。
正確なデータは不快だ。でも不快感の先にしか、変化はない。
それはIQテストも同じだと思っている。自分の認知能力を測ることは、「知りたくないかもしれない真実を直視する行為」だ。でも知った人だけが、自分の脳の使い方を変えられる。
