リリースから72時間で、AppStoreのレビューに100件以上の★1がついた。
通知が来るたびに胃が痛くなった。それでもレビューを読み続けた。
削除しなかった。なぜなら、その怒りの中に「本物の声」があったから。
アプリを作った経緯
アプリ名は「TaskNest」。タスク管理アプリだ。
世の中にタスク管理アプリは数えきれないほどある。それでも作ったのは、「通知がうるさすぎる」という個人的な不満からだった。
「通知は自分が望んだタイミングにしか来ない」「完了したタスクは即消える」「シンプルで余計な機能は一切ない」
この3点に絞って開発した。期間は約4ヶ月。仕事終わりと週末だけで作り上げた。
| 機能 | 詳細 |
|---|---|
| スマート通知 | ユーザーの行動パターンを学習して最適なタイミングで通知 |
| 即時削除 | タスク完了ボタンを押すと0.5秒でリストから消える |
| ゼロ設定 | インストール直後から使える。設定画面がない |
リリース当日、Qiitaに開発記事を投稿した。
「通知地獄から解放するタスクアプリを個人開発した」というタイトルで。
炎上の始まり
最初の1時間は順調だった。
LGTM数が増え、コメントも好意的なものが多かった。
「シンプルで良い」「さっそくDLした」「UIが好き」
そして3時間後、Xで「このアプリの通知の仕組みがおかしい」というツイートが流れてきた。
「学習型通知が、深夜2時に通知を送ってきた。プレゼン前日なのに眠れなかった」
このツイートが瞬く間に拡散した。
| 時間経過 | 状況 |
|---|---|
| 0〜3時間 | 好意的な反応、DL数順調 |
| 3時間 | 「深夜通知」ツイートが拡散開始 |
| 6時間 | AppStoreに★1が殺到 |
| 12時間 | ★1が50件突破 |
| 24時間 | ★1が100件超え、DL数激減 |
★1レビューの内容
100件を超えたレビューを全部読んだ。
分類するとこうなった。
| 分類 | 件数 | 代表的な内容 |
|---|---|---|
| 「深夜に通知が来た」 | 42件 | 「朝4時に通知が来た」「就寝中に何度も来る」 |
| 「学習機能が全然学習しない」 | 31件 | 「毎日同じ時間に使ってるのに、全然ズレた時間に来る」 |
| 「設定がないのが問題」 | 18件 | 「通知OFFにする方法がない」「睡眠時間を設定できない」 |
| 「アプリ自体のコンセプトへの批判」 | 9件 | 「こんな中途半端なAI機能いらない」 |
全部読んで気づいたこと。
怒りの根本は「学習アルゴリズムの精度不足」ではなかった。
「ユーザーのコントロールを奪ったこと」だった。
「設定画面がない」というのは、開発者の「シンプル信仰」だった。でもユーザーにとっては「自分の睡眠時間も設定できないのか」という怒りだった。
開発者としての後悔
「設定画面ゼロ」というコンセプトは、自分では誇りだった。
余計な設定を排除することで「誰でも使える」と思っていた。
でも実際は違った。
「カスタマイズできない」は「使いやすい」ではなく「融通が利かない」だった。
ユーザーインタビューを全くやっていなかった。
| やったこと | やらなかったこと |
|---|---|
| コーディング4ヶ月 | ユーザーインタビュー |
| UIデザインの試行錯誤 | プロトタイプテスト |
| 個人的な使用感のチェック | 多様な使用シーンの検証 |
| Qiita記事の準備 | 睡眠時間帯への配慮 |
エンジニアの「自分が使いやすいと思うもの」は、「全員が使いやすいもの」ではない。
当たり前のことを、100件の★1で学んだ。
炎上後の対応
72時間以内に緊急アップデートを出した。
追加した機能は1つだけ。「通知禁止時間帯の設定」だ。
「設定画面ゼロ」のコンセプトは諦めた。
「諦める」は悔しかった。でも正しい判断だった。
アップデート後、★1の投稿が止まった。「通知設定できるようになった」という★4・★5が増えた。
「こういう対応ができる開発者なら信頼できる」というコメントまで来た。
炎上したアプリが、アップデートで息を吹き返した。
炎上から学んだこと
炎上は「全否定」ではなかった。
ユーザーの怒りの中には、必ず「使おうとしていた」という前提がある。
無関心な人は★1すらつけない。★1をつけた人は、アプリを試して、期待して、裏切られた人だ。
| 種類のフィードバック | 意味 |
|---|---|
| ★1(機能への怒り) | 「使おうとしたが使えなかった」 |
| ★1(コンセプトへの批判) | 「アプリの方向性が合わない」 |
| ★5(改善後) | 「問題が解決された」 |
| 無反応 | 「最初から関心がない」 |
★1の怒りは「エネルギー」だ。
そのエネルギーをどう読み解くかが、個人開発者としての腕の見せどころだと思う。
IQとアプリ開発の関係
炎上後、自分のIQを測った。
「なぜこんな判断ミスをしたのか」を知りたかったから。
結果は、悪くなかった。
でもそれが逆に怖かった。
「IQが高ければ正しい判断ができる」わけではない、ということだ。
認知能力が高くても、バイアスは存在する。
自分の場合、「自分が使いやすいものは、他人も使いやすいはずだ」という思い込みがあった。これは「投影バイアス」と呼ばれる認知の歪みだ。
IQテストは論理的思考力を測れるが、「自分の思い込みに気づく力」は別物だ。
炎上して初めて、自分の認知バイアスに気づいた。
高いIQと盲点は共存する。
まとめ
| 出来事 | 学んだこと |
|---|---|
| ★1が100件 | ユーザーは「使おうとした人」 |
| 「設定なし」への批判 | シンプルと不自由は違う |
| 緊急アップデート後の復活 | 誠実な対応は信頼を生む |
| 自分のIQを測った | IQと認知バイアスは別問題 |
個人開発のアプリが炎上した日、レビュー欄に書いてあったのは「怒り」だけじゃなかった。
「もっと良くなってほしい」という期待が、怒りに変換されたものだった。
そう読み直すと、★1は最も熱心なフィードバックだと思えてくる。
