2026年7月28日、私は高速道路を運転中に――正確には、インターチェンジから降りようとする直前に――令和8年熊本地震に遭遇しました。
助手席に置いていたカバンの中から、スマートフォンから「ブーッ、ブーッ」という音(緊急地震速報)が鳴り響きました。その時は、なんだこの変な音はと思い、ブレーキを踏んだ時に揺れが来ました。車内ではそれほど強烈な揺れには感じませんでした。
ところが、目の前で道路が壊れていくのを見て「これは大変だ、でかい地震だ」と思いました。以下は揺れが収まってすぐに撮影した写真です。
橋の繋ぎ目の鉄骨?がグニャグニャになって弾けてました。寸前で止まれたのは、
- タイミングよくスマホの緊急地震速報が鳴ってくれた
- ブレーキの効きが良かった(半月ほど前に新品のタイヤに交換、路面が乾燥)
- 高速道路の出口で、ちょうど速度を落とそうかなと思っている所だった
など、かなり運が良かったと思います。
揺れが収まってすぐスマートフォンでYahoo!天気・災害アプリを確認すると、速報で「震度7」と表示されていました。それを見て、「これは大変だ。自宅は大丈夫だろうか」と。しばらくすると、道路を管理している黄色い車の方から、本線へ戻り、対面車線側の日奈久ICから降りるよう指示されました。そこから普段の何倍もの時間をかけ、なんとか自宅まで戻りました。
ドラレコの映像を見てみる
地震後の週末、自宅の片付けや、(断水だったので)水汲みなどしながら、「そういえば、ドラレコにはどんな映像が残っているんだろう」と思い出しました。
そこでデータを取り出して確認してみると、とんでもないびっくり映像が。
このまま、ただスマホの中でお蔵入りさせてしまうのも何だし、ちなみに使っていたアプリは下記で、SNSへアップロードする機能がある様です。ところが、私は普段からSNSをやっているわけでもありません。
色々考えて、ひとまず道路を管理している八代河川国道事務所へ映像を送ってみるのがよいのではないか、と思いました。
ちょうどホームページにもメールアドレスが掲載されていました。
ただ、問題は、「どうやって動画を送るか」です。メールだと大きすぎるし、SNSはやってないし、気が進まない。
そこで思いついたのがGoogleフォトでした。
動画ファイルのサイズは30MBほどだったので、アップロード自体はまったく問題ない。
Googleフォトへ動画をアップロードし、その共有リンク(リンクを知っているユーザーであれば誰でも閲覧できる)をメールで送りました。
すると、メールを送ってから1時間もしないうちに、「情報提供いただきありがとうございます。頂きました映像は、所内の関係部署へ共有させていただいております。」というお礼のメールをいただきました。そのときは、復旧作業でお忙しいのに返信が早いな、位に思っていました。
さらに1週間後に、「ご提供いただきました画像については、地震時における橋梁の挙動やこれまでに我々が実施してきました震災対策(落橋防止)、今後の更なる地震対策に非常に有益になるものと思います。」というメールもありました。どうやら、かなり役に立ちそうで、送っておいて良かったなと思ってました。
国土交通本省へ共有したい、と連絡が来る
それからしばらくして、忘れた頃に再びメールが届きました。内容は、「発災直後にご提供いただきました南九州自動車道の貴重な画像についてですが、国土交通本省へ提供させていただいてもよろしいでしょうか。しかしながら懸念しておりますのは、何らかの形で外部に公開されるかもしれないということです。」というものでした。
まだ本省には送ってなかったんだと思うと同時に「外部に公開」と書いてある。私は、あまり目立つのが好きではありません。そもそもSNSへ公開せず、道路管理者へ直接動画を送ったのも、そのためでした。しかも、送った元動画には、そのとき聴いていたポッドキャストの音声や、地震に驚いた私自身の声まで入っています。
それがそのまま外部へ公開されるのは、さすがに困ります。とはいえ、映像が何かの役に立つのであれば提供したい、という気持ちもありました。そこで、音声を消した動画を改めて提供することにしました。
ffmpegで音声を削除する
動画から音声を消すだけであればffmpegが手軽そうです。Raspberry piでは以下でインストールが可能。
sudo apt install -y ffmpeg
下記も参考になる。
さらに、「そこまで役に立つ映像なのであれば、SNSではなく、誰でも広く利用できる場所へ置いて、そのアドレスを知らせるのもよいのではないか」と考えました。そこで、音声を削除した動画をウィキメディア・コモンズへアップロードして、それを共有することにしました。
ウィキメディア・コモンズは、写真・動画・音声などを、誰でも利用・共有できる形で公開するサイトです。交流や日常投稿が中心のSNSとは違い、Wikipediaなどでも使える資料の保存・共有を目的としています。
ウィキメディア・コモンズへアップロードするため、音声なしのWebMへ変換したコマンドがこちらです。
ffmpeg -i content.mp4 \
-map 0:v:0 \
-an \
-c:v libvpx-vp9 \
-crf 30 \
-b:v 0 \
-deadline good \
-cpu-used 4 \
-row-mt 1 \
-pix_fmt yuv420p \
-map_metadata -1 \
-map_chapters -1 \
content.webm
音声を削除し、メタデータもできるだけ取り除いて、映像だけのWebMファイルを作ります。変換できたら、ffprobeコマンドで、音声ストリームが入っていないことを確認します。
$ ffprobe -hide_banner content.webm
Input #0, matroska,webm, from 'content.webm':
Metadata:
ENCODER : Lavf59.27.100
Duration: 00:00:38.00, start: 0.000000, bitrate: 4067 kb/s
Stream #0:0: Video: vp9 (Profile 0), yuv420p(tv, progressive), 1920x1080, SAR 1:1 DAR 16:9, 27 fps, 27 tbr, 1k tbn (default)
Metadata:
ENCODER : Lavc59.37.100 libvpx-vp9
DURATION : 00:00:38.000000000
上記で、以下のような表示はされていないので、音声ストリームが無いことが確認できます。
Stream #0:1: Audio: ...
最後に、実際に動画を再生して音声が無くなっているかも確認します。
また、ウィキメディア・コモンズへ投稿するときは、他の人がどのような条件で利用できるかを決めるライセンスを選ぶことができ、例えば「作者名を表示すれば自由に利用・改変できる」といった条件を設定できます。
主な選択肢としては、
- CC BY-SA 4.0
- CC BY 4.0
- パブリックドメイン
などです。
私自身、このあたりのライセンスにはそれほど詳しくありませんが、ひとまず今回はCC BY-SA 4.0にしています。
また、ウィキメディア・コモンズでは写真や動画に、撮影場所の緯度・経度やカメラを向けた方角などの地理情報を付けられます。これにより、どこから何を撮影した資料なのかが分かりやすくなり、地図上で探すこともできます。今回は、ドラレコのアプリの記録から拾いました。
気がつけばテレビのニュースに
それから少し経ったころ、実家から連絡がありました。「あの動画、テレビのニュースに出ているよ」と。
実家にはLINEで例の映像を送っていたので、すぐに分かったようです。調べてみると、いつの間にか公式SNSで映像が公開されていました。数日のうちに、全国ニュースでも取り上げられ、Yahooニュースにもあがっていました。かの公共放送などから取材の申し入れも来る始末。
ただ、私はそもそも目立ちたくないから、道路管理者へ直接、情報提供したくらいなので、取材についてはお断りしました。
「被災映像を提供してください」と言われても
あるニュースでは、「ほかにも被災時の映像があれば情報提供をお願いします」という趣旨の呼びかけもありました。ただ、実際にやってみると、意外とハードルが高いと思います。
今回、私がやったことだけでも、
- ドライブレコーダーから映像を取り出す
- 情報提供するため、Googleフォトやウィキメディア・コモンズなどへ動画をアップロードする
- 聞かれたくない音声を消すため、ffmpegで動画を変換する
- 取材の申し入れが来た場合には、それに対応する
といった作業が必要になりました。さらに、今回は対象ではないですが、
- 個人の特定につながるナンバープレートなどが映り込んでいた場合
- 一般の人の顔などが写り込んでいた場合
- あまり公にできないものが映り込んでいた場合
などは、さらなる考慮が必要と思います。普通は、なかなか面倒です。
もちろん、普段からSNSを使っている人であれば、そのままSNSへ投稿する方法もあるでしょうが、最近はAIで作られた偽動画も珍しくなく、何の前触れもなく個人のSNSへ動画や写真を投稿しても「これは本物なのか?」と疑われて、そのまま埋もれる可能性もあります。
報道機関にはスクープ映像などを投稿するための仕組みが用意されています。
ただ私の場合、取材などに対応する必要も出てくるかもしれないと考えると、気が引けました。
今回は報道を見ていると、動画はかなり役立った感がありますが、他にも役立つ貴重な災害映像が、多く普及したドラレコの中でそのまま眠っているか、消えてしまったケースは、実際にはかなり多くあると思いますので、何かもっとシェアしやすい仕組みがあれば良いな、と思ったりしました。

