Who am I?
都内のSIerに勤務する社会人6年目になったインフラエンジニアです。
今年からOJTを担当するようになりました。
人材育成を専門にしているわけでも、これまで何人もの新人を育ててきたわけでもありません。
本記事はあくまで、初めてOJTを担当したり、複数名の部下を抱えるようになった中で自分なりに感じたこと・考えたことを整理したものです。
本記事の対象者
- AIの回答や過去のやり方を、仕事の中でどう扱うか考えている方
- 年次や立場に関わらず、自分の判断やその理由を説明する機会がある方
- OJTやレビューで、相手の考えをどう聞けばよいか悩んでいる方
はじめに
今までは自分が年次的に一番下っ端だったこともあり、
SIerでよく語られる「PL・PMとして複数のパートナーさんをマネジメントして〜」という仕事とはほぼ関わりがありませんでした。
仕事を割り振る先がいないので、年次相応で担当すべき仕事をしつつ、新人がやるべき仕事(議事録であったり、資料の体裁調整など)もこなしてきました。
このまま同じ状況を続けさせると耐えかねて辞めてしまうのではないか、心身のバランスを崩して休職してしまうのではないか、、、
という上層部の配慮があったのかどうかは知りませんが、昇格をきっかけに、複数名の部下と新人を束ねて仕事をすることが増えてきました。
仕事を割り振る・依頼する立場になってみると、業務の進め方以上にこの人には何を期待すべきかを考える機会が増えました。
その中でも特に意識するようになったのが、「自分の考え」を持ってもらうことです。
というのも、定例などで意見を聞いたときに本人の考えよりどこかで見たことのある文章が返ってくる場面が何度かあったからです。
最初はそこに少しモヤモヤしていた程度だったのですが、もし理由を考えずに回答を選んでいるのであれば、これは本人にとってかなり分の悪い戦略なんじゃないかと思うようになりました。
ただ、見慣れた回答が返ってきたからといって、本人が考えていないとは限りません。知識が足りないのか、何を聞かれているか分からないのか、間違ったことを言いにくいのか。こちらの聞き方や仕事の渡し方も含めて、見ないと分からない部分があります。
ここで気にしているのは、回答がありきたりかどうかではなく、なぜその回答にしたのかを本人が考えているかどうかです。考えた結果、周囲と同じ回答になるのであれば、それは何も問題ありません。
本記事は、当たり障りのない回答を自分なりの理由も持たずに選び続けることの何が問題なのかと、それに対して何ができるのかを自分なりに整理したものです。
なお、本記事は実際の業務を元にしていますが、特定の個人を評価する意図はなく、内容についても一部ぼかした記載としております。ご容赦いただけますと幸いです。
Teamsのアイコンの話
弊社では社内のコミュニケーションツールとして主にMicrosoft Teamsを使っています。
あるとき、新人の間ではTeamsのアイコンを「当たり障りのないものにする」という認識が共有されていることを知りました。
もちろん、会社で使うものなので節度は必要ですし、アイコンに自分の趣味を出さなければならないわけでもありません。なんならこれ自体は合理的な判断だと思っています。自分だけ違うものを選んで変に見られるくらいなら、周囲に合わせておいた方が安全ですし、それで失うものも特にありません。
ただ、自分の好きなものを選ぶことより、まずは周囲と同じ・浮かないことを優先するという感覚が、私にはかなり印象的でした。
もちろん、アイコンで個性を出さないことと、仕事で自分の考えを持たないことは別の話です。これだけで本人の仕事への姿勢が分かるわけではありません。
ただ、この話をきっかけに、仕事でも「浮かない回答を返せればそれでよい」となってしまったらどうなるのかを考え始めました。
合理的なはずの選択は、合理的ではない結果を生み出すことがある
無難を選ぶという判断は、アイコンの場面では確かに合理的です。ただ、仕事で自分の見立てを求められたときに、周囲に合わせた回答だけで済ませるのであれば、得られる結果が変わってきます。
たとえば以下のような場面でその傾向が出てきます。
1. 誰も損しない選択ではなくなる
アイコンを無難なものにしたところで、誰かがその分のコストを払うことはありません。
一方で、仕事の場で回答だけが返ってきて、その理由や今回の状況に合っているかが分からない場合、その部分を誰かがイチから考えることになります。多くの場合は上司です。
もちろん、最終的に判断して責任を持つのは上司の役割です。ただ、その判断に必要な材料や本人なりの見立てがあるかどうかで、上司が考える負担は変わります。
本人としては安全に振る舞っているつもりでも、考える作業そのものが消えているわけではありません。
2. 意見を聞いた意味がなくなる
複数人で仕事をする理由は、単純に手が足りないからというだけではなく、違う視点が入ることに価値があるからです。
その前提で言うと、回答だけが返ってきて、本人が何を見てそう考えたのか分からないのであれば、せっかく意見を聞いても違う視点を拾えません。
同じ結論でも、別のリスクを気にしていたり、実際に作業したからこそ分かったことがあったりすれば、聞く意味はあります。欲しいのは珍しい回答ではなく、その人がどこを見ていたのかです。
3. 判断の経験だけが積まれない
これが一番大きいと思っています。
周囲やAIの回答を、理由を考えずにそのまま返せば、その場は安全に終わるかもしれません。ただ、回答を選んだ根拠を自分で確かめていなければ、判断の練習をする機会は逃してしまいます。
技術的な知識や作業のスキルは、無難な回答を選んでいても普通に積み上がっていきます。
だからこそ気づきにくいなと思っていて、本人の実感としては成長しているのに、判断の経験が十分に積まれていないことがあり得ます。
無理にそれらしい回答をするより、分かる範囲でリスクを洗い出し、「この部分に不安があります」と伝えてくれる人の方がよっぽど頼りになると私は常々考えていますし、そういった方と一緒に仕事をしたいです。
若手のうちの「安全」は、後からまとめてツケを払う時が来る
では、判断の経験が積まれないと何が起きるのか。
少なくとも私の周りでは、3年目あたりからお客様の前で説明する機会が増えてきました。そこで求められるのは、
- 目の前の状況では何を優先するのか、何を前提に考えているのか
- 複数の案からなぜその案を選ぶのか
- どのようなリスクがあり、対策するのか・受け入れるのか
といった内容です。情報を正しく持ってくるだけでは足りなくなります。
問題は、理由を説明せず、回答を持ってくるだけで済む仕事が、少なくとも自分の周りでは年次とともに減っていくという点です。若手のうちは上司が補って仕事が回っていても、自分が説明する立場になると、それだけでは足りなくなります。
つまり、その場を乗り切るという意味では合理的でも、長期で見ると判断の練習をしないまま、判断を求められる年次に到達することになります。そのときになって初めて自分で考えようとしても、いきなりできるようになるのは難しいと思っています。
そして厄介なことに、この不足は普段は見えにくく、立場が変わったタイミングでまとめて表に出てくることがあります。
生成AIは、この戦略を選びやすくした?
ここで生成AIの話が絡んできます。
仕事の中で意見を聞いたときに、本人の考えより先に「AIではこういう回答でした」、「AIによると〜」と返ってくることがあります。
私はAIを使うこと自体に否定的ではありません。情報を集めたり、自分にない観点を得たりするうえでは非常に便利です。なんなら私自身も日常的に使っていますし、社内でコーディングエージェントの利用を推進している側だったりします。
ただ、AIの回答を見ただけでは、本人がどこまで考えたのかは分かりません。自分の仮説や前提を入れて相談したのか、質問をそのまま投げたのかでも、中身はかなり違います。
少なくとも、それらしい回答を用意する手間はかなり小さくなりました。以前であれば、自分で調べて文章にまとめる必要があった場面でも、今はAIに聞けば回答の形になったものが返ってきます。正しいか、今回の仕事に使えるかを確かめる手間は残りますが、そこを飛ばして返すこともできてしまいます。
生成AIはこの戦略を生み出した原因ではないと思っていますが、選びやすさをかなり引き上げたとは感じています。
そして同時に、かなり厳しいことが起きていると思っていて、AIの回答をそのまま伝えるだけでは、その人が仕事に何を加えたのかが見えにくくなります。
情報が正しいかを確認する、今回の要件に当てはめる、使えない部分を見つける。そういった部分までやって初めて、仕事で使える回答になります。そこを抜かして回答を届けるだけの働き方には、正直なところ厳しさを感じます。
自分で考えずに回答することは楽になったのに、それだけでは仕事への貢献が伝わりにくくなっている。ここが今の状況のきついところだと思っています。
「AIに聞くな・使うな」ではなく、その先を聞いてみる
とはいえ、AIに質問することを禁止しても、本人が考えるようになるわけではありません。情報を集めたり選択肢を増やしたりする用途であれば、積極的に使えばよいと思っています。(なんなら、禁止とは言いつつも使う人が現れると思うのであまり強制力はないなとすら思い始めました)
問題はAIに聞いたかどうかではなく、AIに聞いた後に本人が何を考えたのかです。
なので、OJTの中では以下を分けて聞くようにしています。
- AIの回答のどこに納得したのか
- 今回の状況に当てはめても問題ないと思うのか
- そのまま使えない部分はどこか
- 複数の案があるなら、自分はどれを選ぶのか
- 最後まで判断できなかった部分はどこか
AIが出した回答と、本人がそれを見てどう考えたのかは分けて扱う必要があります。AIの回答は考えるための起点にはなりますが、本人の回答の終点にはしない。今のところはこのあたりが落とし所かなと考えています。
ここまで書いて、新人だけの話でもないなと思った
ここまで新人の話として書いてきましたが、考えているうちに、これは新人に限った話でもないなと思いました。
「前の案件ではこうだった」「上司がそう言っていた」「この設定で今まで問題なかった」。仕事をしていれば、こういった説明をする場面は普通にあります。
もちろん、過去の実績も経験者の意見も大事な判断材料です。毎回すべてをイチから考え直す必要はありませんし、使えるものは使えばよいと思っています。
ただ、今回も同じ前提でよいのかを確かめずに、それだけで回答を終わらせているのであれば、AIの回答をそのまま返すのと何が違うのかという話になります。
たとえば、前の案件のパラメータを流用するときに、可用性の要件や想定する負荷が違っていても、その値で問題ないのか。結果として同じ値を使うとしても、違いを確認したうえで選んだのか、前もそうだったから持ってきたのかでは、やっていることが違います。
新人であれば、まだ判断の経験が少ないという話です。ただ、経験がある側も、その経験を今回の状況に当てはめて考えているのかは別です。なんなら、経験がある分、それらしい説明で済ませるのがうまくなっているだけかもしれません。
そう考えると、自分も普通に気をつけないといけない話です。新人に「なぜそう考えたのか」と聞くのであれば、自分も「前にやったから」より先を説明できる状態でいたいです。
最終判断をする立場でなくても、考えは持てる
一方で、自分の考えを持つことと、最終的に決めることは分けて考えられます。
OJTの中では、自分がこの2つを同じものとして扱っていたことに気づきました。新人に大きな判断を任せるのは難しくても、本人の見立てやその理由を聞くことはできます。
これは新人に限らず、上司やお客様が最終的に決める仕事でも同じだと思っています。自分に決定権がなくても、「自分ならどれを選ぶか」「どこに不安があるか」は伝えられます。むしろ、それが相手に判断してもらうための材料になります。
たとえばスケジュールであれば、全体の期限を決めるのが自分でなくても、担当する作業にどれくらいかかりそうか、どこで苦戦しそうかは考えられます。「その日までにやってください」に対して、ただ了承するのか、「この確認が終われば間に合いそうですが、ここがまだ読めません」と返すのかで、相手が判断できることも変わります。
正直、分からないことが残った状態で自分の意見を出すのは、年次が上がっても気が引ける場面があると思います。ただ、全部分かるまで黙っている必要もありません。どこまでは確認できていて、何が分からないから決められないのか。そこまで整理して相談することも、自分で考えた結果だと思っています。
自分の頭で考えるというのは、一人で答えを出し切ることでも、自分の案を通すことでもありません。人やAIに頼りつつ、その回答をどう受け止めて、今回どうするのがよいと思ったのかを持っておくことなのかなと考えています。
聞く側も、自分の考えを出す
ここでOJTの話に戻ると、本人の考えを聞く以上、こちらも判断の理由を伝える必要があります。
本人の案と自分の案が違っていたときに、「こっちの方が経験があるから」で終わらせていたら、結局は自分の回答をそのまま使ってもらっているだけです。それでは、借りてくる回答の出どころが変わっただけになってしまいます。
何を前提にしたのか、どのリスクを気にしたのか、なぜ別の案を選んだのか。その違いを一緒に確認できれば、次に考えるときの材料になります。相手が見ていたことを聞いて、自分の見落としに気づくこともあるはずです。経験者の答えと違うから間違い、とも限りません。
もちろん、前提や制約を何も伝えずに「どう思う?」と聞いても当てずっぽうになります。考えるために必要な情報はこちらから渡したうえで聞く必要があるのですが、お恥ずかしい話、これまでの自分の仕事の振り方を振り返るとここはかなり怪しかったです。自分の頭の中にある前提・過去経験などを端折った状態で相手に意見を求めてしまうシーンがあったので、ここは今後直したいところです。
また、「分かりません」や「この部分が不安です」と返ってきたときの受け止め方も大事だと思っています。そこで否定したり、すぐに答えをかぶせたりしていたら、次から無難な回答を選びたくなるのも当然です。どこまでは考えられて、何が足りなくて止まったのかを一緒に確認できるようにしたいです。
これはOJTだけでなく、普段のレビューや打ち合わせでも意識したいところです。自分の案に賛成してもらうためだけに意見を聞いていないか。違う見立てが出てきたときに、その理由まで聞けているか。相手に考えてほしいと言うのであれば、聞く側の自分も、その考えを受けて見直すつもりでいる必要があると思っています。
いっそのことレビュー・打ち合わせの最初の段階で「ここが自分の中でイマイチ腹落ちできてない、どうすべきかわからないから今の考えをもとに意見が欲しい」といってしまうのもいいかもしれませんね。
まとめ
OJTや部下を持ったことをきっかけに考え始めた話でしたが、書いてみると、自分の仕事の仕方にもそのまま返ってくる話でしたね。
AIの回答も、過去の実績も、経験者の意見も、仕事を進めるうえでは頼りになるものです。ただ、それを持ってきたことで、自分も考えたつもりになっていないかは気をつけないといけません。
今回もその回答が使えるのか。自分は何に納得していて、どこに不安が残っているのか。最終的に決めるのが誰であっても、そこまで考えて伝えることには意味があると思っています。
そして、相手に理由を聞くのであれば自分も理由を伝える。相手の見立てを聞いた結果、自分の考えが変わることもある。そういうやり取りを、OJTでも普段の仕事でも増やしていきたいです。
私自身も褒められた人間ではありませんが、人に「自分で考えてほしい」と言う以上、自分も経験や立場に甘えずに考え続けていたいですね。
本記事が、普段の仕事で「自分で考える」をどう扱うか、振り返るきっかけになれば幸いです。