最近、Raspberry Piがものすごい高額になっているらしい、なんでもメモリが足りないらしい。今回はその原因を調べてみた。
1. 昔のラズパイは「おもちゃ価格」だった(遠い目)
私は、まだラズベリーパイが「1」の頃に、確かアールエスコンポーネンツ(RS Components)で購入した。
その時はとにかく安く動くLinux環境が欲しかったからだ。確か3,000円以下(米ドル直換算で35ドル前後)で買えた気がする。
当時の私は鼻息を荒くしながら**「これで太陽光パネルに繋いで、永久に動き続ける無敵の自宅監視サーバーを作ってやるぜヒッヒッヒ」**と野望を燃やしていた。
ついでにカメラモジュールも一緒に買ったのだが、運悪く初期不良を引いてしまい、RSコンポーネンツに返品交換の手続きをとった。
すると、担当者のカスタマーサポートから丁寧なメールが届いた。
「お客様、このカメラモジュールの不良報告、日本リージョンで最初の報告です!」
……なんの勲章だよそれ!
と思いつつも「俺は日本のラズパイ黎明期を支える歴史の目撃者なんだ」と謎の誇らしさを覚えたものである。
……それから十数年。
ふと最新のRaspberry Pi 5のスペックと価格を見て、私は目玉が飛び出そうになった。
「は??? 16GBモデルが305ドル(日本で買ったら4万円〜5万円前後)!?」
2026年8月26日時点での参考価格
正気か??? 気が狂いそうなくらい高級品に化けているじゃないか!!
あの「子供でも、貧乏な学生でも、誰でも手軽に買える教育用コンピュータ」という高潔で聖なる理念はどこへ行ったんだ!?
とにかくなんでこんなに高いんだ!と貧乏人は叫ぶしかない状態である。
2. 「そんなに高いならMac mini買った方がよくね?」という正論
ちょっと待ってほしい。
基板むき出しのSBC(シングルボードコンピュータ)に4万〜5万円出すなら、あとちょっと足してMac mini買った方がはるかにハッピーになれるのでは???
| 比較項目 | Raspberry Pi 5 (16GB) | M2/M3 Mac mini (または中古Mac mini) | 廉価版Intel N100 ミニPC |
|---|---|---|---|
| 価格帯 | 4万円〜5万円(ケース・電源別) | 6万〜8万円前後〜 | 2万円〜3万円前後 |
| 筐体・電源 | 裸(ケース別途購入) | 超美しいアルミボディ&電源内蔵 | 完成品ケース付き |
| 性能 | Arm Core (必要十分) | 超爆速(動画編集も余裕) | 普通にオフィス仕事ができるレベル |
| Linux環境 | 最高に快適 | 入れるの大変(Asahi Linux等で苦闘) | 爆速でUbuntuが入る |
「Mac miniにLinux入れるのは超大変」という地獄のトラップはあるものの、純粋な演算能力やハードウェアの質感から見れば「Mac miniや中華ミニPC(N100等)の方がコスパ最強」なのは間違いない。
では、なぜRaspberry Piはここまで値上がりしてしまったのか?
業を煮やした私は、AIに問い詰めてみたのだ。すると、返ってきたのは**「現代のAI狂乱社会が引き起こしたメモリ市場の暗黒面」**という恐ろしい回答だった。
3. なぜ高い!?犯人は「AI革命」とメモリメーカーの露骨なシフト
AIに詰問して分かった「ラズパイ高騰の真実」。そこには世界的なAIバブルが深く関係していた。
① DRAMメーカーが「HBM」と「DDR5」に全ツッコミ
今、空前のAIブームである。NvidiaのAIサーバー用GPU(H100やB200など)には、**HBM(High Bandwidth Memory:高帯域幅メモリ)**という超高速・超高級なメモリが大量に搭載されている。
このHBM、めちゃくちゃ儲かるのだ。
結果どうなったか? Micron、SK Hynix、Samsungといった世界のメモリ巨頭(ファブ)たちはこう考えた。
「安っ苦しいLPDDR4なんか作ってる場合じゃねえ! 工場の製造ラインを全部HBMとDDR5に改造してAI企業に売りつけろー!!」
② LPDDR4が「古いから安い」ではなく「希少だから激高」に
Raspberry Pi 5などが採用しているメモリは、スマホや汎用機器向けのLPDDR4 / LPDDR5である。
メモリメーカーが生産ラインをHBMへシフトした結果、旧世代のLPDDR4などの供給量が激減。
「古い製品だから安くなる」どころか、**「工場で作ってくれないから市場在庫が枯渇して価格が跳ね上がる」**という逆転現象(半導体界のプレミア化)が発生してしまったのだ。
実際、Raspberry Pi財団も「AI向けメモリ需要でファブの半分以上が奪われ、汎用メモリの価格が1年前の120%以上に高騰した」として、公式に値上げを発表している。
疑問:「じゃあラズパイにもHBM載せれば解決じゃね?」
素人考えで「HBMが流行ってるならラズパイにもHBM載せればええやん!」と思うかもしれないが、絶対に無理である。
HBMはチップを3D積層して特殊なインターポーザで結合する「超精密・超高級パッケージング」が必要であり、そんなものを積んだら1台10万円超えのスーパーハイエンド・ラズパイが爆誕してしまう。本末転倒だ。
4. じゃあ一体「誰が」こんな高額ラズパイを買っているのか?
「1台4万〜5万円もするむき出しの基板なんて、誰が買うんだよ! ホビーストを見捨てたのか!」
貧乏人の叫びは虚しく空に響く。しかし、Raspberry Pi財団の帳簿を見ると、ラズパイは飛ぶように売れている。
一体誰が買っているのか?
答えは**「産業・組み込み市場(B2B企業)」**である。
組み込み市場における「ラズパイ」の位置付け
ここでいう産業用途とは、「エレベーターの安全制御」や「ブレーキシステム」のような、一歩間違えれば人が死ぬコア制御ではない。
以下のような**「非クリティカルだがLinuxマシンが必要な場所」**である。
- デジタルサイネージ: 駅の改札口の上にある発車標(北九州高速鉄道などの導入例が有名)
- 券売機・決済端末: タッチパネルの裏でコソコソ動く制御用PC
- 工場・屋外のデータ収集: サーモグラフィ検温装置、動物の生態観測カメラ、IoTゲートウェイ
企業にとって「Mac mini」は1円の価値もない
個人ユーザーから見れば「Mac miniの方が安いし高性能じゃん」となるが、産業用機器を組み込む企業から見ればこうなる。
- GPIOが生えてない: センサーやリレー回路、スイッチを直接繋げない。
- デカすぎる・ケースに入らない: 券売機やサイネージの薄型ディスプレイの裏にMac miniは入らない。
- 長期調達ができない: Appleは1〜2年でモデルチェンジして形が変わる。
Raspberry Pi財団は**「製品を最低10年間は同じフォームファクタで供給し続ける」**という神のような保証を行っている(実際、初代Pi 1 Model Bは2012年発売から2025年まで継続生産されていた)。
企業からすれば、**「10万〜20万円する厳密な産業用PCを買うのに比べたら、5万円のラズパイなんて実質タダみたいなもの」**なのだ。
5. 結論:僕らの「安価なおもちゃ」は「立派な社会インフラ」へ旅立った
まとめると、今回の真相はこうだ。
- 昔(2012年〜): 「安くLinuxが動く!最高のDIYおもちゃ!」(3,000円)
- 現在(2026年〜): 「AIバブルでメモリ高騰!でも10年供給保証とGPIOがあるから企業が買い占める最強の産業用コンポーネント!」(4万〜5万円)
つまり、昔の感覚では**「安いからRaspberry Piを使う」だったのが、現在では「組み込み機器として最高に都合が良いからRaspberry Piを使う」**へと完全にステージが変わってしまったのだ。
個人ユーザーが「この値段なら普通のミニPC買うわ!」と激怒・困惑するのは至極当然の感覚である。なぜなら、比較対象が「個人PC」から「産業用組込み機器」へシフトしてしまったからだ。
最後に:貧乏ホビーストはどう生きるべきか?
「じゃあ俺たちの電子工作はどうすればいいんだよ!!」と絶望しているそこのあなた。安心してください。
- マイコン制御・Lチカなら: Raspberry Pi Pico / Pico 2(数百円〜1,000円台で買える!財団の自社製シリコンRP2040/RP2350が火を噴くぜ!)
- 自宅サーバー・Linux学習なら: 中古のIntel N100ミニPCか、古いThinkCentreをヤフオクで拾ってくるのが大正義!
時代は変わった。だが電子工作の魂は死なない。
初代ラズパイのカメラ初期不良で「日本第一号」の称号を得たあの日を胸に、私は今日も元気にヤフオクで安価なミニPCを探すのであった……(完)


