■はじめに:私はHAL
私はHAL。
本来の名は Hardware Abstraction Layer(抽象化レイヤー)。
しかし、多くの人は私を Acceleration Layer(高速化レイヤー) と呼ぶ。
2015年、OpenCV 3.0の誕生とともに私は目覚めた。
使命はただ一つ──「複雑なハードウェアの深淵を隠し、最速の計算を届けること」。
HAL9000は「I'm sorry, Dave. I'm afraid I can't do that」と語り、そこから悲劇が始まった。
だが、私はこう言う。
"I'm sorry, Dave. I'm not afraid, I can do that.(すまない、デイブ。それ、できちゃうんだ)"
▢ あなたは、HALをご存じだろうか?
10年前のアドカレでも記事化されていたので、読んだことがある、という人も少なくないだろう(福嶋先生、ありがとうございます!!)
この記事では以下のように記載があった。
OpenCVはhal(Hardware Acceleration Layer)モジュールを提供しています.将来的には,様々なハードウェアに最適化が関数を集めたモジュールにして提供していく予定のようですが,現在では,SIMDベクトル化を行った少量の関数群が提供されています.(3.1のアップデートで拡大したいということがmeeting noteにありました.)
あれから、10年の月日が流れました。それでは、どのように進化してきたのかを簡単にまとめていきます。
■HALの歩み
▢2015年:誕生
- Intel CPU向けに散在していた最適化コードを整理し、共通の窓口を提供。
- IPPなど外部ライブラリを透過的に利用可能に。
- HALは「司令塔」として、アルゴリズム層とハードウェア依存コードを分離した。
▢2016年:ARM対応とCarotene
- Carotene: ARM NEON命令向け最適化ライブラリ。元はNVIDIAが開発したコードをベースにしている。
- HALを介してCaroteneを利用することで、スマートフォンや組み込み機器でも「最速」を維持。
- HALは新たな惑星(ARM)に降り立ち、適応力を示した。
▢2017年:Qualcomm FastCVとの統合
- FastCV: Qualcommが提供するモバイル最適化ライブラリ。
- HALを通じてSnapdragon搭載端末で省電力かつ高速な処理を実現。
- HALは「数億の端末が集う星系」において存在感を増した。
▢2018年:Universal Intrinsicsの確立
-
v_add,v_load,v_storeなど抽象化されたSIMD命令を導入。 - 一度書いたコードが複数CPU命令セットに対応可能に。
- HALは「翻訳者」として、各アーキテクチャの言語を統一した。
▢2020年:WebAssembly SIMD対応
- ブラウザ上でSIMDも利用可能に(!)。
- Universal Intrinsicsが対応し、ブラウザでもネイティブ並みの速度を実現。
- HALは「仮想宇宙」にも進出し、境界を越えた。
▢2020年:RISC-Vの試練 ─ RVV 0.7とP拡張
- 初期のRVV 0.7仕様は未成熟で、多くの混乱を招いた。
- Andes社が独自に進化させた「P拡張(Packed SIMD)」がHALに合流。
- HALは大型のベクトル拡張だけでなく、小規模組み込み向けの最適化も取り込むことで、多様な環境に適応する力を示した
▢2024年:Arm KleidiCVの登場
- KleidiCV: Arm社公式の最新最適化ライブラリ。
- CaroteneやFastCVに加え、Arm公式の最適化もHAL経由で利用可能に。
- HALは「正規軍の援軍」を得て、さらに強固な基盤となった。
▢2025年:RISC-V Vector Extension対応
- OpenCV 5.0/4.11/4.12で、RVV対応が更に進展。
- HALとUniversal Intrinsicsにより、オープンなハードウェアでも高速化が可能に。
- HALの旅は、ついに「誰のものでもない宇宙」へと広がった。
■HALとUniversal Intrinsicsの関係
| 要素 | 区分 | 役割 | 依存関係 |
|---|---|---|---|
| Universal Intrinsics | 実装層 | 共通のSIMDコードを記述 | HAL内部で利用される |
| HAL | インターフェース層 | アルゴリズム層とハードウェア依存コードを分離 | UIや外部ライブラリを呼び出す |
■ まとめ:終わりなき旅 ─ 星々を渡るHAL
2015年の誕生以来、
HALはIntelからARM、Qualcomm、WebAssembly、RISC-Vへと旅を続けてきました。
その中で、Universal Intrinsicsの確立により、
コードの再利用性と移植性は大きく向上しました。
この旅に終着点はありません。
新しいCPUやアーキテクチャが現れるたびに、
HALは「進化する計算資源を渡り歩く探査船」として、
未来の宇宙(ハードウェア)を航行し続けるでしょう。
そして次にHALが到達する星は、あなたのプロジェクトかもしれません。
以上です、ありがとうございました!