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【Agentic Data Platform】Data・Ontology・AI Agentをつなぐリファレンスアーキテクチャ

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Last updated at Posted at 2026-09-30

本記事は2026年9月時点の公開情報をもとに整理しています。記載内容は個人の見解です。

この記事では、これまでのシリーズで扱ってきた Data Platform for AI、Enterprise Ontology、AI / Retrieval、AI Agent、Business Action を、1つのアーキテクチャとしてつなぎます。

ここで示す「Agentic Data Platform」は、Oracleの特定製品名ではありません。AI Agentが企業データを安全に理解・推論し、業務アクションにつなげるための概念的なリファレンスアーキテクチャとして整理しています。

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TL;DR

  • Agentic Data Platformは、AI Agentを置くだけでは成り立たない。Data・意味・検索手段・Agent・Action・Governanceを一体で設計する必要がある
  • 全体を 6つのレイヤー+横断レイヤー(Security / Governance / Observability) で整理する
  • リファレンスアーキテクチャとして重要なのは、レイヤーの一覧よりも、レイヤー間で何を受け渡すか・Identityをどう伝播させるか・何をどこで記録するかである
  • 導入は Data Foundation → AI Ready Data → Semantic / Ontology → Agent Assist → Governed Action の順に段階的に進める

はじめに

このシリーズでは、次の順番で整理してきました。

回 テーマ 扱った問い
第1回 Agentic Data Platform 全体像はどうなっているか
第2回 Data Platform for AI AIが使えるデータとは何か
第3回 Enterprise Ontology AIに業務の意味をどう伝えるか
第4回 Catalog・Semantic・Ontology・KG 意味を扱う技術をどう使い分けるか

第1回では全体像を概念的に示しました。最終回の今回は、それを設計に使えるリファレンスアーキテクチャとして具体化します。

通し事例は、第1回と同じ依頼です。

「関西エリアの売上が前月より下がった理由を調べて。重要な要因があれば営業責任者へ通知して」


1. 全体像:6レイヤー+横断レイヤー

oci5-1.jpg

# レイヤー 主な役割 詳しくは
① Data Sources 企業内外のデータを提供する 第2回
② Data Platform
for AI
データを統合・品質管理し、AI Readyにする 第2回
③ Semantic /
Ontology
データに業務上の意味・関係・ルールを与える 第3回・第4回
④ AI / Retrieval 質問に応じた方法で情報を取得・分析する 第1回
⑤ Agent /
Orchestration
依頼を分解し、Toolを選んで実行し、結果を統合する この記事
⑥ Action /
Integration
業務システムや他のAgentにつなげる この記事

Security / Governance / Observabilityは、最後に追加する機能ではありません。すべてのレイヤーに最初から組み込む設計要件です。


2. レイヤー間で「何を受け渡すか」を設計する

リファレンスアーキテクチャで最も重要なのは、レイヤーの一覧よりもレイヤー間のインターフェースだと私は考えています。各レイヤーが次のレイヤーに何を渡すのかを決めておくと、責任の境界がはっきりします。

受け渡し   渡すもの            通し事例での例
① → ② 生データ ERPの受注・売上、CRMの顧客、キャンペーン資料
② → ③ Data Product
(データ+Metadata)
「Sales Performance」:Owner、毎日8時更新、品質検証済み、Lineage、アクセス権
③ → ④ 業務定義と関係 関西=2府4県、Revenue=出荷基準・税抜・キャンセル除外、Customer → Order → Product → Supplier
④ → ⑤ Toolの実行結果と根拠 集計結果+生成されたSQL、検索した文書、たどったGraphの経路
⑤ → ⑥ アクション要求 「営業責任者へ通知」+重大度+根拠+承認要否

ポイントは、④から⑤へ結果だけでなく根拠も渡すことです。根拠が失われると、後から「なぜこの結論になったのか」を説明できません。


3. Layer ⑤ Agent / Orchestration:推論とTool利用をつなぐ

AI Agentの役割は、LLMに質問を投げることではありません。計画し、Toolを選び、結果を評価し、必要なら計画を修正することです。

Autonomous AI DatabaseのSelect AI Agentは、この考え方をDB内で実装したフレームワークです。公式ドキュメントでは、推論と行動を繰り返すReActパターンを採用していると説明されています。また、Planning・Tool Use・Reflection・Memory Managementの4層で構成されています。Toolとしては、組み込みのRAGとNL2SQL、独自のPL/SQLプロシージャ、外部REST APIを利用できます。

2026年7月28日の機能拡張では、次の機能が追加されました。

  • Tool・Agent Teamの検出と呼び出し
  • Teamの実行状態の確認
  • Agentから直接Toolを呼ぶセッション
  • Memoryの深さの設定
  • Managed MCP Server・A2A Serverとの統合

Agent MemoryとOntologyは別物

ここは混同しやすいポイントです。

          Enterprise Ontology Agent Memory
保持するもの 企業に共通する意味・関係・ルール Agentが経験した会話・結果・好み
例 「優良顧客とは何か」 「このユーザーは前回、商品別の内訳を好んだ」
共有範囲 全社・全Agentで共通 Agent Team単位・利用者単位

Select AI Agentは、Agent Teamごとに短期・長期Memoryを持ちます。また、別製品の Oracle AI Agent Memory は、Oracle AI Database上に構築された、エンタープライズAI Agent向けの永続的なMemory基盤として提供されています。

どちらを使う場合も、業務定義をMemoryに持たせないことが重要です。定義が会話ごとに学習されると、Agentによって解釈がずれていく原因になります。


4. Layer ⑥ Action / Integration:「答えるAI」から「動くAI」へ

方法 主な役割
REST API 既存の業務システムとの連携
MCP Agentから、Tool・データへの標準化された接続
A2A Agent同士の発見・委譲・連携
Workflow 定型業務の実行・管理
Human Approval 人による確認・承認

Autonomous AI Databaseでは、Managed MCP ServerがSelect AI AgentのToolをMCP対応クライアントに公開します。また、2026年7月7日に公開されたA2A Serverにより、Select AIのAgent Teamを外部のA2A対応Agentから発見・呼び出しできるようになりました。これにより、Agentのロジックとデータアクセスをデータベース内に保ったまま、マルチエージェントのワークフローに参加できます。

ここで重要なのは、接続できることと、自動実行してよいことは別という点です。どこまで自動化してよいかは、Actionのリスクで決めます。

Action 自律性の例
データ検索・レポート生成 自動
社内担当者への通知 条件付き自動
顧客へのメール送信・発注変更 承認あり
金銭を伴う取引 厳格な承認とPolicy

目指すのは「AIに全部任せる」ことではなく、「どこまで任せられるかをGovernできる」ことです。


5. Identityを端から端まで伝播させる

Agent経由でデータにアクセスするとき、最も事故が起きやすいのが権限の扱いです。AI専用に強い権限を持つ共通アカウントを作ると、Agent経由で権限の境界を越えてしまいます。

理想は、利用者のIdentityが、Agent・Tool・データまで一貫して伝わることです。

Oracleの開発者ブログ(2026年5月)では、Managed MCPのToolは実際のDBユーザーの権限で実行されると説明されています。既存のネットワーク制御・VPDポリシー・監査証跡がそのまま適用されるため、別の信頼基盤を作る必要がないとされています。

実務上の注意点として、同ブログでは、MCP向けのVPDや監査ポリシーを書く際は、SESSION_USER に頼らず、MCPのコンテキスト属性を使うよう推奨されています。Agent経由のアクセスでは、「誰の依頼か」の取り方が通常のセッションと変わる点は、設計時に押さえておきたいポイントです。


6. 何をどこで記録するか:Observabilityの設計

追跡すべき対象は、最終回答だけではありません。記録先はレイヤーごとに異なるため、どこで何が取れるかを事前にマッピングしておく必要があります。

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追跡したいこと 記録先の例 補足
データの由来・加工  AI Data PlatformのData Lineage  2026年8月にPreview提供。対象はNotebook・Workflowの系譜(列レベル含む)
Agentの思考過程 Select AI Agentのビュー
(USER_CLOUD_AI_CONVERSATION_PROMPTS)
Reflectionの内容を問い合わせで参照できる
Toolの実行・データアクセス Unified Audit 既定の保持期間は約14日。長期保管・集中管理にはData Safe
Actionの承認 Workflow / 業務システム側 承認者・承認日時・判断理由

注意したいのは、1つの仕組みですべては追えないことです。たとえばData Lineage(Preview)はデータエンジニアリングの系譜が対象で、Agentが使ったプロンプトやToolまでは含みません。

これらを依頼ID(相関ID)でつなげられるように設計しておくことが、後から「何を見て、何を実行したか」を説明するための鍵になると私は考えています。


7. 通し事例をリファレンスアーキテクチャで処理する

oci5-2.jpg

Agentが整理する原因候補の例です。

観察された事実 使ったTool
売上低下の70%が商品Xに集中 NL2SQL
同時期のキャンペーンは商品Xを対象外にしていた RAG
商品Xの仕入先Bに納期遅延の履歴がある Graph

これらから、「仕入先Bの供給遅延に伴う、商品Xの販売機会減少」 を原因候補として提示します。

Knowledge GraphやAgentが見つけた「関係」は、因果関係の証明ではありません。原因を確定するには、時系列データ、追加データ、業務ルール、人による確認などが必要です。


8. Oracle / OCIへのマッピング

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この対応は、Oracleの公式な製品構成図ではありません。この記事で定義した6レイヤーに、関連するOracle / OCIの機能を対応付けたものです。1つの機能が複数のレイヤーに関係する場合があります。

レイヤー           Oracle / OCIの関連機能
① Data Sources Oracle AI Database、Autonomous AI Database、OCI Object Storage、SaaS、外部データ
② Data Platform for AI Oracle AI Data Platform(統合カタログ、External Catalog、Data Lineage)、Oracle GoldenGate
③ Semantic / Ontology AI Data PlatformのBusiness Ontologies / Semantic Layer、Oracle Analytics Cloud、RDF Graph
④ AI / Retrieval Select AI(NL2SQL)、AI Vector Search、Property Graph / RDF Graph、Data Science Agent
⑤ Agent / Orchestration Select AI Agent(Agent Teams、Tools、短期・長期Memory)、Oracle AI Agent Memory
⑥ Action / Integration Managed MCP Server、A2A Server、REST API、Workflow
横断 OCI IAM、DBのロール・VPD、Unified Audit、Data Safe

全体を通して見ると、Oracleのアプローチの特徴は、AgentのロジックとTool実行をデータの近くに置き、DBの権限・監査の仕組みをそのままAgentに適用する点にあります。5章・6章で見たIdentityの伝播や監査は、この特徴があるからこそ設計しやすくなります。


9. 段階的に導入する

oci5-5.jpg

Phase  名前             やること 主な対象レイヤー
1 Data Foundation 統合・品質・Catalog・Securityを整える ①②
2 AI Ready Data 重要データをData Product化する ②
3 Semantic / Ontology 主要な用語・KPI・関係・ルールを明文化する ③
4 Agent Assist 人が最終判断する領域(検索・分析・レポート)から始める ④⑤
5 Governed Action 監査・認可・Policyを整えてからActionを広げる ⑥

Phase 4の段階から、5章のIdentity伝播と6章の記録先マップを設計に含めておくことをおすすめします。Agentを先に作り、後から権限や監査を組み込もうとすると、作り直しになりやすいためです。


10. チェックリスト

① Data Sources

  • AIが使うデータソースとSystem of Recordが明確になっている

② Data Platform for AI

  • 正式なData Productを識別でき、品質・鮮度・Lineageを確認できる

③ Semantic / Ontology

  • 主要KPIの定義と、概念間の関係を説明できる

④ AI / Retrieval

  • SQL・RAG・Graphを目的に応じて使い分け、結果とともに根拠を返せる

⑤ Agent / Orchestration

  • 使えるToolが制御され、Memoryに業務定義を持たせていない

⑥ Action / Integration

  • 自動実行できるActionと、承認が必要なActionが定義されている

横断:Security / Governance / Observability

  • 利用者のIdentityがデータまで伝播し、依頼IDで記録を横断的に追える

まとめ:シリーズを通して

5回のシリーズで、Agentic Data Platformを次の流れで整理してきました。

シリーズを書き終えて、私が最も伝えたかったのは、AI Agentそのものを出発点にしないということです。Agentの性能は急速に向上していますが、企業で継続的に使われるかどうかを決めるのは、Agentの手前にあるデータと意味、そしてAgentの周りにある権限と監査の設計だと考えています。

第1回の最後に置いた問いを、改めて掲げます。

AIにどのデータを、どの意味で、どの権限で使わせ、どこまで行動させるのか

Agentic Data Platformとは、AIを追加したデータ基盤ではなく、Data・Meaning・Reasoning・ActionをGovernanceのもとでつなぐ基盤です。この問いに答えられる設計を、既存のデータ基盤から一歩ずつ積み上げていくことが、現実的な道筋だと考えています。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


参考情報


シリーズ

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