ネットワークの基礎とサイバーセキュリティへの応用
サイバーセキュリティを学ぶ上で避けて通れないのが「ネットワーク」の理解です。
なぜなら、すべての攻撃や防御はネットワーク(通信)の上で成り立っているからです。
この記事では、ネットワークの基本構造から始めて、サイバーセキュリティに直結する概念(IPアドレス、OSIモデル、パケット、ファイアウォールなど)を順を追って解説します。
1. ネットワークとは?
ネットワークとは、複数のデバイス(PC、スマートフォン、サーバーなど)が相互に通信し、情報をやり取りできる仕組みです。
なぜ必要なのか?
- メールの送受信、Webサイトの閲覧、クラウド利用など、すべてはネットワーク通信に依存しています
- サイバー攻撃の大半はネットワーク経由で行われます(例:マルウェアのダウンロード、DoS攻撃)
よく使われるネットワーク構成
- スター型: すべてのデバイスが中央のスイッチに接続されている
- バス型: 単一のケーブルに全デバイスが接続
- リング型: ループ状に接続
2. スイッチとルーターの違い
機器 | 役割 |
---|---|
スイッチ | LAN内のデバイス同士をMACアドレスで接続・通信 |
ルーター | 異なるネットワーク間をIPアドレスでつなぎ、経路選択 |
3. IPアドレスとMACアドレス
IPアドレス
- インターネットやLAN上でデバイスを識別する番号
- プライベートIP:家庭や社内LANで使用
- パブリックIP:インターネット上で一意に識別
MACアドレス
- 各ネットワークカードに割り当てられた物理アドレス
- IPが「住所」なら、MACは「名前札」のようなもの
なぜ重要?
- 攻撃者はMACアドレスを偽装(スプーフィング)して不正アクセスを試みる
- 防御側はIPとMACの整合性を見て異常を検出する
4. OSI参照モデル(7階層)
OSIモデルは、通信を「何を・どこで処理するか」によって7つの階層に分けたものです。
層 | 名称 | 主な役割 |
---|---|---|
7 | アプリケーション層 | ブラウザやメールなど、ユーザーと通信をつなぐ |
6 | プレゼンテーション層 | 暗号化や圧縮など、データの整形 |
5 | セッション層 | 通信の開始・維持・終了の制御 |
4 | トランスポート層 | TCP/UDPによるデータの信頼性確保 |
3 | ネットワーク層 | IPアドレスで経路選択 |
2 | データリンク層 | MACアドレスで通信 |
1 | 物理層 | ケーブルや電気信号など物理的な伝送 |
なぜ順番に理解すべきか?
OSIモデルでは、送信時には上から下へ、受信時には下から上へ通信が処理されます。つまり、ユーザーが操作するアプリケーション層からデータが下層へ渡され、物理層を通じて送信されます。受信側では、物理層から上位層へとデータが順に処理されていきます。
このように各階層の役割を理解することで、「どこで攻撃が行われるのか」「どこで防御を行うべきか」が明確になります。
5. パケットとフレーム
通信の単位を理解することで、パケットキャプチャ(通信内容の監視・解析)などの技術が理解しやすくなります。
- パケット:ネットワーク層で扱う。IP情報を含む
- フレーム:データリンク層で扱う。MACアドレス情報を含む
- カプセル化:上位のデータに必要な制御情報を「包む」ことで下位層へ引き渡す
6. TCPとUDP
プロトコル | 特徴 | 使われる場面 |
---|---|---|
TCP | 信頼性重視、3ウェイハンドシェイクあり | Web、メール、FTPなど |
UDP | 軽量・高速、信頼性なし | 動画、VoIP、DNSなど |
セキュリティの観点では、TCPは攻撃対象のポートが見つかりやすく、UDPは検知されにくいが改ざんにも弱いなどの違いがある。
7. ポート番号とサービス
ポート番号で「どのサービスか」が判別される
よく使われる例:
- 80 (HTTP)
- 443 (HTTPS)
- 22 (SSH)
- 21 (FTP)
攻撃者は特定ポートを狙ってスキャンするため、防御側は使用していないポートを閉じるのが鉄則。
8. ファイアウォール・ポートフォワーディング・VPN
ファイアウォール
- トラフィックを「許可・拒否」するネットワークの門番
- Stateless(単体パケットを評価)とStateful(通信の状態を見て判断)がある
ポートフォワーディング
- 外部からの接続を内部ネットワークの特定デバイスへ誘導
- 自宅サーバーなどを公開する場合に使用
VPN(仮想プライベートネットワーク)
- 離れた場所のネットワークを、暗号化された「仮想LAN」として接続
- 公共Wi-Fi利用時などに安全性を高める手段として有効
まとめ:なぜこれがサイバーセキュリティに重要か?
ネットワークの仕組みを知らずして、攻撃の仕組みも防御の考え方も理解できません。以下の理由から、上記の順番で理解を進めることが重要です:
- 基礎構造(ネットワーク、スイッチ/ルーター)を理解することで、通信の土台が見える
- **アドレスの役割(IP、MAC)**を知ることで、なりすましや偽装を理解できる
- OSIモデルを通じて各階層の役割を分解すれば、どこで攻撃が起きるかが見える
- **パケットの構造やプロトコルの違い(TCP/UDP)**を理解すれば、通信解析や防御がしやすくなる
- ポートとサービスの関係がわかれば、リスクのある開放ポートを見極められる
- ファイアウォールやVPNといった防御手段を効果的に使えるようになる
こうした知識を積み上げることが、セキュリティ技術者・ホワイトハッカーの第一歩となります。