1
1

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?

第1部 Microsoft Excel Agent モードではじめる教育データ分析 - Power BIダッシュボード構築の前に必ず踏むべきステップ

Last updated at Posted at 2025-10-24

はじめに

なぜ教育ダッシュボードは失敗するのか

よくある失敗パターン

教育現場でのデータ利活用が叫ばれる中、多くの学校が「教育ダッシュボード」の導入を検討しています。しかし、残念ながら多くのプロジェクトが期待された成果を上げられずに終わっています。

典型的な失敗パターンを見てみましょう。

パターン1: 「とりあえずダッシュボードを作ろう」で始めてしまう

校長先生が教育ICTの研修会で素敵なダッシュボードのデモを見て、「うちの学校でも作ろう」と決めるケース。何を解決したいのか、どんな意思決定に使うのかが明確でないまま、「データを見える化すれば何か良いことがあるだろう」という漠然とした期待で進めてしまいます。

パターン2: 「Power BIで素敵な可視化を」と見た目から入る

ツールありきで始めるパターン。「Power BIを使えば、きれいなグラフが簡単に作れる」という情報から入り、どんなデータをどう分析すれば教育改善につながるのかという本質的な検討が不十分なまま、見た目の美しさを追求してしまいます。

パターン3: システム会社に「教育ダッシュボードを作って」と丸投げ発注

予算を確保し、専門業者に発注すれば解決すると考えるケース。しかし、現場の教員が本当に必要としている分析や、日々の教育実践で活用できる切り口が要件定義に盛り込まれず、「立派だが使えない」システムが納品されてしまいます。

失敗の本質的な理由

これらの失敗には、共通する本質的な問題があります。

理由1: 改善したい課題が明確になっていない

最も大きな問題は、「データを見る」ことが目的化してしまうことです。

本来、データ分析は手段であり、目的は「教育実践の改善」であるはずです。しかし、ダッシュボード構築プロジェクトでは、いつの間にか「きれいなグラフを作ること」「数字を可視化すること」が目的にすり替わってしまいがちです。

  • 何を改善したいのか?
  • どんな意思決定に使うのか?
  • 誰がどのタイミングで見るのか?
  • 示唆を得た後、どんなアクションにつなげるのか?

これらが明確でないまま、ダッシュボードだけが先行すると、誰も見ないシステムが出来上がります。

理由2: 本当に必要なデータと指標がわかっていない

「とりあえず成績データを可視化しよう」「出席データをグラフにしよう」という表面的な発想では、実際の教育改善には使えません。

  • 何を測るべきか?(どの指標が重要か)
  • どの粒度でデータが必要か?(学校全体?学年?学級?個人?)
  • どんな切り口で見れば示唆が得られるか?(時系列?比較?分布?)
  • しきい値やアラートの基準は?

これらを事前に検討せずにシステムを作ると、稼働後に「このデータでは判断できない」「欲しい分析ができない」という問題が噴出します。そして、追加開発には予算も時間もかかり、結局使われなくなってしまいます。

理由3: 現場の問いと乖離したダッシュボードになる

発注者(管理職や教育委員会)と実際の利用者(担任教員)の間に認識のずれがあるケースも多く見られます。

管理職が欲しい「学校全体の傾向」と、担任が欲しい「一人ひとりの児童生徒の変化」は異なります。学年主任が必要とする「学年間の比較」と、教科担当が求める「単元別のつまずき分析」も違います。

こうした現場の多様な問いを理解せずに、「標準的な教育ダッシュボード」を導入しても、誰の役にも立ちません。

結果: 誰も見ないダッシュボードが完成

これらの問題が重なると、以下のような状況に陥ります。

  • 初めは物珍しさで見るが、すぐに誰も開かなくなる
  • 「見た目はきれいだが、実際の改善には使えない」
  • 「欲しい分析がない」「操作が面倒」と不満が出る
  • データ更新が滞り、古い情報のまま放置される
  • 結局、勘と経験による従来の意思決定に戻る

そして、「データ利活用なんてうちの学校には合わない」という諦めの空気が広がってしまいます。


Power BIの前に Excel Agent Mode を使うべき理由

このステップを踏む価値

では、どうすればこうした失敗を避けられるのでしょうか?

答えは、「いきなりダッシュボードを作らない」 ことです。

まずは探索的にデータと向き合い、「本当の問い」を見つけること。そして、どのデータをどう見れば示唆が得られるのかを試行錯誤しながら学ぶこと。この探索フェーズで最適なツールが、Excel Agent Modeです。

以下、このステップを踏む5つの価値を説明します。

1. 探索的データ分析で「本当の問い」を見つける

Power BIでダッシュボードを作る前に、まず 「何を知りたいのか」 を明確にする必要があります。

最初から答えがわかっているケースは稀です。多くの場合、データを見ながら「あれ、この単元で躓いている子が多いな」「この時期に欠席が増える傾向があるぞ」といった気づきを積み重ねることで、本当に重要な問いが浮かび上がってきます。

Excel Agent Modeなら、以下のような探索的な分析が簡単にできます。

  • 「このテスト結果を単元別に分析して、つまずきが多い単元を特定して」
  • 「欠席率の推移を月別に見せて。特に増加している時期はある?」
  • 「この2つのクラスで成績分布を比較して。何か違いが見える?」

このような対話を通じて、データから示唆を得る感覚を掴み、「こういう切り口で見ると役立つ」という発見を積み重ねていきます。

2. 要件定義の精度が飛躍的に上がる

探索フェーズで試行錯誤した経験は、Power BIダッシュボードの要件定義に直結します。

探索前の漠然とした要件:

  • 「なんとなく成績を可視化したい」
  • 「出席状況のダッシュボードが欲しい」

探索後の具体的な要件:

  • 「単元別のつまずき傾向を学期ごとに比較し、平均点60点未満の単元はアラート表示したい」
  • 「欠席増加の予兆を検知するため、個人別に直近1ヶ月の出席率を前年同期比で表示し、10%以上の低下があればハイライトしたい」

この違いは歴然です。後者なら、システム会社も正確に要件を理解でき、必要な機能を盛り込んだダッシュボードを構築できます。

結果として、Power BI構築時の手戻りが激減し、「作ったけど使えない」という最悪の事態を避けられます。

3. データ整備の要件が明確になる

探索的分析を行うと、データの現状が見えてきます。

  • 「このデータは学年別にしか集計されていないが、学級別にも見たい」
  • 「テスト結果に単元情報が紐付いていないので、単元別分析ができない」
  • 「出席データと健康観察データが別のファイルで、統合が大変」

こうした課題に早期に気づけば、ダッシュボード構築前にデータ整備を進められます。

明確になること:

  • どのデータソースが必要か
  • どの粒度でデータを保持すべきか
  • どのようなマスタデータ(学年・クラス・科目など)が必要か
  • データクレンジングのルール
  • データの統合方法

これらが整理されていれば、第2部「教育データ収集の実践」での作業がスムーズに進みます。

4. コストと時間の大幅な削減

探索フェーズを省略してダッシュボードを作ると、以下のような無駄が発生します。

  • 不要な機能の開発(誰も使わない分析画面)
  • 後からの追加開発(欲しい機能が入っていない)
  • データ構造の変更(必要なデータが取れない)
  • UI/UXの作り直し(使いにくい画面設計)

これらの手戻りは、開発コストと時間の大幅な増加につながります。

一方、Excel Agent Modeでの探索は、低コスト・低リスクです。

  • 特別なシステム構築は不要
  • Microsoft 365 と Microsoft 365 Copilot のライセンスがあれば使える
  • 試行錯誤が自由にできる
  • 失敗してもやり直しが簡単

小さく始めて成功体験を積むことで、組織全体のデータ利活用の機運も高まります。

5. 現場の「データリテラシー」が育つ

最も重要な価値は、教員自身がデータから示唆を得る経験を積めることです。

ダッシュボードを「見せられる」だけでは、データリテラシーは育ちません。自分で問いを立て、データと対話し、示唆を得て、改善アクションにつなげる。この一連のプロセスを体験することで、データ利活用の本質が理解できます。

身につくスキル:

  • どんな問いが有効か(問いの立て方)
  • データをどう見れば示唆が得られるか(分析の観点)
  • どう聞けば欲しい答えが得られるか(プロンプトの書き方)
  • 示唆をどう解釈し、アクションにつなげるか(意思決定力)

こうしたスキルが育っていれば、ダッシュボード完成後も自律的に活用できます。「使い方がわからない」「どう見ればいいかわからない」という状態にはなりません。


本書の位置づけ:データ利活用の旅の第一歩

この記事は、教育データ利活用の3部作の第1部として位置づけられます。

【教育データ利活用シリーズ - 3部作】

第1部: Excel Agent モードではじめる教育データ利活用(← この記事)
├─ 探索的データ分析
├─ 現場の問いを磨く
├─ 必要なデータと指標を見極める
└─ 改善アクションまでの道筋を確認

第2部: 教育データ収集の実践(← 次の記事)
├─ どこにどんなデータがあるか
├─ データの収集方法(手動・半自動・自動)
├─ データクレンジングとマスタ整備
└─ データの統合と保管

第3部: Power BIによる教育ダッシュボード開発(← 第3の記事)
├─ Power BIの基礎
├─ データモデリング
├─ 効果的な可視化デザイン
└─ ダッシュボードの実装と運用

3部作の関係

第1部(この記事)の役割:

  • 「何を知りたいか」を明確にする
  • 「どのデータが必要か」を見極める
  • 「どの指標をモニタリングすべきか」を決める

これらは、第2部でのデータ収集、第3部でのダッシュボード開発の土台となります。

逆に言えば、この土台なしにデータ収集やダッシュボード開発を始めても、「何のために集めるのか」「何を表示すればいいのか」がわからず、迷走してしまいます。

段階的な学習の重要性

データ利活用は、一足飛びに実現できるものではありません。以下のような段階を踏むことが、成功への近道です。

ステップ1: 探索と学習(第1部 - この記事)

  • まずは手元のデータで試してみる
  • 成功体験と失敗体験を積む
  • 本当に必要な問いと分析を見つける

ステップ2: 仕組み化(第2部・第3部)

  • データ収集を継続的に行える仕組みを作る
  • よく使う分析をダッシュボード化する
  • 組織で共有できるようにする

ステップ3: 組織への展開

  • 個人・学級レベルから学年・学校全体へ
  • PDCAサイクルに組み込む
  • データドリブンな意思決定を文化にする

この記事では、最も重要な「ステップ1」に集中します。


この記事で学べること

この記事を読み進めることで、以下のスキルと知識が身につきます。

1. Excel Agent Modeの基本的な使い方

  • Excel Agent Modeとは何か、従来のExcelやCopilotとどう違うのか
  • 起動方法と基本的な操作
  • Agent Modeとの効果的な対話の仕方
  • 推論プロセスの読み取り方

2. 教育データから示唆を得て改善につなげる方法

  • 現場の課題から「問い」を立てる方法
  • データに何を問いかければ示唆が得られるか
  • 得られた示唆をどう解釈するか
  • 示唆から具体的な改善アクションを導く流れ

3. 実践的な12のユースケース

教育現場でよくある場面を想定した、具体的なユースケースを12個紹介します。

  • 学習指導関連: つまずきの発見、教科間バランス、学習効果測定
  • 生徒指導・学級運営関連: 欠席傾向、学級集団の状態
  • 学校運営関連: 授業評価、学校評価、働き方改革
  • 保護者・地域連携関連: 保護者連携、開かれた学校づくり
  • その他: 読書活動、部活動運営

各ユースケースでは、以下を具体的に示します。

  • 現場の課題・問い
  • 必要なデータ
  • Agent モードへの問いかけ例
  • 得られる示唆
  • 具体的な改善アクション

4. 次のステップ(データ収集、Power BI)へ進む前に明確にすべきこと

  • Excel Agent Modeで十分な場合と、次のステップに進むべき場合の判断基準
  • この記事で整理すべき要件のリスト
  • 第2部(データ収集編)、第3部(Power BI開発編)への橋渡し

この記事を読み進める前に

対象読者

この記事は、以下のような方を対象としています。

  • 小学校、中学校、高等学校の教員
  • Excelを使ったことはあるが、データ分析の経験はほとんどない
  • 教育データを活用して、日々の教育実践を改善したい
  • 「データドリブン」という言葉に興味はあるが、何から始めればいいかわからない

高度な統計知識やプログラミングスキルは不要です。Excelで表を作ったり、簡単な合計や平均を計算したことがあれば十分です。

必要な環境

Excel Agent Modeを実際に試すには、以下が必要です。

  • Microsoft 365 Copilotライセンス、または
  • Microsoft 365 Personal/Family/Premiumサブスクリプション
  • インターネット接続(Excel for the webを使用)

詳しくは第2章で説明します。

読み方のヒント

この記事は、以下のような読み方ができます。

じっくり読む場合:

  • 第1章から順に読み、第2章で実際に手を動かしながら進める
  • 第3章のユースケースを自分の学校のデータで試してみる
  • 第4章・第5章で理解を深め、次のステップを考える

ざっと概要を掴む場合:

  • はじめにと第1章で全体像を理解
  • 第3章のユースケースから興味のあるものだけ読む
  • 第5章で次のステップを確認

特定のユースケースだけ知りたい場合:

  • 第3章の該当するケースに直接ジャンプ
  • 必要に応じて第2章(基本操作)を参照

どの読み方でも構いません。あなたの状況に合わせて、自由に活用してください。


それでは、教育データ利活用の旅を始めましょう。

まずは第1章で、Excel Agent Modeとは何か、なぜ探索フェーズに最適なのかを理解していきます。

第1章 Excel Agent モードとは

1.1 Excel Agent モードの概要

1.1.1 Agent Modeとは何か

Excel Agent Mode(エージェントモード)は、Microsoftが2025年9月に発表した、Excel用の新しいAI支援機能です。Excel Labsのプレビュー機能として提供されており、従来のExcel操作やCopilot in Excelとは一線を画す、画期的なデータ分析体験を提供します。

Agent Modeは、ユーザーと並行して作業し(side by side with Copilot)、テーブル、グラフ、ピボットテーブル、数式といったExcelの強力なツールを駆使します。複雑な多段階タスクの実行に特化しており、「目的を伝えるだけで、Excelが自律的に複雑なタスクを完遂してくれる」 機能です。

1.1.2 開発の背景

従来、Excelでのデータ分析には以下のような課題がありました。

課題1: 操作手順を覚える必要がある

  • ピボットテーブルの作り方
  • VLOOKUP関数の使い方
  • グラフの作成とカスタマイズ
  • データのクレンジング方法

これらを習得するには時間がかかり、使わないとすぐに忘れてしまいます。

課題2: 試行錯誤に時間がかかる

  • 「このデータをどう分析すれば示唆が得られるか」を探るには、様々な切り口で集計・可視化を繰り返す必要があります
  • 一つひとつの操作に時間がかかると、探索的な分析が億劫になります

課題3: 専門知識の壁

  • 統計的な分析や高度なグラフ作成には、専門的な知識が必要
  • 「どの分析手法が適切か」がわからないと、データを活かせません

これらの課題を解決するために開発されたのが、Agent Modeです。

1.1.3 Agent Modeの特徴

Agent Modeは、以下の3つの特徴を持っています。

特徴1: 自然言語での対話

Excelの操作方法を知らなくても、日常的な言葉で目的を伝えるだけで分析ができます。

例:

「このテストデータから、平均点が低い単元を見つけて、
その単元の得点分布をグラフにしてください」

このような自然な指示で、Agent ModeがExcelの様々な機能を駆使して結果を出してくれます。

特徴2: 多段階タスクの自律実行

Agent Modeは、複雑なタスクを自動的に分解し、ステップバイステップで実行します。

上記の例なら、以下のようなステップを自動で行います。

  1. データの構造を理解
  2. 単元ごとの平均点を計算
  3. 平均点が低い単元を特定
  4. 該当単元のデータを抽出
  5. ヒストグラムを作成
  6. グラフのラベルや書式を設定

これらすべてを、一つの指示で完結させられます。

特徴3: 推論プロセスの可視化

Agent Modeは、「今、何を考えて、何をしようとしているか」を逐一表示してくれます。

[Agent Modeの思考プロセス例]
1. データを確認しています...
   - 200行のテストデータを検出
   - 列: 生徒名、単元、得点

2. 単元ごとの平均点を計算中...
   - ピボットテーブルを作成
   - 単元列でグループ化

3. 平均点が低い単元を特定...
   - 全体平均: 72.5点
   - しきい値(70点)以下: 3単元

4. グラフを作成中...
   - 各単元のヒストグラムを生成

この可視化により、「なぜこの結果になったのか」が理解でき、信頼性が高まります。また、途中で停止したり、方向修正することもできます。

1.1.4 教育現場での活用可能性

Agent Modeは、教育現場のデータ分析に特に適しています。

理由1: 教員のITスキルレベルに依存しない

Excelの高度な機能を覚える必要がなく、「知りたいこと」を言葉で伝えるだけで分析できます。これは、日々多忙な教員にとって大きなメリットです。

理由2: 探索的な分析がしやすい

「ちょっと気になる」ことを手軽に調べられます。

  • 「この単元、みんなできてなかったような気がするけど、実際どうだったかな?」
  • 「最近、○○さんの欠席が多い気がする。ここ3か月の推移を見てみたい」

こうした「ふと思いついた問い」に、すぐ答えを得られるのがAgent Modeの強みです。

理由3: 段階的に分析を深められる

最初の分析結果を見て、さらに深掘りすることが簡単です。

最初の問い: 「単元別の平均点を見せて」
↓
結果を見て: 「なるほど、単元3が低いな」
↓
深掘り: 「単元3について、得点層別の人数分布を見せて」
↓
さらに: 「60点未満の生徒をリストアップして」

このような対話的な分析が、自然に行えます。


1.2 従来のExcel操作・Copilotとの違い

Agent Modeの価値をより深く理解するために、従来のExcel操作やCopilot in Excelとの違いを見ていきましょう。

1.2.1 従来のExcel操作

特徴: 手順を覚えて一つずつ実行

従来のExcelでは、以下のような手順を一つずつ実行する必要がありました。

例: 単元別の平均点を計算し、グラフ化する場合

  1. データ範囲を選択
  2. 挿入タブ → ピボットテーブル
  3. 行に「単元」、値に「得点」を配置
  4. 値フィールドの設定を「平均」に変更
  5. ピボットテーブルを選択
  6. 挿入タブ → グラフ → 縦棒グラフ
  7. グラフのタイトルや軸ラベルを編集

この一連の操作を覚え、正確に実行する必要があります。

メリット:

  • 操作を理解していれば、細かくコントロールできる
  • 複雑な処理も、手順を組み合わせれば実現可能

デメリット:

  • 学習コストが高い
  • 操作を忘れると、調べ直す手間がかかる
  • 探索的な分析には時間がかかる

1.2.2 Copilot in Excel

特徴: 単発の質問と回答

Copilot in Excelは、2023年に登場したAI支援機能です。自然言語での質問に答えてくれますが、基本的には一問一答形式です。

例: 単発の質問

質問: 「この列の平均を出して」
回答: [平均値を計算]

質問: 「グラフを作って」
回答: [推奨グラフを作成]

メリット:

  • 自然言語で指示できる
  • 簡単なタスクは素早く完了

デメリット:

  • 複雑なタスクは複数回の質問が必要
  • 「次に何を聞けばいいか」を考える必要がある
  • 多段階の処理を自動化できない

1.2.3 Agent Mode

特徴: 複雑な多段階タスクを目的で指示

Agent Modeは、Copilotをさらに進化させ、複数のステップを自律的に実行できます。

例: 複雑な指示

「このテスト結果から、学力傾向を分析して改善提案をまとめて」

→ Agent Modeが自動的に以下を実行:
1. データの全体像を把握
2. 単元別・得点層別の分析
3. 傾向の特定(つまずきの多い単元、得点の偏りなど)
4. 可視化(グラフ、表)
5. 改善提案の文章作成

メリット:

  • 目的を伝えるだけで、複雑な分析が完了
  • 「次に何をすればいいか」を考える必要がない
  • 推論プロセスが見えるので、結果を信頼できる

デメリット:

  • 現時点では英語版のみ(日本語版は開発中)
  • Excel for the web(ブラウザ版)のみ対応(デスクトップ版は近日対応予定)
  • 外部データ連携は非対応(企業データ、メール、外部ツールとの統合は利用不可)
  • 単純な1段階タスクには、Excelの推奨グラフや推奨ピボットテーブルの方が迅速

1.2.4 3つの方式の比較表

項目 従来のExcel Copilot in Excel Agent Mode
操作方法 手動操作 自然言語(単発) 自然言語(多段階)
学習コスト 高い 中程度 低い
複雑なタスク 手順を組み合わせて実現 複数回の質問が必要 一つの指示で完了
探索的分析 時間がかかる やや時間がかかる スムーズ
推論の可視化 なし なし あり
柔軟性 高い 中程度 中程度
適した場面 定型的な作業 簡単な質問 探索的データ分析

1.2.5 推論プロセスの可視化とは

Agent Modeの大きな特徴である「推論プロセスの可視化」について、もう少し詳しく見てみましょう。

従来のAIツールでは、「入力」と「出力」の間がブラックボックスでした。Agent Modeは、このブラックボックスを開き、「今、AIが何を考えているか」 を逐一表示します。

可視化の例:

[あなたの指示]
「欠席が増えている生徒を見つけて、その傾向を分析してください」

[Agent Modeの推論プロセス]
ステップ1: データ構造を確認
  - 出席データ: 100名 × 180日
  - 列: 生徒ID、日付、出席状況

ステップ2: 各生徒の月別欠席日数を計算
  - ピボットテーブルで集計
  - 生徒 × 月のマトリクス作成

ステップ3: 欠席増加の定義を設定
  - 前月比で2日以上増加
  - または欠席率が15%を超過

ステップ4: 該当する生徒を抽出
  - 15名が条件に該当

ステップ5: 傾向を分析
  - 欠席増加の時期: 6月と11月に集中
  - 欠席の曜日: 月曜日が多い
  - パターン: 連続欠席が増加傾向

ステップ6: 可視化
  - 該当生徒の欠席推移グラフ
  - 月別・曜日別の集計表

この可視化には、以下のメリットがあります。

メリット1: 結果の根拠がわかる
なぜこの結論になったのか、どんな基準で判断したのかが明確です。

メリット2: 途中で修正できる
「いや、欠席率の基準は10%にして」のように、途中で条件を変更できます。

メリット3: 学習効果がある
Agent Modeの思考プロセスを見ることで、「こういう分析の仕方があるのか」と学べます。

1.2.6 計画→実行→検証のループ(推論と反省のループ)

Agent Modeは、「推論と反省のループ」(reasoning and reflection loop)と呼ばれる仕組みで動作します。これは人間の問題解決プロセスを模倣したものです。

Agent Modeの動作プロセス:

[計画フェーズ]
ワークブックから文脈を生成し、高度な推論モデルで計画を立案
  ↓
[実行フェーズ]
JavaScriptコードを実行してワークブックを変更
  ↓
[検証フェーズ]
結果を評価し、ギャップがあれば戦略を修正
  ↓
(ループ)

この仕組みにより、Agent Modeは以下のことを実現しています。

スプレッドシート文脈の戦略的管理

  • ワークブック全体をコンテキストに流し込むのではなく、必要な部分だけを必要な時に引き込む
  • 最初に「コンパクトなブループリント」を送信(空間配置、値、オブジェクト、数式依存グラフを含む)
  • より深い検査が必要な場合のみ、追加情報をオンデマンドで取得

検証駆動的な生成

  • 実行前に「期待される結果を確立する軽量テスト」を生成
  • 各ツールコールを監査可能で検証可能なワークフローとして再構成
  • この検証アプローチにより、「二桁の精度向上」を達成

具体例:

[あなたの指示]
「A組とB組の成績を比較して、差があるか教えて」

[Agent Modeの処理]

計画:
  - 各クラスの平均点を計算
  - 標準偏差も算出
  - 統計的な有意差を確認
  - 得点分布を可視化

実行:
  - ピボットテーブルで集計
  - グラフ作成

検証:
  - 平均点: A組 72.3点、B組 68.7点
  - 差: 3.6点
  - 標準偏差を考慮すると、有意な差とは言えない

再計画:
  - 単元別に比較してみる
  - 得点層別(上位・中位・下位)でも見る

実行:
  - 追加分析を実施

結果:
  「全体では大きな差はありませんが、単元3でA組が
  やや高い傾向があります。グラフをご確認ください」

このループにより、単純な集計だけでなく、洞察を得るための分析が自動的に行われます。


1.3 なぜ探索フェーズにAgent Modeが最適なのか

「はじめに」でも触れましたが、Agent Modeが探索フェーズに最適な理由を、もう少し掘り下げて説明します。

1.3.1 低コスト・低リスクで始められる

コスト面のメリット

Agent Modeを使うために必要なのは、以下だけです。

  • Microsoft 365 Copilotライセンス、または
  • Microsoft 365 Personal/Family/Premiumサブスクリプション
  • インターネット接続(Excel for the webを使用)

専用のシステム構築や、高額なBIツールの導入は不要です。既に学校でMicrosoft 365を使っていれば、追加コストなしで始められる可能性もあります。

リスク面のメリット

探索フェーズでは、「やってみたが、期待した結果が得られなかった」ということも起こります。Agent Modeなら、以下の点でリスクが低く抑えられます。

  • 失敗してもやり直しが簡単: Undoボタン一つで元に戻せる
  • データが壊れる心配がない: 元データは変更されず、分析結果だけが生成される
  • 小さく始められる: 1つの学級、1つの教科だけでも試せる
  • 止めたくなったら止められる: 大きな投資をしていないので、撤退コストが低い

1.3.2 試行錯誤が容易

探索フェーズで重要なのは、「あれこれ試してみる」 ことです。Agent Modeは、この試行錯誤を強力にサポートします。

パターン1: 視点を変えてみる

最初の問い: 「単元別の平均点を見せて」
  ↓
「今度は得点層別(90点以上、70-89点、70点未満)で見せて」
  ↓
「学期ごとの推移も見たい」
  ↓
「クラスごとの比較もしてみて」

このように、視点を次々と変えながら、データを多角的に眺めることができます。

パターン2: 深掘りしてみる

全体分析: 「全体の傾向を見せて」
  ↓ 気になる点を発見
詳細分析: 「単元3の得点分布を詳しく見せて」
  ↓ さらに気になる
個別確認: 「単元3で60点未満の生徒をリストアップして」
  ↓ 共通点を探る
相関分析: 「この生徒たちは、他の単元でも低い?」

従来なら各ステップで操作が必要でしたが、Agent Modeなら会話するように進められます。

パターン3: 仮説を検証する

仮説: 「欠席が多い生徒は、成績も低い傾向があるのでは?」
  ↓
検証: 「欠席日数と平均点の相関を見せて」
  ↓ 結果を確認
新たな仮説: 「もしかして、特定の曜日の欠席が影響している?」
  ↓
検証: 「月曜日の欠席回数と成績の関係を見せて」

このように、思いついた仮説をすぐに検証できます。

1.3.3 教員が自分で操作できる

データ分析を外部に委託したり、IT担当者に依頼したりすると、以下の問題が生じます。

  • 細かいニュアンスが伝わらない
  • 結果が出るまでに時間がかかる
  • 追加の分析を頼むのが申し訳ない
  • コミュニケーションコストがかかる

Agent Modeなら、教員自身が、思い立ったときに、自分のペースで分析できます。

ITスキルの高度な要求がない理由

Agent Modeは、以下の点で教員に優しい設計になっています。

  1. 自然言語での指示

    • 専門用語を覚える必要がない
    • 日常的な言葉で伝えられる
  2. 推論プロセスの可視化

    • 何が起きているか理解できる
    • 安心して使える
  3. 段階的な学習

    • 最初は簡単な質問から始められる
    • 慣れてきたら複雑な分析にも挑戦できる
  4. エラーに優しい

    • 指示が曖昧でも、Agent Modeが解釈してくれる
    • 間違っても、やり直しが簡単

1.3.4 すぐに結果が見える(フィードバックループが速い)

学習や改善において、フィードバックループの速さは非常に重要です。

従来の方法: フィードバックループが遅い

[1週目]
データ分析を外部に依頼
  ↓ (待ち時間: 1-2週間)
[2週目]
結果が届く
  ↓
「あ、ここはこう見たかったんだけど...」
  ↓
追加分析を依頼
  ↓ (待ち時間: 1週間)
[3週目]
結果が届く

Agent Mode: フィードバックループが速い

[今日]
9:00 - 質問を投げる
9:02 - 結果が返ってくる
9:03 - 「あ、ここはこう見たい」と追加の質問
9:05 - 結果が返ってくる
9:06 - さらに深掘り
9:10 - 求めていた示唆が得られた

このスピード感が、探索的データ分析には不可欠です。

学習サイクルの高速化

フィードバックループが速いと、学習も加速します。

試す → 結果を見る → 学ぶ → 次を試す
(このサイクルが数分で回る)

1日に何度もこのサイクルを回せるので、短期間でデータ分析のコツが掴めます。

1.3.5 探索から仕組み化への橋渡し

Agent Modeでの探索は、単なる「お試し」ではありません。次のステップ(データ収集やPower BI開発)への重要な準備になります。

探索フェーズで明確になること:

  1. 本当に知りたいこと(問い)

    • 漠然とした「成績を見たい」から
    • 具体的な「単元別のつまずき傾向を、得点層別に見たい」へ
  2. 必要なデータの粒度

    • 学校全体の数字だけでは不十分
    • 学級別、個人別のデータが必要
  3. 効果的な切り口

    • 時系列で見ると傾向が見える
    • 比較(学級間、学年間)が有効
    • 分布(得点層別)で実態が掴める
  4. しきい値やアラート条件

    • 欠席率が10%を超えたら要注意
    • 平均点が60点未満の単元は改善対象

これらの知見が蓄積されることで、「使われるダッシュボード」の要件が固まっていきます。


1.4 本章のまとめ

この章では、Excel Agent Modeの概要と、なぜ探索フェーズに最適なのかを解説しました。

重要ポイント:

  1. Agent Modeとは

    • 目的を伝えるだけで、複雑なタスクを自律実行
    • 推論プロセスが可視化され、信頼性が高い
    • 2025年9月発表の最新機能
  2. 従来との違い

    • 従来のExcel: 手順を覚えて実行
    • Copilot in Excel: 単発の質問と回答
    • Agent Mode: 多段階タスクを目的で指示
  3. 探索フェーズに最適な理由

    • 低コスト・低リスクで始められる
    • 試行錯誤が容易
    • 教員が自分で操作できる
    • フィードバックループが速い
    • 次のステップへの橋渡しになる

次の第2章では、実際にAgent Modeを起動し、最初の分析を体験してみましょう。

第2章 クイックスタート

この章では、Excel Agent Modeを実際に起動し、最初の分析を体験します。難しい操作は必要ありません。順を追って進めていきましょう。


2.1 必要な環境

Agent Modeを使うために必要な環境を確認します。

2.1.1 必須ライセンス

以下のいずれかのライセンスが必要です。

企業・学校向け:

  • Microsoft 365 Copilotライセンス
  • 重要: 管理者によるFrontierアクセスの有効化が必要

個人向け:

  • Microsoft 365 Personal
  • Microsoft 365 Family
  • Microsoft 365 Premium
  • 重要: Copilotボタン下のトグルでFrontier機能をオンに設定する必要があります

2.1.2 現在の制限事項(2025年10月時点)

Agent Modeは、現在以下の制限があります。

プラットフォーム制限:

  • Excel for the web(ブラウザ版)のみ対応
  • デスクトップ版のExcelでは利用不可(近日対応予定)
  • モバイル版(スマートフォン、タブレット)では利用不可

言語制限:

  • 英語版のみ対応
  • 日本語での指示はまだサポートされていません(開発中)
  • ただし、日本語データを分析することは可能です

その他の制限:

  • 外部データ連携は非対応(企業データベース、メール、外部ツールとの統合は利用不可)
  • インターネット接続が必須

2.1.3 ライセンスの確認方法

ご自身のライセンスを確認するには、以下の方法があります。

方法1: Microsoft 365のアカウントページで確認

  1. account.microsoft.com にアクセス
  2. サインイン
  3. 「サービスとサブスクリプション」を確認
  4. 「Microsoft 365」の種類を確認

方法2: Excelで確認

  1. Excel for the webを開く(excel.new で新規ブック作成)
  2. 右上のアカウントアイコンをクリック
  3. 「マイアカウント」を選択
  4. サブスクリプション情報を確認

学校で利用する場合:

学校のIT管理者またはMicrosoft 365の担当者に、以下を確認してください。

  • Microsoft 365 Copilotライセンスが利用可能か
  • Excel for the web(ブラウザ版Excel)が利用可能か
  • Frontier アクセスが管理者によって有効化されているか(これが最重要)

Frontierは、Microsoftの最新AI機能にアクセスするためのプログラムです。Agent Modeを使用するには、このアクセスが有効である必要があります。


2.2 Agent モードの起動方法

Agent Modeを起動する方法は2つあります。どちらも簡単ですが、方法1(Copilot Chatから)を推奨します。

2.2.1 方法1: Copilot Chatから(推奨)

最も簡単で確実な方法です。

ステップ1: 新しいブックを作成

  1. ブラウザで excel.new にアクセス
  2. 新しいブックが自動的に作成されます
  3. サインインしていない場合は、サインインを求められます

ステップ2: Copilotを開く

  1. 画面右上の「ホーム」タブを確認
  2. リボンの中に「Copilot」ボタンがあります
  3. 「Copilot」ボタンをクリック
  4. 画面右側にCopilotのペインが開きます

ステップ3: Agent Modeを選択

  1. Copilotペインの上部に「Tools」メニューがあります
  2. 「Tools」をクリック
  3. ドロップダウンメニューから「Agent Mode」を選択
  4. Agent Modeが起動し、対話可能になります

2.2.2 方法2: Excel Labsアドインから

もう1つの方法は、Excel Labsアドインを経由する方法です。

ステップ1: Excel Labsアドインを追加

  1. Excel for the webで新しいブックを開く
  2. 「ホーム」タブ →「アドイン」をクリック
  3. 「アドインを取得」または「ストアを開く」を選択
  4. 検索ボックスに「Excel Labs」と入力
  5. 「Excel Labs」を見つけて「追加」をクリック
  6. アドインのアクセス許可を確認して「続行」

ステップ2: Agent Modeを起動

  1. リボンに「Excel Labs」ボタンが追加されます
  2. 「Excel Labs」ボタンをクリック
  3. Excel Labsのペインが開きます
  4. 機能ギャラリーから「Agent Mode」を選択
  5. Agent Modeが起動します

2.2.3 起動を確認

Agent Modeが正常に起動すると、以下のようになります。

  • 画面右側にAgent Modeのペインが表示される
  • ペインの上部に「Agent Mode」と表示される
  • テキスト入力ボックスがあり、質問や指示を入力できる
  • 「Send」ボタン(送信ボタン)がある

2.3 最初の質問をしてみる

Agent Modeを起動したら、さっそく最初の分析を体験してみましょう。

2.3.1 サンプルデータの準備

まずは、シンプルなテストデータを用意します。

データの例:

Excel のシートに、以下のようなデータを入力してください。

生徒名 単元 得点
生徒A 単元1 85
生徒B 単元1 78
生徒C 単元1 92
生徒A 単元2 72
生徒B 単元2 68
生徒C 単元2 75
生徒A 単元3 88
生徒B 単元3 82
生徒C 単元3 90

入力のコツ:

  • 1行目に見出し(生徒名、単元、得点)を入力
  • 2行目以降にデータを入力
  • 数値はそのまま入力(全角数字ではなく半角数字)

より大きなデータを使いたい場合:

もっと多くのデータで試したい場合は、以下のような方法があります。

  • 実際の学校のデータ(個人情報を含まないもの)を使う
  • サンプルデータを自動生成してもらう(Agent Modeに「サンプルの成績データを50件作成して」と依頼)

2.3.2 具体的なプロンプト例

それでは、Agent Modeに最初の質問をしてみましょう。

プロンプト例1: 基本的な分析

Agent Modeのテキストボックスに以下を入力します(英語で入力してください)。

Analyze this test data. Calculate the average score for each unit
and create a chart showing the results.

(日本語訳: このテストデータを分析してください。各単元の平均点を計算し、結果を示すグラフを作成してください。)

「Send」ボタンをクリックすると、Agent Modeが動き始めます。

プロンプト例2: もう少し詳しい指示

Calculate the average score, median, and standard deviation for each unit.
Create a bar chart comparing the averages, and highlight any unit
with an average below 75 points.

(日本語訳: 各単元の平均点、中央値、標準偏差を計算してください。平均を比較する棒グラフを作成し、平均が75点未満の単元を強調表示してください。)

プロンプト例3: 段階的な質問

最初は簡単な質問から始めて、徐々に深掘りする方法もあります。

1回目: "What is the overall average score?"
(全体の平均点は?)

2回目: "Show me the average for each unit."
(各単元の平均を見せて)

3回目: "Which unit has the lowest average?"
(どの単元が最も平均が低い?)

4回目: "Create a chart showing the score distribution for that unit."
(その単元の得点分布を示すグラフを作成して)

2.3.3 Agent Modeの応答の見方

Agent Modeが質問を受け取ると、以下のような流れで処理が進みます。

ステップ1: 推論プロセスの表示

Agent Modeのペインに、処理の様子が逐一表示されます。

[表示例]
Analyzing the data structure...
- Found 9 rows of test data
- Columns detected: Student Name, Unit, Score

Calculating average scores by unit...
- Creating a pivot table
- Grouping by Unit column

Creating visualization...
- Generating a bar chart
- Setting labels and formatting

この表示により、「今、Agent Modeが何をしているか」がリアルタイムでわかります。

ステップ2: ワークブックへの変更

Agent Modeは、実際にExcelのシート上で作業を行います。

  • 新しいシートが追加される
  • ピボットテーブルが作成される
  • グラフが挿入される

これらの変更は、リアルタイムで確認できます。左側のメインのExcelビューを見ていると、Agent Modeが実際に作業している様子が見えます。

ステップ3: 結果の確認

処理が完了すると、Agent Modeから結果の要約が表示されます。

[表示例]
Analysis complete! Here's what I found:

- Unit 1 average: 85.0 points
- Unit 2 average: 71.7 points (below 75)
- Unit 3 average: 86.7 points

I've created a bar chart showing these averages,
with Unit 2 highlighted in a different color.

The chart has been added to a new sheet called "Unit Analysis".

2.3.4 結果の確認と編集

Agent Modeが作成した結果は、通常のExcel操作と同様に編集できます。

確認するポイント:

  1. 計算結果の正確性

    • 作成された集計表やグラフを見て、データが正しく集計されているか確認
  2. グラフの見やすさ

    • グラフのタイトル、軸ラベルが適切か
    • 色使いが適切か
  3. 想定した結果が得られているか

    • 質問に対する答えが得られているか
    • 追加で知りたいことはないか

編集が必要な場合:

Agent Modeの結果に満足できない場合、以下の2つの方法があります。

方法1: Agent Modeに追加の指示を出す

"Can you change the chart to a line chart instead?"
(グラフを折れ線グラフに変更してもらえますか?)

"Please add a title 'Unit Performance Analysis' to the chart."
(グラフに「単元別成績分析」というタイトルを追加してください)

方法2: 手動で編集する

Excelの通常の機能を使って、自分で編集することもできます。

  • グラフをクリックして書式を変更
  • セルの値を編集
  • 新しい列や行を追加

2.3.5 いつでも停止・Undo可能

Agent Modeの大きなメリットの1つは、いつでも安全に止められることです。

処理を途中で停止する:

  • Agent Modeのペインに「Stop」ボタンが表示されます
  • 処理が長引いている場合や、方向性が違うと感じた場合にクリック
  • 停止しても、すでに行われた変更は残ります

注意: Agent Modeは複雑なタスクを実行するため、処理に数分かかる場合があります。ペイン内で進行状況を確認しながら、完了まで待ちましょう。単純な一段階操作の場合は、Excelの推奨グラフや推奨ピボットテーブル機能の方が迅速です。

変更を取り消す。

  • Excelの通常のUndoボタン(Ctrl+Z または ⌘+Z)が使えます
  • Agent Modeが行った変更も、一つずつ取り消せます
  • 元のデータは変更されないので、安心して試せます

やり直す。

  • 失敗しても、新しいシートで再度試せます
  • 同じ質問を言い方を変えて再度投げることもできます
  • 何度でも試行錯誤できます

2.4 基本的な対話の流れ

Agent Modeを効果的に使うための、基本的な対話の流れを理解しましょう。

2.4.1 目的を明確に伝える

Agent Modeは、あなたの「目的」を理解することで、最適な分析を行います。

良い例(目的が明確):

"I want to identify students who are struggling with Unit 2.
Show me students who scored below 70 points in this unit."

(単元2で苦戦している生徒を特定したいです。
この単元で70点未満だった生徒を見せてください。)

→ 目的(苦戦している生徒の特定)が明確で、基準(70点未満)も具体的

悪い例(曖昧):

"Do something with this data."
(このデータで何かして。)

→ 何をしたいのかが不明確

コツ:

  • 「〜を知りたい」「〜を確認したい」といった目的を含める
  • 可能であれば、基準や条件も伝える(「〜以上」「〜未満」など)
  • 最終的にどんな形で結果が欲しいか伝える(「グラフで」「リストで」など)

2.4.2 推論プロセスを確認する

Agent Modeが作業している間、推論プロセスをよく見ましょう。

確認するポイント:

  1. データの理解は正しいか

    "Found 100 rows of student data"
    → 実際のデータ数と合っているか確認
    
  2. 計算方法は適切か

    "Calculating average by dividing total score by count"
    → 平均の計算方法が正しいか
    
  3. 分析の方向性は合っているか

    "Grouping by Unit to compare performance"
    → 単元別の比較で良いか、それとも生徒別の比較が必要か
    

方向性が違うと感じたら:

途中で「Stop」を押して、指示を修正しましょう。

"Wait, I actually want to compare students, not units.
Can you restart and group by student name instead?"

(待って、実は単元ではなく生徒を比較したいんです。
やり直して、生徒名でグループ化してもらえますか?)

2.4.3 結果を検証して次の指示を出す

Agent Modeの結果を確認したら、さらに深掘りしたり、別の角度から分析したりできます。

対話の例:

あなた: "Calculate the average score for each unit."
(各単元の平均点を計算して)

Agent Mode: [平均を計算し、結果を表示]

あなた: "Interesting. Now show me the distribution of scores in Unit 2."
(興味深いですね。では、単元2の得点分布を見せてください)

Agent Mode: [ヒストグラムを作成]

あなた: "Can you list students who scored below 70 in Unit 2?"
(単元2で70点未満だった生徒をリストアップできますか?)

Agent Mode: [該当生徒のリストを作成]

このように、結果を見ながら、段階的に分析を深めていけます。

2.4.4 効果的な対話のパターン

Agent Modeとの対話には、いくつかの効果的なパターンがあります。

パターン1: 広く→狭く(全体から詳細へ)

1. "Show me an overview of the data"
   (データの概要を見せて)

2. "Which unit has the lowest average?"
   (どの単元が最も平均が低い?)

3. "Show details for that unit"
   (その単元の詳細を見せて)

4. "List students who are struggling in that unit"
   (その単元で苦戦している生徒をリストアップして)

パターン2: 比較→原因探索

1. "Compare Class A and Class B"
   (A組とB組を比較して)

2. "Why does Class B have a lower average?"
   (なぜB組の平均が低いのか?)

3. "Are there specific units where Class B struggles?"
   (B組が苦戦している特定の単元はある?)

パターン3: 仮説検証

1. "I think students who are absent more often have lower scores. Is that true?"
   (欠席が多い生徒は成績が低いと思うんだけど、本当?)

2. "Show me the correlation between absence rate and average score"
   (欠席率と平均点の相関を見せて)

3. "If the correlation is strong, create a scatter plot"
   (相関が強ければ、散布図を作成して)

2.4.5 困ったときの対処法

Agent Modeがうまく動作しない場合の対処法です。

ケース1: Agent Modeが質問を理解してくれない

対処法:

  • より簡単な言葉で言い換える
  • 質問を小さく分割する
  • 具体例を含める

❌ 悪い例:

"Perform a comprehensive analysis."

(包括的な分析を実行して)

✅ 良い例:

"Calculate the average, minimum, and maximum for each unit."

(各単元の平均、最小値、最大値を計算して)

ケース2: 期待と違う結果が出た

対処法:

  • 推論プロセスを見直す(どこで方向性がずれたか)
  • より具体的な指示を出し直す
  • 段階的に質問を分ける

❌ 最初(曖昧):

"Analyze the data."

(データを分析して)

✅ やり直し(具体的):

"First, show me the average by unit.
Then, for each unit, show me how many students scored above 80."

(まず、単元別の平均を見せて。
それから、各単元で80点以上を取った生徒が何人いるか見せて。)

ケース3: Agent Modeが途中で止まった

対処法:

  • 「Stop」を押してから、もう一度指示を出す
  • ブラウザをリフレッシュして、再起動
  • データ量が多すぎる場合は、一部のデータで試す

2.5 本章のまとめ

この章では、Agent Modeの起動方法と基本的な使い方を学びました。

重要ポイント:

  1. 必要な環境

    • Microsoft 365 Copilotライセンス、またはPersonal/Family/Premium
    • Excel for the web(ブラウザ版)
    • 現時点では英語のみ対応
  2. 起動方法

    • Copilot Chatから「Tools」→「Agent Mode」(推奨)
    • Excel Labsアドインから起動
  3. 基本的な使い方

    • 目的を明確に伝える
    • 推論プロセスを確認する
    • 結果を検証して、次の質問につなげる
    • いつでも停止・Undo可能
  4. 対話のコツ

    • 広く→狭く(全体から詳細へ)
    • 比較→原因探索
    • 仮説検証
    • 段階的に深掘り

次の第3章では、教育現場での具体的なユースケースを12個紹介します。実際にどんな場面でAgent Modeが役立つのか、実践的な例を見ていきましょう。

第3章 教育データ利活用ユースケース集

この章では、教育現場でよくある12の場面を取り上げ、Excel Agent Modeを使ってどのようにデータ分析を行い、改善につなげるかを具体的に示します。

各ユースケースの構成:

  • 現場の課題・問い
  • 必要なデータ
  • Agent モードへの問いかけ例(英語+日本語訳)
  • 得られる示唆
  • 具体的な改善アクション

3.1 学習指導関連

学習指導に関わる3つのユースケースを見ていきます。

3.1.1 ケース1: つまずきの早期発見と個別支援

現場の課題・問い

状況:
定期テストの結果を見て、担任の先生が気になっています。「単元3の平均点が低かったけれど、どの生徒がつまずいているのか。早めに個別支援をしたいが、どこから手をつければいいか」

知りたいこと:

  • どの単元でつまずいている生徒が多いか
  • 個別にはどの生徒が支援を必要としているか
  • つまずきのパターンはあるか(特定の単元だけ?全体的に?)

必要なデータ

生徒名 単元1 単元2 単元3 単元4 単元5
生徒A 85 78 65 82 88
生徒B 92 88 58 85 90
生徒C 78 72 62 75 80
... ... ... ... ... ...

Agent モードへの問いかけ例

ステップ1: 全体傾向の把握

"Analyze this test data and identify which units have the lowest average scores.
Create a bar chart showing the average for each unit."

(このテストデータを分析し、平均点が最も低い単元を特定してください。
各単元の平均を示す棒グラフを作成してください。)

ステップ2: つまずいている生徒の特定

"For units with an average below 70 points, list all students
who scored below 65 points. Highlight these students."

(平均が70点未満の単元について、65点未満の生徒を全員リストアップし、
強調表示してください。)

ステップ3: パターンの分析

"Create a heatmap showing each student's performance across all units.
Use color coding: red for scores below 65, yellow for 65-75, green for above 75."

(各生徒の全単元での成績を示すヒートマップを作成してください。
色分け: 65点未満は赤、65-75点は黄色、75点以上は緑。)

得られる示唆

Agent Modeの分析から、以下のような示唆が得られます。

全体傾向:

  • 単元3の平均が68.5点で、他の単元(平均78-85点)と比べて明らかに低い
  • 単元3でつまずいている生徒は、クラス35名中12名(約34%)

個別の状況:

  • 生徒B、C、F、Hは単元3のみ低得点(他は80点以上)→ 単元3に特化した支援が必要
  • 生徒K、Lは複数の単元で65点未満 → 全体的な学習支援が必要
  • 生徒Mは単元2から得点が下降傾向 → 単元2でのつまずきが影響している可能性

パターン:

  • 単元3は「分数の割り算」で、概念理解でつまずいている生徒が多い
  • ヒートマップで見ると、「単元3だけ赤」の生徒が目立つ

具体的な改善アクション

  1. 短期的な対応(今週中)

    • 単元3で赤判定の12名を対象に、放課後の補習を計画
    • 分数の割り算の概念を図や具体物で再説明
    • 個別に理解度を確認
  2. 中期的な対応(今学期中)

    • 単元3の教材・指導法を見直し
    • 教科担当の教員間で情報共有(他のクラスも同じ傾向か?)
    • 次のテストで改善を確認
  3. 個別支援計画

    • 生徒K、L:学習支援担当と連携し、個別指導計画を作成
    • 生徒M:単元2に遡って復習の機会を設ける

3.1.2 ケース2: 教科間のバランス把握

現場の課題・問い

状況:
学年主任の先生が、「このクラスは国語が強いけど、算数が弱い気がする。教科間のバランスは取れているか?」と気になっています。

知りたいこと:

  • 各教科の平均点のバランスは?
  • 特定の教科に偏りがあるか?
  • 得意・不得意のパターンはあるか?

必要なデータ

生徒名 国語 算数 理科 社会 英語
生徒A 85 72 78 82 80
生徒B 88 68 75 85 82
生徒C 92 70 72 88 85
... ... ... ... ... ...

Agent モードへの問いかけ例

"Compare the average scores across all subjects.
Create a radar chart showing the class's performance profile.
Highlight any subject with an average more than 5 points below the overall average."

(全教科の平均点を比較してください。
クラスの成績プロファイルを示すレーダーチャートを作成してください。
全体平均より5点以上低い教科を強調表示してください。)
"Identify students who have a large gap (more than 15 points) between
their highest and lowest subject scores. List these students with their
strongest and weakest subjects."

(最高得点の教科と最低得点の教科の差が15点以上ある生徒を特定してください。
これらの生徒を、得意教科と不得意教科とともにリストアップしてください。)

得られる示唆

教科間バランス:

  • 全体平均: 国語 86点、算数 71点、理科 77点、社会 84点、英語 83点
  • 算数が他教科より10-15点低く、明らかなバランスの偏りがある
  • レーダーチャートで見ると、算数だけ凹んだ形

個別の傾向:

  • 20名以上の生徒が「算数だけ低い」パターン
  • 国語と社会が得意で、算数が苦手という生徒が多い
  • 逆に、算数が得意で国語が苦手という生徒は少数(3名程度)

具体的な改善アクション

  1. 算数指導の見直し

    • 学年会で算数指導の課題を議題に
    • 他のクラスとの比較(同じ傾向か?)
    • 指導方法や教材の工夫を検討
  2. 教科間連携

    • 国語の「読解力」を算数の「文章題」に活かす授業研究
    • 理科の「数量的な扱い」と算数の連携
  3. 個別最適化

    • 算数が苦手な生徒向けの段階的な支援
    • 算数が得意な生徒には発展的な課題を

3.1.3 ケース3: 学習効果の測定

現場の課題・問い

状況:
担任の先生が、今学期から新しい指導法(グループ学習)を導入しました。「効果はあったのか?前学期と比べてどうか?」を知りたい。

知りたいこと:

  • 導入前後で平均点は変化したか?
  • すべての生徒に効果があったか、それとも特定の層だけか?
  • 効果の大きさはどのくらいか?

必要なデータ

生徒名 前学期平均 今学期平均 変化
生徒A 72 78 +6
生徒B 85 88 +3
生徒C 65 72 +7
... ... ... ...

Agent モードへの問いかけ例

"Compare the previous term average and current term average.
Calculate the overall change and create a histogram showing
the distribution of score changes."

(前学期の平均と今学期の平均を比較してください。
全体的な変化を計算し、得点変化の分布を示すヒストグラムを作成してください。)
"Divide students into three groups based on previous term performance:
- Low (below 70)
- Medium (70-85)
- High (above 85)
For each group, calculate the average improvement and identify
which group benefited most from the new teaching method."

(前学期の成績に基づいて生徒を3つのグループに分けてください:
- 低得点層(70点未満)
- 中得点層(70-85点)
- 高得点層(85点以上)
各グループで平均改善度を計算し、新しい指導法から最も恩恵を受けたグループを特定してください。)

得られる示唆

全体的な効果:

  • クラス平均: 前学期 75.2点 → 今学期 79.8点(+4.6点)
  • 35名中28名が得点アップ、5名が変化なし、2名が微減
  • ヒストグラムで見ると、+5点前後の改善が最も多い

層別の効果:

  • 低得点層(12名): 平均 +6.8点(最も改善)
  • 中得点層(18名): 平均 +3.5点
  • 高得点層(5名): 平均 +1.2点(天井効果で改善幅小)

示唆:

  • グループ学習は、とくに低得点層に効果的
  • 高得点層には別のアプローチ(発展的課題など)が必要

具体的な改善アクション

  1. 指導法の継続と改善

    • グループ学習は効果があったので継続
    • 低得点層への支援として、引き続き活用
    • 高得点層向けには、個別の発展課題を併用
  2. 効果検証の継続

    • 次学期も同様の分析を行い、効果が持続するか確認
    • 他のクラスでも試行し、再現性を検証
  3. 教員間での共有

    • 効果があった指導法を学年会や職員会議で共有
    • 他の教員の実践例も収集し、ベストプラクティスを蓄積

3.2 生徒指導・学級運営関連

生徒指導と学級運営に関わる2つのユースケースを見ていきます。

3.2.1 ケース4: 欠席の傾向把握と早期対応

現場の課題・問い

状況:
担任の先生が、「最近、○○さんの欠席が多い気がする。不登校の兆候かもしれない。早めに対応したいが、実際のデータはどうか?」

知りたいこと:

  • 欠席が増えている生徒は誰か?
  • 欠席の傾向(曜日、時期)はあるか?
  • 早期対応が必要な生徒を見逃していないか?

必要なデータ

生徒名 4月 5月 6月 7月 9月 10月
生徒A 0 1 0 1 0 0
生徒B 0 0 2 3 5 6
生徒C 1 0 1 0 1 1
... ... ... ... ... ... ...

Agent モードへの問いかけ例

"Analyze the absence data and identify students with increasing absence trends.
Specifically, flag any student whose absence days increased by 2 or more
from one month to the next, or whose absence rate exceeds 15% in any month."

(欠席データを分析し、欠席増加の傾向がある生徒を特定してください。
特に、前月から2日以上欠席が増えた生徒、または月の欠席率が15%を超えた生徒にフラグを立ててください。)
"Create a line chart showing absence trends for flagged students over time.
Also, calculate the total absence days for each student in the current term
and compare it to the previous term."

(フラグが立った生徒の欠席推移を示す折れ線グラフを作成してください。
また、今学期の各生徒の合計欠席日数を計算し、前学期と比較してください。)

得られる示唆

欠席増加の生徒:

  • 生徒B: 6月2日 → 10月6日と急増(連続した増加傾向)
  • 生徒F: 9月から急に3日 → 10月5日(夏休み明けから)
  • 生徒J: 毎月1-2日だが、月曜日の欠席が多い(8回中6回が月曜)

パターン:

  • 生徒Bは連続欠席が増加(1日→2日→3日連続)
  • 生徒Fは夏休み明けから様子が変わった
  • 生徒Jは月曜日の欠席パターン(週末明けに登校しづらい?)

具体的な改善アクション

  1. 即座の対応(今週中)

    • 生徒B、Fと個別面談
    • 保護者に連絡し、家庭での様子を確認
    • スクールカウンセラー(SC)と情報共有
  2. 継続的な見守り

    • 生徒Jについて、月曜日の朝の声かけを強化
    • 学級全体の雰囲気や人間関係を観察
    • 毎月、欠席データを確認し、早期に変化を察知
  3. 支援体制の構築

    • 該当生徒について、学年会で情報共有
    • 必要に応じて、支援チーム(担任、学年主任、SC、養護教諭)を編成

3.2.2 ケース5: 学級集団の状態把握

現場の課題・問い

状況:
学年主任が、「A組の雰囲気が良くない気がする。B組と比べてどうか?データで確認したい」

知りたいこと:

  • 学級全体の出席率、遅刻率の推移は?
  • 他のクラスと比べてどうか?
  • 時期的な変化はあるか?

必要なデータ

クラス 4月出席率 5月出席率 6月出席率 7月出席率 9月出席率 10月出席率
A組 98.5% 97.8% 96.2% 95.1% 94.8% 94.2%
B組 98.2% 98.0% 97.5% 97.2% 97.8% 97.5%
C組 98.8% 98.5% 98.1% 97.9% 98.2% 98.0%

Agent モードへの問いかけ例

"Compare the attendance rates across classes over time.
Create a line chart showing the trend for each class.
Highlight any class with a declining trend (decrease of more than 2% from April to October)."

(各クラスの出席率を時系列で比較してください。
各クラスの推移を示す折れ線グラフを作成してください。
4月から10月にかけて2%以上低下しているクラスを強調表示してください。)
"For Class A, break down the attendance data by day of the week.
Are there any patterns (e.g., Mondays having lower attendance)?"

(A組について、曜日別に出席データを分解してください。
パターンはありますか(例: 月曜日の出席率が低いなど)?)

得られる示唆

クラス間の差:

  • A組の出席率は4月から10月で4.3ポイント低下(98.5% → 94.2%)
  • B組、C組は安定(変化は±1ポイント以内)
  • A組だけが顕著な下降傾向

A組の詳細:

  • 月曜日の出席率が特に低い(93.5%)
  • 欠席だけでなく、遅刻も増加(4月1.2% → 10月3.5%)
  • 特定の週に集中して欠席が多い(学校行事の前後など)

具体的な改善アクション

  1. A組の学級経営を見直し

    • 担任と学年主任で面談し、学級の状況を詳しく聞き取り
    • 児童生徒へのアンケート(学級の雰囲気、人間関係について)
    • 必要に応じて、授業観察を実施
  2. 月曜日の工夫

    • 月曜日の朝の会を充実させる
    • 週末の過ごし方について、学級で話し合う
    • 「月曜日が楽しみになる」活動の検討
  3. 学年全体での取り組み

    • 他のクラスの良い実践を共有
    • 学級間の交流を増やす(合同活動など)

3.3 学校運営関連

学校運営に関わる3つのユースケースを見ていきます。

3.3.1 ケース6: 授業改善のためのアンケート活用

現場の課題・問い

状況:
教務主任が、「授業評価アンケートの結果から、具体的な改善点を見つけたい。全体を眺めても、どこから手をつければいいかわからない」

知りたいこと:

  • どの項目の評価が低いか?
  • 学年や教科で違いはあるか?
  • 自由記述から見える具体的な課題は?

必要なデータ

教員名 教科 学年 わかりやすさ 興味関心 質問しやすさ 宿題の量
教員A 国語 3年 4.2 3.8 4.5 3.5
教員B 算数 3年 3.5 3.2 3.8 4.2
教員C 理科 4年 4.5 4.3 4.1 4.0
... ... ... ... ... ... ...

(5段階評価: 5=とても良い、1=改善が必要)

Agent モードへの問いかけ例

"Analyze the teaching evaluation data.
Identify items with an average score below 3.5.
Create a bar chart showing the average for each evaluation item."

(授業評価データを分析してください。
平均スコアが3.5未満の項目を特定してください。
各評価項目の平均を示す棒グラフを作成してください。)
"Compare the evaluation scores across grades and subjects.
Are there any patterns? For example, are certain subjects or grades
consistently rated lower?"

(学年と教科で評価スコアを比較してください。
パターンはありますか?例えば、特定の教科や学年が一貫して低評価ですか?)

得られる示唆

全体傾向:

  • 「興味関心」の項目が平均3.6で、他の項目(4.0-4.3)より低い
  • 「宿題の量」は平均3.8で、やや低め

教科・学年別:

  • 算数の「興味関心」が特に低い(平均3.2)
  • 3年生の評価が、4-6年生より全般的に0.3-0.5ポイント低い

自由記述の分析:
(Agent Modeに自由記述のテキストデータを渡して分析依頼)

  • 「授業のペースが速い」という意見が多数
  • 「もっと実験や体験をしたい」という要望(理科で顕著)

具体的な改善アクション

  1. 授業研究のテーマ設定

    • 「興味関心を高める授業づくり」を今年度の研究テーマに
    • 特に算数で、具体的な工夫を検討
  2. 授業改善の具体策

    • 算数:問題解決型の授業、日常生活との関連を強調
    • 理科:実験・観察の時間を増やす
    • 3年生:発達段階を考慮し、授業のペース調整
  3. 次回のアンケートでの検証

    • 同じ項目で次回(学期末)にアンケートを実施
    • 改善の効果を数値で確認

3.3.2 ケース7: 学校評価の効果的活用

現場の課題・問い

状況:
校長先生が、「保護者・地域・教職員の学校評価アンケート結果から、来年度の重点課題を決めたい。どの項目を優先すべきか?」

知りたいこと:

  • どの項目の評価が低いか?
  • ステークホルダー(保護者、地域、教職員)で評価に違いはあるか?
  • 昨年度と比べて改善したか、悪化したか?

必要なデータ

項目 保護者 地域 教職員 昨年度(保護者)
学力向上 3.8 3.5 3.2 3.5
生徒指導 4.2 4.0 3.8 4.0
安全管理 4.5 4.3 4.0 4.3
情報発信 3.2 3.0 3.5 3.0
地域連携 3.5 3.8 3.3 3.4

(5段階評価)

Agent モードへの問いかけ例

"Create a comparison chart showing evaluation scores by stakeholder group
(parents, community, staff) for each item.
Highlight items with scores below 3.5 from any group."

(ステークホルダーグループ(保護者、地域、教職員)ごとに
各項目の評価スコアを示す比較チャートを作成してください。
いずれかのグループで3.5未満のスコアの項目を強調表示してください。)
"Compare this year's parent scores with last year's.
Calculate the change for each item and identify items with
the most significant improvement or decline."

(今年度の保護者スコアと昨年度を比較してください。
各項目の変化を計算し、最も大きく改善または悪化した項目を特定してください。)

得られる示唆

優先課題候補:

  • 「情報発信」: すべてのグループで3.5以下、保護者は3.2
  • 「学力向上」: 教職員の自己評価が3.2と低い

ステークホルダー別の視点:

  • 保護者は「情報発信」に不満
  • 地域も「情報発信」「学力向上」に懸念
  • 教職員は「学力向上」に課題意識

経年変化:

  • 「学力向上」は昨年3.5 → 今年3.8と改善(+0.3)
  • 「情報発信」は横ばい(3.0 → 3.2、微増)

具体的な改善アクション

  1. 来年度の重点目標

    • 重点1: 「情報発信の強化」(全ステークホルダーの課題)
    • 重点2: 「学力向上の取り組みの充実」(教職員の意識向上)
  2. 具体的施策

    • 情報発信: 学校ホームページの充実、メール配信の活用、学校だよりの改善
    • 学力向上: 授業研究の充実、個別支援の強化、家庭学習の支援
  3. PDCAサイクル

    • 中間評価(12月)で進捗確認
    • 年度末に再度アンケート実施し、効果測定

3.3.3 ケース8: 教員の働き方改革

現場の課題・問い

状況:
教頭先生が、「教員の業務時間が長い。どの業務に時間がかかっているのか、改善の余地はどこにあるか?」

知りたいこと:

  • どの業務に時間がかかっているか?
  • 教員ごとに偏りはないか?
  • 時期的な繁忙期はいつか?

必要なデータ

教員名 授業準備 授業 採点 会議 事務 部活動 生徒指導
教員A 8h 25h 5h 3h 6h 0h 3h
教員B 10h 25h 6h 3h 4h 8h 2h
教員C 7h 20h 4h 4h 8h 0h 2h
... ... ... ... ... ... ... ...

(週あたりの時間数)

Agent モードへの問いかけ例

"Analyze the working hours data.
Create a stacked bar chart showing the breakdown of work hours by category for each teacher.
Identify teachers working more than 50 hours per week."

(業務時間データを分析してください。
各教員の業務カテゴリ別の内訳を示す積み上げ棒グラフを作成してください。
週50時間以上働いている教員を特定してください。)
"Calculate the average hours spent on each category across all teachers.
Which categories take the most time? Are there any categories
where time could potentially be reduced?"

(全教員の各カテゴリの平均時間を計算してください。
どのカテゴリが最も時間がかかっていますか?
時間を削減できる可能性のあるカテゴリはありますか?)

得られる示唆

全体傾向:

  • 平均週労働時間: 52時間(法定40時間を12時間超過)
  • 最も時間がかかるカテゴリ: 授業25h、事務6h、採点5h

個別の状況:

  • 部活動顧問の教員(B、F、G)は週55-60時間と長い
  • 事務作業が8時間以上の教員が5名(C、D、E、H、I)

削減の可能性:

  • 事務作業: 平均6時間、最大8時間 → ICT活用で削減可能
  • 会議: 平均3.5時間、一部教員は5時間 → 効率化の余地

具体的な改善アクション

  1. 事務作業の効率化

    • 校務支援システムの活用促進
    • 紙ベースの業務をデジタル化
    • 不要な書類作成の廃止
  2. 会議の効率化

    • 会議時間の上限設定(1時間以内)
    • 資料の事前配布、会議数の削減
    • オンライン会議の活用
  3. 部活動の適正化

    • 休養日の確実な設定(週2日以上)
    • 外部指導者の活用
    • 活動時間の上限設定

3.4 保護者・地域連携関連

保護者・地域連携に関わる2つのユースケースを見ていきます。

3.4.1 ケース9: 保護者との連携強化

現場の課題・問い

状況:
生徒指導主事が、「すべての家庭と連絡が取れているか?面談や連絡が不十分な家庭はないか?」

知りたいこと:

  • 各家庭との連絡頻度は?
  • 面談ができていない家庭は?
  • 連絡手段の傾向(電話、メール、訪問)

必要なデータ

家庭 4月 5月 6月 7月 9月 10月 面談実施
家庭A 電話1 なし メール1 電話1 なし 訪問1
家庭B なし なし なし 電話1 なし なし ×
家庭C メール2 電話1 メール1 なし 電話1 メール1
... ... ... ... ... ... ... ...

Agent モードへの問いかけ例

"Analyze the communication record with families.
Identify families with no contact in the past 2 months.
Also, list families who haven't had an in-person meeting this term."

(家庭との連絡記録を分析してください。
過去2か月間連絡がない家庭を特定してください。
また、今学期中に対面面談を実施していない家庭をリストアップしてください。)
"Calculate the average contact frequency per family.
Create a distribution chart showing how many families fall into each category:
- High contact (4+ times per term)
- Medium (2-3 times)
- Low (0-1 times)"

(家庭あたりの平均連絡頻度を計算してください。
各カテゴリに該当する家庭数を示す分布チャートを作成してください:
- 高頻度(学期あたり4回以上)
- 中頻度(2-3回)
- 低頻度(0-1回))

得られる示唆

連絡状況:

  • 35家庭中、8家庭が過去2か月連絡なし
  • 面談未実施の家庭: 12家庭(約34%)

連絡手段:

  • メールが最も多い(全体の60%)
  • 電話: 30%、訪問: 10%
  • 連絡がない家庭は、メール不達の可能性も

具体的な改善アクション

  1. 連絡が取れていない家庭への対応

    • 8家庭に優先的に連絡(複数手段で試行)
    • 訪問も検討(時間帯を工夫)
  2. 面談の実施

    • 未実施の12家庭に面談を打診
    • オンライン面談も選択肢に
  3. 連絡手段の見直し

    • メール不達の家庭には電話を
    • 学校からの一斉メール配信システムの改善

3.4.2 ケース10: 開かれた学校づくり

現場の課題・問い

状況:
校長先生が、「学校公開や行事への参加状況から、地域との関係を見直したい。参加率は適切か?」

知りたいこと:

  • 各行事の参加率は?
  • 参加者の属性(保護者、地域住民、その他)
  • 経年で変化はあるか?

必要なデータ

行事名 参加者数(保護者) 参加者数(地域) 対象児童数 昨年度参加者数
学校公開(5月) 120 15 350 130
運動会 280 50 350 300
学習発表会 250 30 350 240
地域清掃活動 80 20 350 70

Agent モードへの問いかけ例

"Calculate the participation rate for each event (total participants / target students).
Create a bar chart comparing participation rates across events.
Also, show the breakdown of participants by category (parents vs. community)."

(各行事の参加率(参加者合計/対象児童数)を計算してください。
行事ごとの参加率を比較する棒グラフを作成してください。
また、参加者の内訳(保護者 vs. 地域)も示してください。)
"Compare this year's participation with last year's.
Which events saw an increase or decrease in participation?"

(今年度の参加状況と昨年度を比較してください。
どの行事で参加者が増加または減少しましたか?)

得られる示唆

参加率:

  • 運動会: 94%(最も高い)
  • 学習発表会: 80%
  • 学校公開: 39%(低い)
  • 地域清掃: 29%(最も低い)

地域住民の参加:

  • 運動会は50名と多いが、他は15-30名程度
  • 地域清掃は地域住民20名と、比率は高い(20/100 = 20%)

経年変化:

  • 運動会、学習発表会はやや減少
  • 地域清掃活動は増加(+10名)

具体的な改善アクション

  1. 学校公開の改善

    • 開催日時の見直し(平日昼間は参加しづらい)
    • 土曜日開催や午後開催を検討
    • 広報の強化(魅力的な内容の発信)
  2. 地域連携の強化

    • 地域清掃活動の継続・拡大(増加傾向を維持)
    • 地域住民向けの学校行事案内を工夫
    • 地域の方が参加しやすい企画(昔遊び体験会など)
  3. 参加しやすい環境づくり

    • 駐車場の確保
    • オンライン配信の検討(参加が難しい家庭向け)

3.5 その他の活用例

その他の教育現場での活用例として、2つのケースを紹介します。

3.5.1 ケース11: 読書活動の推進

現場の課題・問い

状況:
図書担当の先生が、「読書離れを防ぎたい。どの学年で、どんな本が読まれているか?貸出ゼロの児童はいないか?」

知りたいこと:

  • 学年別の貸出状況
  • 人気のジャンル
  • 貸出が少ない、またはゼロの児童

必要なデータ

児童名 学年 9月貸出冊数 10月貸出冊数 好きなジャンル
児童A 3年 4 5 物語
児童B 3年 0 0 なし
児童C 4年 6 7 科学
... ... ... ... ...

Agent モードへの問いかけ例

"Analyze library borrowing data.
Calculate average books borrowed per student by grade.
Identify students who borrowed 0 books in the past two months."

(図書貸出データを分析してください。
学年別の生徒あたりの平均貸出冊数を計算してください。
過去2か月間で貸出冊数が0冊の生徒を特定してください。)
"Analyze the genre preferences across grades.
Create a stacked bar chart showing the distribution of genres
borrowed by each grade level."

(学年ごとのジャンル傾向を分析してください。
各学年で借りられたジャンルの分布を示す積み上げ棒グラフを作成してください。)

得られる示唆

学年別傾向:

  • 3年生: 平均3.2冊/月
  • 4年生: 平均4.5冊/月
  • 5-6年生: 平均2.8冊/月(低下)

貸出ゼロの児童:

  • 全校350名中、35名が2か月間貸出なし(10%)
  • 特に5-6年生で多い(各学年で15%程度)

ジャンル:

  • 低学年: 絵本、物語
  • 中学年: 物語、科学
  • 高学年: 物語、マンガ形式の本

具体的な改善アクション

  1. 貸出ゼロ児童への働きかけ

    • 担任を通じて、興味のあるジャンルを聞く
    • おすすめ本の個別紹介
    • 「この本、○○さんに合いそう」と声かけ
  2. 高学年向けの選書

    • 高学年の興味に合う本を充実
    • ヤングアダルト向けの本を増やす
    • 生徒の希望を聞いて購入
  3. 読書イベントの企画

    • 「ブックトーク」の実施
    • 読書週間の企画
    • 読書記録コンテスト

3.5.2 ケース12: 部活動の適正な運営

現場の課題・問い

状況:
部活動担当の先生が、「部活動の活動時間が長すぎないか?ガイドラインに沿っているか確認したい」

知りたいこと:

  • 各部活動の月間活動時間
  • 休養日は取れているか?
  • ガイドライン(週16時間以内、週2日休養)の遵守状況

必要なデータ

部活動名 9月活動時間 9月休養日数 10月活動時間 10月休養日数
サッカー部 72h 6日 68h 8日
吹奏楽部 84h 4日 80h 5日
美術部 48h 9日 52h 8日
... ... ... ... ...

Agent モードへの問いかけ例

"Analyze the club activity data.
Calculate the weekly average activity hours for each club (monthly hours / 4).
Flag any club exceeding the guideline of 16 hours per week."

(部活動データを分析してください。
各部活動の週平均活動時間を計算してください(月間時間 / 4)。
週16時間のガイドラインを超えている部活動にフラグを立ててください。)
"Check if each club is meeting the rest day requirement (at least 8 rest days per month).
List clubs that do not meet this requirement."

(各部活動が休養日の要件(月8日以上)を満たしているか確認してください。
要件を満たしていない部活動をリストアップしてください。)

得られる示唆

活動時間:

  • サッカー部: 週平均17-18時間(ガイドライン超過)
  • 吹奏楽部: 週平均20-21時間(大幅超過)
  • 美術部: 週平均12-13時間(適正)

休養日:

  • 吹奏楽部: 月4-5日(要件8日を大幅に下回る)
  • サッカー部: 月6-8日(ギリギリまたは不足)
  • 美術部: 月8-9日(適正)

具体的な改善アクション

  1. 吹奏楽部の活動計画見直し

    • 顧問と面談し、活動計画を確認
    • 休養日を確実に週2日(月8日)設定
    • 活動時間の上限を明確化
  2. サッカー部の調整

    • 週末の練習時間を見直し
    • 休養日を確実に確保
  3. 全体への周知

    • ガイドラインの再確認を全顧問に
    • 毎月の活動時間・休養日を報告
    • 適正な部活動運営の徹底

3.6 本章のまとめ

この章では、教育現場での12のユースケースを紹介しました。

学習指導関連(3ケース)

  • つまずきの早期発見と個別支援
  • 教科間のバランス把握
  • 学習効果の測定

生徒指導・学級運営関連(2ケース)

  • 欠席の傾向把握と早期対応
  • 学級集団の状態把握

学校運営関連(3ケース)

  • 授業改善のためのアンケート活用
  • 学校評価の効果的活用
  • 教員の働き方改革

保護者・地域連携関連(2ケース)

  • 保護者との連携強化
  • 開かれた学校づくり

その他(2ケース)

  • 読書活動の推進
  • 部活動の適正な運営

共通するポイント:

  1. 現場の問いから出発

    • 「データを見る」のではなく、「知りたいことがある」から始まる
  2. 示唆から改善アクションへ

    • データ分析は手段、目的は教育実践の改善
  3. 段階的な深掘り

    • 最初は全体傾向、次に詳細、そして個別へ
  4. PDCAサイクルの起点

    • データから得た示唆を元に施策を実行し、効果を測定

次の第4章では、Agent Modeを効果的に使うためのコツと、よくあるエラーへの対処法を学びます。

第4章 効果的な使い方のコツ

第3章では12のユースケースを紹介しました。ここでは、Agent Modeを使って実際に成果を出すための実践的なコツを解説します。


4.1 問いの立て方が重要

4.1.1 「改善したいこと」から始める

❌ 悪い例:可視化から入る

"Create a chart of the test scores."

(成績データをグラフにして)
"Show me the attendance data in a list."

(出席状況を一覧にして)

✅ 良い例:課題・問いから入る

"The average math test scores have been declining.
I want to identify which units students are struggling with."

(数学のテストで平均点が下がっている。
どの単元でつまずいているか知りたい)
"Recently, some students have been absent more frequently.
I want to understand the patterns and respond early."

(最近欠席が増えている児童がいる。
傾向を把握して早期対応したい)

理由:

  • 目的が明確だと、Agent Modeは最適な分析方法を選択できる
  • 「グラフにして」だけでは、どんなグラフが改善につながるかわからない
  • 問いが明確であれば、その答えに最適な可視化を提案してくれる

4.1.2 具体的な疑問や仮説を持つ

❌ 漠然とした問い

"Analyze this data."

(このデータを分析して)
"Is there anything interesting in this data?"

(何か分かることはないか)

✅ 具体的な疑問・仮説

"Is there a trend of increased absences after summer vacation?"

(夏休み明けに欠席が増える傾向はあるか)
"Do students who excel in math also tend to excel in science?"

(数学が得意な生徒は理科も得意な傾向があるか)
"Is there a relationship between low-rated items in the class survey
and the content of free-text comments?"

(授業評価が低い項目と自由記述の内容に関連はあるか)

仮説思考の例:

  • 「〜という傾向があるのではないか」
  • 「〜と〜には関連があるのではないか」
  • 「〜が原因ではないか」

この仮説を検証するようにAgent Modeに問いかけると、効果的な分析ができます。

4.1.3 「きれいなグラフ」ではなく「この問いに答えたい」

データ可視化の罠

多くの人が陥る失敗パターン:

  1. 「とりあえずグラフを作ってみる」
  2. 「見た目がきれいなダッシュボードを作る」
  3. 「結局、改善アクションにつながらない」

問い駆動のアプローチ

成功するパターン:

  1. 「この問いに答えたい」(問いが先)
  2. 「そのために必要なデータは何か」
  3. 「どう分析すれば答えが得られるか」
  4. 「結果から何をすべきかが見える」

Agent Modeは問い駆動のアプローチに最適化されています。

4.1.4 Agent Modeに適したタスク vs 他の機能が適したタスク

Agent Modeが最適なタスク

Microsoft公式ドキュメントによると、Agent Modeは以下のような複雑な多段階タスクに最適です。

  • データの再構成(reshaping)
  • 複数シートの統合(merging sheets)
  • レポート作成(building reports)
  • 複数のステップを要する分析

他の機能が適したタスク

一方、単純な1ステップのタスクには、Excelの標準機能の方が迅速です。

  • 単一のグラフ挿入 → 推奨グラフ機能を使用
  • 単純な集計 → 推奨ピボットテーブル機能を使用
  • 会話的なヘルプ → Copilot Chatを使用

判断基準:

タスクが2-3ステップ以上必要 → Agent Mode
タスクが1ステップで完了 → Excel標準機能 or Copilot Chat

この使い分けにより、効率的にAgent Modeを活用できます。


4.2 良いプロンプトの書き方

4.2.1 課題と目的を明確に伝える

基本構造:

【背景・課題】
【目的・知りたいこと】
【データの説明】
【期待する分析・アウトプット】

具体例:

【背景・課題】
この学級では、最近遅刻が増えているように感じています。

【目的・知りたいこと】
遅刻の傾向を把握して、効果的な指導につなげたいです。

【データの説明】
シート"出席記録"には、4月から10月までの日別の出席・遅刻・欠席データがあります。
列: 日付、生徒ID、氏名、状態(出席/遅刻/欠席)

【期待する分析・アウトプット】
以下を分析してください:
1. 月別の遅刻発生数の推移
2. 遅刻が多い曜日のパターン
3. 遅刻が多い生徒の特定
4. 傾向から考えられる原因と対策の示唆

英語プロンプト例(Agent Modeは現在英語のみ対応):

"I've noticed an increase in tardiness in my class recently.

I want to understand the patterns and develop effective interventions.

The 'Attendance' sheet contains daily attendance data from April to October.
Columns: Date, Student_ID, Name, Status (Present/Tardy/Absent)

Please analyze:
1. Monthly trend of tardiness
2. Day-of-week patterns
3. Students with frequent tardiness
4. Insights about potential causes and recommended actions"

4.2.2 段階的に質問する(分析→解釈→示唆の抽出)

一度にすべてを聞くのではなく、段階的に深掘りします。

ステップ1: 全体像の把握

"First, give me an overview of the test score distribution.
What are the mean, median, and standard deviation for each unit?"

(まず、テスト得点の分布の概要を教えてください。
各単元の平均、中央値、標準偏差は?)

ステップ2: パターンの発見

"Which units have the lowest average scores?
Are there any students who struggle across multiple units?"

(どの単元の平均点が最も低いですか?
複数の単元でつまずいている生徒はいますか?)

ステップ3: 深掘り分析

"For students who scored below 60 in Unit 3, analyze their performance in previous units.
Is there a pattern suggesting foundational gaps?"

(単元3で60点未満の生徒について、それ以前の単元の成績を分析してください。
基礎的な理解不足を示すパターンはありますか?)

ステップ4: 示唆の抽出

"Based on this analysis, what are the key insights?
What specific interventions would you recommend?"

(この分析から、重要な示唆は何ですか?
どのような具体的な介入策を推奨しますか?)

4.2.3 「次にどう改善すべきか」まで聞く

分析で終わらせず、必ず「改善アクション」まで引き出します。

分析だけで終わる例(もったいない):

"Show me the average test scores by unit in a bar chart."

(単元別の平均点を棒グラフで表示してください。)

改善アクションまで引き出す例:

"Analyze the test scores by unit and identify areas of concern.
Then, suggest:
1. Which units need reinforcement
2. Which students need individual support
3. Specific teaching strategies to address the gaps"

(単元別のテスト結果を分析し、課題のある領域を特定してください。
その上で、以下を提案してください:
1. 補強が必要な単元
2. 個別支援が必要な生徒
3. ギャップを埋めるための具体的な指導戦略)

Agent Modeの強み:

Agent Modeは単なるデータ処理ツールではありません。
推論と反省のループにより、データから示唆を導き、具体的な改善提案まで行えます。


4.3 よくあるエラーと対処法

4.3.1 データ形式の問題

問題: Agent Modeがデータを正しく認識しない

原因:

  • 結合セル、空行、複雑な書式
  • 列見出しが不明確(「データ1」「データ2」など)
  • 日付や数値が文字列として保存されている

対処法:

1. テーブル形式に整形する

❌ 悪い例:

        4月    5月    6月
国語    75     78     80
数学    68     72     75

✅ 良い例(テーブル形式):

教科   月     得点
国語   4月    75
国語   5月    78
国語   6月    80
数学   4月    68
数学   5月    72
数学   6月    75

2. 明確な列見出しをつける

❌ 悪い例:

A     B      C
1     田中   75
2     佐藤   82

✅ 良い例:

生徒ID  氏名    得点
1       田中    75
2       佐藤    82

3. データ型を確認する

日付が文字列になっている場合:

"First, convert column A (dates stored as text) to proper date format.
Then analyze the attendance trends over time."

(まず、A列(テキストとして保存された日付)を適切な日付形式に変換してください。
その後、時系列での出席傾向を分析してください。)

4.3.2 範囲指定の誤り

問題: 一部のデータしか分析されていない

原因:

  • Agent Modeが認識するデータ範囲が実際と異なる
  • 複数シートにまたがるデータ
  • 見出し行を含めてしまった/含めなかった

対処法:

1. データ範囲を明示する

"Analyze the data in the range A1:E100 in the 'TestScores' sheet.
The first row contains headers."

('TestScores'シートのA1:E100の範囲のデータを分析してください。
1行目は見出しです。)

2. シート名とテーブル名を明確に指定する

"Compare the data from 'April_Scores' sheet with 'May_Scores' sheet."

('April_Scores'シートと'May_Scores'シートのデータを比較してください。)

3. Agent Modeに範囲を確認させる

"First, identify all the sheets in this workbook and summarize what data each contains."

(まず、このワークブック内のすべてのシートを特定し、それぞれに含まれるデータを要約してください。)

4.3.3 期待と異なる結果が出た時

問題: Agent Modeの分析結果が期待と違う

原因:

  • 指示が曖昧だった
  • Agent Modeの解釈が異なった
  • データに想定外の値が含まれていた

対処法:

1. 推論プロセスを確認する

Agent Modeは推論プロセスを表示します。
どのステップで期待と違う判断をしたか確認しましょう。

2. より具体的に指示し直す

曖昧だった部分を明確にします。

❌ 曖昧な指示:

"Show me the low performers."
(低成績者を示してください。)

✅ 具体的な指示:

"Identify students who scored below 60 in at least 2 out of 5 units."
(5つの単元のうち少なくとも2つで60点未満の生徒を特定してください。)

3. ステップバイステップで確認

一度にすべてを求めず、段階的に確認:

ステップ1: "First, show me the average scores for each unit."
ステップ2: (結果を確認)"Now, for Unit 3 which has the lowest average, show me the distribution."
ステップ3: (結果を確認)"Identify students in the bottom quartile for Unit 3."

4. Undoと再試行

Agent Modeはいつでも Undo できます。
期待と違う結果が出たら、遠慮なくやり直しましょう。

5. サンプルデータで検証

想定外の結果の原因がデータにある場合:

  • 一部のデータだけで試してみる
  • データをフィルタリングして異常値を除外してから再実行

4.3.4 処理時間への期待値

重要: Agent Modeは時間がかかる場合があります

Microsoft公式ドキュメントによると:

"Agent Mode may take a few minutes to generate an initial response and refine it, especially for complex requests"
(Agent Modeは、特に複雑なリクエストの場合、初期応答の生成と改善に数分かかる場合があります)

理由:

Agent Modeは以下のプロセスを実行するため、時間がかかります。

  1. 計画フェーズ: タスクを分解し、実行計画を立案
  2. 実行フェーズ: Excelの操作を実際に実行
  3. 検証フェーズ: 結果を評価し、必要に応じて修正
  4. 反復: 検証で問題が見つかれば、再実行

対処法:

  • 複雑なタスクを依頼した際は、気長に待つ
  • 推論プロセスの表示を見て、進行状況を確認
  • 処理が長すぎると感じたら、タスクを小さく分割して再試行
  • 単純なタスクには、第2章で説明した推奨グラフや推奨ピボットテーブルを使用

4.4 プライバシーとセキュリティへの配慮

4.4.1 個人情報の取り扱い

教育データには個人情報が含まれます

  • 氏名、生年月日
  • 成績、出席記録
  • アンケートの自由記述
  • 家庭環境に関する情報

法的根拠と制約

日本では以下の法令が関係します。

  • 個人情報保護法
  • 学校保健安全法
  • 各自治体の個人情報保護条例

学校現場では、これらに基づく「個人情報取扱規程」があるはずです。
必ず確認してください。

4.4.2 データの匿名化

匿名化の基本

Agent Modeで分析する前に、個人を特定できる情報を削除または置き換えます。

1. 氏名を削除またはIDに置き換える

❌ 実名のまま:

氏名      得点
田中太郎  75
佐藤花子  82

✅ 匿名化:

生徒ID  得点
S001    75
S002    82

2. 識別可能な組み合わせに注意

一つ一つは匿名でも、組み合わせると特定できる場合があります。

例: 「3年2組、野球部、遅刻5回」
→ 小規模校では特定できてしまう可能性

3. 集計・分析のレベルを調整

個人レベルではなく、学級・学年レベルでの分析を検討:

  • 「個人別の得点」ではなく「得点分布」
  • 「○○さんの欠席が多い」ではなく「欠席が増加傾向」

4.4.3 安全な利用のために

1. Microsoft 365のセキュリティ機能を理解する

Copilotのデータ保護ポリシー

Microsoft 365 Copilotは、エンタープライズグレードのセキュリティを提供しています。

  • あなたのデータは、あなたの組織の境界内に留まる
  • Microsoft はあなたのデータでAIモデルをトレーニングしない
  • データは第三者と共有されない

詳細: Microsoft のプライバシーとセキュリティの約束

2. 学校・組織のポリシーを確認

Agent Mode を使う前に:

  • 学校の「個人情報取扱規程」を確認
  • ICT活用ガイドラインがあれば確認
  • 不明な点は管理職や情報管理担当者に相談

3. データの保管場所に注意

  • 推奨: 組織のOneDrive for Business、SharePoint
  • 非推奨: 個人のローカルPC、USBメモリ、個人のクラウドストレージ

4. 共有設定に注意

Excelファイルを共有する際:

  • 共有リンクの範囲を限定(組織内のみ、特定の人のみ)
  • 編集権限と閲覧権限を適切に設定
  • 不要になったら共有を解除

5. 分析結果の公表時

Agent Modeでの分析結果を発表・公表する際:

  • 個人が特定できる情報が含まれていないか再確認
  • 必要に応じて、さらに集約・抽象化
  • 学年便り、保護者会資料などでも同様に注意

6. 機密ファイルや共有ファイルでの注意

重要な警告(Microsoft公式ドキュメントより):

"Be careful when working with sensitive or shared files in Agent Mode"
(機密ファイルや共有ファイルでAgent Modeを使用する際は注意してください)

Agent Modeはワークブックに直接変更を加えるため、以下の点に注意が必要です。

推奨される安全な使い方:

  1. 作業コピーを作成

    • 重要なファイルは、コピーを作って試す
    • 元のファイルは保持しておく
  2. バージョン履歴の活用

    • OneDriveやSharePointに保存されたファイルは、以前のバージョンに戻せる
    • Agent Modeの変更に問題があれば、バージョン履歴から復元可能
  3. Undo機能の活用

    • Agent Modeの変更は、いつでもUndo(元に戻す)できる
    • Ctrl+Z (Windows) または ⌘+Z (Mac) で戻せる
  4. 共有ファイルでの作業前の確認

    • 他の人が同時に編集していないか確認
    • 重要な共有ファイルは、変更前に関係者に通知

4.4.4 実践的なチェックリスト

Agent Mode でデータ分析をする前に:

  • このデータには個人情報が含まれているか確認した
  • 含まれている場合、匿名化の必要性を検討した
  • 学校の個人情報取扱規程に照らして問題ないか確認した
  • ファイルの保管場所は適切か(組織のOneDrive/SharePoint)
  • ファイルの共有設定は適切か
  • 重要なファイルの場合、作業コピーを作成したか
  • バージョン履歴が有効な場所に保存されているか(OneDrive/SharePoint)

分析結果を活用する際に:

  • 分析結果に個人が特定できる情報は含まれていないか
  • 公表・共有する範囲は適切か
  • 必要に応じて集約・抽象化したか
  • 保護者や地域への説明が必要な場合、説明する準備はできているか

「プライバシー by Design」の考え方

最初からプライバシー保護を組み込んでデータ活用を設計しましょう:

  1. 必要最小限のデータのみ収集
  2. 収集時から匿名化を検討
  3. アクセス権限を厳格に管理
  4. 不要になったデータは適切に削除

4.5 まとめ:成果を出すための心構え

4.5.1 完璧を目指さない

「まず始めてみる」が大切

  • 最初から完璧な分析を目指さない
  • 小さく始めて、試行錯誤する
  • Agent Modeはいつでもやり直せる

失敗から学ぶ

  • 期待と違う結果が出たら、なぜかを考える
  • プロンプトを変えて再試行
  • その過程で「良い問いの立て方」が身につく

4.5.2 目的を見失わない

手段と目的を取り違えない

  • 目的: 子どもたちの学びを改善する
  • 手段: データ分析、可視化、Agent Mode

「きれいなグラフ」よりも「改善アクション」

  • グラフは手段、改善が目的
  • 「こんな分析ができた」で満足しない
  • 「この分析から、こう改善しよう」まで

4.5.3 データと現場の両輪

データはすべてを語らない

  • データで見えること、見えないことがある
  • 数字に表れない子どもの変化もある
  • データと日々の観察の両方が大切

「勘と経験」と「データ」の統合

  • ベテラン教員の「勘」は貴重な財産
  • その「勘」をデータで検証・補強
  • データで新たな気づきを得る

4.5.4 一歩ずつ、継続的に

小さな成功体験を積み重ねる

  1. まずは自分の学級で試す
  2. うまくいったら同僚に共有
  3. 学年で取り組む
  4. 学校全体へ

データリテラシーは実践で育つ

  • マニュアルを読むだけでは身につかない
  • 実際に手を動かして試す
  • 失敗と成功の経験から学ぶ

4.6 この章のポイント

問いの立て方

  • 「改善したいこと」から始める
  • 具体的な疑問や仮説を持つ
  • 可視化ではなく、問いに答えることが目的
  • 複雑な多段階タスクにAgent Modeを使い、単純なタスクには標準機能を使う

良いプロンプトの書き方

  • 課題と目的を明確に伝える
  • 段階的に質問する(分析→解釈→示唆)
  • 「改善アクション」まで引き出す

エラーへの対処

  • データ形式を整える(テーブル形式、明確な列見出し)
  • 範囲指定を明示する
  • 期待と違う結果が出たら推論プロセスを確認し、指示を具体化
  • 処理時間: 複雑なタスクは数分かかる場合がある

プライバシーとセキュリティ

  • 個人情報の適切な取り扱い
  • データの匿名化
  • 学校のポリシーと法令の遵守
  • プライバシー by Designの考え方
  • 重要なファイルは作業コピーを作成
  • バージョン履歴とUndo機能の活用

心構え

  • 完璧を目指さず、まず始める
  • 目的は改善、手段はデータ分析
  • データと現場の両輪
  • 小さな成功体験を積み重ねる

次の第5章では、この記事全体のまとめと、次のステップ(データ収集、Power BI)への橋渡しをします。

第5章 まとめと次のステップ

この記事では、Excel Agent Modeを使った探索的データ分析を通じて、教育データから示唆を得て改善につなげる方法を学びました。最後に、これまでの学びを振り返り、次のステップへの道筋を示します。


5.1 Excel Agent Modeで得られたもの

5.1.1 この記事で体験したこと

Excel Agent Modeを使った探索的データ分析

  • 自然言語で問いかけるだけで複雑な分析が可能
  • 推論と反省のループによる計画→実行→検証
  • 従来のExcel操作やCopilotとは異なる「目的で指示」するアプローチ

現場の課題から始める問いの立て方

  • 「きれいなグラフ」ではなく「改善したい課題」が出発点
  • 具体的な疑問・仮説を持つことの重要性
  • 段階的に質問を深めていく対話の技術

データから示唆を得て改善アクションにつなげる流れ

  1. 課題の明確化(何を改善したいか)
  2. データの準備(必要なデータの整理)
  3. Agent Modeへの問いかけ(英語プロンプト)
  4. 分析結果の解釈(推論プロセスの確認)
  5. 示唆の抽出(何がわかったか)
  6. 改善アクションの立案(具体的に何をするか)

12の実践的ユースケース

  • 学習指導(つまずき発見、教科間バランス、学習効果測定)
  • 生徒指導・学級運営(欠席傾向、学級集団の状態)
  • 学校運営(授業改善、学校評価、働き方改革)
  • 保護者・地域連携(連携強化、開かれた学校づくり)
  • その他(読書活動、部活動運営)

5.1.2 明確になったこと

本当に改善したい課題は何か

Agent Modeで試行錯誤する中で、漠然とした問題意識が具体的な課題に変わります。

  • 「成績が心配」→「単元3の図形領域でつまずく生徒が多い」
  • 「欠席が増えている気がする」→「月曜日と長期休み明けに欠席が集中」
  • 「授業がうまくいっていない」→「説明のわかりやすさと課題の難易度に課題」

どのデータをどう見れば示唆が得られるか

探索的分析を通じて、効果的なデータの見方が見えてきます。

  • 単なる平均ではなく、分布と外れ値
  • ある時点の数値ではなく、時系列の推移
  • 単一指標ではなく、複数指標の関連
  • 全体傾向と個別パターンの両方

どんな切り口(ディメンション)が効果的か

データをどう切り分けて見ると示唆が得られるかがわかります。

  • 学年別、学級別、教科別
  • 時期別(月別、学期別、前年同期比較)
  • 習熟度別、属性別
  • 曜日別、時間帯別

どんな指標(KPI)をモニタリングすべきか

継続的に追跡すべき指標が明確になります。

  • 単元別平均点と標準偏差
  • 出席率・欠席率の推移
  • アンケート項目別の平均と分散
  • 目標値に対する達成率

5.2 Excel Agent Modeで継続 vs. 次のステップへ

5.2.1 Excel Agent Modeで継続するのが適している場合

以下の条件に当てはまるなら、Agent Modeでの探索を継続することをお勧めします。

✅ 分析頻度が低い

  • 月次、学期ごと、年次など定期的だが頻度が高くない
  • 毎回違う角度で探索的に分析したい
  • 同じ分析を繰り返すわけではない

✅ 対象データが少ない

  • 1学年、1学級など小規模
  • データ量が数百〜数千行程度
  • Excelで十分に扱える範囲

✅ 柔軟性が重視される

  • 毎回異なる問いを立てて分析したい
  • 試行錯誤しながら新しい気づきを得たい
  • 固定化されたダッシュボードよりも自由な探索が価値

✅ ITリソースが限られている

  • システム構築の予算や時間がない
  • IT専門人材がいない
  • まずは小さく始めて効果を確認したい

この場合の進め方:

  1. Agent Modeでの探索を継続
  2. よく使うプロンプトをテンプレート化
  3. 効果的な分析パターンを組織内で共有
  4. 必要に応じて徐々に規模を拡大

5.2.2 次のステップへ進むべき場合

以下の条件に当てはまるなら、データ収集の仕組み化とPower BIでのダッシュボード構築を検討すべきです。

✅ 定期的に同じ分析を繰り返す必要がある

  • 毎週、毎日など高頻度で同じ指標を確認
  • 定型的なレポート作成業務がある
  • 分析パターンが固まっている

✅ 全校・複数学年など大規模なデータを扱う

  • データ量が数万行以上
  • 複数の学年・学校のデータを統合
  • Excelでは処理が重くなる

✅ リアルタイムまたは自動更新が必要

  • 最新のデータで常に状況を把握したい
  • データ入力から可視化まで自動化したい
  • 手作業でのデータ更新を減らしたい

✅ 複数の関係者で同じダッシュボードを共有したい

  • 管理職、学年主任、教育委員会など
  • 全員が同じ定義・指標で状況を把握
  • 会議での意思決定に活用

✅ データソースが複数のシステムにまたがる

  • 校務支援システム、学習eポートフォリオ、アンケートツールなど
  • 複数のシステムからデータを収集して統合
  • 手作業でのコピー&ペーストを自動化したい

重要: Agent Modeは現在開いているワークブックのみで動作します。外部ファイル、メール、企業データベースへの直接アクセスはできません。複数のデータソースを統合する必要がある場合は、Power BIでのダッシュボード構築が適しています。

この場合の進め方:

  1. 第2部「教育データ収集の実践」へ(次の記事)

    • データソースの整理
    • データ収集の仕組み化
    • データクレンジングとマスタ整備
  2. 第3部「Power BIによるダッシュボード開発」へ(第3の記事)

    • Power BIでのデータモデリング
    • ダッシュボードの設計と実装
    • 組織での運用と継続的改善

5.3 この記事で整理できたこと

Excel Agent Modeでの探索を通じて、以下が整理できました。
これらは次のステップ(データ収集、ダッシュボード構築)での土台になります。

5.3.1 優先順位をつけた課題リスト

Agent Modeで試してわかったこと:

  • どの課題が本当に重要か
  • どの課題がデータで解決できそうか
  • どの課題から着手すべきか

具体例:

優先度 課題 理由 データで可能
数学の単元3のつまずき 半数以上の生徒が60点未満
月曜日の欠席増加 長期欠席の予兆の可能性
授業評価の「課題の難易度」項目 低評価だが、改善の方向性が見えた
図書室の利用促進 データ分析より他の施策が有効そう

5.3.2 必要なデータと指標の定義

Agent Modeで試してわかったこと:

  • どのデータが本当に必要か
  • どの粒度でデータを保持すべきか
  • どんな指標を継続的にモニタリングすべきか

具体例: 学力向上施策のためのデータ要件

データ 粒度 更新頻度 データソース 重要度
テスト結果 生徒×単元×設問 単元テスト後 校務支援システム
出席記録 生徒×日 毎日 校務支援システム
授業評価 生徒×教科×項目 学期末 アンケートツール
家庭学習時間 生徒×日 週次 学習記録アプリ

5.3.3 効果的だった分析の切り口

Agent Modeで試してわかったこと:

  • どう切り分けると示唆が得られるか
  • どんな比較が効果的か
  • どんな可視化がわかりやすいか

具体例:

効果的だった切り口:

  • 単元別 × 習熟度層別(低位、中位、上位)
  • 時系列(週別、月別)× 欠席理由別
  • 教科別 × アンケート項目別

効果的だった可視化:

  • 単元別平均点の棒グラフ(基準線60点を表示)
  • 出席率の折れ線グラフ(前年同期と比較)
  • アンケート項目のヒートマップ(教科×項目)

5.3.4 改善アクションにつながる示唆のパターン

Agent Modeで試してわかったこと:

  • どんな示唆が改善につながるか
  • どう解釈すれば実践的なアクションになるか

具体例:

示唆 改善アクション
単元3(図形)で半数が60点未満 単元2(図形の基礎)に戻って補習、視覚的教材の活用
月曜日の欠席が他曜日の2倍 週末の過ごし方の指導、保護者への協力依頼
「説明のわかりやすさ」が低評価 授業研究のテーマに設定、ICT活用で視覚的説明強化
読書が習慣化している層とゼロの層に二極化 朝読書の導入、図書委員によるおすすめ本紹介

5.4 次の記事シリーズへ

この記事は、教育データ利活用シリーズ 3部作の第1部です。

5.4.1 シリーズ全体の構成

【教育データ利活用シリーズ】

第1部: Excel Agent モードではじめる教育データ利活用(← この記事)

  • ✓ 探索的データ分析
  • ✓ 問いの発見と磨き込み
  • ✓ 必要なデータと指標の明確化
  • ✓ 改善アクションにつながる示唆の抽出

第2部: 教育データ収集の実践(← 次の記事)

  • どこにどんなデータがあるか
  • データの収集方法
    • 手動(Excel、CSV)
    • 半自動(Power Automate、スクリプト)
    • 自動(API連携、システム統合)
  • データクレンジングとマスタ整備
  • データの統合と保管(データレイク)
  • プライバシーとセキュリティ対策

第3部: Power BIによる教育ダッシュボード開発(← 第3の記事)

  • Power BIの基礎
  • データモデリング
    • リレーションシップ
    • メジャーとDAX
  • 効果的な可視化デザイン
    • ダッシュボード設計原則
    • インタラクティブ性
  • ダッシュボードの実装
  • 運用・保守と継続的改善

5.4.2 この記事から次への連続性

この記事(第1部)で明確にしたこと:

項目 成果物
問い 「何を知りたいか」が明確になった
データ要件 「どのデータが必要か」が整理できた
指標 「どの指標をモニタリングすべきか」が定まった
分析パターン 「どう切り分けると示唆が得られるか」がわかった
改善アクション 「どう解釈すれば実践につながるか」が見えた

これらを土台にして次のステップへ

次の記事(第2部)で取り組むこと:

項目 取り組み内容
データソースの特定 そのデータはどこにあるか
収集方法の設計 どうやって集めるか(手動/半自動/自動)
データの整備 どうクレンジングし、統合するか
継続的な仕組み どう継続的に収集・更新するか
セキュリティ どう安全に管理するか

整備されたデータで次のステップへ

第3の記事(第3部)で実現すること:

項目 実現内容
データモデリング Power BIでデータを関連付け
可視化 効果的なダッシュボードを設計・実装
自動化 データ更新を自動化
共有 関係者全員で同じ指標を見る
運用 継続的に改善を回す

5.4.3 どの記事から読むべきか

パターンA: 探索から始めたい(推奨)

この記事(第1部)→ 第2部 → 第3部 の順

  • まずは手元のデータで試してみる
  • 効果を実感してから次のステップへ
  • 要件が固まってからシステム構築

パターンB: すでに要件が明確

第2部(データ収集)から

  • すでに何を分析したいか明確
  • 必要なデータと指標が定まっている
  • すぐにデータ収集の仕組み化に着手したい

パターンC: すでにデータが整備されている

第3部(Power BI)から

  • データがすでに統合・整備されている
  • Power BIでのダッシュボード構築が目的
  • すぐに可視化に着手したい

ただし:

もし「Power BIでダッシュボードを作ったが活用されていない」という状況なら、
一度この記事(第1部)に戻って「本当の問い」を探索することをお勧めします。


5.5 最後に

5.5.1 データ利活用の本質を忘れずに

目的は「改善」であり、「可視化」ではない

  • きれいなグラフやダッシュボードを作ることが目的ではありません
  • 子どもたちの学びを改善すること、学校をより良くすることが目的です
  • データはそのための手段です

小さく始めて、成功体験を積み重ねる

  • 最初から完璧を目指さない
  • まずは自分の学級、自分の授業で試してみる
  • うまくいったことを少しずつ広げていく

現場の問いから出発することの大切さ

  • 「データがあるから分析する」ではなく
  • 「改善したい課題があるから、データを見る」
  • この順序を間違えないことが成功の鍵です

5.5.2 一人の教員の小さな一歩から

あなたの一歩が、学校を変える

  1. まずは自分の学級のデータで試してみる

    • この記事のユースケースから一つ選んで実践
    • Agent Modeで試行錯誤してみる
    • 小さな気づき、小さな改善から
  2. うまくいったら同僚に共有する

    • 「こんな分析をしたら、こんなことがわかった」
    • 「この改善をしたら、こんな効果があった」
    • 成功体験は周りを動かす
  3. 学年、学校全体へと広げていく

    • 学年会で共有
    • 研修で実践報告
    • 少しずつ組織の文化に

あなたに必要なのは、ほんの少しの好奇心と、最初の一歩だけです。

5.5.3 子どもたちのより良い学びのために

データは手段、目的は子どもたちの成長

  • テストの点数を上げることが目的ではありません
  • 一人ひとりの子どもが、その子なりに成長すること
  • すべての子どもが安心して学べる環境を作ること
  • それがデータ利活用の本当の目的です

「勘と経験」と「データ」の両輪で

  • ベテラン教員の「この子は何か様子が違う」という勘は貴重です
  • その勘を、データで裏付け、早期対応につなげる
  • データで見えなかった子どもの変化に、経験で気づく
  • 両方があって初めて、子どもを多面的に理解できます

学校現場から始まるデータドリブンな教育改善

  • 教育委員会から降りてくる施策ではなく
  • 現場の教員が、現場の課題を解決するために
  • 自らデータを活用する
  • そんなボトムアップの動きが、教育を変えていきます

5.5.4 次のステップへ

始める前に:

Agent Modeはプレビュー機能のため、パフォーマンスや利用可能な機能が変動する可能性があります。また、Excel Labsアドイン経由での機能は、時間とともに制限される可能性があります。最新の情報はMicrosoft公式ドキュメントをご確認ください。

あなたは今、どの段階にいますか?

□ まだAgent Modeを試していない
→ この記事の第2章「クイックスタート」から始めましょう
→ 第3章のユースケースから一つ選んで実践してみましょう

□ Agent Modeを試して、効果を実感した
→ よく使う分析パターンをテンプレート化しましょう
→ 同僚と成功事例を共有しましょう
→ 必要に応じて、次の記事(第2部: データ収集)へ進みましょう

□ 定期的に同じ分析を繰り返している
→ データ収集の仕組み化を検討しましょう
→ 次の記事(第2部: データ収集)へ進んで、自動化の方法を学びましょう

□ データが整備され、ダッシュボードが必要
→ Power BIでのダッシュボード構築を検討しましょう
→ 第3の記事(第3部: Power BI)へ進みましょう

□ ダッシュボードはあるが活用されていない
→ もう一度この記事(第1部)に戻りましょう
→ Agent Modeで「本当の問い」を探索しましょう
→ ダッシュボードの要件を見直しましょう


5.6 この記事のまとめ

Excel Agent Modeとは

  • Excel Labsのプレビュー機能(2025年9月発表)
  • 複雑な多段階タスクを目的で指示できる
  • 推論と反省のループによる計画→実行→検証
  • 探索的データ分析に最適

利用環境と制限事項

  • 必須: Frontier アクセスが有効化されたMicrosoft 365 Copilotライセンス、またはPersonal/Family/Premium
  • プラットフォーム: Excel for the web(ブラウザ版)のみ対応(デスクトップ版は近日対応予定)
  • 言語: 現時点では英語のみ対応
  • スコープ: 現在開いているワークブックのみ(外部ファイル、メール、企業データへのアクセスは不可)

Power BIの前にAgent Modeを使うべき理由

  1. 探索的データ分析で「本当の問い」を見つける
  2. 要件定義の精度が飛躍的に上がる
  3. データ整備の要件が明確になる
  4. コストと時間の大幅な削減
  5. 現場のデータリテラシーが育つ

12のユースケース

  • 学習指導(つまずき発見、教科間バランス、学習効果測定)
  • 生徒指導・学級運営(欠席傾向、学級集団の状態)
  • 学校運営(授業改善、学校評価、働き方改革)
  • 保護者・地域連携(連携強化、開かれた学校づくり)
  • その他(読書活動、部活動運営)

効果的な使い方のコツ

  • 「改善したいこと」から始める
  • 複雑な多段階タスクにAgent Modeを使い、単純なタスクには標準機能を使う
  • 段階的に質問する(分析→解釈→示唆→改善アクション)
  • データ形式を整える、範囲を明示する
  • 処理時間: 複雑なタスクは数分かかる場合がある
  • プライバシーとセキュリティに配慮
  • 重要なファイルは作業コピーを作成し、バージョン履歴とUndo機能を活用

次のステップ

  • Agent Modeで継続 or データ収集・ダッシュボード構築へ
  • 第2部「教育データ収集の実践」
  • 第3部「Power BIによる教育ダッシュボード開発」

さあ、あなたの学校でのデータ利活用の旅を始めましょう。

最初の一歩は、この記事のユースケースから一つ選んで、Excel Agent Modeで試してみること。

その小さな一歩が、子どもたちのより良い学びにつながります。


参考情報

Microsoft Learn 公式ドキュメント

関連記事(この3部作シリーズ)

  • 第1部: Excel Agent モードではじめる教育データ利活用(← この記事)
  • 第2部: 教育データ収集の実践(← 近日公開予定)
  • 第3部: Power BIによる教育ダッシュボード開発(← 近日公開予定)

この記事が、あなたの学校でのデータ利活用の第一歩になることを願っています。

質問、フィードバック、成功事例の共有など、お気軽にコメント欄でお知らせください。

一緒に、子どもたちのより良い学びを実現しましょう。

1
1
0

Register as a new user and use Qiita more conveniently

  1. You get articles that match your needs
  2. You can efficiently read back useful information
  3. You can use dark theme
What you can do with signing up
1
1

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?