はじめに
「AI for Science」 という言葉を聞く機会が増えてきました。しかし、実際に自分の研究機関で取り組もうとすると、何から手をつければよいのか分からないという声をよく聞きます。
本記事では、大学・研究機関が AI for Science に取り組む際のロードマップを、国内外の先進事例を踏まえて解説します。
目次
- AI for Scienceとは?
- なぜ今、AI for Scienceなのか
- 導入の5ステップ
- 研究ポートフォリオ別の導入パターン
- 必要なリソース
- 国内先進事例
- 活用できるプラットフォーム・ツール
- よくある失敗と対策
- 次のアクション
- 参考文献
AI for Scienceとは?
定義
AI for Scienceとは、人工知能・機械学習技術を科学研究に適用し、新しい科学的発見を加速するアプローチです。
Microsoftは「Fifth Paradigm(第5のパラダイム)」と呼び、従来の理論・実験・計算・データ駆動に続く新しい科学研究の方法論と位置付けています。
なぜAIで「科学的発見を加速」できるのか?
従来の科学研究では、研究者が仮説を立て → 実験し → 結果を分析するサイクルを繰り返します。このサイクルには多くの時間とコストがかかります。
AI for Scienceは、このサイクルの各段階を劇的に短縮します。
具体例:新材料発見にかかる時間
| 段階 | 従来手法 | AI活用 | 短縮効果 |
|---|---|---|---|
| 候補探索 | 数千件を人手でスクリーニング(数ヶ月) | AIが有望候補を自動抽出(数時間) | 100倍以上 |
| 特性予測 | 1件ずつ実験で測定(1件あたり数日) | シミュレーションで一括予測(数分/件) | 1000倍以上 |
| 構造最適化 | 試行錯誤(数十〜数百回の実験) | AIが最適構造を提案(数回の実験で検証) | 10〜100倍 |
重要: AIは「人間の研究者を置き換える」のではなく、研究者がより創造的な仕事に集中できるようにするものです。
AIが加速できる研究プロセス
| プロセス | AIの役割 | 効果 |
|---|---|---|
| 文献調査 | 数万件の論文を自動要約・関連性分析 | 調査時間を1/10に |
| 仮説生成 | 既存データから新しい仮説を提案 | 見落としていた関係性を発見 |
| 実験計画 | 最小限の実験で最大の情報を得る設計 | 実験回数を1/5に |
| データ解析 | パターン認識、異常検知、分類 | 解析時間を1/100に |
| シミュレーション | ニューラルネットワークで近似計算 | 計算時間を1/1000に |
| 論文執筆 | 構造化、図表生成、参考文献管理 | 執筆時間を1/3に |
実際の成功事例
| 事例 | 従来 | AI活用後 | 出典 |
|---|---|---|---|
| タンパク質構造予測 | X線結晶解析で数ヶ月〜数年 | AlphaFoldで数分 | DeepMind |
| 新材料発見 | 実験で10年以上 | MatterGenで数日 | Microsoft |
| 超合金データセット収集 | 7年相当 | 13日 | NIMS |
| 気象予測 | スパコンで数時間 | Auroraで数分 | Microsoft |
結論: AI for Scienceは、研究の「量」を増やすのではなく、同じ時間でより多くの発見ができるようにする技術です。小規模な研究室でも、AIツールを活用することで大規模機関に匹敵する探索能力を持てる可能性があります。
ChatGPT/Claudeを買えばAI for Scienceは実現できる?
結論: いいえ、それだけでは不十分です。 ChatGPTやClaudeなどの汎用LLMは強力なツールですが、AI for Scienceの本質的な部分は実現できません。
汎用LLM vs 科学特化AI の違い
| 観点 | 汎用LLM(ChatGPT/Claude) | 科学特化AI(MatterGen等) |
|---|---|---|
| できること | 文章生成、要約、コード生成、質問応答 | 分子構造生成、物性予測、シミュレーション |
| 学習データ | インターネット上のテキスト | 科学論文、実験データ、計算結果 |
| 出力 | テキスト、コード | 分子構造、数値予測、シミュレーション結果 |
| 信頼性 | ハルシネーション(誤情報生成)のリスク | 物理法則・化学法則に基づく予測 |
| 新発見 | 既存知識の組み合わせ | 未知の構造・特性を予測可能 |
汎用LLMでできること・できないこと
✅ 汎用LLMでできること(研究の効率化):
| 用途 | 例 | 効果 |
|---|---|---|
| 文献調査 | 論文の要約、関連研究の整理 | 調査時間短縮 |
| 執筆支援 | 論文ドラフト、申請書作成 | 執筆時間短縮 |
| コーディング | データ解析スクリプト作成 | 実装時間短縮 |
| ブレインストーミング | アイデア出し、仮説検討 | 発想の幅拡大 |
❌ 汎用LLMでできないこと(科学的発見):
| 用途 | なぜできないか |
|---|---|
| 新材料の構造生成 | 分子構造の3次元表現を扱えない |
| 物性予測 | 量子力学的計算ができない |
| タンパク質構造予測 | アミノ酸配列→立体構造の変換には専用モデルが必要 |
| 実験条件の最適化 | 実験空間の効率的探索には専用アルゴリズムが必要 |
具体例:新材料を発見したい場合
正しいAI for Scienceの構成
汎用LLMと科学特化AIは「組み合わせて使う」のが正解です。
| レイヤー | ツール例 | 役割 |
|---|---|---|
| 研究支援 | ChatGPT, Claude, GitHub Copilot | 文献調査、執筆、コーディング |
| 知識検索 | GraphRAG, LazyGraphRAG | 大量文献からの知識抽出・関係性分析 |
| 科学計算 | MatterGen, MatterSim, BioEmu | 構造生成、物性予測、シミュレーション |
| 基盤計算 | Azure HPC, ABCI, 富岳 | 大規模計算の実行環境 |
まとめ: ChatGPT/Claudeは研究効率化ツールとして有用ですが、科学的発見を生み出すにはMatterGenやBioEmuなどの科学特化AIが必要です。両方を組み合わせることで、真のAI for Scienceが実現できます。
科学研究の5つのパラダイム
| パラダイム | 説明 | 時代 |
|---|---|---|
| 第1 | 経験的(観察) | 〜1600年代 |
| 第2 | 理論的(数式化) | 1600年代〜 |
| 第3 | 計算的(シミュレーション) | 1950年代〜 |
| 第4 | データ駆動(ビッグデータ) | 2000年代〜 |
| 第5 | AI駆動(基盤モデル) | 2020年代〜 |
AI for Scienceの3つの形態
| 形態 | 説明 | 例 |
|---|---|---|
| AI-assisted | AIが研究者の作業を効率化 | 文献検索、データ前処理、可視化 |
| AI-driven | AIが仮説生成・実験計画を主導 | 自律材料探索、創薬スクリーニング |
| AI-native | AI基盤モデルが科学法則を学習 | AlphaFold、MatterGen |
なぜ今、AI for Scienceなのか
グローバルトレンド
2024年のノーベル賞は、AI for Scienceの重要性を世界に示しました。
| 分野 | 受賞者 | 業績 |
|---|---|---|
| 化学賞 | Demis Hassabis, John Jumper(Google DeepMind) | AlphaFold(タンパク質構造予測) |
| 化学賞 | David Baker | タンパク質設計 |
| 物理学賞 | John Hopfield, Geoffrey Hinton | ニューラルネットワークの基礎理論 |
国内の動き
- 国際卓越研究大学: 東北大学が第1号認定(2025年)、AI×材料科学を重点領域に
- GENIAC: 経産省/NEDOによる生成AI開発支援プロジェクト
- 富岳×AI: 理研がAI for Science向け新スパコン計画を発表
- ABCI 3.0: 産総研が世界最高水準のAI計算基盤を更新(6.2 AI-EFLOPS)
導入の5ステップ
概要図
Step 1: 現状把握(1〜2ヶ月)
ポイント: 「何でもやる」ではなく、自機関の強みを活かせる領域を見極める
1-1. 研究ポートフォリオ分析
以下の観点で自機関の研究を棚卸しします。
| チェック項目 | 確認内容 |
|---|---|
| データ生成能力 | 大量のデータを生成している研究分野は? |
| 計算需要 | シミュレーションに多くの計算資源を使っている分野は? |
| AI適合性 | パターン認識、予測、最適化が有効な分野は? |
| 外部連携 | 産業界との共同研究が活発な分野は? |
1-2. 既存リソース棚卸し
□ 計算資源
- オンプレミススパコンの有無・性能
- GPUクラスタの有無
- クラウド利用実績
□ データ基盤
- 研究データの保管・管理状況
- データ共有の仕組み
- メタデータ管理
□ ソフトウェア・ツール
- 機械学習フレームワークの導入状況
- 専門分野向けAIツールの利用状況
1-3. 人材スキル評価
| レベル | 説明 | 人数目安 |
|---|---|---|
| L1: 利用者 | AIツールを使える | 多数 |
| L2: 実践者 | 自分でモデルを構築できる | 各研究室1〜2名 |
| L3: 専門家 | 新手法を開発できる | 組織に数名 |
| L4: リーダー | 戦略立案・組織マネジメント | 1〜2名 |
Step 2: 戦略策定(2〜3ヶ月)
2-1. 重点分野の選定
選定マトリクスを活用して優先順位を決定:
| 自機関強み:弱 | 自機関強み:強 | |
|---|---|---|
| AI適合性:高 | 🟡 優先度中(育成枠) 将来に向けた人材・ノウハウ蓄積 |
🟢 優先度高(重点投資) 最優先で資源投入 |
| AI適合性:低 | ⚪ 優先度低(様子見) 他機関の動向を注視 |
🔵 優先度中(効率化) 既存業務のAI活用 |
2-2. KPI設定
| カテゴリ | KPI例 | 測定方法 |
|---|---|---|
| 研究成果 | AI関連論文数、引用数 | Scopus等で計測 |
| 外部資金 | AI関連競争的資金獲得額 | 年度集計 |
| 人材育成 | AI人材数(レベル別) | スキル調査 |
| 産学連携 | 共同研究件数・金額 | 契約ベース |
| 社会実装 | 特許出願数、スタートアップ数 | 知財部門連携 |
2-3. ロードマップ作成
Step 3: 環境整備(6ヶ月〜1年)
3-1. 計算資源確保
選択肢の比較:
| オプション | メリット | デメリット | 向いている機関 |
|---|---|---|---|
| オンプレミス | 低遅延、データ管理容易 | 初期投資大、運用負荷 | 大規模継続利用 |
| クラウド | 初期投資不要、スケーラブル | 従量課金、データ転送 | 変動する需要 |
| ハイブリッド | 柔軟性 | 運用複雑 | 中〜大規模機関 |
| 共同利用 | コスト分散 | 利用制約 | 小〜中規模機関 |
国内の主要計算資源:
| 名称 | 運営 | 性能 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 富岳 | 理研R-CCS | 442 PFLOPS | 国内最高性能、幅広い分野 |
| ABCI 3.0 | 産総研 | 6.2 AI-EFLOPS | AI特化、H200×6,128基 |
| TSUBAME4.0 | 東京科学大学 | 952 PFLOPS(半精度) | H100×960基、LLM開発 |
| 玄界 | 九州大学 | 166 PFLOPS(FP16) | H100搭載、Graph500世界1位 |
| SQUID | 大阪大学 | 16.6 PFLOPS | クラウドバースティング対応 |
3-2. データ基盤構築
参考にすべき国内データ基盤:
| 名称 | 運営 | 分野 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| DICE | NIMS | 材料科学 | MatNavi、RDE、MInt、pinax |
| CiNii | NII | 学術全般 | 論文・図書・博士論文検索 |
| GakuNin RDM | NII | 研究データ | 研究データ管理・公開 |
| TogoVar | DBCLS | 生命科学 | 日本人ゲノム変異データベース |
3-3. 人材育成
育成プログラムの設計:
| レベル | 対象 | 内容 | 期間 |
|---|---|---|---|
| 入門 | 全研究者 | AIリテラシー、ツール利用 | 1日〜 |
| 基礎 | 関心ある研究者 | Python、機械学習基礎 | 1〜3ヶ月 |
| 応用 | 実践者候補 | 深層学習、専門分野AI | 3〜6ヶ月 |
| 専門 | 将来のリーダー | 最新手法、研究開発 | 継続的 |
活用できる教材・プログラム:
- 東京大学 松尾研究室: Deep Learning基礎講座(無料公開)
- 産総研 AIRC: 実践的AI研修
- 理研 AIP: 機械学習サマースクール
- 各クラウドベンダー: 無料オンライン講座
Step 4: パイロットプロジェクト(6ヶ月〜1年)
4-1. プロジェクト選定基準
✅ 良いパイロットの条件:
- 6ヶ月〜1年で成果が見える
- データが既に存在する(または短期間で収集可能)
- 熱意ある研究者がいる
- 失敗しても組織へのダメージが小さい
- 成功すればインパクトが大きい
❌ 避けるべきパイロット:
- スコープが広すぎる
- データ収集から始める必要がある
- 担当者のモチベーションが低い
4-2. 推奨パイロットテーマ
| 分野 | テーマ例 | 期待成果 |
|---|---|---|
| 材料科学 | 既存実験データからの特性予測 | 実験回数削減 |
| 生命科学 | 画像解析の自動化 | 解析時間短縮 |
| 化学 | 分子シミュレーションの高速化 | 探索空間拡大 |
| 工学 | 設計パラメータ最適化 | 性能向上 |
| 文献調査 | 論文の自動要約・知識抽出 | 調査効率化 |
Step 5: 本格展開(継続的)
5-1. 組織体制の構築
5-2. 外部連携の拡大
| 連携先 | 目的 | アクション例 |
|---|---|---|
| 他大学 | 知見共有、共同研究 | コンソーシアム参加 |
| 国研 | 計算資源、専門知識 | 共同利用申請 |
| 企業 | 資金、実用化 | 共同研究、寄附講座 |
| クラウドベンダー | 技術、リソース | アカデミックプログラム |
| 海外機関 | 最先端知見 | 国際共同研究 |
研究ポートフォリオ別の導入パターン
パターン1: 材料科学が強い機関
代表例: 東北大学(AIMR、金研)、NIMS、JAIST
推奨アプローチ:
| ステップ | アクション | 参考事例 |
|---|---|---|
| 1 | 実験データのデジタル化・構造化 | NIMS DICE |
| 2 | MI基盤ツールの導入 | NIMS pinax、RDE |
| 3 | 予測モデル構築 | 特性予測、構造予測 |
| 4 | 自律探索システム構築 | NIMS自律AIネットワーク |
活用すべきリソース:
- NIMS DICE: 材料データプラットフォーム
- MatterGen / MatterSim: Microsoft材料生成AI
- ABCI: 大規模計算
- ダム ヒョウ チ教授(JAIST): MI世界的権威
パターン2: 生命科学・医療が強い機関
代表例: 東京大学(医学部)、京都大学(iPS)、大阪大学(免疫学)、理研(BRC)
推奨アプローチ:
| ステップ | アクション | 参考事例 |
|---|---|---|
| 1 | 既存データベースの活用 | AlphaFold DB、TogoVar |
| 2 | 構造予測・機能予測 | AlphaFold、ESMFold |
| 3 | 創薬スクリーニング | 仮想スクリーニング |
| 4 | 臨床データとの統合 | 個別化医療 |
活用すべきリソース:
- Azure Machine Learning: 生命科学向けMLパイプライン
- Microsoft Research BioML: 生体分子シミュレーション
- 産総研 オーミクス情報研究チーム: バイオインフォマティクス
パターン3: 計算科学・HPC が強い機関
代表例: 東京科学大学(TSUBAME)、九州大学(玄界)、理研(R-CCS)
推奨アプローチ:
| ステップ | アクション | 参考事例 |
|---|---|---|
| 1 | シミュレーションデータ蓄積 | 気象、流体、分子動力学 |
| 2 | ニューラルネットワーク代替 | Physics-informed NN |
| 3 | 大規模言語モデル開発 | Swallow(東京科学大) |
| 4 | 科学基盤モデル開発 | 理研AGIS |
活用すべきリソース:
- 富岳: 大規模シミュレーション
- TSUBAME4.0: LLM開発
- 理研 AGIS: 科学基盤モデル
必要なリソース
計算資源の目安
| 用途 | 必要GPU | 月額コスト目安(クラウド) |
|---|---|---|
| プロトタイピング | 1-2 GPU | 〜10万円 |
| 中規模学習 | 4-8 GPU | 30〜100万円 |
| 大規模学習 | 16+ GPU | 100万円〜 |
| LLM事前学習 | 100+ GPU | 数千万円〜 |
人材の目安
| 機関規模 | 最小構成 | 推奨構成 |
|---|---|---|
| 小規模 | 専任1名 + 兼任数名 | 専任2-3名 + 各研究室1名 |
| 中規模 | 専任3-5名 + 兼任 | 専任5-10名 + 各研究室1-2名 |
| 大規模 | 専任10名+ | 専任20名+ + 分散チーム |
予算の目安(年間)
| 項目 | 小規模開始 | 中規模展開 | 大規模推進 |
|---|---|---|---|
| 計算資源 | 100〜500万円 | 1,000〜3,000万円 | 5,000万円〜 |
| 人件費 | 500〜1,000万円 | 2,000〜5,000万円 | 1億円〜 |
| ソフトウェア | 〜100万円 | 100〜500万円 | 500万円〜 |
| 教育研修 | 〜100万円 | 100〜300万円 | 300万円〜 |
| 合計 | 700〜1,700万円 | 3,200〜8,800万円 | 1.6億円〜 |
国内先進事例
事例1: 東北大学(材料科学×AI)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 特徴 | 国際卓越研究大学第1号、材料科学×AIの融合 |
| 組織 | AIMR(WPI)、金研、SRIS、CDS、UDAC |
| 計算資源 | スパコンAOBA、NanoTerasu放射光施設 |
| 成果 | 富士通との因果発見AI共同研究、オルターマグネット発見 |
| ポイント | 既存の材料科学の強みにAIを融合 |
事例2: 理化学研究所(基盤モデル開発)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 特徴 | 富岳を活用した科学基盤モデル開発 |
| 組織 | TRIP事業本部、AGIS、AIP、R-CCS |
| 計算資源 | 富岳(442 PFLOPS) |
| 成果 | AMD・Argonne国立研究所との国際連携 |
| ポイント | 計算資源と人材の集中投資 |
事例3: NIMS(マテリアルズ・インフォマティクス)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 特徴 | 材料データ基盤と自律AI探索システム |
| 組織 | DICE、CBRM |
| データ基盤 | MatNavi、RDE、MInt、pinax |
| 成果 | 自律AIネットワーク、構造材料DB自動生成(7年→13日) |
| ポイント | データ基盤構築を20年以上継続 |
事例4: 産総研(AI計算基盤)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 特徴 | 国内最大級のAI計算基盤を産学官に提供 |
| 組織 | AIRC、ABCI |
| 計算資源 | ABCI 3.0(H200×6,128基、6.2 AI-EFLOPS) |
| 成果 | 日本語基盤モデル開発支援、協調型AI研究 |
| ポイント | オープンな計算基盤として広く活用可能 |
活用できるプラットフォーム・ツール
Microsoft Discovery(AI for Science)
Microsoftは「Fifth Paradigm(第5のパラダイム)」を提唱し、科学研究向けAIツール群をMicrosoft Discoveryとして提供しています。
Microsoft Discoveryは、材料科学・生命科学・気象科学など幅広い分野で活用できる科学基盤モデル群です。
科学基盤モデル
| ツール | 分野 | 機能 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| MatterGen | 材料科学 | 新材料の生成・設計 | 所望の特性を持つ材料構造を自動生成 |
| MatterSim | 材料科学 | 材料特性シミュレーション | 量子化学計算を高速化(1000倍以上) |
| BioEmu | 生命科学 | 生体分子動態シミュレーション | タンパク質のコンフォメーション変化を予測 |
| Aurora | 気象科学 | 大気・気象予測 | 高解像度・高精度な気象予測モデル |
知識検索・分析ツール(GraphRAG)
科学文献や研究データの検索・分析に特化したRAG(Retrieval-Augmented Generation)技術です。
| ツール | 特徴 | ユースケース |
|---|---|---|
| GraphRAG | 知識グラフを自動構築し、複雑な質問に回答 | 大規模文献レビュー、研究動向分析、仮説生成 |
| LazyGraphRAG | GraphRAGの軽量版、低コストで高精度 | 研究室単位での導入、パイロットプロジェクト |
GraphRAGの活用例:
- 数千件の論文から研究トレンドを自動抽出
- 異分野の知見を横断的に検索・統合
- 新規研究テーマの仮説生成支援
GraphRAG vs 従来のRAG:
| 項目 | 従来のRAG | GraphRAG |
|---|---|---|
| 検索方式 | ベクトル類似度検索 | 知識グラフ + ベクトル検索 |
| 複雑な質問 | 苦手 | 得意(関係性を理解) |
| 全体像の把握 | 困難 | 可能(グラフ構造で俯瞰) |
| 導入コスト | 低 | 高(→ LazyGraphRAGで解決) |
活用のポイント:
- Azure上で利用可能(Azure for Research プログラム対応)
- オープンソースとしても一部公開(GitHub)
- 既存の研究ワークフローに統合しやすい設計
- LazyGraphRAGは小規模から始めたい機関に最適
科学分野別AIツール一覧
| 分野 | ツール名 | 提供元 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 材料 | MatterGen | Microsoft | 材料生成AI |
| 材料 | MatterSim | Microsoft | 材料シミュレーションAI |
| 材料 | pinax | NIMS | 材料データ解析 |
| 気象 | Aurora | Microsoft | 大気予測AI |
| 生体分子 | BioEmu | Microsoft | 生体分子シミュレーション |
| 創薬 | BioNeMo | NVIDIA | 創薬向け基盤モデル |
| 汎用 | LLM-jp | NII等 | 日本語大規模言語モデル |
クラウドプラットフォーム
| プラットフォーム | 強み | 学術向けプログラム |
|---|---|---|
| Microsoft Azure | Azure HPC、MatterGen、Azure Quantum、GitHub Copilot | Azure for Research、Academic向けプログラム |
| ABCI | 国内最大GPU基盤 | アカデミック料金 |
オープンソースツール
| カテゴリ | ツール | 用途 |
|---|---|---|
| ML Framework | PyTorch、JAX | 深層学習 |
| Scientific ML | DeepChem、TorchMD | 分子シミュレーション |
| AutoML | Optuna | ハイパーパラメータ最適化 |
| Workflow | Prefect、Airflow | パイプライン管理 |
| Experiment | MLflow、Weights & Biases | 実験管理 |
よくある失敗と対策
失敗パターン1: 計算資源に投資しすぎて人材が不足
❌ 「スパコンを買えば何とかなる」
対策:
- 計算資源と人材への投資バランスは 3:7 程度 が目安
- まずはクラウドで小さく始めて、需要を見極めてから設備投資
失敗パターン2: 全分野で一斉にスタート
❌ 「うちの大学は全学的にAI for Science」
対策:
- 2〜3の重点分野に絞って成功事例を作る
- 成功事例を横展開する
失敗パターン3: AI専門家に丸投げ
❌ 「AI部門がやってくれる」
対策:
- ドメイン専門家とAI専門家の協働が必須
- 各研究室にAI実践者を育成
失敗パターン4: データ整備を後回し
❌ 「とりあえず学習させてみよう」
対策:
- データ整備に全体の30〜50%の時間を見積もる
- メタデータ設計を最初に行う
次のアクション
今すぐできること(1週間以内)
- 自機関の研究ポートフォリオを書き出す
- AI for Science関連の競争的資金を調べる
- 関心のある研究者を3名以上リストアップ
- Azure Machine Learning等で簡単なML実験を試す
1ヶ月以内にやること
- 学内のAI for Science推進体制を確認
- 計算資源の現状と選択肢を整理
- パイロットプロジェクト候補を3件選定
- 外部連携先(大学、国研、企業)を検討
3ヶ月以内にやること
- AI for Science戦略(素案)を作成
- パイロットプロジェクトを開始
- 人材育成プログラムを設計
- 予算計画を策定
参考文献
公式サイト・ドキュメント
- Microsoft Research AI for Science - Microsoft
- Azure for Research - Microsoft
- NIMS DICE(材料データプラットフォーム) - 物質・材料研究機構
- 理研 TRIP事業本部 - 理化学研究所
- 産総研 ABCI - 産業技術総合研究所
- NII LLMC(大規模言語モデル研究開発センター) - 国立情報学研究所
- 東北大学 AIMR - 東北大学
関連ニュース・プレスリリース
- GENIAC(経産省/NEDO) - 経済産業省
- 国際卓越研究大学の認定について - 文部科学省
- ABCI 3.0稼働開始 - 産総研(2025年1月)