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「なんでも生成AI時代」のぼくらが今こそ、クリエイティブコーディングをする理由

Last updated at Posted at 2025-12-15

この記事はHTアドベントカレンダー16日目の記事です🛷


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2025年は「均質化リスク」元年?

2025年も残すところあと半月ほど。
今年も生成AIまわりの技術革新は勢いを失うことなく、私たちに次々と新しい驚きを投げかけてきました。いまやプロダクトを試作したいと思えば、画像生成でイメージを固め、テキスト生成で要件を整理し、UIデザインも実装も“最低限の形”まで一気に持っていける時代です。

その一方で、便利さの代償として避けられなくなってきたのが、AIによって得られるアウトプットが整いすぎた方向へ、あるいはAI的なそれっぽさへと収束してしまう現象です。AIが大量の学習を経た結果として、色味や構図、UIの佇まいまでどこか似てしまうようになった──そんな 均質化(あるいは同質化) ともいうべき感覚が、私たちの日常にじわりと広がりつつあります。

下の図は、Googleトレンドの全世界過去5年のデータをもとに、2020年11月〜2023年11月の平均値を基準としたときの、直近2年の検索量の変化率を示したものです。

GPT-5 が発表された2025年8月以降、世界的に「創造性(Creativity)」「多様性(Diversity)」といった価値観を示すキーワードも上向きましたが、より顕著な伸びを示したのは 「最適化(Optimization)」「独創(Originality)」「均質化(Homogenization)」 でした。

graph.png
(2020/11/22-2025/11/23, 筆者加工)

中でもOptimizationは2025年後半に400%を超えるリフトを記録し、
社会全体が「AIを使った効率最大化」へ急激に傾斜したことがわかります。

そしてこの流れの “影” として立ち上がったのが、Homogenization(均質化) です。8月以降、均質化は 200% 前後の高い水準で持続的に上昇しており、これは単なる一時的な話題化ではなく、生成AIが生み出すアウトプットが“似た方向へ収束する”という構造問題そのものが、社会の強い関心事へと変わったことを示しています。

その一方で、Originality(独創) が同時期に大きく伸びている点も象徴的です。
AI が“最適化”と“均質化”を同時に進める一方で、“独創性”への欲求も強まっていく…。このグラフは、まさにそんな現在地を鮮やかに映し出しているように見えます。

では、人間が創造的であり続けるには? 多様性や創造性はAIが代わりに育ててくれるものではありません。創造性を伴う領域は依然として、人間自らの手で経験し、蓄えていくことでしか広がっていかない部分が残っています。

今日は、創造性の源泉となる美的感覚を鍛えるためのひとつの方法として、「コードを書くことを通じて創造性を育てる」クリエイティブコーディングの世界を覗いてみたいと思います。

クリエイティブコーディングとはなにか

何をもってクリエイティブコーディングと呼ぶか、明確な定義はありませんが、私は少なくともプログラミングを創造表現の媒体(Creative Medium)とするような活動において、

  • プログラミングを通じて行う表現行為は 「クリエイティブコーディング(Creative Coding)」
  • 表現者となるアーティストは 「クリエイティブコーダー (Creative Coder)」

と呼ぶようにしています。

インターネット上にも、Web上のコミュニティを通じて、クリエイティブコーダーたちによる数え切れないほどの作品を見ることができます。

皆さんの中には、「メディアアート1」や「ジェネラティブアート2」という名前を聞いたことがある方も多いと思います。概念としては近いポジションにあるものの、クリエイティブコーディングはあくまでこれらのアートを生み出すために「コーディングをする行為・方法論」である点に、本質的な違いがあります。

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AI生成ではなく、あえて"創造的なコーディング"に身を委ねること

生成AIや、クリエイティブコーディングによる表現行為は、表現者が描きたいイメージ(心象)を入力に、テクノロジーを経由するなかで知覚できるものへと変換し、画像や動画へ出力するという構造を持っており、この点においては本質的な違いがあまりありません。

プロンプトを通じてたいていのものが生成できてしまう時代において、あえてコーディングという行為を通じて創作物を作るという選択をとるとしたら、そこにどんなメリットを見出すことができるでしょうか?AIとクリエイティブコーディング、それぞれの入出力の流れを眺めながら考えてみることにしましょう。
一連の流れで鍵となるのは、人間の創造性を支える「 美的感覚(美的な感性) 」です。

AI生成の場合、

① なんとなく意図(曖昧なイメージ)
     ↓
② テキスト入力(指示は抽象的でOK)
     ↓
③ AIが表現そのものを“構築”
     ↓
④ 大量に出力された結果を見る
     ↓
⑤ 美的感覚で取捨選択する
     ↓
⑥ プロンプトを微修正(評価のフィードバック)

といったかたちで、プロンプトによる精度の差はあれど、得られたインプットからAIが解釈した結果を出力するのが基本となります。人間は出力されたものの良し悪しを、自らの美的感覚に照らし合わせて判断&修正していきます。

対して、クリエイティブコーディングでは、

① つくりたい雰囲気・動き(美的感覚のイメージ)
     ↓
② 色・形・動きのパラメータ設計(感覚の構造化)
     ↓
③ コードを書く(アルゴリズム化)
     ↓
④ 出力(生成)
     ↓
⑤ 意図との差異を分析
     ↓
⑥ パラメータ、構造、アルゴリズムを再設計

のような流れを辿ります。先ほどのAIと違うのは、クリエイティブコーディングでは、テクノロジー(プログラミング環境)を経由する前に自らの美的感覚を駆使して表現したいものを細かく構造化し、アルゴリズムを設計する必要が出てくる点です。

すなわち、それぞれの表現行為は

  • AIによる表現行為:人間の美的感覚は「出力後」に作用する(事後評価的
  • クリエイティブコーディングによる表現行為:人間の美的感覚は「出力前」に作用する(事前構築的

という点において、美的感覚の働くタイミングが明確に異なっているのではないか、というのが、私の仮説です。

それぞれの表現行為によって培われる美的感覚の性質も異なっていきます。AIの積極的な利活用で得られるのは、表現をより洗練させたり、イメージに近づけるための目利き能力や判断力ですが、クリエイティブコーディングは、イメージをアルゴリズムで的確に表現するための色彩や構造、モーションの理解能力や構築力を学ぶのに適した方法であると言えます。

私たちがここで扱っている“創造性”が、単なるアウトプット評価ではなく、新たな表現構成を思考し、組み立てる力によって豊かになるものだとすれば──

クリエイティブコーディングは、その力を育てるひとつの方法として考えることができます。

クリエイティブコーディングをしてみよう

さて、ここまで読み進めて手を動かしてみたくなったあなたは、すでにクリエイティブコーディングの扉を開いています。何事もまずはやってみることから始めましょう。

ここでは、主要なクリエイティブコーディングのツールをご紹介します。

p5.js (難易度:★☆☆)

p5.jsは、ブラウザ上で動き、敷居が最も低い入門向けJavaScriptライブラリです。
公式ページにはリアルタイム描画も可能なエディタが公開されており、トップページの"Start Coding"を押せば、準備不要で図形やモーション、色変化などを試して遊ぶことができます。

Processing (難易度:★★☆)

p5.jsよりもこちらの名前のほうが、聞いたことがある方は多いかもしれません。p5.jsの源流に相当する、Javaベースの統合開発環境です。ライブラリが非常に豊富で、PDF出力やArduinoなどとの連携も得意で、教育現場におけるクリエイティブコーディングのスタンダードとも言える存在です。

openFrameworks(難易度: ★★★)

C++ベースで構成されたツールキットです。コンパイル言語特有の敷居の高さはあるものの、軽快な動作・複雑な処理への柔軟な対応が得意で、メディアアート・インスタレーション作品の製作者から支持を得ています。

GLSL (難易度: ★★★)

これまでのツールとは少し毛色が異なり、CPUではなくGPUを使って描画を行うためのシェーダー言語です。 「全ての画素を同時に計算する」という特性上、独特な数学的思考が求められますが、その分、有機的で美しいグラフィックや、驚くほど軽量な処理が可能になります。上記で既に紹介した開発環境においても「より高度な表現」をするために使われることが多く、これを覚えるとクリエイティブコーディングの世界が一気に広がります。

(↑ドキュメントではないですが、GLSLのクックブックとして)

そのほか、ノーコード・ローコードなクリエイティブコーディングツールの例として、カナダのDerivative社が開発したビジュアルプログラミング環境「TouchDesigner」もこの文脈で紹介されることが多いです。


冒頭で紹介している"Reveal"は、GLSLシェーダーで構築した映像をバックグラウンドに、p5.jsでその上から図形やテキストを配置することで、夜の都会を流れる川と、川に浮かぶ桜の花びらが流れる様子を再現した作品です。


おわりに

テクノロジーが加速度的に発展する時代だからこそ、つくるプロセスそのものを楽しむ余白が重要になりつつあります。
今回は、そうした余白づくりの一つとして、クリエイティブコーディングを紹介しました。この記事が、あなたの創造性を伸ばす小さなきっかけになれば非常に嬉しいです!

  1. メディアアート:映像・音響・ネットワーク等の “メディアそのもの”を問い直すアート 領域。クリエイティブコーディングが制作に使われることも多いが、領域(ジャンル)と手法(方法論)として区別される。

  2. ジェネラティブアート:確率性や数学的ルールに基づき生成される 作品ジャンル 。クリエイティブコーディングはその制作手法の1つであり、行為主体や制作態度に焦点がある点で異なる。

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