#はじめに
本記事では、AIX5.3のシステム・バックアップ(mksysb)を、Power Systems Virtual Server(以下PowerVS)上に移行インストールする手順を紹介します。移行インストールに際しては、以下の手順を参考にしました。
mksysb の移行
https://www.ibm.com/docs/ja/aix/7.2?topic=aix-mksysb-migration
なお、本記事ではできるだけ公式ドキュメントを元に手順を作成・実施していますが、本手順がサポートされているかどうかについては確認できていません。また、AIX5.3のサポートは終了しています。そのため、本手順によって、AIX5.3 → 7.2への移行が可能であることを保証するものではありません。また、本記事では、AIX 5.3 → 7.2へ1回でアップグレードしていますが、一般的には、AIX 5.3 → 7.1 → 7.2の2段階アップグレードが奨励されているようです。
(2021/6/3追記)
奨励される方法は、以下の2段階アップグレードのようです。本記事の方法は、簡単だけどリスクもありそうです。
(1) AIX 5.3とAIX 7.1の両方をサポートするハードウエア上で、AIX 5.3 → AIX 7.1へアップグレード
(2) アップグレード後のmksysbをPowerVSへ転送
(3) PowerVS上のLPARへ、mksysbをAIX 7.2へ移行インストール
#手順概要
AIX 5.3はPOWER9上ではサポートされていません。一方、PoweVSでは、ダラスを除いて最新のPOWER9サーバーが使用されています。移行するためには、AIX 5.3で取得したmksysbを、AIX 7.2(またはAIX 7.1)へアップデートしつつリストアする必要があります。これを本記事では「移行インストール」と呼びます。大まかな手順は、以下のとおりです。
- AIX5.3のmksysbを取得する
- PowerVS上にLPARを2つ作成する(1つはNIMサーバー用、もう1つはaix53のmksysbの移行用です)
- NIMサーバーにAIX5.3のmksysbと、AIX7.2インストールDVDのISOをコピーする
- NIMサーバー構築し、AIX7.2のspot, lpp_sourceを定義する
- NIMサーバーにリストア先LPARをクライアントとして定義する
- NIMサーバーにAIX5.3のmksysbを定義する
- bosinst.dataを準備する
- bosinst.dataリソースを定義する
- Migration Installを開始する
- 完了
本記事では、チューナブルの確認など省略している手順があります。詳細は、公式ドキュメントを参照してください。
Migrating to AIX Version 7.2
https://www.ibm.com/docs/en/aix/7.2?topic=aix-migrating-version-72
AIX5.3のmksysbを取得する
手持ちのmksysbがなかったので、POWER7のサーバーにAIX5.3を導入しました。移行後、きちんとリストアされていることを確認するために、ユーザーhtanakaを追加し、ホームディレクトリに"oslevel -s"の出力をリダイレクトしたファイルを置いています。
$ whoami
htanaka
$ oslevel -s > oslevel.txt
$ cat oslevel.txt
5300-12-05-1140
$
mksysbはシンプルに-Xオプションのみで取得しました。
# mksysb -X /mnt/aix53.mksysb
PowerVS上に以下のLPARを2つ作成する
- nim1: NIMサーバー用LPAR
- aix53: AIX5.3のmksysbをAIX7.2へ移行インストールするLPAR
NIMサーバーにAIX5.3のmksysbと、AIX7.2インストールDVDのISOをコピーする
NIMサーバーに先程取得したAIX5.3のmksysbと、AIX7.2のインストールDVDのISOをコピーします。ファイルシステムのサイズは適宜調整してください。
# ls -l
total 22853368
-rw-r--r-- 1 root system 3794468864 May 28 07:12 AIX_v7.2_Install_7200-05-02-2113_DVD_1_of_2_042021_LCD8223016.iso
-rw-r--r-- 1 root system 7905331200 May 29 09:30 aix53.mksysb
#
NIMサーバー構築し、AIX7.2のspot, lpp_sourceを定義する
NIM関連ファイルセットの導入のためには、先程コピーしたAIX7.2のISOを使います。あらかじめ、以下のようにどこかにマウントしておきます。その後、bos.sysmgt.nim.master bos.sysmgt.nim.client bos.sysmgt.nim.spotの3つのファイルセットを導入します。
# loopmount -i AIX_v7.2_Install_7200-05-02-2113_DVD_1_of_2_042021_LCD8223016.iso -o "-v cdrfs -o ro" -m /mnt
# installp -acgXd /mnt bos.sysmgt.nim.master bos.sysmgt.nim.client bos.sysmgt.nim.spot
その後の作業(AIX7.2のspot, lpp_sourceを定義)は、AIX技術情報の"NIM 環境の構築"の「1.NIMマスターの定義」の部分を参考に実施しました。
NIMサーバーにリストア先LPARをクライアントとして定義する
リストア先となるaix53のLPARをNIMクライアントとして定義します。これも、AIX技術情報の"NIM 環境の構築"の「2.NIMクライアントの定義」の部分を参考に実施しました。
#NIMサーバーにAIX5.3のmksysbを定義する
先ほどコピーしたaix53.mksysbをNIMのmksysbリソースとして定義します。NIMマスター上でコマンドラインから "smit nim_mkres" を実行後、リソース一覧から "mksysb" を選択します。表示されたパラメーターの中で以下の3つを変更します。
* Resource Name [aix53_mksysb] : リソース名
* Server of Resource [master] : mksysbをおいてあるホスト
* Location of Resource [/root/aix53.mksysb] : mksysbへのパス
#bosinst.dataを準備する
bosinst.dataは、mksysbのリストアの方法を記載する設定ファイルのようなものです。今回、雛形はaix53.mksysbの中に入っているものをつかいました。以下のように、aix53.mksysbからbos.instを抽出します。
# restore -xvf aix53.mksysb ./bosinst.data
bosinst.dataを下記のガイドを参考にカスタマイズします。
mksysb の移行でカスタマイズ済みの bosinst.data ファイルを使用するための要件
https://www.ibm.com/docs/ja/aix/7.2?topic=migration-requirements-using-customized-bosinstdata-file-mksysb
わたしは、以下の部分を変更しました。
INSTALL_METHOD = migrate
PROMPT = no
ACCEPT_LICENSES = yes
RECOVER_DEVICES = no
MKSYSB_MIGRATION_DEVICE = network
target_disk_data:
PVID =
CONNECTION =
LOCATION =
SIZE_MB =
HDISKNAME = hdisk0
#bosinst.dataリソースを定義する
先程カスタマイズしたbosinst.dataをNIM上のbosinst.dataリソースとして定義します。NIMマスター上でコマンドラインから "smit nim_mkres" を実行後、リソース一覧から "bosinst_data" を選択します。表示されたパラメーターの中で以下の3つを変更します。
* Resource Name [bosinst_aix53] : リソース名
* Server of Resource [master] : bosinst.dataをおいてあるホスト
* Location of Resource [/root/bosinst.data] : bosinst.dataへのパス
これで、以下のリソースが定義されたはずです(下記の出力は、関係ないリソースを省略しています)。
# lsnim
lpp_source_aix72 resources lpp_source
spot1 resources spot
aix53 machines standalone
aix53_bosinst resources bosinst_data
aix53_mksysb resources mksysb
#
#移行インストールを開始する
以上で、準備完了です。NIMサーバーから以下のようなコマンドを実行して、移行インストールを開始します。
# nim -o bos_inst -a source=rte -a spot=spot1 -a lpp_source=lpp_source_aix72 -a bosinst_data=aix53_bosinst -a mksysb=aix53_mksysb aix53
なお、ここではaix53リストア用のLPARが起動していることを想定しています。LPARが起動していなかったり、ネットワークが疎通できないような場合には、上記コマンドがタイムアウトで終了します。その場合は、SMSメニューからネットワーク・インストールの手順を実施します。この手順は、AIX技術情報の"NIM 環境の構築"の「4. NIM クライアントへの OS の導入」が参考になります。
しばらくして、クライアントの状態を見ると、進捗が表示されます。
bash-4.3# lsnim -l aix53
aix53:
class = machines
type = standalone
installed_image = aix53_mksysb
connect = nimsh
platform = chrp
netboot_kernel = 64
if1 = network1 aix53 0
cable_type1 = bnc
Cstate = Base Operating System installation is being performed
prev_state = BOS installation has been enabled
Mstate = in the process of booting
info = BOS install 2% complete : Running: MnM_Restore_NIM_Required_Files...
boot = boot
bosinst_data = aix53_bosinst
lpp_source = lpp_source_aix72
mksysb = aix53_mksysb
nim_script = nim_script
spot = spot1
cpuid = 00CA78004B00
control = master
Cstate_result = success
bash-4.3#
#完了
完了すると、AIX7.2に移行完了した状態で起動してきます。わたしはCPU/メモリをケチったせいか、完了まで3時間近くかかりました。
$ whoami
htanaka
$ cat oslevel.txt
5300-12-05-1140
$ oslevel -s
7200-00-01-1543
$
この後、Restricted Kernel Tunablesなどの移行後のお約束作業を実施します。