こんにちわ!TUNA-JPの運営メンバーをしている @hirosat です。
本記事は、「TUNA-JP Advent Calendar 2022」の13日目のエントリです。
TL;DR (この記事の要約)
- おうちクラウドの2022年の状況と、今オススメなハードウェアをご紹介
おうちクラウドって、何?
「各ご家庭で1台以上のPCを用意してネットワークにつなげ、ちょっとした環境を準備することで、VM/コンテナ等を介したハードウェアリソースを活用できるシステム」のことを おうちクラウド と呼称しています。
個人的に、おうちクラウドを逸般の誤家庭に流行らせようと思っていて、今まで、下記のような活動をしてきました。これらのコンテンツを読めば、おうちクラウドの始め方が分かると思うので、良ければ御覧下さい!
日付 | 概要 | 備考 |
---|---|---|
2020年12月01〜25日 | Advent Calender 2020 | 「NUCで始めるVMware Tanzu」という企画で25日連続投稿(リンク) |
2021年03月12日 | NUCで始めるVMware Tanzu | CloudNative Days Spring 2021 で発表 (動画 / スライド) |
2021年9月22日 | 「おうちクラウド」が今熱い! | VMware DevOps Meetup #10 で発表 (Connpass / スライド) |
2021年10月〜2022年3月 | はじめよう,おうちクラウド | Software Design誌で2021年11月号〜2022年04月号まで6ヶ月の連載を実施。第1回と第4回を担当(第1回のバックナンバー / GitHub) |
2021年12月 | TUNA-JP Advent Calendar 2021 | おうちクラウド向けに3記事を投稿 (おうちクラウド考察2021 with TCE / おうちクラウドvSANを刷新 / ESXi on AMD版NUC 導入レポ) |
2022年10月12日 | 本日、見せます。私のおうちクラウド | K8s@home #1 で登壇 (Connpass / Youtube / Miroプレゼン資料) |
2022年のおうちクラウドニュース
おうちクラウドに影響を与えるニュースをいくつかピックアップしました。
第12世代Intel Coreプロセッサー「Alder Lake」登場
Intel Coreプロセッサーシリーズも、ついに第12世代です。Intelはここで、大幅なアーキテクチャの刷新を行いました。Alder Lakeは、"big.LITTLE" CPUアーキテクチャを導入した初のコンシューマー向けIntel CPUです。
どのようなアーキテクチャかというと、2種類のCPUコアを1つの物理的なCPUダイに統合しています。一つはP-core(Performance-core/高性能コア)であり、もう一つはE-core(Efficient-core/高効率コア)です。
P-coreは、処理性能が重視されるコアで、強力なシングルスレッド性能を持ち、ゲームの処理や重いタスク処理に向いています。E-coreは、マルチスレッド性能と、電力効率を重視したコアとなり、OSのバックグラウンドタスクやストリーミング配信のエンコードなどに向いています。このような構成は、最近のApple Siliconプロセッサでも評判となり、コンシューマ向けにこのトレンドが続くことは間違いないでしょう。
「なんだ、いいニュースじゃん!」と思うかもしれませんが、おうちクラウドにとってはそうでもありません。何故なら、後述する最新の vSphere 8 でさえ、CPU Scheduler が Alder Lake 以降のハイブリッドCPUアーキテクチャに(今のところ)対応していません。
(2023/01/23追記)
ここにCPUサポート状況について記載していましたが、内容に間違いがあったので削除しました。
Alder Lake CPUでESXiを起動しようとすると、以下の様になります。
- PSOD (Purple Screen of Death) が発生し、「Fatal CPU mismatch on feature」というメッセージが表示されます。これはPコアとEコアの両方でCPU特性が異なることが原因です。
- このPSODには回避策があり、カーネルオプション
cpuUniformityHardCheckPanic=FALSE
を起動時に追加することで、ESXi起動時のCPU均一性チェックをスキップすることができます。 - ただし、Alder Lake の特性を最大限に活かしたCPUスケジューリングはされない
- このPSODには回避策があり、カーネルオプション
一言でいうと、「せっかく高いCPUを買ったのに、コスパが悪い状態」になるので、今のところ、おうちクラウド用途には避けた方が無難でしょう。
NUC12シリーズの拡充と、NUC13の発表
- (2022年02月24日) Intel NUC 12 Extreme を発表 (Intel)
- (2022年08月18日) Intel NUC 12 Pro が登場 (PCWatch)
- (2022年09月19日) Intel NUC 12 Enthusiast を発表 (Intel / PCWatch)
- (2022年11月10日) Intel NUC 13 Extreme を発表 (Intel / ITmedia)
2021年は、コロナの余波で半導体不足に陥り、その影響でNUCの供給もなかなかされない状況が続いてましたが、2022年になり、それが徐々に緩和されてきた印象です。
Intelは2022年にNUC 12シリーズを発表してきたと思ったら、つい先月には、もうNUC 13が発表となっています。なお、それぞれのシリーズは、Intel Coreプロセッサーと対応しているため、NUC 12は上述のAlder Lakeであり、NUC 13はさらに次世代のRaptor Lakeを搭載しております。
各モデルの違いをまとめると、以下のようになります。Proは従来の小型モデルであり、EnthusiastはGPU組み込みのバランス型モデルであり、Extremeは外付けGPUに対応したハイエンドモデルという違いがあります。そして、Extremeは世代を重ねるごとに、どんどん巨大になりますね。。。
シリーズ名 | 筐体サイズ(幅mm/奥行きmm/高さmm) | 特徴 |
---|---|---|
NUC 13 Extreme | 13.8L (129×337×318) | PCIe 5.0 x16(最大3slot幅/奥行き12inchまでのGPUを利用可能)。2.5GbE+10GbE有線LANを搭載。 |
NUC 12 Extreme | 8.1L (120×357×189) | PCIe 5.0 x16(最大2slot幅/奥行き12inchまでのGPUを利用可能)。2.5Gb+10GbE有線LANを搭載。 |
NUC 12 Enthusiast | 2.5L (230×180×60) | Intel A770M GPU組み込みモデル。 |
NUC 12 Pro | 0.7L (117x112x54) ※.高さ37mmのモデルもある | 最も一般的なモデル |
各型番の違いは以下の通りです。なお、この他にNUC 12 Pro Xモデルというのもありましたが、ほぼNUC 12 Extremeと近い仕様なので割愛します(筐体やCPUは同じで、チップセットとかECCメモリ対応などが違った)
※. CPUのカッコ内の表記:(総コア数(P-core/E-core), P-core基本周波数/E-core基本周波数, インテル® スマート・キャッシュ)
※. 実売価格は、2022年12月12日にAmazonで調べた価格なので、店舗や時期で変動があります。また、「不明」となっているのは検索に引っかからなかったので、まだ市場に出回っていない可能性があります。
シリーズ名 | 製品名 | CPU | 実売価格 |
---|---|---|---|
NUC 13 Extreme | NUC13RNGi9 | i9-13900K (24(8P/16E), 3.0/2.2 GHz, 36 MB) | 不明 |
^ | NUC13RNGi7 | i7-13700K (16(8P/8E), 3.4/2.5 GHz, 30 MB) | 不明 |
^ | NUC13RNGi5 | i5-13600K (14(6P/8E), 3.5/2.6 GHz, 24 MB) | 不明 |
NUC 12 Extreme | NUC12DCMi9 | i9-12900K (16(8P/8E), 3.2/2.4 GHz, 30 MB) | ¥244,800 |
^ | NUC12DCMi7 | i7-12700K (12(8P/4E), 3.6/2.7 GHz, 25 MB) | ¥193,281 |
NUC 12 Enthusiast | NUC12SNKi72 | i7-12700H (14(6P/8E), 2.3/1.7 GHz, 24 MB) | ¥249,800 |
NUC 12 Pro | NUC12WSHv7 | i7-1270P (12(4P/8E), 2.2/1.6 GHz, 18MB) | 不明 |
^ | NUC12WSHi7 | i7-1260P (12(4P/8E), 2.1/1.5 GHz, 18MB) | ¥98,571 |
^ | NUC12WSHv5 | i7-1250P (12(4P/8E), 1.7/1.2 GHz, 12MB) | 不明 |
^ | NUC12WSHi5 | i7-1240P (12(4P/8E), 1.7/1.2 GHz, 12MB) | ¥75,857 |
^ | NUC12WSHi3 | i7-1220P (12(2P/8E), 1.5/1.1 GHz, 12MB) | 不明 |
さらに、NUC 12 Proは型番によってバリエーションがあり、同じCPUでも以下のようにスペックが異なってきます。スペックを比較する限りでは、末尾が Hv7(Hi7/Hv5/Hi5/Hi3) となっている型番が、最もフルスペックに見受けられます。
製品名 | 内蔵ドライブ | 対応Display数 | PCI Express構成 | USB ports | Thunderbolt 4 | 筐体高さ |
---|---|---|---|---|---|---|
NUC12WSKv7 | 2 (M.2 x2) | 4 (HDMI2.1 x2 + DP1.4a (TypeC) x2) | 3 (22x80, 22x42, 22x30) | 4 (前面: USB3.2 x2, 背面: USB3.2 x1, USB2.0 x1) | USB4 (TypeC) x2 | 37mm |
NUC12WSKv70Z | 2 (M.2 x2) | 2 (HDMI2.1 x2) | 3 (22x80, 22x42, 22x30) | 4 (前面: USB3.2 x2, 背面: USB3.2 x1, USB2.0 x1) | なし | 37mm |
NUC12WSHv7 | 3 (M.2 x2 + 2.5inch) | 4 (HDMI2.1 x2 + DP1.4a (TypeC) x2) | 3 (22x80, 22x42, 22x30) | 4 (前面: USB3.2 x2, 背面: USB3.2 x1, USB2.0 x1) | USB4 (TypeC) x2 | 54mm |
NUC12WSHv70L | 3 (M.2 x2 + 2.5inch) | 4 (HDMI2.1 x2 + DP1.4a (TypeC) x2) | 2 (22x80, 22x30) | 6 (前面: USB3.2 x2, 背面: USB3.2 x1, USB2.0 x3) | USB4 (TypeC) x2 | 54mm |
NUC12WSHv70Z | 3 (M.2 x2 + 2.5inch) | 2 (HDMI2.1 x2) | 3 (22x80, 22x42, 22x30) | 4 (前面: USB3.2 x2, 背面: USB3.2 x1, USB2.0 x1) | なし | 54mm |
この中で私が選ぶとしたら、NUC12WSHv7 かな、と思ってます。最も小さいNUC12 Proシリーズの中ではCPUが強力だからです。ただし、以下の観点で、今のところ様子見です。
- 前述の通り、今のESXiはAnderLakeの魅力を今のところ引き出せない
- 常時稼働のサーバ用途だと、ターボブーストの値が高くても魅力に感じないため、コアあたりベースクロックでみると、AMDの方が魅力的
- 昨今のGPUモデルの台頭をサーバ用途として考えると、AI/MLを行う分には良いですが、常時稼働するには、消費電力が高いのも難点。
- NUC 12/13 Extreme は筐体サイズが大きいのもマイナスポイント
一言でいうと、「おうちクラウド向きな、魅力的なマシンを出して下さい!Intelさん」となります・・・
オンプレ回帰
つい昨日のニュースですが、楽天が「オンプレ回帰」を決断したようです!
実は前からこの風潮はあり、2018年には DropboxがAWSから自社環境に移す とかチラホラありましたが、年々その風潮が強くなっています。一見クラウドが流行っているようにも見えるこのご時世に、何故こういうことが起こるのでしょうか?
それは、ハードウェアのコストが年々低下しているのに、クラウド事業はほぼ値段が変わらないからです。世間はこれを、クラウド税と呼びます。もちろん、クラウドもある程度は新世代シリーズを発表して少しずつ安く見せかけてはいますが、CPUの毎年のパフォーマンス増加率と明らかに合っていません。クラウド登場時は画期的なコスパでしたが、昨今のハードウェアコスト低下に伴い、自社にインフラ部門を抱える大手を中心に、まさに今「オンプレ回帰」の選択に迫られています。
実は私がおうちクラウドを始めた要因の一因でもあります。「おや?NUCって意外に安いじゃん!」というきっかけがありました。
vSphere 8 / vSAN 8 の登場
話は変わり、2022年8月30日に、ついに vSphere 8 と vSAN 8 が発表されました。
vSphere 8 の方は、DPU(Data Processing Units)への対応や、GPUによる人工知能(AI)や機械学習(ML)のパフォーマンス向上、Tanzu Kubernetes Grid 2.0への対応など、いくつか目を引く機能はあるものの、基本的には正常進化です。
それよりも、おうちクラウドユーザにとって注目すべきなのはなんといっても、vSAN 8 による vSAN ESA (Express Storage Architecture) です!これまでのvSANは、1つのハードウェアにつき、合計3つのディスク(1つはシステム用で、さらにvSAN用に2つ)が必要でした。vSAN ESAの場合、2ドライブ構成(1つはシステム用、vSAN用にも1つでOK)でもvSANクラスタが構築できるようになり、敷居が格段に低くなりました!
NUCなどの省スペース筐体でvSANを構築するチャンスですね。
今、オススメのハードウェア
Intelが上記のような状態の今、AMD Ryzenを搭載したミニPCでおうちクラウドを構築するのが、私のオススメです。AMD Ryzenは1coreあたりのベースクロックが高いので、複数のVMでCPUを共有するおうちクラウドのような環境では、そのパワーを遺憾なく発揮することができます!
AMD Ryzenを搭載したミニPCを提供するメーカーは、ASRock や GIGABYTE 等、いくつかあるのですが、私のオススメは、Minisforum です。オススメの理由は、まず直販サイトでベアボーン構成を選択した時の価格が非常に安く、筐体のバリエーションも非常に豊富なところです。実は去年のアドベントカレンダーでも、Minisforum EliteMini HM90 を紹介させていただきました。
ただし、今年は、オススメのマシンが違います!それは・・・、コチラです!!
Webサイトを見ると、もっと上位機種のUM590も存在する中、何故このマシンをチョイスしたかというと、これが GaN電源 を搭載したモデルだからです。(UM560とUM580のみ)
スペックには見えづらい電源アダプタ問題
自宅環境に複数のサーバを並べる際、筐体のサイズを参考に、設置場所を検討する人が大半かと思います。
そして、NUCやミニPCを購入して、いざ配置しようとすると、一つ気づくことがあります。「電源アダプタって、めっちゃデカイんだな・・」と。下手をすると、ミニPC筐体と同じ位大きなアダプタも存在したりします。
そんな中!GaN電源により、通常の電源アダプタが不要 になります。もちろん、UM580の場合、100Wの給電能力を有するUSBアダプタに接続する必要がありますが、購入時に付属するアダプタを使用したとしても、通常のものよりは、ずいぶんと小型になることでしょう。
こんなミニPC、他に見たことありません。非常にチャレンジングな筐体だと思います。
なお、ここまで書いておきながら、私はまだこのマシンには手を出していないので、この電源の安定性とかは保証できません・・・。 むしろ、どなたか既に持っている方、レポお待ちしていますっ!(もしくはMinisforumさん、、もし1台寄付していただければ、私の方で検証しますよーーw)
混ぜるな危険!IntelとAMD
あと、既にIntelのクラスタを組んでいる方がAMDのミニPCを組み込む場合、注意点があります。
IntelとAMDのESXiを1つのクラスタに混在させること自体は可能なのですが、Intel CPUのESXiで起動したVMは、AMD CPUのESXiにvMotionできないのでご注意を。(逆もまた然りです)
私の環境はまさに今、計5台(AMDのESXi3台/IntelのESXi2台)でクラスタを組んで運用している状況です。上記の制限により、VMの移動先が限定されて、微妙に不便なことがあります。。
2022年の総括と2023年の展望
AMD CPUのおかげで、CPUリソースは潤沢になったのは良いことなんですが、今度はメモリがボトルネックになってきたんですよね。。NUCはだいたいSO-DIMM(ノート用の小さいサイズのメモリ)2枚構成なので、Max64GBだと辛くなってきた。
実はIntelもAMDもCPUが対応する最大搭載メモリ量は128GBなので、1枚64GBのSO-DIMMが登場しないかなぁ、と、密かに願っています。もしくは、SO-DIMMが4枚載るミニPCを作ってくれないかなぁ・・・。
あとがき
気がつけば、壮大な読み物になってしまった・・。
おうちクラウドライフを、共に楽しみましょう!