半年前にAI(Claude)と一緒に作ったギヤの測り方には、中心の決め方と歯先の定義に誤りがありました。どちらもAIが自信を持って出した方法で、見つかったのは実際に測り続けた結果です。
元の記事 老眼でも測れた!USB顕微鏡+Pythonでギヤのサイズをちゃんと計測する(2026年3月16日投稿)は、直さずにそのまま残します。AIの間違いは、その時点のAIの限界を示す動かない記録だからです。この記事では、何が間違っていて、どう見つかり、今はどう測っているかをまとめます。
先に書いておきますが、今のAIも間違えます。その例も、この記事の後半に残します。
半年前の記事でやったこと
モジュール0.5、8TのPETG平ギヤをUSB顕微鏡で撮り、Python(OpenCV・NumPy・SciPy)で歯先円直径を測りました。結果は5.075mmで、理論値の5.000mmより0.075mm太い、という結論でした。
手順は5つでした。
- 画像に写した1mmスケールの目盛りを自動で読み、1ピクセルが何mmかを求める
- オレンジ色を色で切り出して、ギヤの形を取る
- 輪郭全体の重心を「ギヤの中心」とする
- 中心から3600方向に半径を測る
- 半径が一番大きい山を「歯先」として、直径を出す
歯ごとの歯先半径のばらつきは、標準偏差0.0136mmでした。AIへの声のかけ方も一緒に載せ、「コードを書かなくても同じことができる」と書きました。
この記事は、ギヤの記事の中で一番読まれています。ここから「老眼でも測れた」シリーズが始まり、27本以上になりました。
何が間違っていたか
半年で変わったことには、出どころの違う3種類があります。AIが間違えて測定で発覚したもの、AIも私も知らず使ううちに分かったもの、私が気づいてAIに直させたものです。
| 項目 | 半年前 | 今 | 種類 |
|---|---|---|---|
| 中心の決め方 | 輪郭全体の重心 | 軸穴の中心 | AIの誤り。測定で発覚 |
| 歯先の位置 | 半径が一番大きい点 | A面とB面がピッチ円を横切る2点の真ん中を外へ延ばした点 | AIの誤り。測定で発覚 |
| 精度を決めるもの | 何が効くか分かっていなかった | 照明とピント。位置合わせは要らない | 両方とも知らず、使ううちに分かった |
| 長さの基準 | 画像の1mmスケール | ノギスで測った外径を入力し、既知の直径のドリル軸で確かめる | 両方とも知らず、使ううちに分かった |
| 測るもの | 歯先円直径だけ | 歯先円・歯底円・弦歯厚、A面とB面の圧力角、奇数歯と偶数歯の差、理想インボリュートとのずれ | 私の観察から始まった |
| 奇数歯と偶数歯の差 | 知らなかった | 圧力角が系統的に違う。ノズルが1軸で動くか斜めに動くかの速さの差が原因 | 私の観察から始まった |
| A面とB面の割り当て | — | 画像のY軸が下向きで、数学のY軸と逆だったために取り違えていた | 別のAI(ChatGPT)の指摘を採用 |
| 結果の示し方 | 1回の測定値 | 同じギヤを撮り直したばらつきを先に示す | 両方とも知らず、使ううちに分かった |
中心を重心で決めると何が起きるか
FDMの歯は1本ずつ太さも形も少しずつ違います。輪郭全体の重心は、太い歯の方へ引っ張られ、本当の回転中心からずれます。ずれた中心から半径や圧力角を測ると、歯ごとに系統的な誤差が乗ります。
この誤りで、一度は「樹脂ギヤは射出成形の縮みで圧力角が17°になる」という結論まで出していました。軸穴の中心を基準に測り直したところ、この結論は成り立たなくなりました。AIは「重心=中心」を当然のように使い、それでよいかの確認はしませんでした。
歯先を半径最大の点にすると何が起きるか
FDMの歯先は、ノズルがA面から歯先を回ってB面へ押し出すため、左右非対称に崩れます。半径が一番大きい点は、その崩れ方で左右に動きます。歯の向きや歯厚の測定が、崩れ方に引きずられていました。
今の測り方
測定は、半年かけて育てたgear_analyzer.pyという道具で行っています。中身の考え方は次のとおりです。
- 撮影:黒いラシャ紙の上にギヤを置き、照明とピントを合わせる。顕微鏡の位置合わせは要らない。段ボールのXYステージで足りる。
- 長さの基準:ギヤに付けたマーカー歯の先端同士をノギスで測り、その値と画像のピクセル距離から換算する。換算が合っているかは、既知の直径のドリル軸を横から撮って確かめる。
- 照明:顕微鏡の内蔵LEDより、100円のLEDランプ1灯を斜め上から当てる方が、反射と影が消える。
- 中心:軸穴の輪郭に円を当てはめ、その中心を回転の中心にする。
- 歯先と歯面:A面とB面がピッチ円を横切る角度から歯の向きを決める。各面で圧力角、奇数歯と偶数歯の差、理想インボリュートとのずれを出す。
- 繰り返し:同じギヤを撮り直してばらつきを確かめる。軸穴の中心のずれは、3回の撮影で平均15.3µm、標準偏差7.7µmでした。この範囲より小さい差は、差として語らない。
- 性能と並べる:測った指標をCSVに貯め、モーターベンチの消費電流・騒音と並べて、どの指標が性能に効くかを相関で調べる。
半年前の手順のうち、黒い背景にすることと、「前回と同じ倍率のはず」を信用しないことは、今もそのまま生きています。
結論はどう変わったか
半年前は「理論値より0.075mm太い」が結論でした。太いなら理論値に近づければよい、という考え方です。測り続けてベンチと並べると、注目すべきものが変わりました。
| 半年前の考え | 今分かっていること |
|---|---|
| 歯先円直径を理論値に近づけるのが目標 | 少し小さめの方が消費電流が少ない。実測4.94mmのPETG 8Tは、市販のPOM 8T(実測約4.97mm)より電流が少なかった。決め手は寸法の正確さではなくバックラッシュだった |
| 精度は高いほどよい | バックラッシュと消費電流の関係はU字で、最適値がある。緩すぎても詰めすぎても電流が増える |
| 歯形を整えるほど性能が上がる | 圧力角の補正は、出来の悪いギヤをまともにするところまでは効く。そこから先は、ベンチの差が小さくなる |
| 歯ごとのばらつきが音に効く | 騒音の大部分はモーター缶の振動の伝わり方で決まる。マウントに0.5mmのシリコンゴムを挟むと約4dB下がり、ギヤを外したモーター単体でもほぼ同じ効果が出た |
| — | 軸間距離は、消費電流より騒音と強く結びついていた(相関係数 +0.72) |
半年前の記事の問いは「正確に測れるか」でした。今の問いは「性能に効く数字を測っているか」です。測り方を磨いた結果、磨きすぎなくてよいところも分かった、というのが正直なところです。
AIはどう変わったか、今も何を間違えるか
半年前のAIは、写真を解析して、そのコードを書くところまででした。今のAIは、部品を設計し、自分で計算して確かめるところまで進んでいます。最近のベベルデフの作業では、次のことをAIが自分の作業環境で進めました。
- 13T×24Tのベベルギヤを設計し、ケースに組んだ状態で全位相の干渉を調べてSTLを作る
- 積層の山同士の当たり方を計算し、速度変動とその倍音を出す
- 円弧スポークのホイールを梁の有限要素法で計算し、ねじれとたわみを確かめる
それでも、間違いは消えていません。ここ数日の作業だけでも、次のような間違いがありました。
| AIの間違い | 本当は | 見つけたのは |
|---|---|---|
| 円弧スポークの硬さを手計算で見積もった | 約5倍硬かった。リムが回るとスポークが軸方向に引っ張られる効果を落としていた | AI自身(有限要素法で計算し直して) |
| ベンチの記録をPETGデフのものとして読んだ | 純正のPOMデフの記録だった | 私 |
| 片輪を止めたときのデフの摩擦分を6〜10mAと見積もった | 約22mAだった | AI自身(モーターの式を組んで計算し直して) |
| 「デフを分解したら、なじんだ歯の組を元に戻さないと引っかかりが戻る」と助言した | 何度分解しても戻らなかった | 私(実際の経験から) |
半年前と比べて変わったのは、間違いのうちいくつかを、AIが自分の計算で見つけて直すようになったことです。中心を重心で決めた間違いは、何か月も測り続けてようやく見つかりました。スポークの間違いは、その日のうちにAIが自分で計算し直して見つけました。
変わらないのは、AIが知らないことをもっともらしい仮定で埋めてしまうことです。ベンチの記録をPETGだと思い込んだのも、何も聞かずに前後の話の流れから決めつけたためです。こういう間違いは、本物の部品と測定値を手元に持っている人にしか見つけられません。
間違いを残す理由
元の記事を直さないのは、AIの間違いが、その時点のAIの知識の限界を示す目印になるからです。直してしまうと、「半年前のAIはここまでだった」という記録が消えます。その代わり、元の記事の冒頭にこの記事への案内を入れ、真似した人が同じずれを抱えないようにします。
次にやること
半年前の記事に載せた「AIへの声のかけ方」を、そのままの順番で今のAIに試します。前の会話の記録を持たない、まっさらな状態から始めます。
- 中心を重心で取るか、軸穴で取るか。それとも、どちらがよいかを確かめてくるか。
- 歯先を半径最大の点にするか。
- 測定を繰り返すように勧めるか。
今のAIが同じ間違いをしなければ、AIそのものが良くなったと言えます。同じ間違いをすれば、良くしたのはAIではなく、半年分の測定と、それをAIに伝え続けた会話だったことになります。どちらの結果も、次の記事で記録します。
まとめ
- 半年前にAIと作った測り方は、中心を重心で決め、歯先を半径最大の点としていた。どちらもFDMギヤでは誤差の元になる。
- 今は軸穴を中心にし、A面とB面を分けて測り、同じギヤを撮り直したばらつきの範囲で差を語る。
- 「正確に測る」より「性能に効く数字を測る」。効いていたのは、寸法よりバックラッシュだった。
- AIは自分の計算で間違いを直せるようになったが、知らないことを仮定で埋める癖は残っている。それを見つけるのは、今も測定と、測定した人の目である。
老眼でも測れます。ただし、測った数字を疑うのは、今も人の仕事です。
元の記事の冒頭に入れる案内(例)
【追記 2026年10月】この記事の「輪郭の重心を中心にする」「半径最大の点を歯先にする」方法は、後に誤差の元になると分かりました。AIの間違いの記録として本文はそのまま残しています。現在の測り方は 老眼でも測れた・半年後 をご覧ください。