はじめに
「老眼でも測れた」シリーズでは、FDM印刷によるRCギヤの歯形をいかに市販品(射出成形品)に近づけるか、という方向で改良を重ねてきました。奇数歯・偶数歯の圧力角非対称設計(奇数18°/偶数22°)、フロー補正、B面を正転駆動面として選ぶ設計方針など、いずれも「歯形の精度を市販品に近づける」ことをゴールに据えたものでした。
今回、更にフロー補正をしたPETG8Tギヤでモーターベンチでの消費電流測定を行ったところ、意外な結果が出ました。自作PETG8Tギヤが、幾何学的な精度では市販POM8Tに劣るにもかかわらず、消費電流では市販品より少なくなったのです。本稿ではその測定過程と、そこから見えてきた「寸法精度よりバックラッシュが効いている」という仮説について記録します。
測定条件
- モーター:MR03PETG縦置きモーターマウント(軸間距離:実測12.51mm、設計上は約12.42mm)
- 比較対象:
- 自作PETG8T(41T平ギヤと組み合わせ)
- 市販POM8T(同条件)
- 計測項目:時間・回転数(rpm)・消費電流(mA)・騒音(dB)・温度
消費電流の比較
回転数(rpm)を横軸、消費電流(mA)を縦軸に取り、両データを6次多項式でフィッティングした結果が以下です。
- PETG8T: R² = 0.9224
- POM8T: R² = 0.9870
5000rpm時点での消費電流を比較すると:
| ギヤ | 消費電流 @5000rpm |
|---|---|
| PETG8T | 452.9 mA |
| POM8T | 478.3 mA |
| 差 | 25.5 mA(-5.3%) |
低回転域(〜1000rpm)ではさらに差が大きく、PETG8Tの方が-16.4%も消費電流が少ない結果でした。
騒音はほぼ同等
一方、騒音(dB)についても同様に6次近似で比較すると、両者はほぼ同じカーブを描き、大きな差は見られませんでした。
騒音に差がないということは、歯先同士が激しく衝突するような「空回り一歩手前」の異常な噛み合いではなく、通常の噛み合いの範囲内で摩擦損失だけが異なっている、と解釈できます。
なぜPETG8Tの方が消費電流が少なかったのか
歯形精度ではPOM8Tが優位
ギヤアナライザでの実測比較では、POM8Tの方が明らかに精度が高い結果でした。
| 項目 | PETG8T | POM8T |
|---|---|---|
| 圧力角 std | 2.8〜2.9° | 1.1° |
| 弦歯厚 std | 0.035〜0.036mm | 0.007mm |
| 歯先間隔 std | 1.5° | 1.1° |
| インボリュート適合 | B面は概ね一致 | ほぼ全面で一致 |
POM8Tは射出成形品らしく、歯ごとのばらつきが一桁小さく、45°ピッチの角度位置もPETG8Tよりきっちり揃っていました。PETG8T側で角度ズレが大きめに出たのは、偶数歯+6%/奇数歯-6%というフロー補正によって、隣接歯の印刷条件が交互に変化し、位置決め誤差が蓄積しやすくなっているためと考えられます。
決め手は「寸法」ではなく「バックラッシュ」
ここで効いてくるのが、実測寸法の違いです。
- CAD設計値:5.000mm
- PETG8T実測(歯先円直径):4.84mm(ノギス実測基準)→ -3.2%のアンダーサイズ
- POM8T実測:4.973mm → 理論値にほぼ一致
つまりPETG8Tは、設計上の意図というよりは印刷の収縮特性の結果として、たまたまアンダーサイズに仕上がっていました。このアンダーサイズがバックラッシュを増やし、噛み合いの面圧を下げ、摺動摩擦(クーロン摩擦 F=μN のN側)を減らす方向に働いた、というのが最も筋の通る説明です。
過去の経験則として、バックラッシュが大きいほど消費電流が少なくなる傾向は以前から見られていました。ただしバックラッシュを大きくしすぎると、今度は歯が噛み合いの限度を超えて空回りする別の失敗モードに転じます。今回のPETG8T(実測4.84mm)は、騒音がPOM8Tと同等だったことから、空回りの兆候はまだ出ておらず、「摩擦は減るが空回りはしていない」領域に収まっていると考えられます。ただし対角歯先距離には歯ごとに4.831〜4.915mmのばらつきがあり、平均値が示す以上に一部の歯はすでに限界に近い可能性もあるため、これ以上小さくする方向の検証は慎重に進める必要があります。
設計値と実測値の関係についての補足
余談ですが、今回の測定過程で「設計径5.15mm前後にすれば実測5.00mmに近づくのでは」という予測を立て、一度はキャリブレーション誤りにより誤った結論(-0.82%の収縮率という過小評価)を出してしまいました。ノギスによる実測値(4.84mm)を基準に測定し直した結果、正しい収縮量は-3.2%であり、実測5.00mmを狙うなら設計径は概ね5.15〜5.17mm付近が妥当という結論に落ち着いています。ただし、上記の通り「実測5.00mmに寸法補正すること」自体が今回の良好な電流特性を損なう可能性がある、という点が今回の結論の面白いところです。
まとめ
- 圧力角・歯先間隔・弦歯厚のいずれも、市販POM8Tの方がPETG8Tより幾何学的に高精度だった
- それでもモーターベンチでの消費電流は、アンダーサイズのPETG8Tの方が市販POM8Tより約5%(5000rpm時点)少なかった
- 騒音特性はほぼ同等で、異常な空回りの兆候は見られない
- 「寸法精度が高い=性能が良い」とは限らず、このモーターマウント(軸間距離12.51mm)に対する噛み合いの余裕(バックラッシュ)の方が、消費電流を支配する要因として大きい
- バックラッシュを増やす方向の最適化には、空回りという別の限界があり、今回のPETG8T(実測4.84mm)はその限界の手前にあると考えられる
寸法精度を追求すること自体は依然として重要ですが、「そのモーターマウント・その負荷条件に対して噛み合いがどれだけ余裕を持っているか」という、実測ベースでの最適化も同じくらい重要である、という点が今回の測定から得られた収穫でした。

