前回までのあらすじ
前回の記事で、Mini-Zギヤの「性能指紋」(RPM対電流・騒音特性)を自動測定するベンチテスト装置を組み上げ、PWM周波数の調整・GND配線の見直し・ソフトウェアデバウンスなどを経て、6次多項式近似でR²0.9前後という実用的な精度に到達した。
今回は、その装置で同じギヤを4回連続で測定したときに見つかった問題と、その対処について記録する。
発見:測定を繰り返すと数値がじわじわ上がっていく
同一ギヤで4回連続テストを行い、各回の保持区間(デューティ80%固定)のRPM・電流を比較したところ、ランダムなばらつきではなく、明確な単調増加の傾向が見つかった。

| 回 | RPM平均 | 電流平均(mA) |
|---|---|---|
| 1回目 | 4116 | 232.9 |
| 2回目 | 4196 | 235.0 |
| 3回目 | 4238 | 239.9 |
| 4回目 | 4447 | 240.8 |
RPMと電流が両方とも、回を追うごとに一貫して増加している。これは測定ノイズの範囲を超えた挙動である。
原因の推定:モーターの発熱
考えられる原因は、連続してテストを繰り返したことによるモーターの発熱である。モーターの巻線は温度が上がると電気抵抗が下がる性質があるため、同じ電圧・同じデューティでも、暖まるにつれてより多くの電流が流れ、より高い回転数まで回るようになる。ログ上、各テストの間隔(# motor profile doneから次の# motor profile startまで)は数十秒程度しかなく、モーターが十分に冷える時間が確保できていなかった。
4回目のテストでは、テスト内のRPMばらつき(標準偏差)も±145(約3.3%)まで悪化しており、モーターが温まりすぎてフォトセンサーの検出条件自体が変化した可能性も考えられる。
この状態でギヤ比較をすると何が起きるか
もしギヤA・B・Cを続けて測定した場合、この発熱ドリフトが乗ると「後に測ったギヤの方が電流・RPMが高く出る」という測定順序に依存したバイアスが生じかねない。これはギヤの真の性能差と区別がつかず、比較実験そのものの信頼性を損なう。
対策:強制空冷
最も確実な対策は、テストごとにモーターが十分に冷えるまで待つことだが、待ち時間の目安が分からない(MLX90614温度センサーが未搭載のため、実温度を直接測る手段がなかった)。そこで、扇風機でモーターに強制的に風を送り、待ち時間を短縮しつつ冷却効果を安定させる方法を試すことにした。
同じ条件(同一ギヤ、4.8V、PWM31.25kHz、80%デューティ上限)で、扇風機を使いながら再び4回連続テストを行った。
結果:ドリフトはほぼ解消した
| 自然放熱(前回) | 強制空冷(今回) | |
|---|---|---|
| RPM平均の推移 | 4116→4196→4238→4447 | 4222→4226→4283→4254 |
| RPM run間変動係数(CV) | 2.9% | 0.6% |
| 電流 run間CV | 1.4% | 1.2% |
| テスト内RPMばらつき(4回目) | ±145(3.3%) | ±12〜30(0.3〜0.7%) |
RPMの単調増加傾向は見られなくなり、run間のばらつきも約5分の1に縮小した。4回分の6次近似曲線を重ねると、ほぼ同一の曲線上に揃っていることが視覚的にも確認できる。
4回それぞれの6次近似曲線を個別に描くと、以下のようになる(1回目のみR²がやや高く0.93、2〜4回目は0.85〜0.88)。
なお、4回平均の絶対値そのものは自然放熱時(平均約4249rpm)と強制空冷時(平均約4246rpm)でほぼ同じであり、空冷は数値を「低く見せている」のではなく、熱によるバイアスを除いて安定させていると解釈できる。
騒音側にも同じ傾向が波及していた
騒音(dB)の保持区間平均も、自然放熱時は64.12→64.28→64.59→65.05 dBと単調に上昇していたのに対し、強制空冷時は64.27→64.36→64.55→64.49 dBとほぼ横ばいになった。run間のばらつきも±0.35 dB→±0.11 dBへと縮小している。
これは、この装置の騒音計算式が「RPMからのテーブル参照値+マイク信号による小さな補正」という設計であるため、RPMが安定すればそれに連動して騒音値も安定する、という構造上の結果である。逆に言えば、騒音測定自体が改善したわけではなく、RPM測定の安定化がそのまま波及しただけという点には注意が必要である。
余談:扇風機の音は騒音測定に影響しなかった
強制空冷中でも、モーター停止中の待機区間の騒音値(59.3〜59.4dB付近)は、空冷ありなしで変化しなかった。これは、上記の通り騒音計算式がマイクの生信号にほとんど頼っていない(係数0.10という小さな重み付けしかしていない)設計のためで、扇風機の風切り音のような外部ノイズにそもそも反応しにくい。裏を返せば、ギヤ固有の音の違いを本気で拾いたい場合は、この計算式自体を作り直す必要があり、その場合はマイクをフィルタースポンジ等で風防することが必要になる。
得られた「誤差の基準線」
強制空冷下での4回の6次近似曲線から、特定RPM時点での電流を比較すると
- 3000rpm付近:最大-最小差 6.9mA(約4.6%)
- 4000rpm付近:最大-最小差 12.4mA(約5.6%)
と、RPM帯によらずおおむね4〜6%程度のrun間ばらつきに収まることが分かった。これが、今後この装置でギヤを比較する際の「これ未満の差は測定誤差として扱うべき」という基準線になる。逆に言えば、この基準を明確に上回る差が出て初めて、ギヤの性能差として意味を持たせられる。
まとめ
- 同一ギヤの繰り返し測定でも、連続テストによる発熱で数値がドリフトすることが分かった
- 強制空冷により、run間のばらつきをRPMでCV2.9%→0.6%、電流で1.4%→1.2%まで抑えられた
- 騒音測定への波及効果はあったが、これはRPM安定化の副産物であり、騒音測定自体の精度向上ではない
- 扇風機の音は現在の計算式では拾われていない
- 同一ギヤの繰り返し測定における自然なばらつきは、RPM帯によらずおおむね4〜6%程度という目安が得られた
今後、複数のギヤを比較する際は、この強制空冷を標準の測定手順として組み込み、上記のばらつき基準を踏まえて結果を評価していく。

