衝撃の黒田朝日選手5区起用
2026年1月2日、3日に行われた箱根駅伝ですが、結果は多くの方がご存じのとおり青山学院大学が3連覇を果たしました。特に往路は、早稲田ファンの私めは往路優勝を確信し歓喜の涙を流すまで至ったにもかかわらず、残り1.8kmでの大逆転。いまだに立ち直れません…。
黒田5区は戦前から可能性として示唆されていたとは言え、実際に5区起用した原監督の箱根駅伝を知り尽くした戦略は、もうさすがと脱帽するしかありません。しかし気になるのは黒田選手が正攻法の2区起用だったとしたらどうだったかということですよね。まあ総合優勝は果たしたとは思いますが、往路はさすがにどうだったのかと思われる方は多いと思います(私もその1人です)。
ということで、もし黒田選手が2区だった時の結果予測をしてみました。
【前提】選手のハーフマラソンタイム(予測)
各区間の走破タイムは、選手のハーフマラソンベストタイムとある程度の相関があると予想されるため、ハーフマラソンの公式タイムがないランナーに関しては下記記事の方法でハーフマラソンタイムを補完しました。
ハーフマラソンから箱根の区間走破タイムを予測する
箱根駅伝の区間走破タイムを目的変数、ハーフマラソンベストタイムを説明変数とする単回帰分析を行い、各選手の「本来の予測タイム」を算出しました。
5000m・10000m・ハーフマラソンタイムを説明変数とする重回帰分析も検討しましたが、サンプルサイズが小さく多重共線性が強く出るため、単回帰にしました。
それではまず5区の散布図を見てみましょう。
(画像:5区 ハーフマラソンタイム vs 区間タイム)

決定係数 $R^2 = 0.31$とまずまずのフィットです。黒田朝日選手(最も下の点)の異常な好走が一目でわかります。
黒田選手は予測より227秒(約3分47秒)速く、城西大学・斎藤選手も212秒速く走っています。一方、山の名探偵こと早稲田大学・工藤選手は予測より33秒遅れ。往路1位青学と2位早稲田の差はわずか18秒だったため、「黒田選手のプレッシャーなく実力を発揮できていれば……」と想像してしまいます。
黒田朝日選手の5区パフォーマンスまとめ:
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| ハーフマラソンタイム | 1時間01分39秒(3699秒) |
| 5区区間タイム | 1時間07分16秒(4036秒) |
| 回帰モデルによる予測タイム | 1時間11分03秒 |
| 残差(実績 - 予測) | -227秒(約3分47秒速い) |
2区の分析:相関が異常に低い
つづいて2区の分析です。
$R^2$(決定係数)がわずか0.0002、p値が0.949という無相関以外の何物でもないという結果。つまり、ハーフマラソンのタイムでは2区の走破タイムをほとんど予測できないということです。
一因:帝京大学・楠岡由浩選手のアクシデントの影響
一因として、2区区間賞候補の1人であった帝京大学の楠岡由浩選手が、本来の実力よりかなり遅い走破タイムだったことが挙げられます。
楠岡由浩選手の2区パフォーマンスまとめ:
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| ハーフマラソンタイム | 1時間01分43秒(3703秒) |
| 2区区間タイム | 1時間11分50秒(4310秒) |
| 回帰モデルによる予測タイム | 1時間07分21秒 |
| 残差(実績 - 予測) | +269秒(約4分29秒遅い) |
楠岡選手は6km以降、足底痛を抱えながらの走りだったと報じられており、そのアクシデントが数字にも表れています。
楠岡選手を外れ値として除外し再分析すると、残差標準誤差が108.5秒から90.4秒に、決定係数が0.0002から0.0010に(一応)改善。だからと言って相関があるとは言えませんが、以降の解析では楠岡選手のデータを除外します。
シミュレーション:黒田→2区、飯田→5区だったら?
黒田選手2区だった時に、誰が5区を走ったのかは「原のみぞ知る」ですが、実際のレースで2区を走った飯田翔大選手が5区を走ったと仮定して解析を進めます。
予測の考え方:標準化残差
単純に「ハーフマラソンのタイムから2区のタイムを予測する」だけでは、当日の選手の調子などを反映できていません。そこで当日の実際の結果を反映させるために標準化残差を用いて解析します。
標準化残差の定義
標準化残差 = (実際のタイム − 予測タイム) ÷ 残差標準誤差
「その選手が予測からどれだけ外れた走りをしたか」を、区間ごとのばらつきを考慮して数値化しました。
- マイナスの値 → 予測より速く走った(好走)
- プラスの値 → 予測より遅く走った(不調)
- 絶対値が大きいほど → 予測からの乖離が大きい
具体的な計算例:黒田選手の2区予測
Step 1:5区での標準化残差を算出
黒田選手の5区標準化残差
= (4036秒 − 4263秒) ÷ 119.5秒
= −227秒 ÷ 119.5秒
= −1.90
Step 2:同じ標準化残差を2区に適用
黒田選手の2区予測タイム
= 2区の予測値 + 標準化残差 × 2区の残差標準誤差
= 4026秒 + (−1.90) × 90.4秒
= 4026秒 − 172秒
= 3854秒(1時間04分14秒)
この計算は、「黒田選手が5区で見せた"予測を上回る度合い"を、2区でも同様に発揮する」という仮定に基づいています。
具体的な計算例:飯田選手の5区予測
飯田選手の2区標準化残差
= (3989秒 − 4022秒) ÷ 90.4秒
= −33秒 ÷ 90.4秒
= −0.36
飯田選手の5区予測タイム
= 5区の予測値 + 標準化残差 × 5区の残差標準誤差
= 4380秒 + (−0.36) × 119.5秒
= 4380秒 − 43秒
= 4337秒(1時間12分17秒)
シミュレーション結果
| 選手 | 実際の区間 | 実際のタイム | シミュレーション区間 | 予測タイム |
|---|---|---|---|---|
| 黒田朝日 | 5区 | 1:07:16 | 2区 | 1:04:14 |
| 飯田翔大 | 2区 | 1:06:29 | 5区 | 1:12:17 |
なんと黒田選手が2区を走れば、区間新だったキムタイヴィクター選手の1:05:09を大幅に上回る1時間04分14秒という驚異的なタイムに!一方、飯田選手が5区を走った場合、予測タイムは1時間12分17秒。黒田選手の実際のタイムより約5分遅くなります。
往路タイムへの影響
| 区間 | タイム変化 |
|---|---|
| 2区 | -135秒(黒田起用で2分15秒の短縮) |
| 5区 | +301秒(飯田起用で5分01秒の遅延) |
| 往路合計 | +166秒(約2分46秒の遅延) |
往路順位はどう変わったか
第102回箱根駅伝実際の往路順位(上位5チーム)
| 順位 | 大学 | タイム |
|---|---|---|
| 1位 | 青山学院大学 | 5:18:08 |
| 2位 | 早稲田大学 | 5:18:26 |
| 3位 | 中央大学 | 5:19:44 |
| 4位 | 國學院大學 | 5:20:02 |
| 5位 | 城西大学 | 5:20:20 |
シミュレーション後の往路順位
| 順位 | 大学 | タイム | 変動 |
|---|---|---|---|
| 1位 | 早稲田大学 | 5:18:26 | ↑1 |
| 2位 | 中央大学 | 5:19:44 | ↑1 |
| 3位 | 國學院大學 | 5:20:02 | ↑1 |
| 4位 | 城西大学 | 5:20:20 | ↑1 |
| 5位 | 青山学院大学 | 5:20:54 | ↓4 |
早稲田大学が往路優勝!青山学院大学は5位という予測になりました。
結論:原監督の采配は正しかった
「エースは2区」という固定観念にとらわれず、黒田選手の特性、適正の見極め、「5区でしか差がつかない」と判断した原監督の判断は正しかったという結論しか出せません(←負け惜しみの表現です)。
実際のレースでは天候や展開、選手のコンディションなど多くの変数が絡みますし、そもそも公式のベストタイムがその選手のその時の実力とは限りません。この結果はあくまで統計モデルに基づく推定です。
しかし少なくとも、黒田が2区だったら早稲田は往路優勝だったという幻想を抱いて、2026年を過ごしていき、来年も早稲田を応援したいと思うのでありました…。


