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交通事故オープンデータ+OSM+街路写真による交通事故分析の試み(1)

Last updated at Posted at 2018-03-11

OSMの位置精度

OSM(OpenStreetMap)の位置精度については、2009-2011年頃に国交省オルソ化空中写真やYahoo/ALPSデータを利用させて頂いていた時からすると1/2500レベルのマッピング用リソースが多数提供されている現状は隔世の感があります。以前は位置精度の拠り所は最終的にはGPSロガーの軌跡(5m程度の誤差)とされていましたが、現在利用できる画像等のリソースは(場所にもよりますが)たいていは一般的な市販GPSロガーの精度を超えており、今やリソース(画像)間のわずかな誤差が気になる状況です。
中でもやはり地理院さんのリソースは所定の基準をクリアしているものだけに安定感があり、歩道などのマイクロマッピングによく使わせてもらっています。
こうして近年細部のマッピングが進み始めた結果、歩道が描かれているようなエリアでは体感的にはOSMの位置精度自体が1-2m程度の誤差範囲内に収まってきている印象です。(もちろんまだエリアによって整備状況のバラツキはかなりあります)

OSMで描かれ始めた歩行者用経路

画像トレースによって公園のような広い空間、建物、道路といった定番に加えて歩行者用の経路として歩道が描かれるようになった結果、横断歩道もウェイとして描かれるようになってきました。商用地図では、理由はよく分かりませんが、横断歩道は描かれていないようです。
OSMではゼブラゾーンのある横断歩道(crossing=zebra)

(c)Mapillary CC BY-SA 4.0
はもちろん、住宅街の路地から幹線への出口と歩道が交わる部分などにあるゼブラゾーンの無い横断歩道(crossing=unmarked)

(c)Mapillary CC BY-SA 4.0
も歩行者用経路の一部として表現することができます。

交通事故データのオープン化

佐賀県では10万人あたり人身事故数が5年連続全国ワースト1という危機的な状況もあってか、Code for Sagaからの働きかけに応じて佐賀県内全域の交通事故データ(2017/7-2017/9)のオープンデータ化に踏み切りました。事故発生日時、天候、当事者双方の属性、事故発生箇所の位置情報(これがかなり高精度)などを含んでいます。

交通事故データの概要

公開された事故データをおおまかに集計すると以下のとおりです。
- 県内総事故件数:1,755
-- 佐賀市事故件数:623(県内の約35%)
--- 車両相互:579
--- 車両単独:15
--- 人対車両:29

(佐賀市事故のうち)
-- 対自転車:99(佐賀市全人身事故中約16%)
 (出会い頭:54,左折時:17,右折時:17,その他:7
追越追抜時:2,すれ違い時:1,正面衝突:1)

交通事故データの分析対象

佐賀市街地は平坦であることなどから自転車の利用者が多く、それに比例して自転車絡みの事故が多くなっています。ここでは佐賀市の自動車対自転車の事故の中でもいちばん多い「出会い頭」の事故54件に絞って分析してみます。

OSMに交通事故データを重ねる

事故データをuMapにインポートした結果です。赤い点が佐賀市の出会い頭自転車事故54件を示します。
saga_bicycle_deaigashira.png
(c)OpenStreetMap.org contributors
いくつかズームインして見てみます。(リンク先マップ上の赤い点をクリックすると事故の詳細情報が表示されます)なお、推測した情報は私の判断によるもので専門家のレビューを受けたものではありません。

1)住宅街の路地から国道への出口

deaigashira1.png
(c)OpenStreetMap.org contributors

1.1)公開データから分かる主な情報

  • 発生日時:2017/7/6 7:52(雨)
  • 当事者1:軽自動車(39歳男性)
  • 当事者2:自転車(15歳女性)

1.2)OSMと重ねて見た事故発生位置から推測できる当時の状況

「出会い頭」の事故であることと、発生地点が路地と歩道の交点の右(東)側であることから、以下のように推定できます。(上述の通り専門家のレビューを受けていないので間違いもあるかもしれません。分析の元にした写真の撮影時点とは違うことも考えられます。また、位置のズレもあるかもしれません。仮説ということでご理解頂ければ幸いです。)

  • 軽自動車は住宅街の路地を国道208号へ向けて南下中。
  • 自転車は国道208号脇の歩道を東から西へ逆走(本来は左側通行本稿では車両としての本来の走行方向を順走、その反対を逆走としています)で移動(通学?)中。

1.3)現地の写真(事故発生5ヶ月後)から推定できる情報

  • 全般
    • 事故当日は雨天のため視界は悪い。自転車は道を急ぐ心理も働く。
  • 軽自動車側から見えていた情景

    (c)Mapillary CC BY-SA4.0, 2017/12/17撮影

    • 右側の建物が歩道ギリギリまでせり出し、視界を遮っている。
    • カーブミラーも無く、特に右側の視認は車体を前に出さないと困難。
    • 右側の電柱や店舗の広告旗も視界の障壁となっている。
    • 左側の自販機や散髪屋ポールも障壁。
    • 「とまれ」の白線や標識が無い。
    • 全般的にまず右側に注意が向く状況(左側から来る自転車に気づくのが遅れやすい)。
  • 自転車側から見えていた情景(写真は進路逆方向からのもの)

    (c)Mapillary CC BY-SA4.0, 2017/12/17撮影

    • 路地との合流点の注意喚起が無いため、自動車が出てくるリスクに気づきにくい。

1.4)考えられる対策

  • 停止線や一時停止標識の設置。
  • 歩道と路地の交差エリアにゼブラゾーン(横断歩道)や赤、オレンジなどで塗装して自動車と自転車の双方に注意喚起する。
  • 看板類の位置移動。
  • 電柱の地下埋設。
  • 建物のセットバック。
  • 信号機の設置もしくはここは国道からの進入専用(一方通行)にして、別の信号機のある交差点を出口にする。
  • 自転車逆走の禁止指導。

2)ドライブスルーから国道への出口

deaigashira2.png
(c)OpenStreetMap.org contributors

2.1)公開データから分かる主な情報

  • 発生日時:2017/7/27 12:30(晴)
  • 当事者1:軽自動車(38歳女性)
  • 当事者2:自転車(18歳男性)

2.2)OSMと重ねて見た事故発生位置から推測できる当時の状況

  • 軽自動車はドライブスルー出口から国道208号へ向けて合流中。
  • 自転車は国道208号脇の歩道を東から西へ逆走(本来は左側通行)で移動(通学?)中。

2.3)現地の写真(GSV,事故発生4ヶ月前)から推定できる情報

  • 軽自動車側から見えていた情景
    • 左手に柵と生け垣があり、視界を遮っている。
    • 右手は駐車場で、駐車車両があれば視界を大きく遮ることが推定される。
  • 自転車側から見えていた情景
    • ドライブスルー出口と歩道の合流点の注意喚起が無いため、自動車が出てくるリスクに気づきにくい。

2.4)考えられる対策

  • ドライブスルー出口と歩道の交差エリアにゼブラゾーン(横断歩道)や赤、オレンジなどで塗装して自動車と自転車の双方に注意喚起する。
  • 左手の柵や生け垣を改善して視界を広げる。
  • 右手の駐車場の視界を遮るエリアを駐車禁止にする。
  • 自転車逆走の禁止を指導。

3)住宅街の路地から県道への出口

deaigashira3.png
(c)OpenStreetMap.org contributors

3.1)公開データから分かる主な情報

  • 発生日時:2017/7/3 8:2(晴)
  • 当事者1:軽自動車(33歳女性)
  • 当事者2:自転車(15歳男性)

3.2)OSMと重ねて見た事故発生位置から推測できる当時の状況

  • 軽自動車は住宅街の路地を県道333号へ向けて東進中
  • 自転車は県道333号脇の歩道を北から南へ逆走(本来は左側通行)で移動(通学?)中

3.3)現地の写真進行方向逆方向(GSV,事故発生4ヶ月前)から推定できる情報

  • 軽自動車側から見えていた情景
    • 左手に生け垣、コンクリート塀、看板があり、視界をかなり遮っている。左方向が見えるミラーは設置済み。一時停止線もある。
    • 右手はコンテナ置き場で、コンテナがあれば視界を大きく遮ることが推定される。電柱もある。
  • 自転車側から見えていた情景
    • 横断歩道、点字ブロックの切れ目、カーブミラー等により注意喚起は行われている。

3.4)考えられる対策

  • 左手の生け垣、塀、看板を改善して視界を広げる。
  • 右手のコンテナ置き場の視界を遮るエリアにコンテナを置かないようにする。
  • 一方通行の方向を反転し、どこか別の信号機のある交差点を出口とする。
  • 自転車逆走の禁止を指導。

まとめ

  • 交通事故の詳細情報や高精度の位置情報を含むオープンデータを、事故の大きなポイントとなる歩道や横断歩道の位置(中心線)が比較的正確に描かれているOSMに重ねることで、事故発生時のそれぞれの当事者の進行方向や見えていた情景を具体的に推定することができる。
  • 現地の写真はGoogle Street View(GSV)でもかなりよく分かるが、みんなで作る街路写真共有サービスであるMapillaryを利用することで最新の(必要なタイミングで撮った)現地写真を元にした状況把握が可能となる。(Mapillaryには物体の自動判別機能もあるため、将来的には障害物の自動判別にも利用できる可能性がある。ただし、おそらく有料サービスの範疇であろう。)
  • 考えられる対策の中には多額のコストがかかるものや、ハイリスクな状況を作り出している住民や事業者にもそれぞれの事情があると思われるため話し合い等が必要なものも含まれる。さらには事故当事者及びそうなる可能性のある市民の運転マナー等の問題もある。高齢化に伴う物体認知や反応の遅れということもあるだろう。免許を返納して代替交通手段はあるのか。こうした課題はまさにオープンガバメントやシビックテックの目指す市民参画と大きく関わる部分であり、交通事故を減らすためには行政や市民がともに現実的な解決策を考えたり、ひいては自分たちの街をこれからどうして行きたいのかを議論していく必要があるのではないか。

つづき

自転車絡みの出会い頭事故54件についてのもう少し詳細な分析や、自転車の通行帯が非常にややこしい現状をどうしたら良いのか、逆走は本当に危ないのか、といったことなどを引き続き考察予定です。

交通事故オープンデータ+OSM+街路写真による交通事故分析の試み(2)

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