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AIエージェント設計の現在地 — Prompt → Context → Harness → Loop → Graph Engineering

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Last updated at Posted at 2026-07-31

はじめに

2026年7月現在、AIエージェント開発の話題を追っていると、次のような言葉の連鎖をよく目にします。

Prompt Engineering → Context Engineering → Harness Engineering → Loop Engineering → Graph Engineering

これは「前の技術が古くなって捨てられる」という話ではありません。上位レイヤーが下位レイヤーを包含していくという理解が最も正確です。本記事では、この5つの「Engineering」がそれぞれ何を設計対象にしているのかを、Mermaid図とあわせて整理します。

最後の「Graph Engineering」はまだ厳密に標準化された工学分野ではありません。2026年7月18日、Peter Steinberger氏(AIエージェント「OpenClaw」の開発者)が

Are we still talking loops or did we shift to graphs yet?

と投稿したことが一つのきっかけとなり、以前からLangGraphなどで実践されていた設計思想に名前が付き始めた、という段階です。この投稿は公開から2日間で260万回以上表示されたと報じられています(人物確認はWikipedia)。


1. Prompt Engineering — 「AIに何を言うか」

  • Role / Instruction / Constraints / Examples / Output format を整える世界
  • 主役はあくまで一回のLLM呼び出し
  • 設計対象: Instruction

例:「あなたはAWSアーキテクトです。CDKで設計してください」の精度を高めていくフェーズです。


2. Context Engineering — 「何を見せるか」

「実はプロンプトより、何をAIに見せるかの方が重要なのでは?」という問題意識から生まれたのがContext Engineeringです。

Context = AIが思考するときに見えている世界

RAG、Memory、Skills、AGENTS.mdCLAUDE.md、MCP、検索結果なども、この観点から見るとすべてContext Engineeringの部品です。

  • Prompt Engineering: 「何を命令するか」
  • Context Engineering: 「何を知った状態で考えさせるか」
  • 設計対象: Information

3. Harness Engineering — 「何を許し、どう守るか」

AI Agentがファイル編集・Shell・Web・Git・API・DBなどを触り始めると、「賢いだけでは危ない」という新しい問題が出てきます。そこでモデルを取り囲む実行環境そのものを設計するのがHarness Engineeringです。

2026年5月にarXivへ投稿された論文「AI Harness Engineering: A Runtime Substrate for Foundation-Model Software Agents」では、ハーネスの責務としてtask specification・context selection・tool access・project memory・verificationなどが整理されています。「モデルがパッチを作れるか」ではなく「モデル・ハーネス・環境からなるシステムが、検証可能で帰属の明確な変更を生み出せるか」に問いを移す、という主張です。

  • 設計対象: Environment

4. Loop Engineering — 「どう繰り返すか」

ハーネスが整ったら、人間が毎回「次これやって」「テストして」「直して」と言う必要はありません。AI自身に回させる段階です。

IBMもLoop Engineeringの解説ページで、AI Agentが act → observe → decide → iterate を繰り返し、最小限の人間介入でゴールに近づくagentic workflowの設計として説明しています。

ここで設計対象が、「LLM invocation」から「AIの時間的な行動」に変わります。

  • 設計対象: Iteration

5. Graph Engineering — 「どう接続するか」

Loop Engineeringには一つ大きな前提があります。基本的に一本の時間軸(A → B → C → D → A)だということです。しかし実際の仕事はそうではありません。

つまり「一つのLoopではなく、多数のLoopを結びつける」。ここで中心となる概念が NodeEdge です。

要素 具体例
Node Agent / Tool / Human / Database / Evaluator / Task / Memory / Decision
Edge depends_on / delegates_to / verifies / retries / reads_from / writes_to / approves / triggers

したがってGraph Engineeringとは、「誰が何を考えるか」ではなく「知性と仕事をどう接続するか」を設計することと言えます。実際、LangGraphのStateGraphでは、AgentをNode、ルーティングをEdge、共有データをStateとして構成する実装が使われています(参考解説)。

  • 設計対象: Topology

Graph Engineeringの本質: 3種類のGraph

Graph Engineeringを単純に「マルチエージェントをつなぐこと」と考えると浅くなります。筆者は、少なくとも3種類のGraphを分けて考えるべきだと整理しています。

① Knowledge Graph — 世界がどう繋がっているか

RAGが「似た文章を探す」のに強いのに対し、Knowledge Graphは「関係を辿る」ことに強い分野です。GraphRAGやTemporal Knowledge Graphはこの系統にあたります。

② Task Graph — 仕事がどう繋がっているか

DAG・dependency・parallel execution・fan-out/fan-inなど、CI/CDやStep Functions、Airflowなどですでに馴染みの深い世界です。

③ Agent Graph — 知性がどう繋がっているか

各Agentが独立したContext / Memory / Tools / Permissions / Model / Goalを持ちます。ここからAIシステムは、一人の巨大AIというより組織に近づいていきます。

さらに重要なのは「Dynamic Graph」

従来は人間が Planner → Developer → Reviewer とGraphを作ってきました。しかし将来のAgentは、問題を見て「このGraphが必要だ」と自分でExecution Graphを生成するようになるはずです。

ただしAIに完全な自由を与えるのではなく、次のように決定論的な検証を挟む設計が重要になります。

AI開発者コミュニティの一部では、LLMがexecution graphを提案し、決定論的なソフトウェア側でpermissions・budget・node type・structural constraintsなどを検証する、という議論も見られます。AIの自由な推論ソフトウェアの決定論的安全性を分離できる点が、この方向性の重要なポイントです。


5つを一言で比較すると

Engineering 設計するもの 問い
Prompt Instruction 何を言う?
Context Information 何を見せる?
Harness Environment 何を許し、どう守る?
Loop Iteration どう繰り返す?
Graph Topology どう接続する?

すべてを接続する最上位構造として捉えると、次のような入れ子(包含)構造になります(簡略化した模式図です)。

GraphがHarnessを包み、HarnessがContextを包み、ContextがPromptを包む——Graph Engineeringは他の4つを置き換えるのではなく、全部を包み込む最上位構造になり得るという点が本質です。


まとめ

Prompt Engineering   人間 → AI
Context Engineering  世界 → AI
Harness Engineering  AI ↔ 環境
Loop Engineering     AI ↔ 時間
Graph Engineering    AI ↔ AI ↔ 世界

Prompt Engineeringは「AIに答えさせる技術」でした。Graph Engineeringは「AI社会を構成する技術」になり始めています。ただし現時点では、何でもGraph化するのは逆効果です。小規模な仕事なら単一Agent+Loopの方が単純で、デバッグしやすく、安価です。責任分界・権限・並列性・異なる専門性・失敗境界が本当に分離してきたときに初めてGraphへ進む、という判断が現実的でしょう。

Prompt → Context → Harness → Loop → Graph は、流行語の歴史というより、言語 → 知識 → 環境 → 時間 → 関係 へとAI設計の対象が拡張してきた歴史、と見ると繋がりが見えてきます。


参考

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