この本書は2017年4月1日にTeradata Japanのブログに掲載された内容を、再掲載したものです。
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著者 山本 泰史 (やまもと やすし)
顧客分析の手順
第12回: 購入トレンドからの顧客行動特性把握
行動トレンド分析を利用した分析例として、今回は「優良顧客の育成」を主眼とした分析例をご紹介します。「優良顧客の育成」と表現するとちょっと上から目線ですが、一定期間における支出額を増加していただけるような努力をすることであり、そうしていただけるような提案を積み重ねていくことです。そしてその際、何を提案すべき、いつ提案すべきかを理解することがこの分析における主眼点です。
分析の前提
今回は分析の想定として、百貨店やアパレルの専門店を対象とします。服飾衣料は日常生活上不可欠であるという側面と同時に、流行性が高く、嗜好的側面も購買に強く影響を与えます。例えばコート。寒い季節をしのぐには不可欠なものですが、毎年の流行り廃りもあるため、何シーズンも同じコートを着倒すヒト、毎シーズン買い換えるヒトと様々です。
今回は、その中でもワンシーズンの中でどのタイミングでコートを購入したかを見ていきます。通常秋冬物の服飾衣料はまだ残暑が厳しいさなかに入荷し、本格的にコートが必要になってくる年末へ近づくにつれて、実需が盛り上がりを見せます。つまりカラー・サイズ・スタイルの選択肢が充分であるタイミングは商品が入荷してすぐのタイミングであり、「ファッションとしてのコート」が欲しい顧客にとってはなるべく早いタイミング、「機能としてのコート」が欲しい顧客は気温がぐっと下がるタイミングです。それぞれに対して逆のタイミングで案内しても「とき既に遅し」、もしくは「タイミングが早すぎて意味不明」なメッセージに写ります。
購入トレンドの理解
図20A は、女性で 20歳から 40歳、コートを購入したセグメントを対象とした、行動トレンド分析の例です。指標値としては顧客数を用い、属性として会員ランクA-E で区分しています(A がもっとも貢献度が高い)。合計を見るに、年末に向かって需要が増加していることが伺えます。
これをグラフで示したのが図20B です。見るに、この全体トレンドを形作っているのはランクB の顧客であることが分かります。全体傾向と同じく、年末に近づくにつれて(そしておそらく温度が下がるにつれて)、購入顧客数が増加します。
これに対してランクA顧客は、10月、11月と約1-2ヶ月早く需要が立ち上がっているのが分かります。これらの顧客群は、「カラー・サイズ・スタイルで品切れして欲しいものが買えない」ことを回避しているのではないかと類推できます。また自社にとって上位顧客であることから、コートのみならず服飾衣料全般に関してメインの購入先として自社を捉えていただけていることが分かります。
一方、9月段階の会員ランク構成比を見ると、ABCD 各ランクの構成比が均等に割れているのが分かります。もっとも多いのはランクD の 4,193名ですが、他の ABC 各ランクの顧客数もこれに対して看過できる数字ではありません。また何より重要な点は、これらの顧客群が 9月の段階でコートを購入しているという事実です。自社がメインの購入先であるかどうかを問わず、投入後直ぐに商品をチェックし、良ければ買っていくという姿が想像できます。特にランクC、ランクD の顧客に関しては、自社のみならず、他のブランド、ショップも含めて見て廻り、その中で気に入った商品を購入しており、その結果として買上が発生していると想定されます。つまり服飾にかける金額は非常に大きいのですが、それが自社を含めた各社に分散してしまっていて、結果としてランク中位に落ち着いていると想定される顧客です。
アプローチの方向性
このとき企業側の意向としては、投入後早く購入されたほうが望ましいです。これによって在庫回転率が高まり、買い付け資金を早く回収できることになるだけでなく、不良在庫として残る危険性を回避でき、またセールで荒利を削って販売する必要も無くなります。
また、顧客の観点から見た場合も、今シーズンのトレンドに合致した商品を、充分な選択肢から選べるほうが嬉しいはずです。なるべく安く買いたい、機能的なニーズのみを満たしたい顧客はともかく、早めに商品を確保したい顧客に対しては、先に商品を購入していただけた方が望ましいです。
このため、実施するキャンペーンの方向性としては 3つ考えられます。1つは 10月 11月にコートを購入いただけている顧客の購入を前倒していただけるよう、ご案内を実施することです。この場合、ご案内する商品(例えばクリエイティブのトップに見せる一押しの商品)としては今シーズンのトレンド的特徴を捉えた商品で、ご案内メッセージは「新商品が入荷しました。カラー・サイズ・スタイルが揃う今のうちにどうぞ!」といった内容となるでしょう。また案内タイミングとしては 8月末頃、新商品が到着して直ぐに来店できるよう逆算してご案内をします。
もう 1つの方向性としては、ランクを問わず 9月に購入いただけている顧客群です。これらの顧客群は、ファッションそのものに関心が高い顧客群であると想定されます。またランク中位の顧客に関しては、できるだけランクアップを促し、他社に分散してしまっている支出をできるだけ自社に取り込みたいです。これらの顧客群に対しても 8月末に秋冬物のご案内することは有効と考えますが、それにプラスして特別販売会にご案内する、アンケートやインタビューを通じて商品や購買動向に関するニーズ収集を行なうこともアイデアとして考えられます。販売員だけでなく、バイヤー(自主開発型の場合はデザイナー)等もこういったアプローチに参加することによって、今後のバイイングや商品開発の参考にすることが可能となります。
最後に 3点目。もし、上記 2つの方向性のいずれかに合致する顧客数が、11月になってもコートを購入していなかったら?... 実施すべきはシンプルで、フォローアップのメールを送る、もしくは電話をかけてフォローします。もちろん他のお店でコートを買ってしまっていたら無用な売り込みになってしまうため、「それとない」アプローチ(秋冬物全般でご案内する等)で来店を喚起する必要があります。
今回の分析では、時系列トレンドの中で、特定のタイミングで発生する事象を見つけ出し、その事象を引き起こす顧客群を特定し、アプローチに活用する例を示しました。このようなタイミングは業界を問わず、様々な商品やサービスにおいて発生しますし、それは社会全体で発生する事もあれば、特定セグメントにおいて発生する事も、個人個人非同期に発生する事もあるでしょう。このタイミングにキャンペーンを同期させることが出来れば、「欲しいときに欲しいものを提案してくれる企業」として自社を評価してもらえるようになります。