はじめに
AWS Summit Japan にて、三井住友信託銀行様の事例セッション 「三井住友信託銀行の戦略的 AWS 投資と組織イノベーション」 を聞いてきました。
「日本最大の専業メガ信託」という伝統と規模を誇る金融機関が、いかにしてAWSを活用し、ビジネス変革と組織改革を推進しているのか。単なるクラウド移行に留まらない、戦略的でためになる内容でしたので、本記事でレポートします。
1. 3つの基盤を使い分けるIT戦略
三井住友信託銀行では、システムの特性に応じてIT基盤を3つに分類し、戦略的に使い分けています。
| 基盤 | 対象システム | 方針 |
|---|---|---|
| ホスト・オンプレ基盤 | 勘定系システム、勘定元帳など | 積極的に維持。 変更頻度が低く、自社での人材育成も可能な領域。 |
| OA系基盤 | Office製品などの情報系サービス | 適材適所でSaaSなどを活用。 |
| AWS基盤 | 上記以外のインフラが必要なシステム (約250システム) | メイン環境として原則AWSに統合。 |
特筆すべきは、インフラが必要なシステムは原則全てAWSに統合するという明確な方針です。少量多品種のシステムを多数抱える銀行の特性上、AWSを標準基盤とすることのメリットを最大化する狙いがあります。
2. AWS活用の3つのフェーズ:「限界突破」へ
同行のAWS活用は、段階的に進化してきました。
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フェーズ1:実現
- オンプレミスの延伸としてAWSを利用開始 (IaaS中心)
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フェーズ2:完結
- クラウドネイティブなアーキテクチャを本格採用
- (例: 統合顧客管理DBのAWS移行)
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フェーズ3:限界突破 (現在)
- よりアジリティ高く、より統制の効いたインフラへ
- インフラからの「攻めの経営」 を支える基盤を目指す
単にリソースをクラウドに載せるだけでなく、クラウドの価値を最大限に引き出し、ビジネスを加速させる武器へと進化させている過程がよくわかります。
3. Why AWS? - AWSを選択した4つの理由
なぜAWSを標準基盤として選んだのか。セッションでは4つの理由が挙げられました。
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標準化・共通化による利益
- AWSを標準アーキテクチャとすることで、設計・構築・運用のノウハウを蓄積・再利用でき、効率が向上する。
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セキュリティのオフロード
- AWSの責任共有モデルを活用し、物理セキュリティやハイパーバイザーなど、AWSが責任を持つ範囲の運用をオフロードできる。これにより、自社はより上位のレイヤー(アプリケーションやデータ)のセキュリティ対策に集中できる。
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アジリティの高い構築
- 必要なリソースを迅速に調達でき、ビジネスの要求スピードに対応できる。
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耐障害性の向上
- マルチAZ/マルチリージョン構成を組むことで、オンプレミスでは実現が難しい高度な耐障害性を確保できる。
4. 具体的な取り組み事例
All Out Cloud Factory とデータ利活用
三井住友信託銀行は、AWSとの 「All Out Cloud Factory」 と名付けた協業体制のもと、クラウドネイティブ化やAI-ready化に向け総力を挙げて取り組んでいます。これは、AWSへの 「戦略的ベット(bet)」 とも言える強いコミットメントです。
事例1:統合顧客元帳のDB移行
- OracleからPostgreSQLへの移行を完遂。
- これは単なるコスト削減ではなく、特定のベンダー技術への依存から脱却し、データ利活用の自由度を高める戦略的な取り組みです。
事例2:EUC統制基盤の構築
- 背景: ユーザー部門が直接SQLを書いて本番リリースするEUC(End User Computing)環境では、品質のばらつきや無限ループなどのリスクがあった。
- 解決策: AWS上にEUC統制基盤を構築。ユーザー部門が利用できる機能を制限し、ガバナンスを効かせた上で、セルフサービスで開発・リリースできる仕組みを実現。
- 効果: 少量多品種のサービス開発が求められる銀行ビジネスにおいて、ユーザー部門のビジネスニーズに迅速に応えつつ、システム全体の安定性を両立させている。
5. 組織文化の変革:「モノづくり」を大事にする文化へ
技術の導入と同時に、組織文化の変革にも注力しています。
- TECH JOURNEY: システム子会社の統合を機に、エンジニアの「モノづくり」へのエンゲージメントを高めるためのコミュニティ活動を開始。AWSが持つ「Builder's Culture」と同様の文化を自社にも根付かせようとしています。
- 次のステージへ: この取り組みの先に、三井住友信託銀行独自のエンジニアリング文化 「ダヴィンチエンジニアリング」 の確立を目指しています。
まとめ
三井住友信託銀行様の事例は、金融機関のクラウド活用が「守り(コスト削減、安定稼働)」から 「攻め(ビジネス創出、アジリティ向上)」 のフェーズに完全に移行していることを示す、象徴的なものでした。
- 明確なIT戦略と AWSへの強いコミットメント
- クラウドネイティブ技術の積極的な採用
- ガバナンスとアジリティを両立させるプラットフォーム構築
- ツールだけでなく組織文化の変革まで踏み込む姿勢
これらの取り組みは、業種を問わず、多くの企業にとってDXを推進する上での大きなヒントとなるはずです。
