この記事は SRA Advent Calendar 2024 の 12月 3日の記事です。
本記事のテーマ
私が理事をしている日本PostgreSQLユーザ会では、毎年200名ほど(講演者・スタッフを含む)を集める「PostgreSQLカンファレンス」という、リアルイベントを開催しています。正式名は PostgreSQL Conference Japan 2024(今年の開催の場合)です。国際カンファレンスではなく、日本で日本語でやるわけですが、世界の名前空間を荒らさないため Japan と付けています。ここ数年、私が本カンファレンス運営の主たる担当者となっています。
そこで、本記事では、技術カンファレンス運営って、どうやればいいのか?何をやればいいのか?ということを書きます。技術記事ではないですね。
最初にやること
イベントの基本設計
以下を決めます。
- イベントのテーマや技術分野
- おまかな開催地(東京、とか)
- 何日間でやるのか、また、それは平日、休日なのか
- 来場者人数の見込み
- 収支見込み
なお、PostgreSQLカンファレンス規模のイベントが完全大失敗すると赤字は最大に見積もって 200~万円くらいです(払う方満額で収入ゼロの場合 - そんなことはなかなか無いのですが)。主催の NPO法人 日本PostgreSQLユーザ会にはある程度資金があるので、プラス、マイナスを吸収できるため、開催できているという側面があります。
1年前~7か月前にやること
会場を押さえる
まず、箱(会場)を押さえましょう。リアルイベントではこれが一番大事です。毎年開催しているなら、前回開催後すぐに「来年も同じで」といって予約してしまうのも良い方法ですが「次はこういうコンセプトでやりたい」など色々検討したいこともあるでしょう。とはいえ、遅くとも 7、8か月前には動かないと交通の便の良い会場は取れません。コロナ狂騒時代はガラガラだったのですが、今は従来の状況に戻っています。
開催を宣言する
次に「いつ、どこで、やります」と開催を宣言しましょう。テーマとなる技術分野の人々がいるところに開催宣言を流します。来場してくれる人、講演してくれる人の予定を押さえるわけですね。それから、他のイベントとの競合もありますので、宣言することで、似たイベントが重なることを防げます。もちろん、こちらが、他の大イベントと重なる日を避けるということも行います。PostgreSQLカンファレンスは秋冬に開催していますが、この時期はイベントの多い時期でもあります。ある程度の競合重複はやむを得ないと割り切っています。
イベントの詳細設計
先に会場押さえ、開催宣言をしたうえで、イベントの詳細設計を行います。参加は有償か、無償か。並列で何トラックの講演を行うのか。講演者はどう募集するのか。といったことです。
この検討の結果、会場の借りる部屋の数やサイズが多少変わるかもしれませんが、たいていは変更可能です。
スポンサー、講演、運営委員/スタッフ の募集
開催宣言と同時か少し遅れて、スポンサー募集、講演募集、運営委員/運営スタッフ募集を行います。
大きくて利便性の良い会場を使うとお金がかかりますので、スポンサーを集めることになります。募集するためには、条件(特典は何で、決まった金額としてはいくらで、ということ)を決めておく必要があります。
講演募集を行うためには、募集のレギュレーションを決めておく必要があります。講演料は渡す方、貰う方の双方にとって、相当に面倒ですので、講演料無しがお勧めです。一方、交通費などの経費は領収書もらって精算すれば、あとは運営側だけの処理で済みますので、これは出すとしても良いでしょう。
運営委員は意思決定への参加も含めた運営メンバー、運営スタッフは手伝い、という位置づけで区別して書きました。オープンなカンファレンスを標榜するために公募を表明しておく意味があります。しかしながら、実際には個別にこちらから頼まないと、運営委員になってくれる人はほとんど現れません。講演料と同じく報酬を支払うととても面倒なので、経費は支給しますが報酬は無償で、スタッフTシャツや当日のお弁当や懇親会費用程度の特典とするのがお勧めです。(PostgreSQLカンファレンスでは懇親会参加は自費です)
6か月前~3か月前にやること
スポンサーを集める
スポンサー募集をしただけでスポンサーが決まるのは、何年も続けているイベントに限られます。最初のうちは営業活動が必要です。
PostgreSQL はサポートや関連製品販売を行っている「ベンダー」が存在する分野なのである程度のスポンサー候補が期待できます。テーマとする技術分野と紐づくベンダーがいない場合でも、技術者のリクルーティングを行っている企業はスポンサー候補となります。
スポンサーむけには、スポンサー会社内で決済を受けるために、どんなイベントであるかを説明した資料も必要となります。
講演を集める
講演募集しても、講演が集まるかは蓋を開けてみないとわかりません。ですので、実績がないうちは、個別に応募してくれるように依頼をかけておく方が安全です。
目玉となるセッションは、講演を依頼しましょう。外国人スピーカーを呼ぶのも良いでしょう。幸いなことに、経費こちら持ちで日本に呼ばれることを嫌がる外国人技術者はあまりいません。また、彼らの属する企業がスポンサーとなって日本に来てくれることもあります。
なお、企業付きでなく、かつ、ビザ対応が必要な国からの招聘は、それなりに面倒です。初めての場合には、やったことのある人の助言を受けましょう。
様々な発注をする
会場以外に仕入れるものがあります。いずれも、無しでやる、という選択肢もありうるものです。何が要るか検討のうえ、早めに見積もり~発注を準備します。
- 外国人講演者を呼ぶなら通訳(逐次通訳がリーズナブルです / さもなくば AIシステム)
- 講演のハンドアウトを作るなら、その製作・印刷
- 来場者に配る袋(講演ハンドアウトやスポンサーからのノベルティやチラシをまとめるため)
- 来場者に配る入場証(使い捨てネックストラップなど)
* 会場に張り出すポスターなど - スタッフむけの Tシャツ(等のスタッフとわかるもの)
- スタッフむけのお弁当など
- 懇親会
参加者から参加費を取る場合には、そのための手段も検討して、申込する必要があります。PostgreSQLカンファレンスでは、昔はローソンチケット、今は、EventRegist を使っています。大昔は現金で受領していました。
プログラム選定
講演応募から採択講演を決めます。
スポンサーに講演枠を提供しているなら、講演内容を決めてもらいます。
2か月前、1か月前にやること
プログラム発表、参加申し込み受付開始
2か月前くらいにプログラム発表をして、参加申し込みを募ります。有償参加ならチケット発売開始をします。参加申し込みがあつまるように、告知宣伝をたくさんします。
様々な準備と応対
この期間は、スポンサー、講演者、参加者、会場、様々な発注先との質疑対応で忙しくなります。
運営スタッフに当日動いてもらうための準備も行います。
受付のやり方を決めたり、各部屋の担当や、その他の役割を決めたりします。事前に参加者に配る配布物セットを作る作業をどこかでやってもらう必要があるかもしれません(PostgreSQLカンファレンスでは会場で当日朝にやっています)。
外国人講演者を招聘している場合には、会場に来てもらうための案内も必要です。
開催後のアンケートを取る場合には、その準備をするのもこの時期で良いでしょう。
開催日
当日は当日対応のあれこれがあるのですが本記事では割愛。
ともあれ、何とかやりましょう。
終わった後
各発注先の請求書に対応して支払い、また、スポンサーに請求書を出します。収支計算をします。スポンサーにはアンケート結果などを提供します。来場者情報を提供することもあるでしょう(その場合には参加申し込み時にその旨を掲示するのを忘れてはいけません)。
あとがき
カンファレンス運営の引継ぎ資料のドラフトとして書いてみました。
未だ何か抜け漏れがあるかもしれません。
皆様のご参考になれば幸いです。