記事の概要
知的労働に携わる人々(ナレッジワーカー)は、日々の業務で大量の情報を整理し、効率的に作業を進めることが求められます。
本記事では、そのようなナレッジワーカーがObsidianというツールを活用し、知的労働を効果的に進める方法を紹介します。
Obsidianとはなにか?
Obsidianは記憶の拡張ではなく思考力を拡張する
Obsidianは記憶の拡張ではなく思考力を拡張する - by はるな👠iPad Worker
一言でいうと、自分の思考を引き出すためのデジタルメモアプリです。
特徴としては
-
フォルダ形式のフォルダ管理ではなく、ファイルとファイルをリンクさせることで情報を管理する。
→情報へのアクセスがより簡単になる -
定型的な作業が多種多様なプラグインやショートカットによって効率化が可能である
→考えること以外へのリソースが少なくて済む
などがあります。
本記事ではObsidianを利用した知的労働の進め方とその効用にフォーカスするため、豊富な機能の説明や詳細な使い方に関しては省略します。
この記事を読んで、Obsidianを導入してみたい!と思った方は、丁寧に解説されている記事のリンクを張りますので、以下のリンクを御覧ください。
Obsidianは個人利用は無料ですが、商用利用の場合は利用料金が掛かります。
(会社に頼まずに個人でライセンス購入するのも可能です。)
知的労働の効率化における3つの原則
知的労働を効率化させるためには、下記の3つの原則を守る必要があると考えています。
- シングルタスク
- 情報を素早く取り出す
- 思考を言語化して保存する
順に説明していきます。
シングルタスク
タスクからタスクへと注意を向ける先を切り替える頻度の高さは、生産性の低さと相関関係がある
SINGLE TASK 一点集中術――「シングルタスクの原則」ですべての成果が最大になる | デボラ・ザック, 栗木 さつき |本 | 通販 | Amazon
仕事を効率的に進めるためには、マルチタスクをせずに、目の前の1つのやるべきことに対して集中しろ、ということです。
理屈として分かってはいても、たまたまチャットやメールの通知が視界に入り込んで対応してしまったり、口頭で仕事を頼まれたり、シングルタスクを妨害してくる要因は腐る程あり、徹底するのはなかなか難しいです。
情報を素早く取り出せるようにする
「あの業務の概要を簡単に説明してよ」「あの内容が書いている資料はどこだっけ?」「あのファイルはどのフォルダに入ってたっけ?」
どれもよくある場面だと思います。
- 必要な粒度の情報が乗っているファイルを瞬時に開いて口頭で説明する
- 作成済みの資料を渡して読んでもらう
などの対応ができれば、余計なリソースを割かずに対応ができます。
しかし、社内の膨大な情報の中から、自分または仕事相手が欲している粒度の情報に素早くアクセスするのは、難しい技術だと考えています。
思考を言語化して保存する
思考の言語化とは、頭の中のアイデアや考えを言葉にすることです。他者とのコミュニケーションで得た気づき、業務に関するアイデア、タスクごとのフィードバックなど、あらゆる形の情報を含みます。
以下の理由から、思考の言語化は非常に有益です。
- 言語という形にして他者へアウトプットできる
- 自分の考えを整理し、新たな発見に繋げることができる
- 思考した概念を後から参照できる
「思考の言語化をする」方法はシンプルです。思いついたらすぐにメモを取る習慣を作ればいいのです。
ただし、言語化して「保存する」のは難しいと筆者は考えています。
適当なノートや付箋、あるいは付箋アプリなどに記述するだけでは、せっかく記述しても、後から探すのが大変だったりそもそも忘れてしまったりで、後から簡単にアクセスができないのです。
では毎度適切な場所にメモを保存するようなルールにすればどうでしょうか?
メモを取る→メモのジャンルを判断する→ジャンルごとに適切な場所を開く→メモを保存する…
プロセスが多く、今度はメモを取るのが非常に億劫になる上に、メモを取ることにリソースを割きすぎると、上記のシングルタスクの阻害にもつながってしまいます。
以上の理由から、思考を言語化して保存する仕組みの構築することは簡単ではありません。
3つの原則に則ったObsidianの活用法
ここからは、上記3つの原則を守って効率的に仕事を進めるために、私が実践している使用例を紹介します。
タスクログ
概要
各タスクごとに専用のページを作成し、作業内容のログを記録する仕組みです。
効用
- タスクの目的と具体的なプロセスを明確にすることで、何をすべきかが一目瞭然になります。
→思考の時間と作業の時間を分けることで、シングルタスクをサポートする。 - タスクに対する抽象度が高い情報も具体度が高い情報も抽出することが可能になります。
-
目的と結論が一番上に記載されているため、上司への報告の際などに使用可能な、抽象度の高い情報をすぐに取り出せます。
→情報を素早く取り出せるようにする -
タスクの各プロセスに関する作業過程や思考過程が残るので、具体度の高い情報の共有や、自身の振り返りも容易になります。
→思考を言語化して保存する
-
運用例
大きく分けて、タスクの実施前の記入とタスクの実施中の記入の2つのプロセスに分かれます。
タスク実施前は、主に思考の時間です。
- タスクログのテンプレートを開く
- 目的とゴールの記述
- タスクの具体化(小タスク化)
- 小タスクごとの時間の見積もり
を実施します。
タスクを進める際は、主に作業の時間です。
- プロセスごとに作業内容のログを記述する
- プロセスが終わったらチェックボックスにチェックを付ける
- すべてのプロセスが終わったら結論を記載する
を実施して1つのタスクログが終了です。
以下に自分が実際に運用しているタスクログのテンプレートを記載します。
(Obsidianテンプレート)タスクログ ##obsidian - Qiita
ミーティングログ
概要
ミーティングのログを残し、議事録として活用します。
効用
- ミーティングの目的と結論の欄を自然と埋めることで、ミーティングごとに目的と結論をはっきりさせることができる。
- 会議で共有する用のホワイトボードや議事録として機能し、後から内容を確認しやすくなる。
→思考を言語化して保存する
→情報を素早く取り出せるようにする
運用例
会議が始まったら、ショートカットキーでテンプレートを開き、ミーティングのタイトル、目的(議題)を記述します。
議論の要点、決定事項、宿題は必ずメモします。
図表を簡単に埋め込めるのがObsidianのいいところです。
対面会議で白板などを使う場合は白板のSSを貼り付ける、オンラインの場合はExcalidrawなどのプラグインを使ってObsidian上で図示するのもいいです。
最後に必ず結論を書きましょう。目的と結論あってこその会議です。
あとから見直すときに、目的と結論が一番上に記載されていることで、非常に情報が取り出しやすくなります。
Obsidianはプラグイン次第で非常に多機能になることが特徴であり、テンプレートを工夫することで用途に沿った様々な機能をつけることができます。
- タイトルにプロジェクト名と日付と会議名を自動で入れる
- タグを付けて後述のプロジェクトインデックスで一覧化する
- 定例会議の場合、前回の結論部分をクエリする
- 「★」がついている行をクエリして宿題一覧として記載する
など
以下に自分が実際に運用しているミーティングログのテンプレートを記載します。
(コード部分はdataviewというプラグインを使う前提です)
(Obsidianテンプレート)ミーティングログ ##obsidian - Qiita
プロジェクトインデックス
定義
プロジェクトに必要な情報を集約し、アクセスしやすくするための「ホーム画面」のようなノートを作成します。
効用
- プロジェクトの目的、ゴール、進捗状況、大事なメモ、必要な資料などのプロジェクトで重要な情報を一目で確認できます。
→重要な情報はここに記述することで思考を言語化して保存することに繋がる
→情報を切り替えるためのコストが減り、シングルタスクをしやすくなる - 過去のタスクログやミーティングログへのアクセスも容易になります。
→情報を素早く取り出せるようにする
運用例
プロジェクトのキックオフ時もしくはアサイン時に、プロジェクトインデックスを作成し、プロジェクトとゴールを記述します。
以降は、このプロジェクトインデックスから、プロジェクトに関するすべての情報にアクセスできるようにノートを運用していきます。
プロジェクトの予定、進捗状況を一覧表示し、このノート上で管理します。
もし他のツールで管理している場合は、ファイルへの外部リンクを貼るのが良いでしょう。
重要なメモやよくアクセスする資料へのリンクなど、適宜必要なものを追加していきます。
ファイルの場所をエクスプローラーやfinderから探す作業に時間と頭のリソースを使うことがなくなり、シングルタスクが阻害されにくくなります。
上述のタスクログやミーティングログは毎度リンクを作るのは非効率的なので、dataviewプラグインでクエリしてきましょう。
タスクログやミーティングログにタグを付ける、もしくはファイル名にprefix(プロジェクトを表す絵文字)をつけるなどの運用をしていれば、簡単なdataview構文でクエリが可能です。
以下に自分が実際に運用しているプロジェクトインデックスのテンプレートを記載します。
(Obsidianテンプレート)プロジェクトインデックス ##obsidian - Qiita
デイリーノート
定義
その日に行ったタスクやアイデア、フィードバックなどを集約するページです。
効用
- 日報代わりになります。
- 仕事中の突然のアイデアを鮮度を保ったまま保存しておく場所になります。
- 行き場のない考えやメモの保留先になります。
→思考を言語化して保存する
→後述の仕組みを使うことで、シングルタスクを阻害せずに重要なアイデアを保存できる
運用例
Obsidianの標準プラグインである、デイリーノート機能を使用します。
その日の最初にデイリーノートを作成し、あらかじめ用意したテンプレートを挿入します。
デイリーノートは、作業中に思いついたアイデア、行き場のない考えなどの保存場所になります。
このような情報は新規プロジェクトや業務改善のヒントになり得る価値があるものですが、その「賞味期限」は短く、あとから思い出そうとしても解像度が低かったり、そもそも思いついた事実さえ忘れてしまうこともあります。
このような情報をファイルに記述し、ファイルリンク型のシステムで管理しようとするのがObsidianのコンセプトであり、情報を追加する手間を省いた究極系が、デイリーノートに記載するという方法だと筆者は考えています。
具体的には、QuickAddというプラグインとGlobal Hotkeysというプラグインを使うことでこれが実現できます。
QuickAddは、特定のノートに任意の文章を記載するダイアログを開くことのできるプラグインであり、「デイリーノートを開いて入力位置にカーソルを合わせる」という手間を省いて、任意の文章をデイリーノートに記載できます。
方法は以下のサイトの「Captureモード」の章に記載されています。
Global Hotkeysは、ObsidianのショートカットキーをPC全体のショートカットキーに拡張するもので、Obsidianがアクティブウィンドウになっていなくても、QuickAddのダイアログを開けるようになります。
これら2つのプラグインの組み合わせにより、どんな作業をしているときにでも、キーボードから手を話すことなく、アイデアをデイリーノートに保存することが可能になります。
この仕組みにより、瞬時にアイデアの保存が可能となるので、アイデアの賞味期限を保ったまま情報を保存し、作業の中断を最小限に抑え、シングルタスクを妨害しないという、知的労働の効率化における3つの原則を守ることができます。
dataviewを使って、その日に作成したタスクログやミーティングログなどをクエリすることによって、その日自分が何をしたのかが記載された日報を作ることができます。
以下に自分が実際に運用しているデイリーノートのテンプレートを記載します。
(Obsidianテンプレート)デイリーノート ##obsidian - Qiita
まとめ
本記事では、知的労働を効率化するための3つの原則「シングルタスク」「情報を素早く取り出す」「思考を言語化して保存する」を中心に、Obsidianを活用する具体的な方法を4つ紹介しました。
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タスクログ
→タスクのログを保存することで、業務を効率的に進めながら、後から取り出し可能にする仕組み -
ミーティングログ
→ミーティングの議事録として情報を保存する仕組み -
プロジェクトインデックス
→プロジェクトに必要な情報を集約しアクセスしやすくする仕組み -
デイリーノート
→その日の業務内容や業務中のアイデアを保存する仕組み
さらに、テンプレートやプラグインの活用により、Obsidianは個々のニーズに応じて柔軟にカスタマイズが可能です。効率化を目指す上で重要なのは、効率化のための原則を守れるように、自分に合った使い方に改良していくことです。
知的労働を効果的に進めるために、Obsidianの持つポテンシャルを引き出し、日々の業務に役立ててみてください。